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パナソニック'23年度決算は増収増益も、生活家電は苦戦
2024年5月14日 10:05
パナソニックホールディングスは9日、2023年度(2023年4月~2024年3月)連結業績を発表した。売上高は前年比1.4%増の8兆4,964億円、営業利益は25.1%増の3,609億円、調整後営業利益は24.1%増の3,900億円、税引前利益は34.4%増の4,252億円、当期純利益は67.2%増の4,439億円の増収増益となった。
そのうち、生活家電を担当するくらしアプライアンス社の売上高は前年比1%減の8,887億円、調整後営業利益は33億円減の495億円と、減収減益の結果になっている。合理化の進捗や、物流費など外部環境の良化といった要因はあったものの、世界的なインフレによる需要減や為替の悪化影響が響いたという。
冷蔵庫や炊飯器、食洗機などの調理家電を対象にしたキッチン空間の売上高は前年比3%減の3,900億円。洗濯機や掃除機、アイロンなどの生活家電を担当するランドリー・クリーナーは3%減の2,994億円。ヘアケアドライヤー、ボディケア家電などのビューティー・パーソナルケアは9%増の1,676億円で、パナソニックが得意とする理美容家電での成長が浮き彫りになる。
なお、2023年度に調理家電事業の構造改革を行なっており、「拠点は明確にはできないが、調理家電関連の工場を閉鎖した」(パナソニックホールディングス 代表取締役 副社長執行役員 グループCFOの梅田博和氏)ことも明らかにした。
また、エアコンや空気清浄機などを担当する空質空調社の売上高は前年比1%増の8,139億円、調整後営業利益は74億円減の147億円。アジアの空質空調などの増販や合理化効果はあったものの、欧州でのA2W(エア・トゥ・ウォーター)の需要減が影響している。
A2Wは、パナソニックグループ全体で、成長領域の商品に位置づけられており、2022年度までは前年比2倍の勢いで成長していたが、2023年度に入ってから急減速。「2023年度は市場規模が4割落ちた」(パナソニックホールディングスの梅田グループCFO)という。
A2Wは、大気中の熱を集めて温水をつくり出し、建物に循環させることで暖房するシステムで、化石燃料を用いた暖房機器に比べてCO2排出量を抑えられる。環境への負荷が少ないため、欧州では関心が高い商品であった。しかも欧州地域でのガス価格の高騰や、各国での補助金制度も需要には追い風になっていた。
だが、2023年度に入ってからは、欧州の景気悪化に加えて、ガス価格の下落、一部の国での補助金スキームの変更や、補助金支給の遅延が発生したことで需要が一気に鈍化してしまった。
梅田グループCFOは、「本格的な成長トレンドへの回復には数年を要すると見ている。だが、中長期的には成長する分野であると考えている。2024年度は微増で見ており、これ以上落ち込むことはないだろう。事務所や商店などのB2Bにも取り組んでいく」と巻き返しに意欲を見せる。
一方、2024年度(2023年4月~2024年3月)の連結業績見通しは、売上高は前年比1.2%増の8兆6,000億円、営業利益は5.3%増の3,800億円、調整後営業利益は15.4%増の4,500億円、税引前利益は1.1%増の4,300億円、当期純利益は30.2%減の3,100億円としている。
そのうち、くらしアプライアンス社の売上高は前年比1%増の8,750億円、調整後営業利益は69億円増の550億円と増収増益を見込んでいる。
日本ではインバウンド需要のプラス影響があるものの、インフレ影響もあって前年並を見込んでいるほか、中国での消費低迷が継続しており、売上は横ばいを想定している。
また、空質空調社の売上高は前年比8%増の8,800億円、調整後営業利益は23億円増の170億円としている。欧州A2W事業は、2024年度上期も厳しい市況が継続すると予測。A2W全体では、年間で前年並の見通しとした。欧州景気の影響や各国の政策動向などから、需要回復には時間がかかると見ている。
だが、手をこまねいているわけではない。
A2Wの領域では、伊Innovaとの資本業務提携により、2024年度下期から室内端末と空質機器の相互販売を開始するほか、2025年度には共同開発による住宅向け統合コントローラーなどの融合商品を発売する予定だ。これにより、省施工と省エネによる差別化が図れると期待している。
また、ドイツのtadoと業務提携し、ボイラーからA2Wへの置き換えを推進する提案を加速。省エネを強みにした顧客価値創出に乗り出すという。さらに、買収したチラー事業の技術を活用することにより、集合住宅やライトコマーシャル向けに、省スペース化を実現するとともに、自然冷媒を採用した業務用A2Wを2024年度に発売する予定だという。
その一方で、アジアのルームエアコンなどの増販も想定しており、これが空質空調社の増収に貢献するという。
パナソニックホールディングスでは、2024年度に中期経営指標(KGI)を掲げ、それに向けた構造改革を進めてきたが、今回発表した2024年度の業績見通しから逆算すると、厳しい状況にあることがわかる。
同社が打ち出したKGIでは、2022年度から2024年度までの累積営業キャッシュフローが2兆円、同じく累積営業利益が1兆5,000億円、ROEが10%以上という目標を掲げていた。
累計営業キャッシュフローの2兆円の達成までには、残り6,124億円であり、今回の発表からも目標達成が視野に入る。梅田グループCFOも、「キャッシュフロー重視の経営が根づいてきたと認識している」と自己評価している。
だが、累計営業利益は2024年度見通しを加えても約1兆円の規模であり、5,000億円減という大幅な未達。ROEは、2023年度実績では10.9%を達成したものの、2024年度見通しは7.0%となり、これも未達となる。現時点では、1勝2敗という「負け越し」の厳しい見通しだ。
梅田グループCFOは、「事業ごとに見れば、想定外の市況悪化などの外的要因はあるものの、KGIの未達は、これまで取り組んできた競争力の強化が、道半ばであることの表れである。推進スピードや環境変化への対応力において課題があった」と語る。
2021年4月にCEOに就任し、新たに事業会社制を敷くなど、大胆な構造改革の旗振り役をしてきた楠見雄規グループCEOの最初の通信簿が、2024年度のKGIとなる。通信簿の結果は厳しい内容になるといわざるを得ない。