ニュース

エアコンや冷蔵庫に欠かせない「コンプレッサー」って何? 40年の歴史を日立の工場で見た

家庭用エアコンのコンプレッサーは、室外機のファンの横に入っている。黒い円柱状のもの。外から見るとメーカー名や「白くまくん」のようなブランド名が書かれている側。なぜか各社とも向かって右側にあるようだ

「コンプレッサー」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。実際はさまざまな種類のものがあるが、一般家庭で身近に使われているのは、エアコンや冷蔵庫の中にあるコンプレッサーだ。

エアコンだと室外機に入っていて、室内外機を循環する冷気を作るガスに圧力をかけて液化。室内機で一気に圧力を下げることで、気化熱で冷気を作る。逆に冬はコンプレッサーで圧力をかけ、熱を持ったガスを室内機に回し温風を作る。

一般家庭のエアコンの場合は、コンプレッサーをモーターで回し圧縮するが、自動車(ガソリン・ディーゼル)のエアコンはエンジンの回転力をコンプレッサーにつなげてガスを圧縮する。車のエアコンをつけていると(ECOモードにするとひんぱんに)、カチン! と音がして、エンジンの回転数が上がり、加速力が落ちるのは、走行用のパワーの一部をコンプレッサーに取られてしまうからだ。

またコンプレッサー=空気圧縮機として身近なのが、自転車の空気入れだ。レバーをシュコシュコ上下すると、中に入っている注射器のようなシリンダーが空気を圧縮して、自転車のタイヤに空気を入れる。

今の生活に欠かせないコンプレッサーを中心に、業務用エアコンの開発拠点となっている日立ジョンソンコントロールズの清水事業所を訪ねて、コンプレッサーのしくみと製造現場を見てきた。

日立が世界に先駆けて製品化したスクロールコンプレッサー誕生から40年

コンプレッサーは日本語訳すると「圧縮機」。たいていは気体を圧縮してタンクに貯めて、それを一気に放出して力や熱に変換する。機械ではないが身近な例がスプレー缶だ。薬剤と一緒に圧縮されたガスがスプレー缶の中に充填されていて、ボタンを押すと圧縮されたガスの力で薬剤を中から押し出し霧状に噴霧する。これが圧縮されたものを「力」に応用した例だ。

そのほかにもトラックやバス、電車などにも使われている。これらの乗り物がブレーキをかけるとき、バスや電車はドアを開閉するときに聞こえる「プシューッ!」という音は、タンクに貯めた圧縮空気がブレーキやドアを開閉するシリンダーに送られて「プシュー」と音が鳴る。

エアコンや冷蔵庫などでの利用は圧力を温度に変える科学。先ほど説明した圧縮ガスが入ったスプレーを噴射していると缶がキンキンに冷えて、噴霧する力が弱くなる。エアコンはこの原理を使って冷気を作っている。

スプレーと違って、圧縮ガスはコンプレッサーが入っている室外機と室内機の管の間で密封されて循環している。

夏の冷房は、コンプレッサーで圧縮した熱いガスをファンで少し冷やして減圧機(スプレーと同じ機構)に入れる。するとガスは一気に冷たくなって室内機に送られ、冷気を送ったあとの温い空気は再び室外機のコンプレッサーに戻る(出典:日立ホームページ)

冷房時は「コンプレッサー」→「ファンで冷ます(熱交換器)」→「減圧機(スプレー噴出と同じように急激に冷える」→「室内機(冷たいガスで冷風を作りガスは温くなる。ここにも熱交換器)」→「コンプレッサー」というようにガスの圧縮・膨張を連続して行ない、冷気を生み出すのだ。

暖房時は冷房と逆方向にガスを循環させる。冷房と暖房運転を切り替えると、室外機に入っている弁が動きガスの向きが変わる。冷暖房を切り替えたときにエアコンが壊れやすいのは、ほとんどが半年間この弁が固定され経年劣化で弁の動きが鈍くなって、固着した状態になるから。

暖房時は、ガスを冷房時と逆回しにする。コンプレッサーで熱くなったガスで温風を作り、温かくなったガスはさらに減圧機を通し完全に圧力をなくしてコンプレッサーに入れる。完全に圧力を抜くことでよりガスを高い温度にできるからだ(出典:日立ホームページ)

このエアコンや冷蔵庫の心臓部といえるコンプレッサーには、実はさまざまな種類があって、用途や目的に応じて使い分けられているのは、あまり知られていない。

レシプロ式

注射器のようなピストンを前後に動かして圧縮するタイプ。古い電車では一般的に使われていて、駅で停車中にコンコンコン! という音を聞いたことがある人も多いかもしれない。構造が単純ではあるものの音が大きいので、動作音が気にならない場所ではいまだに使われている。

ロータリー式

円筒形の中を動く三角の部品で圧縮する。少量の圧縮をゆっくりできるので、省エネな家庭用エアコンの主流になっている。また停車駅が少ない特急車両の圧縮機として使われる場合も。ロータリー式エンジンの爆発をそのまま逆の圧縮に用いたイメージ。

スクロール式

日立が40年前に初めて実用化したコンプレッサー。2つの蚊取り線香のような形の金属を組み合わせて圧縮する。小型から大型まで幅広く対応できるので、昔は家庭用エアコンにも用いられていた。最近は業務用エアコンやブレーキをひんぱんに使う通勤電車用の圧縮機として使われている。高圧で大量の圧縮向けで、業務用エアコンや大型冷凍施設、鉄道車両のエアコンにも使われている。

コンプレッサーの中でも一番理解が難しい。しかし蚊取り線香型の部分の大きさや巻き数を変えたり、モーターの回転数を変えることで幅広い分野に対応できる柔軟性が特徴

スクリュー式

ドリル状の棒を2つ組み合わせて圧縮する方式。高い圧力を生み出せるので、工場の機械類の動力用として使われる。

かみ合ったスクリュー(ギア)の間を空気が通り、連続して空気が送り出される方式。運転音が静かなので、最近工事現場で使う圧縮空気のタンスサイズのボックス(発電機と一緒に置かれている)の中に入っている

実は他にもたくさんの圧縮機があり、ジェットエンジンのようにたくさんの羽がついている軸流式、自動車のスーパーチャージャーなどで使われるルーツ式(まゆ型)、ターボ式などがある。

日立の清水事業所では、この中のスクロール式(日立ジョンソンコントロールズ)とスクリュー式(日立系列会社)を製造している。中でもスクロールコンプレッサーの歴史は古く、日立の十八番だ。1983年にエアコン用のコンプレッサーとして世界で初めて製品化し、40年経過した今も業務用のエアコンなどで活躍しているのだ。

スクロール式コンプレッサーのしくみ

スクロール式のコンプレッサーは、メカ好きでも動作原理が難しいので、その実物と動きを説明しておこう。まずはコンプレッサーのカットモデルを紹介したい。よく見かける模型なのだが、理系も含めてたいていの人にとっては、なんで圧縮できるのかわかりにくいものだ。

スクロール式コンプレッサーのよくあるカットモデル。これだけだと「ふーん、よくわからん」なのだ

断面図には赤い蚊取り線香と白い蚊取り線香のような形の渦巻きがあり、白の渦巻きだけが「いい具合に回転すると圧縮できる」。ではなぜ渦巻きが「いい具合に回転すると圧縮できるのか?」を、アニメーションでお見せしたい。

このアニメーションでは1回吸い込んだ気体を最後まで圧縮しているが、1回転すると再び吸入口が開くので、気体は連続して圧縮される

茶色の渦巻きは止まったままで、動いているのはグレーの渦巻き。ただグレーの渦巻きの動きは単純に回転するのではなく、少し軸がズレているところがポイントだ。すると回転によっては、右上の渦の間に隙間が空き、青い気体が入ってくる。軸が3/4回転すると気体の入口は完全に封鎖され、吸い込んだ気体は外周の大きな空間に青く密閉される。さらに半回転すると外周の壁がどんどん密閉されながら気体は中心に送られ狭い空間に密閉される。これが圧縮だ。

もっと回転させると空間がどんどん小さくなり、もっともっと高圧で圧縮される。最後は赤くなって最高に圧縮されると、固定された渦巻きの底に穴があり、ここから圧縮された気体が外に排出されるというものだ。

これでスクロールコンプレッサーの圧縮がおおまかにでも分かっていただけたと思う。ただこの渦巻きってどう作るんだ!? と思う人も多いハズ。そんな人は、別の写真を見てほしい。

右側の渦巻きをひっくり返して、左側の渦巻きに乗せると圧縮ユニット完成
モーターと渦巻きを連結するシャフト。左側は中心軸があっているが右側のみ軸がずれている。これで回転する渦巻きを「いい具合にまわす」のだ!

最初はなかなかスクロール式の圧縮方法が分からなかった方でも、これである程度は理解できるかもしれない。スクロール式は平面だけでなく立体的に捉えないと圧縮方法が分からないのだ。

そして、モノづくりをする方ならお分かりの通り、渦巻きとシャフトにはめちゃくちゃ高い精度が要求される。精度が低いと振動や音が発生し、隙間から気体が漏れてしまうなどで設計上の圧力が出なくなるからだ。

最後に渦巻きを動かすモーターを配置して、ケースに入れ込むとコンプレッサーの完成
スクロール式の特徴は、コンプレッサー本体の横から低圧を吸い込み、上部から高圧を吐出する

コンプレッサーには縦型や横型があり、それぞれ用途や目的に応じて使われる。たとえば家庭用のエアコンなら室外機の中の左右どちらかに縦型が収まっている。鉄道用のエアコンのように屋根上や床下(主に新幹線)に収める場合は高さがあるとマズいので横型を使うという具合だ。

ご存じの方もいると思うが、日立は鉄道メーカーとしても世界的に有名。国内の鉄道車両は通勤型から新幹線まで、イギリスやUAE向けの車両も製造・輸出され世界を疾走している。実は清水事業所で作られたエアコン用のコンプレッサーも鉄道事業部に納品しているのだ。もしかするとUAEの灼熱地獄を快適な空間にしているのは、ここで見たコンプレッサーなのかも知れない。

Hitachi Railのイギリス向け特急電車Class 800
UAEのドバイを走るモノレール(日本語)

進化し続けるコンプレッサーと業務用空調装置

昔々のエアコンやスプレーは、冷気を作るためのガスとして「フロン」を使っていた。このフロンガスは常温でも少し圧力をかけると液体になり、圧を抜くと気体になる。しかも金属を腐食させることもなく可燃性でもなく、毒性もないということで幅広く使われていた。しかし宇宙からの強力な紫外線から地球を守る「オゾン層」を破壊するということで、世界で一斉に使用禁止に。

そこでオゾン層を壊さず安全な代替ガスが開発されたが、フロンよりも高い圧をかけないと液体に戻らないため、エアコンや冷蔵庫のコンプレッサーの設計はすべて見直し。さらに効率的な代替ガスや、より冷たい冷凍にも利用できるガスなどが開発され、コンプレッサーの方も高圧なものなどに改良が進む。

さらに圧縮機の部分は動きながら密閉性も保つ必要があるので、潤滑油やその供給方法も進化。従来型のONとOFFしかできないモーターから、インバーターと呼ばれる回転数を細かく制御できるモーターに進化し、ネオジム磁石などのレアな金属に頼らないモーターへシフト。最近では小型で高速なモーターでエネルギー効率を上げるなどで常に進化している。

スクロール圧縮機の歴史と日立が受賞してきた技術の数々。圧縮機は冷気用のガスとモーターとその制御方法で年々進化している

「Rxx」や「Rxxxx」と数字やアルファベットの型番で表現されているのは、冷気を作るためのガスだ。フロンが禁止となり一斉に代替フロンの「R22」に代わって、一般のエアコンで使われている「R32」、そして業務用でより冷たい冷気を作る「R410A」などが登場。列車用では最近の自動車用エアコンで使われている「R134a」などもある。

これらは液体/気体に変わる圧力や冷気の温度が違うので、ガスごとに最適なコンプレッサーが必要になるのだ。

清水事業所の業務用エアコン製造現場

実際に、スクロールコンプレッサーを作っている業務用エアコンの製造工程を見学してきた。

マルチエアコンと呼ばれるタイプで、1台の室外機で複数台の室内機に冷気用のガスを送れるもの。家庭用のエアコンと違って室外機と室内機が1:1で対にならないのが特徴だ。

ホテルのエアコンの中には「冷暖房の切り替えはできません」とリモコンに書かれているものがあり、これはマルチエアコンのため室外機の方で冷暖房を切り替えてしまうからだ。ただし上位モデルの場合は、冷暖房同時に動かせる室外機も用意されている。つまり制限がないエアコンを導入しているホテルは、よりお客さんのホスピタリティを優先していると言い換えられるだろう。そのエアコンの心臓部となるのが、これまで説明してきたコンプレッサーだ。

家庭用のコンプレッサーだと2Lのペットボトル程度なので、こちらはかなり大きいのが分かる
時系列は前後するがコンプレッサーに入っているスクロール式の圧縮機を削り出す切削機。エアコンの心臓部となり、精度や品質が求められるので自社生産しているようだ
右側が切削する前の鋳物。左が切削と最終仕上げを行なった圧縮機
自動搬送車が工場内を走りまわる
室外機のケースをプレス成型機で作る。すでに塗装済みの鉄板をプレス機に掛けているのに注目!
コンプレッサーに銅管を取り付け「ロウ付け」する。絶対にガス漏れしてはいけないので、社内の内部資格などを持つ熟練工のみなさんがバーナーを握る
家庭用の8倍程度ありそうな熱交換器(ミルフィーユ状の金属板)とコンプレッサーを接続。金属板1枚1枚に冷気(または暖気)を作るガスを送り込む
コンプレッサーのモーターを制御するためのインバーター回路や、メンテナンス情報をスマホに転送するコンピュータや近距離無線通信(NFC)など電子回路系を実装。電源は家庭用のものではなく、三相3線200Vを使っている
工場の外には冷気を作るガスがタンクに貯蔵されている。このガスはR32だが、紹介している室外機はR401Aを使っている
実際にガスを充填して試運転し、万が一のガス漏れなども全量検査する
完成品が箱詰めされ出荷。とにかく重量物が多いので、構内を多くのフォークリフトが走りまわる
完成品のカットモデル。ビル用エアコンは排気を上部に吐き出すタイプが多い。小規模店舗用などは家庭用と同じ側面吐き出しも

見えないところに大切な技術・環境を守る技術が進化

ここまで見てきた通り、「ノンフロン」のウラには、実はたくさんの革新的な技術や改良、そしてエンジニアや製造技術者の数々の努力があり、それらの上に今の製品が成り立っている。

エアコンや冷蔵庫の1部品であるコンプレッサー。しかも多々あるコンプレッサーの中の「スクロールコンプレッサー」だが、40年間の歴史の中で生まれた、省エネや環境保全、快適で高性能、静かで汎用的な製品の数々が、ここ清水事業所から日本に、世界に送り出されている。