そこが知りたい家電の新技術

古いエアコンを新品に買い換えると節電になる……ってホント?

~ダイキンのエンジニアに聞く、省エネ技術の進化
by 藤山 哲人


“古いエアコンを買い換えれば省エネ”と言われてるけど、それってホントなの?

「新しいエアコンに買い換えると省エネ」っていうけれど、それってホントなの?(写真はダイキン工業「AN40LRS-W」)

 8月に入り、気温は30℃を越える暑い日が続く。この暑さで冷房需要が増えたためだろうか、電力会社の需給状況が厳しくなる地域も多くなった。夏はこれからが本番だが、節電対策もいよいよ本番といったところかもしれない。

 ところで、暑さが本格的になる前からいち早くエアコンの節電方法を取り上げていたのが、ダイキン工業だ。実際の生活環境における節電テクニックの数々を専用のホームページに開設するなど、空調専門メーカーならではの「無理せず賢い節電術」を分かりやすく解説している。

 しかし疑問がひとつ残る。それは節電へのアプローチだ。細々とした節電テクニックを駆使する方法も確かにあるが、エアコンは年々省エネ性が進化しており、古いエアコンはいっそ買い換えたほうが劇的に節電できるのでは? とも思ってしまう。

 古いエアコンを新しいエアコンに買い換えると、どれだけ節電になるのか。また、エアコンのどの部分が省エネ化されているのか。この疑問に答えてもらうべく、ダイキン工業の滋賀工場を訪れ、実際にエアコンの製造に携わる技術者の方々に話を伺った。


2005年以前のエアコンとの買い替えるだけで、15%の節電に!

 エンジニアの方に話を伺う前に、まずはエアコンがどのようにして部屋を冷房するのか、という基本的な仕組みを確認しておこう。

エアコンを構成する基本的な部品と熱の流れ。冷房をする場合は、室内機の熱交換器を冷たく、室外機の熱交換器を熱くすることで、部屋を涼しくする。その中心にある装置が「コンプレッサー(圧縮機)」だ
 なぜエアコンで部屋が冷やせるかというと、エアコン室内機の中にある、薄いアルミ板が何百枚も重なった「熱交換器」という冷たいパーツに風を当てて、冷風を出すからだ。

 では、どうして熱交換器が冷たくなるのか。まずは、熱交換器の内部にある「冷媒管」という管の中にある液体状のガス(冷媒)が、急激に気体化することで温度が下がり、熱交換器が冷える。これは、液体が蒸発して気体になったとき、周囲の熱を奪う「気化熱」と同じ現象が起きているため。スプレー缶を長時間噴射したときに、缶がキンキンに冷えるのと同じだ。

 この熱交換器を冷やす作業を繰り返し循環する装置が、「コンプレッサー(圧縮機)」という装置。室内機の熱交換器に冷気を移したガスは、コンプレッサーで圧縮され、高温・高圧の状態となるが、今度は室外機側の熱交換器で熱を放出し、再び液体になる。この液体を急激に気体化することで、室内機の熱交換機が冷え、そして気体となった冷媒を再びコンプレッサーで圧縮する……これを繰り返して行なうのが、エアコンの冷房の仕組みだ。

ダイキン工業 滋賀製作所 空調生産本部 商品開発グループの山本基久雄氏
 このサイクルの中で、もっとも消費電力を使うのがコンプレッサーである。空調生産本部 商品開発グループの山本基久雄氏も、「エアコン全体の消費電力を100%とすると、その89%がコンプレッサーで消費されている」と話す。

 「エアコンの消費電力分布のグラフを見ていただきたいのですが(下段左の写真)、フルパワー運転では、コンプレッサーはエアコン全体の89%の電力を消費していますが、室温が下がり、アイドル状態(使われていない状態)に近くても、全体の76%の電力を消費しています。つまりコンプレッサーを省エネ化することが、効果的に消費電力を抑えられるというわけです。

 そこで私たちは、1995年から、それまで使っていたコンプレッサーを改良し、ダイキン独自のものに変更しました。またコンプレッサーの動力源となるモーターをはじめ、過去20年間に色々な工夫をしてきました」(山本氏)

エアコンで最も電気を使うのはコンプレッサー。電源投入時のフルパワー運転では、エアコン全体の消費電力の89%、室温が安定した状態でも76%の電力を消費しているダイキンのエアコンに見る、省エネ化20年の歴史。コンプレッサーのほかにも熱交換器やファンなどでさまざまな改良を行なうことで、消費電力を抑制している

14畳向けクラス(4.0kW)のダイキン製エアコンの期間消費電力量(冷房・暖房期間を合わせた消費電力量の目安)の変遷

 右のグラフは、14畳向けクラス(4.0kW)の同社エアコンの期間消費電力量(冷房・暖房期間を合わせた消費電力量の目安)を表した年表だ。これを見ると、1994年と1995年の間で、ガクンと消費電力が落ちている。消費電力の多いコンプレッサーから省電力化に着手し、そこから細かい部分へ改良を加え、年々省エネ化を図ってきたことが分かる。

 「さまざまな改良や技術革新の結果、14畳向けエアコンの期間消費電力量は、1991年には3,394kWhだったものが、2011年にほぼ1/3(約37%)の1,252kWhにまで抑えられるようになりました」(山本氏)

 分かりやすく電気代に換算してみれば、1991年では年間7万4,668円かかっていたものが、2011年モデルなら年間2万7,544円まで安くなったということだ。


一番電気を使う「コンプレッサー」の節電には、ダイキン独自の“スイング方式”が効果

 エアコン全体としての省エネ性能が向上してきたのは、山本氏の説明で分かった。しかし、山本氏が言う“さまざまな改良”や“技術革新”とは、具体的には一体何のことだろうか? ここからは、エアコン内部の各パーツでどんな進化があり、省電力・高効率化を進めてきたのかを、細かく見ていこう。なお、ここで触れる最新形のエアコンとは、基本的に2011年モデルの「Rシリーズ」としている。

空調生産本部 圧縮機グループの帯谷武和氏

 まずは、メインパーツとなるコンプレッサーだ。先ほどの山本氏の話では、コンプレッサーの消費電力が大きく、これを改良することで省エネ化したということはわかったが、それは果たしてどのような改良だったのか。

 「私たちが1994年まで使っていたコンプレッサーは“ロータリー方式”ですが、これには問題がありました。1つはガスが抜けやすいという点、2つめは、冷媒を仕切る“ベーン”というパーツの先に力が集中するため、磨耗しやすく壊れやすいという点です」(空調生産本部 圧縮機グループの帯谷武和氏)

 ロータリー方式やベーンと言われても、ピンと来るのは帯谷氏の同業者くらいだろう(笑)。とりあえず下段右の写真を見ていただきたい。これがロータリー方式のコンプレッサーの動作モデルだ。

コンプレッサーは、室外機の内部に備えられている(写真の黒いパーツ)ロータリー方式のコンプレッサーの動作モデル。三日月状の空いたスペースに冷媒を通して圧縮する

 写真では、内部に三日月状の空間ができているのがお分かりいただけるだろう。この空間は冷媒を圧縮するための金属の突起「ベーン」で仕切られており、片方の空間から未圧縮のガスを吸気し、もう片方からは圧縮したガスを排出する。

 しかし運転中は、ローラー(中央の回転するパーツ)が高速で回転するので、ベーンと接触し、摩擦が発生してしまう。なので、長い間使っていると磨耗してしまう。また、ベーンの先端が円形状になっているので、ガス漏れが多くなるという欠点があった。


ロータリー方式のコンプレッサーが回転するイメージ図。ローラーとベーンが接触することで、摩耗が発生しやすいというのだ

 「このようなロータリー方式の欠点を補うためにはどうしたらいいかを踏まえ、ダイキンはベーンとローラーを一体型にした、独自の『スイング方式』の開発に成功しました。これなら高圧なガスでもベーンから漏れてしまうことがありません。ロータリーの接続部を軸にして、ベーンが左右に揺れてしまいますが、ベーンの上部に『スイングブッシュ』という装置を取り付けて、ベーンの左右の揺れを追従するようにしました」

ロータリー式とスイング式コンプレッサーの違い。ベーンとローラーの間で摩耗が発生するため、一体化してしまったのだ。黄色の点線で囲まれた部分に大きな差がある動作原理の模型。赤い矢印がスイング方式の肝である「スイングブッシュ」装置だスイング式は、ローラーと一体化したベーンが左右にスイングするが、スイングブッシュがこの揺れを追従している

 ここで筆者は、「スイングブッシュとケースの間の摩擦や、ベーンとスイングブッシュの摩擦が増えて、かえって磨耗したり抵抗が増えるのでは?」と疑問に思ったが、実際にはそんなことはまったくないという。

 左がロータリー式、右がスイング式のコンプレッサー。手で回してみても、両者のスムーズさに変わりはない

 「ロータリー方式は、U字の先の1点に力が加わるので磨耗が多かったのですが、スイング方式はブッシュの動きをケースの面で捉えるので、磨耗が少ないのです。抵抗については、実物を回転させてみれば分かりますよ」(帯谷氏)

 実際にコンプレッサーを手で回してみる。ローラーとの接触面が少ないロータリー式が軽く回せるのは当然だが、スイング式もロータリー式同様に軽く回せてしまうのだ。

 さらに、コンプレッサーを駆動するためのモーターについては、交流式から、よりハイパワーで制御しやすい直流式に変えているという。

左が1996年まで使われていた交流モーター、右がコンピュータで回転数を細かく制御できる、最新式の直流モーター

 「左の写真は、1994年まで使われていた交流式モーター(左)、最新モデルの直流式モーター(右)です。ひと目で分かりますが、大きさがまったく違います

 ここで注目して欲しいのは、モーター上部に編み込まれた電線の多さです。当時のモーターは、コイルとコイルの間を電線で橋渡ししており、巻いている電線も長く複雑に編み込まなければならないので、電気的な抵抗が多くなります。

 しかし、最新式の直流モーターでは、コイルを直接巻きつける“集中巻き”を採用することで、コイル同士を繋ぐ電線は必要なく、小型化できる上にハイパワーで、熱もあまり出ません」

 そして、モーターのハイパワー化に一役買っているのが、ネオジム磁石を入れた回転子だ。

 
左が交流モーターの回転する部分(回転子)。右が直流モーターの回転子で、強力なネオジム磁石を入れることで小型ながらも強力に回転する
 回転子とは、モーター内部で回転するパーツで、モーターのパワーに大きく関わる部分だ。ダイキンのエアコンには、回転子内の4つのスリットに、地球上で最も強力な磁石「ネオジム磁石」が差し込まれており、回転子全体が磁石となる。その回りを囲むコイルに電流を流すと、磁石のN極とS極の引きつける力と反発力で、回転子が少しだけ回転する。そこでタイミング良くコイルのN極とS極を高速に入れ替えれると、回転子がより早く回り出すのだ。

 しかし、強力なパワーを生み出すネオジム磁石は、レアアースの一種。中国の輸出規制により、秋葉原からも一時期姿を消してしまった貴重な磁石だ。安定供給は難しいのではないだろうか?

 「そうなんです。以前に比べると価格が倍以上になって、製造も大変ですが、企業努力で安定供給できている状態です。でも、このモーターを搭載することで、高気密住宅で室温が一定になった際でも、低~中速域で交流モーターを20%も上回るトルク(回転する力)が引き出せるので、安定してコンプレッサを動かしつつも省電力に貢献できるので、ダイキンのエアコンには欠かせないモーターです」

 日本の住宅事情は、隙間風の多かった昔の日本家屋から、高気密・高断熱住宅にシフトしつつある。それにあわせてモーターもまた低~中速域でもパワフルに駆動できるものに進化しているのだ。ネオジム磁石の価格高騰の話では苦笑した帯谷氏だが、その眼差しは“よりよいエアコンを作る”という意欲に満ちたものだった。


制御基板もスーパーファミコン→Wii並みに進化

制御基板も進化している。写真上が1997年製、下が2011年モデル。いずれも室外機に内蔵されている圧縮機のモーターや大型ファン、各種弁をを駆動するためのものだ

 モーターを使うのは、何もコンプレッサーだけではない。エアコンには、室内機の送風用モーターに、ルーバー(風向を上下左右に変える羽)のモーター、最近ではフィルターのお掃除を自動でやってくれるモーターなど、たくさんのモーターが使われている。さらに室外機にも、大きなファンを回すモーターなどがあり、制御しなければならないモーターがたくさんある。

 これらのモーターを一手に制御するのが、室内機と室外機に搭載された制御基板だ。1997年製のものと2011年モデルを比べると、大きさも重さも半分になっているが、ここでも省エネ化が図られている。

空調生産本部 デバイス技術グループ 副参事 矢吹俊生氏
 「制御基板の小型・省電力に大きく貢献しているのが、インバーター用の半導体の進化です。1997年製のインバーターは、とても大きな半導体で熱を多く発するため、それを冷やすためのヒートシンク(放熱板)も大型でした。熱ロスが発生するということは、電気のエネルギーの100%を、モーターを駆動するために使えませんでした」(デバイス技術グループ 副参事の矢吹俊生氏)

 インバーター回路とは、直流モーターの回転を制御するための装置。設定温度よりも室温が高い場合はモーターを高速で運転し、設定温度に近づいたら回転数を落とす、というように、自動で温度調節ができる省エネ装置だ。

 「しかし、最新のインバータは、基板の裏に隠れてしまうほど小さいため、熱としてロスしてしまうエネルギーも非常に少なくなっています。その結果、最新モデルのインバータ回路では、エネルギーロスは1997年製のものに比べると半分まで抑えられました」

中央の黒く四角い部品がインバータ用の半導体(バイポートランジスタ)。1997年製のもの最新のインバータ用半導体(IPM)は、基板の下に隠れるほど小さくなったインバーター用の半導体は、「バイポーラトランジスタ」→「IGBT」→「IPM」という順番で進化してきた。バイポーラトランジスタは、ラジオなどで使われているトランジスタを複数使って大電力に対応したもの、IGBTは、トランジスタ自体を改良し、大電力の制御ができるようにしたものだ。IPMは IGBTを小型化し、半導体内部に収めたものだ
赤い線で囲まれた部分が、最新モデルでは1つの半導体として集積された

 左の写真は、1997年製のエアコンのインバーター回路だ。赤い枠ほどの面積を取っていた部分が、最新モデルでは、IPMと呼ばれる半導体の中に収めてられているとのこと。いかに小型化され、それにともない省電力化されたかが分かるだろう。

 また、基板上に搭載しているコンピュータ(プロセッサ)も大きく進化しているという。

 「1997年製は16bitのものでしたが、最新モデルでは32bitを採用し、より細かく複雑な処理を高速でできるため、省エネ運転ができるようになっています。また、インバータ回路以外のロスも、1997年製に比べると、(最新モデルでは)8Wから3Wまで減少させることができました。さらに、待機電力に至っては、5Wから0.6W以下まで下げられました。非常に細かい部分ではありますが、徹底的な省エネ性を追求しています」(矢吹氏)

 極論すると1997年製のコンピュータを家庭用ゲーム機に例えるなら「スーパーファミコン」、最新モデルは「Wii」より少し劣るぐらいといったところだろうか。エアコンには画面や3Dグラフィックなどはないが、複雑な処理を高速にこなす点では、ゲーム機やパソコンと同じだ。

1997年製に搭載されている16ビットのコンピュータ。この形に懐かしさを覚える読者も多いのでは?2011年モデルに搭載されている32ビットRISCタイプのコンピュータ。RISCタイプとは、単純な計算ならパソコン以上に高速に処理できるコンピュータのこと
 従来のインバータ回路とコンピュータでは、電力をコンセントから使う際には、お風呂のお湯を桶でバシャバシャと水をくみ出すように、手荒に扱うほかなかった。そのため、電力のロスが多かったのだ。しかし、インバータもコンピュータも進化した今は、使用電力をキッチリと計りながらも、高速に取り出せるようになった。そのため、電力が大量に必要になるフルパワー運転では、より多くの電力をコンセントからくみ出し、室温が安定し電力をさほど必要としない場合は、必要な電力だけをロスなくくみ出すようになったいうわけだ。

 もちろんそれは単なる半導体の進化だけでなく、どんな場合に、どのようにくみ出すかをコントロールするダイキン独自のプログラムや、さまざまな基礎研究から得た大量のデータの元に成り立っていることも忘れるわけにはいかない。


熱交換器は面積が広い方が良い……表面や管の内部にも凹凸がビッシリ

 これまで紹介した省エネ技術は、基本的には使う電気そのものを省くのがメインだった。しかし、これから紹介するのは、同じ電力でも効率よくすることで省エネしようという方法だ。

 その代表例が、室内機と室外機に搭載される「熱交換器」にある。

 室内機の熱交換器は、部屋の熱を素早く奪い取り、室外機の熱交換器は奪い取った熱を素早く大気に放出する必要がある。この“素早さ”――つまり効率を左右するのは、空気と熱交換器の触れ合う面積をいかに広くするかにかかっている。

室内機の熱交換器。冷房時はこれが冷えることで、室内に冷風が送れる室外機の熱交換器。冷房時は室内機と真逆で、屋外に熱を放出することになる
空調生産本部 商品開発グループ 中野寛之氏

 「左が1970年代のエアコン、中央が1980年代、右が2011年モデルの熱交換器です。当初は板状の熱交換器が1セット配置されていましたが、時代とともに“逆V時”に配置することで、空気と触れる面積を広くし、現在では“円弧状”の熱交換器にしています。また熱を運ぶ冷媒管の本数も増え、より効率よく熱を奪えるようになっているのです」(空調生産本部 商品開発グループの中野寛之氏)


左から1970年代、1980年代、2011年モデルの熱交換器。いずれもカットモデル

 2011年モデルをよく見ると、冷媒管には何種類かの太さがあることに気づいた。

 「液体状の冷媒が通る箇所は細い管を、ガスになった冷媒が通る箇所は太くなっていて、これも効率をよくするための工夫です。また、送風の抵抗にならないように配慮しています」

 さらに、熱交換器のフィンの1枚1枚にも、空気と触れる面積を多くするために工夫がされているという。

 「1970年以前の熱交換器のフィンは、単なる薄いアルミの平板でしたが、波型にしたり、空気の通る隙間を設けたり、進化させてきました。これにより、単なる1枚のアルミ平板の性能を1.0とすると、現在はその3倍まで効率が上がっているのです。最新モデルでは、熱交換器の部分に応じて高性能フィンと低損失フィンを組み合わせて、さらに効率を高めています」

熱交換器のフィンの変遷。矢印の部分は、側面から見たところ2011年モデルのフィン。凸凹を付けて空気と触れる面を広くしている

 「また、これはよく見ないと分からないのですが、フィンで奪い取った熱を効率よく冷媒に伝えるために、冷媒を通す管の内側にも凸凹を作り、冷媒が触れる面積を広げています。こちらも凸凹をつけていない管と現在の管を比べてみると、性能は3倍に向上しています」

フィンとともに、冷媒を通す管も進化している2011年モデルの冷媒管の内側を見ると、細かい溝が刻まれているのが分かる

 カタログでは単に「効率**%アップ」と謳われるだけだが、その裏には熱交換器の内部や、冷媒管の内側までも進化し続けている。これには、ただただ驚かされるばかりだ。


「エイヒレ」がエアコンを省エネ化する! 生き物に習うファンの進化

空調生産本部 商品開発グループ 田中英志氏

 熱交換器と同様、高効率化による省エネ化にアプローチしているのが、室内機の送風ファンと室外機の大型ファンだ。

 「室外機のファンの形状を変えることで、さらに効率化ができるのはないかと考えました。そこで着目したのが、バイオミメティクス(生態模倣)という考え方です」(空調生産本部 商品開発グループの田中 英志氏)

 バイオミメティクスとはあまり耳慣れない言葉だが、最近とみに注目を集めている技術だ。北京オリンピックで話題になった“鮫肌水着”もその1つで、海中を素早く泳ぐサメをモデルにして競泳用水着が開発された。その結果、着用すると世界新記録がどんどん塗り替えられてしまい、公式戦では着用が禁止されることになってしまった。

 また新幹線のパンタグラフや先頭車の形状なども、バイオミメティクスが応用され、低騒音化に一役買っている。コンピュータでは複雑すぎて制御できないようなことでも、単純な構造でそれを可能にしてしまうこともあり、ロボットなどでも盛んに取り入れられている技術である。

側縁に“エイ”のヒレを模した室外機用ファン
 「このファン(右の写真)を見てください。側縁(ファンの外側)を波打たせていますが、実はこれ、魚の“エイ”のヒレを模したものなのです。そして後縁(ファンの後端)はフクロウの翼を模しています。

 エイを模した側縁は、翼のフチに発生する『翼端渦』という抵抗を減らします。最近の飛行機には、翼の先に『ウィングレット(ウイングチップ)』という小さな翼が付いていて、空気の抵抗を減らして燃費をよくしていますが、それと同じ効果があります。そしてフクロウを模した後縁は、空気の流れをスムーズにする効果があります。

 このファンは旧モデルのものですが、最新式のファンは、白鳥の羽を模しています。ファンにV字の“切り欠き”を入れると、切り欠きから空気が流れ出すため、次のファンが回ってきたときの抵抗を少なくできます」

後縁はフクロウの羽を模して、空気の流れをスムーズにしているという最新モデルでは、白鳥を模した後縁を採用。次々と回ってくる羽根の先端に当たる空気抵抗を減らし、強力かつ効率のよい送風ができるようになったという
一般的なエアコンで採用されている室外機のファン飛行機の翼の先についている小さな羽(ウイングレット)は、空気抵抗を減らし燃費を良くするためのもの。エイを模した室外機のファンも同様の効果ある

 エアコンの取材に来たのに「翼端渦」や「空気の抵抗」といった航空力学の話が登場するとは思わなかった。一口にエアコンと言えど、さまざまなテクノロジーの集合体であることに気づかされる。

 さらに、室外機だけでなく、室内機の送風ファンについても進化があるという。

「室内機のファンも進化していますよ。従来はモーターとファンが別々だったのですが、現在はファン自体がモーターの一部になっています。ファンには磁石が組み込んであり、ここに電磁石が入った部品をはめ込むと、ファンを直接回転でき、エアコンの幅いっぱいの大型ファンが組み込めるわけです」

室内機用のファンも進化している。従来型は、モーターとファンが別々で、モーターの軸によりファンを回転させていた最新型では、ファン自体が回転子となる。側面に永久磁石が付いており、これに白い固定子(コイル)をはめると、ファン自体がモーターの一部となるわけだ
 ファンを良く見ると、一般的なエアコンにはない、ノコギリ状になった羽や小さな窪みがある。これも効率化の一部だ。

 「これらも空気の流れをスムーズにするしくみで、2007年頃のモデルから採用されているものです。羽のくぼみははゴルフボールの“ディンプル”という穴と同じで、わずかに気流を乱すことで、全体としてスムーズな気流を作るためのものです。V字の切れ込みは、立体的な切り込みになっていて、これも空気の流れをスムーズにしてより多くの風を吹き出します。実はこれもコウモリの羽を模したものです。コンピュータでのシミュレーションを行なったり、実機を使ってデータを取り、効果の裏づけをしています」

最新モデルの送風ファンには、V字の切り欠きやゴルフボールのディンプル(くぼみ)が付けられている送風による省エネ性能は、コンピュータによるシミュレーションや、実機による測定などで検証しているという

“ダイキン産”エアコンの解体ショー!

 各部品の省エネ・高性能化のアプローチを見せてもらったところで、実際のエアコンではどのように組み込まれているか、パーツをバラバラに解体していただいた。エンジニアの皆様からは「これ直せるのか?」 「メディアには、ここまでバラして見せたことがないよ。業務レベルのプレゼンでもここまでバラしたことは少ないなぁ」との声が出たほどだ(笑)。

 さすがに1工程ずつ説明をしていくと、何回かの連載になってしまうので、これまで見てきた部品がどのようにエアコンに収まっているかを、写真を中心にしてお見せしていこう。まずは室内機だ。

解体する前の室内機まずは前カバーから取り外す
その後、フラップやフィルターなどを外す。取り外しにはドライバーを使う室内機のカバーに付いている部品をすべて取り外したら、カバー全体をスポッと外す
外側のカバーを外したところ。室内機にも32ビットのコンピュータが搭載されており、温度や湿度制御に加え、本体に組み込まれた約12個のモーターを細かく制御しているファンを囲むように大型の熱交換器が配置されている。また熱交換器の大小の冷媒管が複雑に配管されている。ちなみに写真の機種では、602枚のフィンが重なって、1つの熱交換器となっているという中央のバルブは、ドライ運転をする際、上部の熱交換器を温めるように配管を切り換えるためのもの
 
送風ファンのモーターを発見! 通常のエアコンは、エアコンの幅の8割程度のファンしか埋め込めないが、このモーター一体型のファンにより、幅目いっぱいの大型ファンが積み込めるという室内機の制御基板。左側のユニットは送風機をコントロールするインバータ回路となっている送風ファン用のインバータ回路。中央には、小型ながらも専用のコンピュータが内蔵されている。手前の放熱板の下にはインバータ用の半導体があり、1分間当たり最高1,800回転を制御するという
インバータユニットの隣にあるのは、ダイキンの空気清浄機でおなじみの除菌・脱臭ユニット「光速ストリーマ」ユニットだ(写真の赤い部分)光速ストリーマの放電ユニットのカバーを開けたところ。6000Vの高電圧を作り出す昇圧電源ユニットがある。電圧が高いので、安全のためプラスチック樹脂でモールド(遮蔽)している

 室内機の解体ショーが終わったら、次は室外機だ。ダイキンの室外機は、他社と比べ大きいといわれているが、それは「うるる加湿」運転に使用する「無給水加湿ユニット」が搭載されているからだ。

室外機の上部にある高さ10cmほどのユニットは、暖房時に外気から水分を取り出す装置。要は「うるる加湿」機能を使うためのユニットだ加湿ユニットのカバーを外したところ。写真左側のファンで外気を取り込み、中央の大きな円盤で水の分子を吸着する(ゼオライトを使ったデシカント方式)。中央の金属で囲まれたユニットは、円盤に捉えた水の分子を蒸発させる役割がある加湿ユニットで取り出した湿度の高い空気は、室外機横の黒いコックから室内機に送られる(写真の赤い部分)
加湿ユニットを外した室外機。これで他社と同じ室外機のサイズになる。つまりダイキンの室外機が大きいのは、加湿ができるからなのだ。大きなファンは、1分当たり最大で1000回転。もちろんコンピュータが回転数を制御するファンの部分で紹介した、“白鳥の羽根”を模したファンが見える。また上部には、室外機の制御基板も見えている。この機種は加湿ユニットが 付いているので、基板は先に見せてもらったものより少し大きめ
室内機にはコンプレッサーがあるが、騒音防止のため何重にも吸音材が巻かれている室外機をほぼ“裸”にした状態。右下奥にある黒いペットボトルサイズの部品がコンプレッサーだ。ここにはネオジム磁石を使ったハイパワー& 低速でもトルクの出るモーターと、スイング方式のコンプレッサーが詰め込まれている。コンプレッサのモーターは、1分間当たり最大7,000回転で駆動。 室外機のコンピューターが、より少ない電力で最大のパフォーマンスが出せるように制御を行なう

エンジニアに聞く、エアコンの節電の素朴な疑問

 さてここまでエアコンの内部を見ながら、省エネ性を見てきたが、いくつか晴れていない疑問が残る。本稿をまとめる総括として、エンジニアの方々に質問をぶつけてみた。

Q1)エアコンの運転をできるだけ抑えて、かつ快適な空調を実現するには、どう使えばいいですか?

体感温度を左右する6つの要因は、室温、湿度、気流、活動量、着衣量、輻射

「人が快適と感じるのは、室温だけではなく、湿度、気流、活動量、着衣量、輻射という6つの要素があります。この要素をうまく使えば、温度以外でも体感温度が下げられます。

 この中でエアコンが調整できるのは温度、湿度、気流の3つです。ダイキンが考える“快適さ”は、国際規格ISO7730で定められた「PMV指標」に基づき、一定の快適さになるように、かつその時の外気温や室内の温度・湿度の状況に合わせて、もっとも効果的に運転できるように、温度・湿度・気流を自動で制御します。

 湿度を指定できるエアコンであれば、28℃で熱いと感じた場合は、湿度を下げると体感温度が快適になります。逆に暖房時は、18℃に設定して寒いと感じる場合は湿度を上げてやると温かく感じられます。

  さらに気流でも体感温度が大きく変わります。28℃で熱いと感じる場合は少し送風を強くして、寒いと感じる場合は送風を弱くすれば良いのです。私たちのエアコンは、PMVの温度に加え湿度と気流も考慮した3次元のデータに基づいて制御していますから、ほぼ自動運転していただければ省エネで快適な環境となります。もし少し熱さや寒さを感じたら、湿度や送風を手動で変えるといいでしょう」(山本氏)

PMV基準に基づく、人が快適と感じる温度の±0.5の範囲で室温を調整する。ダイキンのエアコンは、温度に加え湿度、気流もあわせた3次元のデータを持ち、それを元にコンピュータが快適な空間になるように調整しているという室温が同じ25℃でも、湿度が25%の場合と55%の場合では、体感温度が異なる

Q2)エアコンには200Vと100V仕様のものがありますが、どちらが電気代がお得ですか?

 「どちらのエアコンを使っても、エアコン自体の消費電力は基本的には変わりません。
 
 ただし厳密に言えば、200V仕様のほうが数W程度だけ消費電力が少ないです。それは電柱から家まで来ている電線、つまり引き込み線が200Vの方が太くて抵抗が少ないからなんです。エアコンを同時に何台も使う場合は、200V仕様のものを購入した方が、計算上は省電力になると思います」(矢吹氏)


Q3)除菌・脱臭技術「光速ストリーマ」や、お掃除機能など、エアコンに付随する機能を使うと消費電力が多くなりませんか?

最初に掲載した、パーツや機能ごとの消費電力分布を再度掲載。光速ストリーマもお掃除機能も、消費電力は「その他」のカテゴリの数割程度だ
 「確かに光速ストリーマを使えば、消費電力は増えますが、非常にわずかなものです。エアコンの省電力分布を見てもらえば分かる通り、消費電力は“その他”の中の数割程度です。ほとんど気にしないで良いでしょう。

  また、掃除をしないとエアコンの性能は1年間で25%ほど落ちるので、お掃除機能も使った方がいいでしょう」(山本氏)


Q4)究極の“省エネエアコン”とは、どのようなものですか?

 「難しい質問ですね~(苦笑)。エネルギーロスを限りなくゼロに近づけることはできますが、ゼロにすることは不可能です。一番最初に見ていただいた、ここ20年のエアコンの消費電力の推移を見てもらえると分かるのですが、ここ数年の消費電力の推移は緩やかになっているので、限界に近づいてきていると言ってもいいかもしれませんね」(山本氏)


 というわけで、古いエアコンを新しいエアコンに買い換えることで、節電効果があるというのは、技術的に証明され、“本当”ということが分かった。しかも機種によっては、買い換えるだけで15%の節電がクリアできちゃうことだってある。かなり古いエアコンを使っているのなら、設定温度を抑えたり、こまめに掃除をするなどよりも、もっと節電効果があるかもしれないのだ。

 ポイントとなるのは、どこまでを「古いエアコン」とするかだが、ダイキンのデータを参照にすれば、2002~2005年製(9~6年前)の製品なら、年間で18%の節電効果があり、さらに2001年以前(約10年前)の製品なら、年間で20%以上も節電できるという。逆に2006年より最近のエアコンなら、買い替えによる節電効果はほとんどないだろう。山本氏の言うように、ここ数年は消費電力の推移が緩やかになっているからだ。

 現在、自宅で古いエアコンを使っているという人は、型番を調べて、現行モデルと年間消費電力量を比較することをお勧めする。節電の心得を実行するよりも、もっと簡単に節電でき、かつ毎月の電気代も安く済むからだ。






2011年8月12日 00:00