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“栃木産”エアコンはどうやって作られてるの? 「白くまくん」のこれまでと最新機を工場で見た
2022年12月22日 09:05
日立のエアコンといえば「白くまくん」。もう何十年も愛され続けている愛称でお馴染みだ。なんと「白くまくん」を最初に名乗ったのは1975年で、昭和でいうと50年。初代白くまくんは、実写の北極グマだった。
そんな白くまくんと歩みを共にしてきたのが、栃木県栃木市にある日立ジョンソンコントロールズ空調 栃木事業所。この工場は日立のエアコンの歴史そのもので、1952年に「日本初のウィンド型ルームエアコン」を設計/製造した、エアコン一筋の工場といえる。
今回はこの工場の内部や日立のエアコンの歴史、そして白くまくんというキャラクターがどう変わって来たのかを取材してきた。ここで作られた最新の「プレミアムX」シリーズとはどんなモデルなのか紹介したい。
時は平成・令和と進み2022年11月29日。日立入魂の一作「きれいな空気」をコンセプトにした2023年モデルの「プレミアムXシリーズ」の出荷式が行なわれた。もちろんそこには、白くまくんも登場。そこにいたのは、みなさんの記憶よりちょっと“シュッとしている”白くまくんだった。
ここでは歴代の白くまくんと一緒に、工場の内部や日立のエアコンの歴史、そして最新のプレミアムXの特徴を紹介していく。
白くまくんのキャラクターに見る日立のエアコンの進化
実写の北極グマを採用した初代白くまくんが登場したのは1959年。室内機と室外機が一体型で、サッシに取り付ける窓用エアコンからスタートした。
この窓用エアコンは「白くま」のエンブレムをはめていたのだが、愛称として「白くまくん」はまだ使われていなかった。その後、室内機と室外機に分離するセパレートタイプが登場し、窓用エアコンから16年経った1975年に登場したのが、工場内に展示されていた「RAS-2201Y」というモデルだ。
このエアコンから日立のエアコンの愛称として「白くまくん」が使われ、イラスト化された可愛い白くまくんが、カタログやCMで使われるようになる。
ここからは半導体の発展のスピードが、そのままエアコンの高性能化につながっているようだ。1983年には省エネ化で当たり前のように各社で使われているが、当時「世界初のブラシレス直流インバーターモデル」が登場する。これによって冷気を作るコンプレッサーを動作させるモーターを最小限の電力でゆっくり回転させることができ、冷気を段階的に調整できるようになった。
さらに日立は独自のスクロール方式コンプレッサーを採用。これまで主流だったピストンを使ったコンプレッサーは、コンコンと騒音を立ててONかOFFにしかできなかったが、ゆっくり動かせるスクロールコンプレッサー+インバーターで省エネと細かな温度制御を可能にした。
(筆者注:かつてのピストンを使ったコンプレッサーは別名レシプロ式とも呼ばれ、昔の電車がブレーキ用の圧縮空気を作るのに、エンジンのようなブルブル! コンコン! と音を立てていたコンプレッサー。現在の電車はスクロールやスクリューコンプレッサーを使っているので、動き出した瞬間の「キュン!」という音しかしなくなった)
なお筆者の勝手な考察だが、インバーターは小さい信号で大きな動力を細かく制御することができるので、NHK Eテレの「おとうさんスイッチ(ピタゴラスイッチのコーナー)」を、先取りしたものではないか? と思っている。
そして1987年、日本がバブルに沸き始めた頃、ついに“お母さん”も登場する。
1980年代に入るとコンピューター(マイコン)が急速に発展する。それに伴って温度センサーなども高性能になり、白くまくんは「インテリジェント・エアコン」を冠するようになる。つまり今に続くマイコン制御により細かな温度管理ができるようになった。
1994年は日立がエアコンを製造し始めてから35周年。ここでエアコン界にまた革新を起こしたのが、世界初となるリサイクル方式の除湿機能を搭載したエアコン。今でいう「再熱除湿」で、一旦冷房で空気中の湿度を結露して除湿、室外機が捨てていた熱の一部を室内器に戻し除湿して冷たくなった空気を暖めてから送風した。結果として部屋の温度を変えずに、除湿だけできる「カラッと除湿」として、一世を風靡することになる。
冷房/暖房/除湿の3つの運転モードができたため、当時デジタルでカッコイイ(ラジカセのレベルメーターや車の速度/タコメーターなどと同様)とされた、緑/赤/オレンジのLEDで運転状態を表示するようになる。
さらに2年後は、日立のモーター制御技術の集大成、世界初の「PAM」(パム/パルス電圧振幅波形制御方式)を組み込んで省エネなのにハイパワーというエアコンのラインナップを拡充。以降日立のエアコン=PAMで省エネ&パワフルという印象が定着する。
それまでのインバーターは、スイッチを目にも止まらぬ速さでON/OFFすることで、最低限の電力でコンプレッサーをゆっくり~フルパワーで回してきた。PAMはスイッチのON/OFFに加えて、ゆっくり動作させるなら低い電圧で、フルパワー運転するなら高い電圧で駆動するという制御を加えたモーター制御の革新的な技術。現在の新幹線や最新式の通勤電車などに使われている、モーターが「歌う」(電圧やスイッチのON/OFFの速度を変えると、ブーンプーピーという音階を奏でる)というVVVF(可変電圧/可変周波数)制御の走りといえる。
このPAM制御のエアコンは、その功績を認められ国立科学博物館の「重要科学技術史資料」に認定されているほどだ。
このあたりになると各社対抗の気流制御戦争が始まる。今まで小さかった吹き出し口が大型化して、気流を変えるルーバー(フラップ)という羽が大型化、電源を切るとそのままカバーになるというエアコンが増えてくる。日立はこれを「一気に全開PAMエアコン白くまくん」と呼んだ。
さらに日立は「風革命フォルムPAMエアコン白くまくん」と銘打って、人がいるところには直接送風しないようにするという取り組みも。なんとなく、そんな時代覚えていませんか?
(これは想像だが)海外のデザイナーさんだったためか、2年でイメージキャラクターを降りてしまった6代目にかわって登場したのが、2019年まで長く活躍した7代目。
ここから先のエアコンは、空気のきれいさ、送風経路のカビ対策がトレンドに。日立は2006年から送風経路に防菌効果があるといわれるステンレスを採用し、カビが発生しづらく、かつ結露しにくくした。
また、フィルター自動清掃機能なども搭載し2008年に、省エネ大賞とグッドデザイン賞をWで受賞。2011年の東日本大震災を境に省エネ性の更なる追求が求められ、センサーや「くらしカメラ」を駆使した気流制御、風の向きを変えるルーバーの数を増やし、より遠くまで、より足元まで冷暖房が早く効くようになど、さまざまな改良が行なわれる。ホースの先を絞ると遠くまで水が届くように、2枚のルーバーで吹き出しを絞って遠くまで空気を届けるようにした。
さらに2015年には、アメリカのビル空調大手のジョンソンコントロールズと合弁会社を設立。グローバルを視野にいれたエアコン(空調)メーカーを目指すべく、エアコン事業を「日立ジョンソンコントロールズ空調」とした。社名は変わったもののエアコンの設計と製造のみを行なう会社で、販売は他の日立製家電を扱う日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)が担っている。
そして2018年からは自動お掃除機機能の拡充を打ち出し、誰もいないときに室内機をキンキンに冷やして凍結させ、その氷を一気に解かす日立独自の凍結洗浄機能を搭載。さらに日本初の室外機の自動洗浄や室内機のカビを撃退する「カビバスター」を搭載。
8代目の白くまくん就任の2020年には、送風ファンに付着したホコリを自動清掃する「ファンロボ」なども搭載し独自の進化を遂げた。
さらに8代目から追加された、もう1匹のクマさんがいるのをご存知だろうか?
正解は「白くまくん」の文字の中、「く」のところ!(よく見ると目がある) 実はこのロゴ、本体にもしっかり印刷されているのだ!
きれいな空気にこだわった2023年モデルの新プレミアムXシリーズ
2023年モデルの日立の白くまくんは、プレミアムXシリーズを追加し、これまでの「きれいな空気」へのこだわりを全部ブッ込んでいる。送風用ファンの自動清掃、清掃で汚れたブラシの清掃、そして熱交換器を一度56℃まで加熱して油煙などの油汚れを溶かし、その後一気にマイナス15℃まで霜を付けて凍らせ、再度熱交換器を温めて霜を溶かして水洗いする日立独自の「凍結洗浄 除菌 ヒートプラス」を搭載。これで空気の通る熱交換器とラインフローファンを洗浄してきれいな空気を担保しているのが特徴。
さらに数年前までは、カビが発生しやすい樹脂部分にステンレスを貼っていたところを、カビやヌメリができにくいといわれ、流し台の三角コーナーなどで流行り出した「銅」合金に(ステンレスよりも除菌時間を約1/24に短縮できる)チェンジ! 除湿した水や凍結洗浄の排水を流す、排水経路も銅合金化。ステンレスの2~3倍の価格の銅を使うところが、日立のきれいな空気へのこだわりになっている。
室外機も凍結洗浄により自動で本体を掃除したり、省エネで弱冷房除湿がメインストリームとなっている中、室外機の廃熱を室内機に戻し、少ないエネルギーで再熱除湿(カラッと除湿)をするようになっている。これにより弱冷房除湿は、長時間利用していると部屋の温度がどんどん冷えてしまうのに対して、再熱除湿で室温を一定のまま湿度のコントロールができるようになった。筆者がある医者から聞いた話では「温度変化を嫌う喘息を患っている人に、オススメしたいエアコン」だそうだ。
さらに、吹き出し口のプラズマ発生ユニットではカビ菌などを撃退するほか、吸入口にも同ユニットを搭載。これで吸入する空気に含まれる、カビやウィルスを帯電(静電気を帯びさせる)させ、熱交換器に付着させるという。こうしたフィルターレス空気清浄機能も持たせているのも特徴だ。
極めつけは、幅+15cmのオプションでサイドに「換気ユニット」が後付けできる点。外気の吸引はできないが、14畳の空気を70分で入れ替えられるほどの換気能力を誇る。しかも室内の配管工事不要。65φ(直径65mm)以上で、換気用のエアダクトも通せる。
今回の日立の「きれいな空気」へのこだわりは徹底している。
そして長年エアコンを作り続けている、栃木事業所で作られているのもポイントになるだろう。急激な円安なども影響して、海外で生産することのメリットを失いつつある日本の家電。国内製造への回帰も視野に入れて、今回の初出荷式が行なわれたというわけだ。