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青い炎をともすアラジンのレトロな定番ストーブ。熟練の職人技を工場で見てきた!

アラジンの「ブルーフレームヒーター」

トースターで一躍有名になった「アラジン」製品を手掛ける千石。実はトースター以外にも電気ヒーターや石油と電気のハイブリッドヒーター、そして石油ストーブにガスコンロやストーブなども製造している。しかもASEAN地域やヨーロッパ、中東向けの製品も製造し輸出しているのだ。また驚くことに日本の大手メーカーのOEMも行なっている。OEM先は大手家電メーカーだけでなく、カセットガスメーカーや太陽光給湯などさまざまだ。

アラジンが特許を持つ、瞬間で高熱になる「グラファイトヒーター」を使ったトースターは爆発的な人気
ポップアップ式トースターは、増産しても一瞬で売り切れになる人気っぷり

そんなアラジンの中でも驚かされるのは、超レトロなデザインのストーブが今も主力製品という点。それは、「ブルーフレームヒーター」という対流型のストーブだ。対流型とは雪国のローカル線の駅でよく見かける、本体の周囲360度を温めるストーブで、大きな空間を暖める暖房として最適。

こんなにレトロなデザインながら現行モデルだ

反射板が付いている一般的な石油ストーブとは異なり、部屋全体がジンワリ暖まると好評で、アラジンの長年愛されているヒット商品。このストーブは通年製造しているわけでなく、製造シーズンでも毎日作っているわけではない。以前から現場を見せてほしい旨をリクエストしていたところ、ちょうど製造するという日があったので、貴重な製造現場を見せてもらった。

石油ストーブなのに青い炎! これぞアラジンの職人技

アラジンの対流式ストーブ「ブルーフレームヒーター」が人気なのにはワケがある。一般的な反射式や対流式の石油ストーブの炎はオレンジや黄色をしている。しかしブルーフレームはその名の通り、ガスのように青い炎なのだ。青い炎は灯油が完全燃焼したときだけに見られる色で、高温な上にススもほとんど出ない状態。

アラジンのブルーフレームヒーターは完全燃焼するので青い炎でススも出ない
一般的な石油ストーブはオレンジ色の炎。見た目にはこちらの方が暖かそうに見えるが実は……

青い炎にするためには、灯油と芯と空気のバランスが大切で、石油ファンヒーターなどではいったん電気ヒーターなどで石油を加熱してガス状に(気化)して、強制的に空気を送り込んで青い炎で燃焼させている。

しかしアラジンのブルーフレームは、機械的な仕組みが一切ない。芯を手動で調整する必要こそあるものの、いったんマッチで火をつけるとストーブの下部から空気を自然に吸い込み、熱による対流を使って空気を燃焼部の内炎筒と外炎筒に送り込むようになっている。つまりすべて自然任せで、空気の流れを作り出す部品の密着性やわずかなすき間の塩梅で炎の色が決まってくるのだ。

少し芯を出して火をつける
火をつけたときはまだオレンジだ
上部を閉めるとすぐに空気の対流がはじまり、ストーブの底から空気が送られ青い炎に変わる

これぞ機能美の究極! アラジン ブルーフレームの100年史

真鍮でできた金色の燃焼部品が少しでもゆがんでいると青い炎が出ず、ブルーフレームとしてはロットアウト品となる。そのため大量生産の時代にあって、アラジンのブルーフレームは1台1台が職人さんの手作りによるものなのだ。

このストーブの心臓部は金色の燃焼部
燃焼部のすき間などの具合で炎の色が決まる
芯の送り出し機構や自動消火機能もバネと重りを使ったアナログな機構。安全性のためここは複雑

こうして機械的な部品がほぼ皆無で、部品も1つ1つ取り外して分解・清掃・組み立てできるので、同じストーブを何十年も直し直し使っている愛好家も多い。いうなればアラジンのストーブはコレクターズアイテムでもある。

1919年に英国で原型が登場して以来、100年近く、ほんの少しずつデザイン変更や、法律に対応させるための細かな安全性向上が図られているが、基本構造はまったく同じ。デザインがレトロやノスタルジックというだけではなく、必要最小限の自然の力を使った機能美がアラジンの「ブルーフレームヒーター」の特徴なのだ。

1919年(大正8年)に、英国で誕生したアラジンはもともとランタンのメーカー。ランタンと同じでホヤがあり明るく光る。その後ストーブメーカーのインバー・リサーチ(IR)社を新設
1957~1966年(昭和32~41年)に日本にはじめて輸入されたIR社「アラジン」ブランドの「ブルーフレーム シリーズ15」。当時は輸入車ディーラーのヤナセが高級ストーブとして輸入していた
写真の製品はホンモノのシリーズ15! 内部構造は今とほぼ変わらず完成形になっている
1973~1974年(昭和48~49年)の「シリーズ37」。日本アラジン社が設立され、英国から部品を輸入し最終組み立ては日本で行なわれるように。ブランド名も「アラジン」となった
国内では自動消火装置が必要だったため、白い消火機構が追加されている
1975~1977年(昭和50~52年)の「シリーズ38」。インターネットで見るといまだに現役多数! 現行製品との見た目の違いは、上部の筒の回りに金網がない程度(1995年以降の製品ではPL法施行に伴いチムニーガードが付いている)
シリーズ38は消火装置も機械式になり、燃焼部分はまったくといっていいほど今の製品と同じ構造
現在発売中のアラジン ブルーフレームヒーター。1985年からアラジンブランドの製造販売を行なう日本エー・アイ・シーが2005年に製造中止をすると聞きつけ、千石が買収。以降アラジンブランドとその製造を引き継ぐ

アラジンのストーブ工場はまさに職人の秘密基地

アラジンのストーブの組み立ては、おもにタンクと燃焼部分の下部と、筒状の上部に分けて作られている。しかもそれぞれの組み立て担当は、長年ストーブを作り続けているお姉さん2人。

ラインの広さは、50m走の8トラック分ほど。工場の隅には自社工場でプレスしたストーブの部品が集められていて、ここで最終組み立てを行なっている。

千石本社から30分ほど離れた兵庫県西脇市にあるストーブ工場。4人の職人さんが製造している

ハイテクなラインはなく、作業手順や生産台数の目標値もまったくデジタル化されていない。なにしろ何十年もストーブを作ってきている職人さんたちなので、組み立て手順は体が覚えているレベルだ。今の工場らしかったのは、1時間ごとの製造数と目標数、1日の生産台数が書かれたホワイトボードぐらいだった。

上部の組み立ては、筒状の部品に雲母(透明なフィルム状の鉱石。ちなみに今ストーブの窓に使う会社は知らない)を挟み込み、安全用のフレームなどを取り付ける。特徴的なのは、青く完全燃焼する炎なのでススはほとんど出ないが、万が一のために触媒もつけている点だ。

上部の製造
筒に雲母の窓をつけ燃焼部のパンチングされた部品をつける
写真右の白い網は、ススを取る触媒

一方下部は、石油タンクがメイン。このタンク、実はドーナツ状になっていてストーブの下から新鮮な空気を燃焼部の炎の熱で自然吸気するようになっている。しかもただ単に吸い込むのではなく、整流板が付いているので空気が渦巻かないのだ。

石油タンク
ドーナツ状で空気が抜けるようになっている
芯や燃焼部をはめ込んでいく
土台の板と石油タンクの中央にあるのが空気の整流板。支持する部品ではなく意味を持った重要部品なのだ

タンクの上部は綿でできた芯が取り付けられ、それを囲むように外炎筒、内炎筒という燃焼部分が取り付けられる。この穴のサイズや個数、位置などは初代からほとんど変わることがなく、今でも同じ規格の部品が使われているという。最後は転倒時の自動消火装置や燃料計などを取り付け、上部と合体して完成だ。

おもに2人の職人のお姉さんがいろんな工程を並行して行なっているので1台の製造時間がわかりづらいが、おそらく10~15分程度
燃焼部の金色の部分のかみ合いが悪いと、ヤスリで削ったりするという

最後は全量検査だ。完成した製品はすべて点火して炎がブルーかどうかを確かめる。もし一部でも不完全燃焼していた場合は、燃焼部の内炎筒や外炎筒を少しヤスリで削ったり、カタチを整えたりして再チェックするのだ。

完成すると実際に火をつけて全量検査をする
キレイな青い炎で燃え続けるかを5分ほど他の作業をしながらチラチラ目視してチェック。職人技!

工場見学に行ったのは7月で、生産開始の5月から2カ月が過ぎていたので部品も安定しており、安定した青い炎が見られた。ただ製造し始めの5月はなかなか一発で決まらないという。

最後は完全に冷えたところでビニールをかけて梱包となる。こうして作られるストーブは1日100台。とはいえ365日製造しているのではなく、初夏~秋にかけて週に数日作るだけ。なぜなら、ここで働く職人さんたちは、ブルーフレームのストーブだけでなく、大手家電メーカーなどのOEM生産も行なっているからだ。

最後はビニールをかけて丁寧に梱包。今日の具合を聞いたところ「ぴったり100台作れるね!」と

100年間変わらない美しさと構造は貴重な財産

1台1台ハンドメイドでかつ、最小パーツ単位で修理部品が手に入るとあって、絶大な人気、いや愛着を持たれているアラジンのブルーフレームヒーター。大事に大事に、修理をしながら直し直し何十年も使えるストーブはこのご時勢に数えるほどしかないだろう。実際、インターネットで「アラジン ストーブ 修理」と検索すると、部品の売買から「自分でこう修理した、こうメンテナンスした」など、ホームページだけでなくYouTube動画もたくさん見つけられる。

時代も変わり、会社もいろいろと変わったアラジンのストーブだが、100年間変わらぬデザインと構造は人類の財産
だから愛着がわくのかも知れない

千石/アラジンのモノづくりは、家電でもストーブでも真心込めて作られ、本当にユーザーに愛される製品を作っている。そんなことを工場を見て改めて感じた。

アラジンのストーブは単なる工業製品ではなく、青い魂の炎が宿っているのだ。