e-bike試乗レビュー

ボッシュ最新「Smart System」を搭載するトレックe-MTB「Rail」3車種をトレイルで乗り比べ

2月17日にトレックのコンセプトストアである「LORO bicycles(ローロバイシクルズ) 駒沢公園店」が、東京・稲城市のスマイルバイクパークでトレックのe-MTBに乗れる試乗会を開催しました。用意されたのはフルサスe-MTB「Rail 5」「Powerfly FS 4」、ハードテイルe-MTB「Powerfly 4」3車種で、いずれも昨年登場したボッシュの「Smart System(スマートシステム)」を搭載しています。昨年の発表時にも試乗していますが、あらためて乗り比べてみるためにe-bike Watchも参加してきました。

トラクションをペダルで調整しやすくなった「Powerfly 4」

e-bikeの中でも、その魅力が体感しやすく、世界的にも人気が高いのがe-MTB。坂を上る機会が多い乗り物なので、アシストがあることの利点が感じやすいのに加えて、滑りやすい路面を走るのでアシストをいかに制御して路面に伝えるかというコントロール性も求められます。そんなジャンルでも、パワフルでいて緻密なアシストを実現したボッシュ「Smart System」を搭載したモデルは、このカテゴリーのトップランナーといえるでしょう。今回試乗した3車種は、昨年の「Smart System」発表時にも試乗しましたが、その際は雨天で路面がかなり滑りやすい状態だったこともあって、あらためて異なるコンディションでも乗ってみました。

会場となったスマイルバイクパークに走りに来た人も試乗できるので、結構な人が試乗に訪れていました

まず乗ってみたのがハードテイルの「Powerfly 4」。フロントにのみサスペンションを装備していて、価格も556,490円と3車種ではもっとも買いやすくなっているエントリー向けモデルです。試乗車にはオプションのIntuvia 100のディスプレイが装着されていました。

ハードテイルのシンプルな作りで、カラーリングもおしゃれな「Powerfly 4」。バッテリーはインチューブタイプでスマートなシルエットです
ホイール径は前後とも29インチ。速度の維持がしやすく、舗装路でも結構スピードが出しやすい
ドライブユニットは新しくなったPerformance Line CXで最大トルクは85Nmとかなりパワフルです
ハンドル幅は広いのですが、グリップはエルゴノミック形状で長距離走っても疲れを抑えることができます
画面が大きく見やすいIntuvia 100ディスプレイを装着。オプションですが、アシストモードの表示もできるので便利
左手側にLED Remoteのコントローラーを装備。標準状態では、カラーでアシストモードを表示するだけです
前後とも油圧式ディスクブレーキというe-MTBらしい装備。キャリパーはテクトロ製の対向2ピストン

実際に乗ってみると、あらためて乗りやすさとバランスの良さを感じます。85Nmの最大トルクを発揮するドライブユニットによって、急な上り坂も余裕を持って上ることができました。リアにサスペンションがないハードテイルのe-MTBは、滑りやすい路面で強くペダルを踏み込むとリアタイヤが空転しやすかったりもしますが、「Smart System」対応のPerformance Line CXはトルクの出だしが穏やかに制御されていることもあり、わざと強く踏んでみても滑ることはありませんでした。

コースで一番激しい上り坂も、座ったままペダルを回しているだけで余裕で上れました。滑りやすい路面でもグリップの不安はない
29インチの大径ホイールですが、スラロームコースを走っても車体の大きさを感じることはなく、設計の良さを実感

車重は3車種の中ではもっとも軽量な22.94kg(Mサイズ)。速度の維持しやすい29インチホイールを履いていることもあり、舗装路での通勤やツーリングなどにも使いたいユーザーには適したモデルでしょう。それでいて、ペダリングでトルクの出方を調整しやすいドライブユニットでもあるので、自分の足で滑りをコントロールしながら山道を走りたいベテランMTB乗りでも満足できる完成度です。

ちょうどいいサスペンションを採用した「Powerfly FS 4」

続いて乗ったのが昨年からラインナップに加わった「Powerfly FS 4」。前後にサスペンションを装備したフルサスモデルは、大きいギャップのあるダウンヒル向けというイメージが強いですが、このモデルはサスペンションストロークを抑えたクロスカントリー向けの設計で、里山のトレイルや今回のようなコースには適した作りです。

「Powerfly FS 4」の価格は671,990円。今回試乗したのはMサイズですが、SとXSのサイズはホイール径が小さくなります
Mサイズ以上は29インチホイールを採用していますが、SとXSサイズは27.5インチになります。サスペンションストロークは120mm
リアには100mmのトラベル量を実現するサスペンションを装備。リンク機構も含めてコンパクトに収められていて、見た目もスッキリ
変速機構はリアのみの10速。近年のMTBで一般的なフロント変速はない方式です。コンポーネンツはシマノ製のDEORE(デオーレ)グレード
走行シーンに合わせてサドルの高さを乗ったまま変更できるドロッパーシートポストも標準装備。下りでは左手側のレバーでサドルを下げられます
グリップは凹凸の多い路面でもしっかりと握りやすい形状。ハンドル幅も広く、車体を抑えやすいが、歩道の走行はできません
ドライブユニットはPerformance Line CX。リアタイヤ側には泥はねからサスペンションなどを守るフェンダーも装備

今回乗ったコースで一番楽しいと感じたのがこのモデル。木の根などのギャップがあるところに進入しても、前後のサスペンションが衝撃を吸収してくれるので、安心してライディングができました。サスペンションのストローク量もちょうど良く、重量は24.64kgとやや重めですが、走っている間は重さを感じることもありませんでした。

木の根があって軽いドロップオフになっているところも、臆せず走れるのでMTBの楽しさを満喫できる

リアのサスペンションは、路面にタイヤを押し付ける機能もあるので、上り坂でもリアタイヤのグリップが増して安心してペダルを踏んでいくことができます。坂を上っていても、アシストがさらに力強くなったような印象。下りを攻めるような乗り方をしない人でも、フルサスの恩恵を感じることができます。個人的には、MTB初心者もこのモデルから乗り始めると怖さや不安を感じることが少なく、e-MTBの魅力を味わえると実感しました。

リアタイヤのトラクションが増すので、急な上り坂もさらに力強く上ることができました

どんな場所でも走れる性能を持った「Rail 5」

フルサスの「Rail」シリーズは、カーボンフレームの「Rail 9.7」が知られていて、こちらはこれまで何度も乗らせてもらっていますが、今回乗ったのはアルミフレームの「Rail 5」。価格は「Rail 9.7」の998,690円に対して、「Rail 5」は777,590円と比較的買いやすくなっています。重量は「Rail 9.7」が24.10kgで、「Rail 5」は24.29kgとほとんど変わらない重さになっています。ただ、搭載されるバッテリーは「Rail 9.7」が750Whなのに対して、「Rail 5」は500Wh。重量の違いは、このバッテリーサイズも効いています。

上位グレードとの違いはフレーム素材とバッテリーのサイズくらいなので、シルエットは「Rail」らしいもの
フロントサスペンションはRockShox 35 Gold RLで、ストローク量は160mm。ギャップの多い下りも安心して攻められます
リアサスペンションは150mmのトラベル量で、リンクにはトレック独自のAPB機構が採用され、ハイスピードの下りでもリアタイヤを押し付け続けます
変速機構はリアのみの12速。最大51Tサイズのギアで激しい上りも対応できるようになっています。今回はシマノ製のDEORE
ドロッパーシートポストも標準装備で、上りではサドルを高く、下りでは低く調整するのを乗りながらできます
ハンドル幅は広く、下りに対応するためにステムも短いものが採用されています。試乗車にはスマホホルダーが付いていました
ディスクブレーキは前後ともテクトロ対向4ピストンキャリパーが装備され、ローターサイズも200mmと大径になっています

これまで「Rail 9.7」は何度も乗ってきて、レースなども走らせてもらっていますが、アルミフレームの「Rail 5」に乗るのは久しぶりです。重量自体はほとんど差がないので、漕いで進んでいるときは重さの違いもほとんど感じません。ただ、下り斜面で車体を切り返す際には、フレームの違いを少し感じます。重さというより、重量バランスが異なる感じで、切り返し操作で重心がちょっと高いところにある印象です。ただ、違いを感じようとして乗っていなければ、感じない程度の差かもしれません。

試乗前にはスタッフが体重に合わせてサスペンションのサグ出しをしてくれます。性能をフルに感じるためにはやっておくべき作業です

サスペンションの性能は、スマイルバイクパークのコースではちょっとオーバースペック。スキー場の斜面を下るダウンヒルコースなどでも十分な性能が確保されているので、このコースでは限界性能まで探ることはできませんでしたが、性能の高いサスペンションは路面にタイヤを押し付ける効果も高いので、トラクションと安心感は抜群。その分、高価ではありますが、上りから下りまで走れないコースはないというほどの性能を持っているので、最高峰の性能のe-MTBを味わいたいというベテランはもちろん、安心感高くオフロードを走りたいという人が乗っても、その恩恵を味わうことができます。

それぞれ、車体の特性やサスペンション性能の違いはありますが、3車種に共通して感じたのはボッシュの「Smart System」がよくできているということ。アシストがパワフルでありながら、唐突に力が出てきたりすることがなく、コントロール性も高いので、オフロードでタイヤのグリップやトラクションを探りながら走るというMTBの楽しさが味わいやすいシステムです。機会があったら、一度試乗してみることをおすすめします。

増谷茂樹

乗り物ライター 1975年生まれ。自転車・オートバイ・クルマなどタイヤが付いている乗り物なら何でも好きだが、自転車はどちらかというと土の上を走るのが好み。e-bikeという言葉が一般的になる前から電動アシスト自転車を取材してきたほか、電気自動車や電動オートバイについても追いかけている。