藤本健のソーラーリポート

車にためた電気を家で使うV2H、効率悪い問題 やはり蓄電池は据え置きがいい?

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
電気自動車サクラを、車としてだけではなく「家の蓄電池」として導入

日産の電気自動車サクラを蓄電池として導入したというレポートを2024年1月から4回に渡って連載した。V2H(Vehicle to Home)という手法を使って電気自動車(EV)と家を接続し、家で電気自動車に充電するだけでなく、電気自動車にためた電気を家に放電して、家庭の電気を丸ごと電気自動車から供給するという使い方だ。

世の中にはV2Hがどんなものかを紹介する情報はあるけれど、より具体的な事例紹介が少ないため、運用はまさに手探り状況。そうした実例を赤裸々にレポートしていったのだが、そこから1年ちょっとが経過し、運用に関するデータもさらにいろいろ集まってきた。

それを見てみると、1年前にみた状況より、もっと厳しい性能であることがハッキリしてきた。実際どういうことなのか、そのデータを見ながらチェックしていくことにしよう。

EVを蓄電池として使ったのに、ためた電気が使えるのは6割未満?

筆者の家は太陽光発電設備を設置してから20年以上が経過し、いわゆる「アフターFIT」と呼ばれる状況にあるので、余った電気はほとんどタダみたいな値段で電力会社に買い取られる形だ。

正確には1kWhあたり8.5円なので、タダとはいわないけれど、買電価格が36.4円(東京電力エナジーパートナーの従量電灯Bで120kWhを超え300kWhまでのケース)という時代なので、売るより使ったほうが絶対得、という状況にある。詳細は以前の記事でも紹介した通り。

そのため蓄電池の導入というのをずっと以前から考えてはいた。5~6年前に比べると、だいぶ安くなってはきたけれど、それでも10kWhで200万円とか250万円という価格であり、導入はなかなか難しいなぁ……と考えていた中、2023年5月に日産からV2Hが可能なサクラが発表された。

このサクラ、搭載されているバッテリー容量が20kWhもあるのに当時233万3,100円~(その後、2回の値上げがあり現在は259万9,300円~)と激安。しかも乗って走らせることだってできるというのだから、これは買うしかないと、飛びついたのが導入の経緯。ちなみに一般家庭の消費電力量は1日10kWh程度といわれているので、省エネ生活な我が家としては、もしものことがあっても余裕で2日は過ごせる容量というわけだ。

その後、20年経過した太陽光発電設備の性能が極端に落ちてしまったことから最新のソーラーパネルへ載せ替え、ニチコンのV2Hシステムと組み合わせて使っている。しかし実際に運用を始めてみると、V2Hの性能が想定していたのとまったく違い、約57.2%という非常に効率の悪いものだったというのを、以前の記事で紹介した。

ソーラーパネルへ載せ替え
ニチコンのV2Hシステム

ここでいう57.2%というのは100kWhを充電した際、そこから取り出せるのは57.2kWhであるという意味。この数字をどう捉えるかは人それぞれだけれど、個人的には、エネルギーのひどい無駄遣いだと感じている。もちろん、1kWhあたり8.5円で売るのももったいないけれど、せっかくためた電気が、6割すら取り出せないのはどうなんだと。ところが、その後1年近い利用状況を分析してみると、もっとひどい性能であることが見えてきた……。

約1年半分の発電量とV2H充放電の効率をまとめてみた

具体的な話に入る前に、我が家での電気の使い方について少し紹介しておこう。サクラを導入した時点では4人家族だったが、子供が卒業して家を出るなどしたことから昨年5月ごろから2人家族になり、以前より電気使用量はある程度減っている。

当初、サクラは蓄電池であって、あまりクルマとして利用しないことを想定していたけれど、V2Hとしての効率が想定外に低かったことから、もう少し積極的に乗るようにはなった。もっともフル充電での走行距離がカタログ値で180km、実際の使い方ではせいぜい100kmだから遠出はできない。そもそも普段は電車生活なこともあり、導入から1年半たった5月31日時点での走行距離は3,860kmといったところ。

6月2日時点では3,868km

サクラへの充電は、これまですべて太陽光発電で作った電気を使っている。V2Hをグリーンモードという設定にしておくと、太陽光発電の余剰電力が500W程度を超えると自動的に充電が始まり、余剰電力が少なくなるか、満充電になると、充電を終えるという形になっている。当初は電気代が安い夜間にためて、曇りや雨の日にサクラから放電して使うことも考えていたけれど、この効率ではかえって高くつくことから、そうした運用はしていない。

V2Hをグリーンモードに設定

2023年10月にサクラが納車になり、その月末に太陽光発電をリニューアルしてから先日2025年5月末までの、もろもろのデータをまとめてみた。表をどう見るかはすぐには分からないかもしれないが、ここにさまざまな情報が詰まっているので、一つずつ見ていこう。

発電量(kWh)総走行距離(km)月間走行距離(km)V2H充電(kWh)V2H放電(kWh)走行使用電力量(kWh)家庭用充電量(kWh)充放電効率
2023年10月-126126-----
2023年11月465.52541282771172125645.70%
2023年12月475.93821283031692128259.93%
2024年1月510.35101283071632128656.99%
2024年02月474.86441342541262223254.31%
2024年03月631.37701262921492127154.98%
2024年04月540.585888262981424839.52%
2024年05月633.71202344307935725037.20%
2024年06月575.114152132981053526339.92%
2024年07月630.316332183111353627549.09%
2024年08月636.918512183331533629751.52%
2024年09月541.120692183061253627046.30%
2024年10月394.32287218226683619035.79%
2024年11月406.22506219253863621739.63%
2024年12月402.727172112801273524551.84%
2025年1月441.429272102761153524147.72%
2025年2月625.431141873101483127953.05%
2025年3月543.93349235253883921441.12%
2025年4月607.33581232282873824435.66%
2025年5月538.63860279271854622537.78%
累計10075.2-386054012237643475847.02%
平均530.3-203.2284.3117.733.8250.447.02%

まず発電量はその名の通りで、ウチの屋根の太陽光パネルで発電した1カ月間の電力量。この毎月の数字だけを見てもピンとこないと思うが、たとえば2025年5月の日々の発電量を棒グラフでまとめた。

晴れた日だと30kWh程度発電し、雨だと5kWh程度という感じで平均すれば1日当たり17.4kWh。前述のとおり一般家庭の平均電力使用量が1日あたり10kWhなので、それを余裕で超える発電ができているわけだ。もちろん、夜は発電しないので、昼にためておいた電気を夜にしっかり使うことができれば、という話ではある。

2025年5月の発電量

ちなみに過去20年間、自宅の発電量を見てくると、夏至に近く晴れの多い5月が年間で一番発電量が多い月だが、今年は異常。昼間の時間が短く28日しかない2月より少ないのは、これまでになかったこと。そんなことに気づくのも太陽光発電を設置している面白さの一つだ。

2番目の総走行距離というのは月末に見たサクラのオドメーターの値で、その隣の月間走行距離は1カ月で走った距離を総走行距離の差分から計算した数字だ。これを見てもわかるとおり、当初は月間120km程度だったのが、2024年5月辺りから倍くらいになっている。ちなみに、同じ月間走行距離が続くところがあるが、これは月末にオドメーターのチェックをし忘れて、その期間の平均値にしたもの。そういう意味では、厳密なデータではないかもしれないが、数字も大きくないので大きな誤差にはならないはず。

続いてのV2H充電は、ニチコンのV2Hシステムを通じてサクラへ充電した電力量の1カ月の数字。これはニチコンのアプリを使うことで日々の充電履歴の推移を表す棒グラフ、月ごとの電力量を表す棒グラフで確認できる。このアプリは、だいたいの数値はグラフから読み取れるものの、正確な数値が表示できない。また、日々のデータにおいては前月分までしか保存されていないため、あとからデータを把握するという点ではあまり使えないと感じた。

日々の充電履歴の推移
月ごとの電力量

一方で、以前記事にて紹介したNature Remo EというHEMSを導入したことにより、これがEchonet Liteという通信規格を通じて、V2Hとやり取りすることで、細かくデータを記録できる。スマホを通じて、さまざまなデータを読み出せるわけだ。

Nature Remo E
詳細なデータを、後からでもスマホで確認できる

しかも、ニチコンのアプリではできなかった、より細かなタイマー設定なども可能になっている。

細かなタイマー設定(オートメーション)があるのは便利

そこで、そのNature Remo Eから読み取ったデータをV2H充電として記載している。これはその隣のV2H放電も同様で、この充電と放電の数字を見るだけでも、どれだけの充電に対し、どれだけの放電ができるのかという効率の概算が分かってくる。

ここで概算だとしているのは、充電した電気のうち、一部はサクラの走行に利用しているので、そのままでは正しい値ではないという意味。そこで登場してくるのがその隣の走行使用電力量だ。これは先ほどはじき出した月間走行距離を6で割った数字となっている。この6という数字もいい加減といえばいい加減ではあるけれど、サクラではバッテリー容量をパーセント表示する機能があるので、普段それと走った距離を突き合わせて、燃費ならぬ電費を計算している。街中を短距離走るのか、高速道路を使うのかなどによって差はあるけれど、ウチでの利用では平均して1kWhあたり6km程度走るので、このように計算している。

この走行使用電力量はV2Hの充放電から除外する必要があるが、充電の電力量から差し引いてしまうのが、わかりやすいので、V2H充電から走行電力量を引いたのが、その右側の家庭用充電量というわけだ。最後にV2H放電を家庭用充電量で割ったのが充放電効率になる、というのがこの表の意味するところ。

ここでV2H充電から走行使用電力を直接差し引く形でいいのか? という疑問を持たれるかもしれない。確かに充電におけるロスはあると思うので、その効率を多少加味したほうがより正確になるのかもしれない。ただ、日々、Nature Remo Eで発電状況や充電状況を見ている中で、この充電ロスはほぼ誤差のレベルのようだ。つまり太陽光で発電した電気がサクラへと送られる中、ほぼ100%に近い形で電気が溜まっていく。たとえば、サクラのバッテリー容量が50%という状況から4kWhの充電をすると、計算通り70%になるので、ロスがあるのは放電側である、と仮定してこの表を作り出している。

そのうえで2023年11月から2025年5月までの19カ月の累計でみると、充電した電力量に対して、放電できた電力量は47.02%という数字になってしまった。つまりためた電気の半分も取り出せていないというのが実情だ。昨年4月に記事にした際は57.2%と結論付けていたが、それはスタートから昨年3月までの状況を見ての数値だったということと、サクラの電費を6.5km/kWhで計算していたためだ。6.0km/kWhと6.5km/kWhによる違いはわずかだがそれよりも大きく違ってくるのは4月以降の数値。4月は39.52%で、5月は37.20%とさらにグッと落ちているのだ。

一方で、7月と8月は50%程度に回復し、秋になるとまた30%台に低下。そして12月以降冬になるとまた50%程度と大きくなる。これは何を意味しているのか? これは結構単純な理由だろうと考えている。それはエアコンを使っているかどうかの違い。つまりエアコンを使って使用電力が増えると効率が上がり、エアコンを使っておらず使用電力が少ない期間は効率が下がった。

この推測を裏付ける細かなデータ収集まではできていないが、単純に見ていてもそう感じる面はある。V2Hが動作している際、ずっとファンが回っていて、無駄に電気を食っているように思える。またサクラ側でも電気を食っている風であり、ある意味アイドリングし続けているから、家の消費電力が少ないと、それと比較してアイドリングにかかる電力の割合が大きく効率が落ちる。。一方、消費電力が増えると、そのアイドリング電力自体は変わらないけれど、それと比較した消費電力の割合が大きくなるため、効率が高くなるように見えるというわけだ。

やはり据え置きの蓄電池を導入すべき? その前に新たな問題が!

上の仮定が正しいのか、ちょっとした実験を行なってみた。それはエアコンを使わない4月末の深夜におこなったもの。家庭での電気をほとんど使わず、いわゆる待機電力だけという時間帯での放電量とサクラのバッテリー残量を調べてみた。

4月25日22時09分において51%の残量があったのが、翌朝3時37分の時点では29%まで減っていた。その際の使用電力は214W~233W近辺で一定となっている。また、以前にも紹介したが、V2H放電時も、必ず東京電力から50W前後の電力の供給を受けるという仕様のため、実質的な放電電力は162W~183Wとなっていた。

4月の深夜帯で、放電量とサクラのバッテリー残量を確認した

多少の揺れはあるとは思うし、冷蔵庫や冷凍庫のコンプレッサが動作しだした時点で、もう少し使用電力が上がっているかもしれない。ここでは平均をとって173Wの放電を5時間28分間続けたとして計算すると、0.173kW×5.47時間=0.95kWhの電力使用量ということになる。この間に22%、つまり4.4kWh分ものバッテリーが減ったという計算だ。これを効率でみると、21.6%と、かなり低効率になり、この時間帯が全体の足を引っ張っていることになる。省エネもいいけれど、ホントに電力消費が少ないならV2Hで放電するより、系統から電気を買ったほうがいいということのようだ。

こういうことは、メーカーやV2Hを(補助金などで)推奨する経産省などがしっかり公表すべき情報だと思うが、自分で導入して初めて分かったというのが実際のところ。「そもそも走らせることを前提としたEVを家庭用バッテリー代わりに使うので、V2Hはオマケ的な機能。無駄が生じてしまうのは仕方がない」といわれてしまえばそれまでだが、それなら、ちゃんとそれを公表するのが売る側の責任であり、義務だと思うが、どうだろうか?

きっとこの辺は今後のEV設計やV2H設計を見直すことで、効率を上げることはできそうな気もするし、使う側でもある程度の電力消費がない場合は放電を止めるといった運用によって効率を上げることもできそうだ。

こうやってV2Hを使ってきて思うのは、据え置き型の蓄電池なら、もっと効率がいいのではないか? ということ。これも試してみないと何ともわからないけれど、話を聞くところでは80%程度の効率とのことなので、魅力を感じる。サクラは便利に走ってくれるので、これを捨てるつもりはないけれど、据え置き型の蓄電池と併用すれば、活用の幅が広がりそうだ。

実は昨年2024年、見積サイトを通じていくつかの蓄電池の導入を検討したところ10kWh程度で各社とも180万円前後という金額が出てきていた。

昨年に蓄電池を検討した時の見積もり

東京都在住なら、大半の金額を補助金で賄えるみたいだが、横浜だとそうもいかない。せっかく設置するなら、屋根に搭載されているシャープの太陽光発電と連動するシャープの蓄電池がよさそうだが、そちらでも見積をとったところ、ほぼ同じ金額。かなり高いけれど、ここは趣味と割り切って導入しようか……と思ったところ、新たな問題が発生し、導入が延び延びになっていた。実はこの問題も、HEMSのデータを見ている中、ふと疑問に感じたことをシャープの代理店に何気なくぶつけた結果、メーカー側も巻き込む大問題へと発展してしまったのだ。その新たな問題について、次回に詳しく紹介したい。

藤本 健