藤本健のソーラーリポート

「節電」「グリーン電力」家の電気これからどう管理する? Natureの塩出CEOに聞いた

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
横浜のNatureでインタビュー取材をしてきた

家中の家電をスマホ1つでコントロールするというスマートリモコン「Nature Remo(ネイチャーリモ)」シリーズを開発する横浜のベンチャー企業であるNature株式会社。

さまざまなメーカーがスマートリモコンを展開する中、Nature Remoは70万台を超えるヒット製品(6月28日時点)となっている。また同社では「Nature Remo E」という、よく似た名前だがスマートリモコンとはまったく異なる製品も出している。こちらは家庭のエネルギーをマネジメントするHEMS機器。

Nature Remo Eシリーズ

筆者は昨年、HEMS機器を探している中でNature Remo Eをたまたまネットで見つけ、安いし便利そうとその場で購入。その結果、あまりにも有能なシステム過ぎて、常にこれと一緒に生活するようになっている。

さまざまなオートメーション機能があり、蓄電池やエコキュートを自動制御できるようになっているほか、Nature Remo Eの付加サービスとして「Nature Green」という“電気代を賢く節約するためのサービス”もあるなど、多彩な機能が用意されている。横浜在住の筆者は、どうしてこんなすごいものが近所のベンチャー企業から生まれたのか気になったので、会社を訪問してNatureの創業者でCEOの塩出晴海さんに、現在の製品やサービスの特徴、今後目指す形について聞いてみた。

Nature創業者の塩出晴海CEO

どうしてNatureのビジネスを発想した?

――会社や製品の話に入る前に、塩出さんのプロフィール、生い立ちについて少し教えていただけますか?

塩出晴海CEO(以下敬称略):私が6歳、幼稚園のころに父が独立して会社を始めたんです。いろいろなことをやるなか、ちょうどプレイステーションが誕生し、セガサターンとか3DOなどが出てきた時期、3Dのレーシングゲームが流行り出したのを見て、父はそこにチャンスがあると思ったんですね。自分でゲームなんて作ったこともないのに、イチから勉強して3Dのレーシングゲームを作っていったんです。

サンプルプログラムを持ち帰っては僕もプレイして、「ここのポリゴンがおかしい」なんてバグ出しをしたり、家で「Ready Go!」なんて声をレコーディングしては仕事場に持っていき、1週間後にはプログラムに反映されてくるのを目の当たりにしていたんです。結果的には、それほどヒットしたわけではないのですが、これを見ていて10歳のころには、将来は自分で会社を運営してみたいな、と思うようになっていました。

そのころ家にあったパソコンでBASICを使ってプログラミングをしていたんですが、もっと性能の高いものが欲しいと思い、父にお願いしたところ「インベーダーゲームを作ったら、新しいのを買ってやるよ」って言われて、BASICではあるけれど一生懸命作って、それらしいものが完成しました。その結果、当時のIBM-PC互換機のタワーを買ってもらい、中学校くらいからはC言語を勉強するようになっていきました。

――プログラミングは小学校のころからですか。その延長線でコンピューター・サイエンスへと進んでいったわけですね。

塩出:そうですね。子供のころから好きだったので、大学に行ったら情報工学、コンピューターの勉強をするんだろうな、と思ってました。実際その通りになったのですが、大学では1年間アメリカの大学に留学してコンピューター・サイエンスを学んだのですが、日本とのレベルが違いすぎて衝撃を受けました。

日本で勉強していたらダメだなと実感し、大学院は海外へと思っていました。アメリカには行ったので、今度はスウェーデン王立工科大学の修士課程に進んだのです。

――その後、三井物産へ就職されているんですよね?

塩出:これまで技術ばっかりできたので、ビジネスの勉強もしてみたい、どんな会社で働くのがいいだろうと探していた中、ちょうど三井物産がユビキタスの展開を始めていたのを知ったんです。これは自分としてもとても興味のあるところだし、いいなと。

スウェーデンでの大学院修了前に内定をとり、7月1日に入社したのですが、修士論文を書いているときに父から、マレーシアまでヨットで行かないかと誘われ、修論を無理やり早めに終わらせて帰国しました。結果的にはマレーシアまでは行けなかったのですが、沖縄から奄美大島へ初めてオーバーナイトでセーリングしたとき、夕日がやんわりと海を照らし、でも風はほどよく一定のスピードで吹き続け、それに呼応するようにヨットが前に進んでいくんです。周りはどこを見ても海しかない。大自然にただただ感じる高揚感がありました。

このとき人間は遺伝子レベルで自然と今日共生するように創られているんだと気づかされたとともに、自然とより調和した社会を作りたいと思うきっかけにもなったんです。そんな経験の後、ユビキタスをやるぞ! と三井物産に入社したのですが、入ってすぐにその事業がなくなってしまったんです。今でこそIoT全盛の時代ですが、2008年だったので早すぎたんですね。

――とはいえ、三井物産だと手掛ける分野も幅広そうですよね?

塩出:これからどうしていこうかと考えたとき2つ重要なことがある、と思いました。1つはやはり自分のやりたいテーマであること、もう1つは10年後に花開く分野、市場であることだ、と。ヨットの体験もあって、自然に関連するものがいいと思う一方、これから大きくなるマーケットというと再生可能エネルギーだろう、と。

電力のグリーン化は自然にも関連するところなので、グリーンテックをやろうと異動の希望を出したのです。太陽光発電でも風力発電でも、そうしたところに配属されたらいいなと思っていたところ、インドネシアの石炭火力になったんですよ(苦笑)。とはいえ、これは仕事。それまでITしかやってこなかった人間が電力の世界ですから、必死に勉強して、働きました。その結果、世界ナンバーワンのパワーデベロッパーと対等にやりとりできるようにもなり、非常にいい経験にもなりました。

しかし、もともと自分で事業を行なうという考えでもあったので、そろそろビジネススクールに行って自分の会社を立ち上げようと思ったんです。

――その時点で、今のNatureでの事業展開が頭に浮かんでいたわけですか?

塩出:三井物産で6年間働いてきた中で、いろいろな起業家に会ったり、さまざまな業界の人に会って話を聞く中、「デマンドレスポンス」の領域で家庭向けに事業展開するのが面白そうだと考えるようになりました。

何を制御するのかという中、最初はエアコンだなと思ったのが、Nature Remoの原点です。三井物産を辞めて、アメリカのハーバード・ビジネス・スクールに入ったのが2014年8月末。Natureの創業が2014年12月でした。

もっともMBAの勉強は非常にハードだったので、当初は平日に勉強、週末に会社のことを少しやれた程度でした。ただ夏休みは完全に会社モードでさまざまな人に会ってプレゼンをするなどしていました。

日本展開で始めたこと。競合との違いは?

――夏休みは日本に帰ってきて仕事するということだったのですか?

塩出:実はNatureは最初はアメリカの会社で、Nature RemoもアメリカのクラウドファンディングであるKickstarter、そしてIndiegogoに2016年に出したのが最初です。これが卒業の数日前でした。当時、その2つでクラウドファンディングをするのが流行っていた時期で、日本のメディアが取り上げてくれたこともあって、日本の人も結構買ってくれたんですよ。

当時、僕と大塚さん(現CTO)の二人しかいなかったのですが、世界中の人たちに対応していかなくてはならなくて、かなり大変でした。大塚さんは作ることに専念しているから、残りのことは僕がやらなくちゃいけない。各国ごとにさまざまな問題があって、分散しすぎる。これでは効率が悪いということで、日本にマーケットを絞ろうということになって、日本の会社を設立しました。

Kickstarterで販売した当時のNature Remo

――大塚さんというのは、共同創業者という大塚雅和さんのことですね? ハーバード・ビジネス・スクールで一緒だったんですか?

塩出:そうではありません。彼はパナソニック、面白法人カヤックを経て独立し、当時Wi-Fi機能が付いたオープンソースの赤外線リモコンデバイス「IRKit]というのを開発/販売していました。IRKit自体はエンジニア向けに出された機材で、簡単にカスタマイズして使える、とってもよくできたものでした。これを僕が入手してNature Remoのプロトタイプに使っていました。

大塚雅和CTO

僕からすると、この人が入ってくれたら一気に作りたいものができると、一緒にやらないかと話を持ち掛けました。ただ、こちらはまだ何もないので、大塚さんも半信半疑だったと思います。毎回ちょっとずつ進展を説明して、説明して、説明して……。だいぶ形が見えてきたところで、大塚さんが入ってくれたのが2015年の末くらい。そこから加速度的に進展していきました。

Natureのこれまでの歴史

――日本での展開はどうなっていったのですか?

塩出:Nature Remoはエアコン制御なわけですが、エアコンだけだと限界がある。よりエネルギーリソースに対してアクセスしていかなくちゃならないな、と。Nature Remoは赤外線というコミュニケーション手段をとっていたわけですが、日本のマーケットでやるなら、ECHONET Liteというオープンなプロトコルがある。これに対応したデバイスを作れれば、そのまま太陽光発電や蓄電池、V2H、エコキュートなど制御対象を一挙に広げられると思って開発を進め、Nature Remo Eを2019年末に発売しました。

Nature Remo E

――Nature Remo E、名前はNature RemoにEが付いただけですが、まったく違うシステムですよね。まったくゼロからの開発ということになるのですか?

塩出:確かに傍から見るとNature RemoとNature Remo Eはまったく関係ないもののようにも見えるかもしれませんが、対象がエアコンなのか、太陽光発電や蓄電池なのかの違いであって、目指している方向はまったく同じものです。またNature RemoもNature Remo Eも通信の手法が違うだけでデバイスのファームウェアからクラウドアプリはほとんど同じ技術でできるだろうと思っていたので、スムーズに開発を進めていくことができました。

こちらはスマートリモコンのNature Remo

――私自身はNature Remoの存在をまったく知らない中、HEMSを調べていてNature Remo Eの存在を見つけて、昨年10月にその場で衝動買いのように購入しました。

塩出:それは、ありがとうございます。逆に質問ですが、どこが一番の決め手になったのですか?

――ほかのHEMSを使っていたわけではないので、正確な比較はできませんが、工事が不要なのは大きいし、Bルート(スマートメーターで計測したデータを家庭のHEMS機器へ送るルート)を掴んで、電力会社からの購入状況や売電状況をリアルタイムに見えるというのは大きかったです。そして4万円弱という安さですから、大手メーカー製品と比較してもメリットしかないように感じました。他社との違いはどこにあるのですか?

電力会社からの購入状況や売電状況をリアルタイムで確認

塩出:やはり競合はパナソニックさんだと思っています。しっかりと作りこんで展開されていますからね。僕らの製品は工事がいらず、価格も安いというところが大きいほか、もともとスマートフォンから入ってユーザーインターフェイスやデザイン性のところでお客様からも評価をいただいていだいています。一方で足りなかったのは、やはりブランド力ですね。また彼らは長い歴史があり、対応している商品も幅広くあるという点も、こちらが引けを取っていました。僕らの製品も発売当時は太陽光発電と蓄電池しか対応できていませんでした。

――Echonet Liteに対応していれば何でもOKなのだと思っていました。

塩出:そういうわけにはいかず、一つ一つ作り込んでいくしかないんです。実際、発売してから順々に対応機器を増やしていき、そのたびにファームウェアのアップデートを行なっていきました。

ようやく最近になって、エコキュートやV2Hなども含め、当初対応したかったものに一通り対応できるようになりました。また当初はオートメーション機能もなかったのですが、その辺もできるようになりました。最初に購入いただいた方もファームウェアのアップデートにより、最新機能が使えるようにもなっています。

――個人的な要望としては、PC版が欲しいですね。PCで仕事しながらウィジェットで家の電力状況がつかめるといいな、と。

塩出:そういう要望はあまりなかったように思いますが、ニーズ次第でしょうか。もちろん技術的には可能なので、そうした声があれば検討していきます。

――もう一つ要望があって、データのダウンロードを月ごとだけではなく、すべて一括ダウンロードできるようにしてほしいです。データ分析するには、これまで全履歴のデータが必要なのに、1カ月ごとにダウンロードしていくのは、非常に手間なので。

塩出:なるほど、それは確かにそうかもしれませんね。ユーザーエクスペリエンスとして、それがあったほうがいいのはその通りだと思います。今後の改善事項として検討していきたいと思います。

有料サービスNature Greenで何が便利になる?

――ところで気になるのはクラウドの利用に関してです。シャープなどはHEMSの利用に月額課金がありますが、Nature Remo Eは初期の購入代金だけで、その後費用が発生せずにクラウドが使えます。これは大丈夫なんですか? いずれ有料になると覚悟したほうがいいですか?

塩出:今後も基本的な部分は無料でご利用いただけるようにしていきます。しかし、その一方で、エネルギーマネジメントのプレミアムサービスという位置づけで従量課金となる「Nature Green」というものをスタートさせています。

――今のところまだ加入してないですが、アプリ画面に出てくる月額150円のサービスですよね。まだそのメリットがよく見えてないのですが、これはどういうサービスなのですか?

塩出:はい、現在のところ月額150円の「市場連動オートメーション」と月額300円の「エコキュートオートメーション」の2種類があります。

有料サービスのNature Green

市場価格連動オートメーションはJEPX(日本卸電力取引所)の市場価格(エリアプライス)に合わせて、 エアコンの消費電力を抑えて省エネを実現するというもので、ソフトバンクでんきやLooopでんきなど市場価格に連動するプランを利用されている方におすすめのものです。

一方、エコキュートオートメーションは翌日の天気予報や当日の発電量に合わせて、自動で夜間・昼間にエコキュートの沸き上げを実行するというものです。毎晩翌日の天気予報に合わせてエコキュートの設定を手動で行なったり、当日の天気をみてあわててエコキュートを稼働させる面倒な作業から開放されるのが大きな特徴となっています。

Nature Greenの特徴

――オートメーションの設定、私はV2H(電気自動車を家の電源として使うVehicle to Home)の充放電の設定を自分でいろいろ設定しながら使っていますが、それを自動で最適化してくれる、ということですね。

オートメーションの設定

V2Hの充放電設定

塩出:ユーザーが求めていることは大きく2つあると思います。一つは「極力グリーンに」という使い方と、もう一つは「電気代を安く」ということだと思います。いま電気代が高騰している中、やはり電気代節約は多くの人にメリットを出せるし、多くの方に納得いただくことができると思います。そして、実はグリーン化ともほぼ同義で、太陽光発電を使っている方であれば、それをフル活用することが環境にも優しく、節約にもつながります。

――でもNature Greenの料金を払う分を相殺できる以上のメリットは出せそうですか?

塩出:市場連動オートメーションにつきましては最大でエアコン1台につき月700円の節電効果を見込んでいるので、特に複数のエアコンを使っている方であれば十分にメリットは出せると思います。またFIT切れ太陽光発電家庭であれば月平均900~1000円程度の経済効果があったという結果も見えてきました。こちらは、2023年12月~2024年2月の期間で、Nature Green「エコキュートオートメーション」を利用しているユーザーの中から卒FITと思われる方に絞ってのデータを参照した結果です。現在は集計ができていませんが、3月以降の春の方が理論上、より効果が見込めるので、十分そのメリットは出せると考えています。

――私は毎日天気予報などをチェックしながら、その日のオートメーションを設定していますが、V2Hなどにもうまく対応したNature Greenのメニューが出てくるといいですね。

塩出:まだまだこれからいろいろなオートメーションを作っていきたいと考えています。ユーザーはシングルリソースではなく、マルチリソースになってきています。つまりエアコンはもちろん、太陽光、蓄電池、V2H、エコキュート……とさまざまなリソースを持っているので、それらを手動で最適化するのは簡単ではありません。これをNature Greenで最適化していくことで、世の中全体にも役立てることができると考えています。これが、デマンドレスポンス、調整力となるわけです。

――日本はデマンドレスポンスの対応が遅れていると感じています。一般ユーザーもほとんど理解してないのではないかと思いますが。

塩出:デマンドレスポンスはこれから、ますます重要になってくるものですが、必ずしもユーザーがその仕組みや考え方などを理解する必要はないと思っています。ユーザーにとって電気代が安くなることが重要なので、そのメリットが出せる仕組みがあるということさえ、知ってもらえれば十分なのではないかと考えています。

Natureが目指す社会と、スタートアップとしてできること

――これまでうかがったことは、すごく大切なことだと思いますが、ベンチャー企業がデマンドレスポンスをコントロールして、社会のエネルギー全体を調整するというのは荷が重すぎないですか?

塩出:これまで10年近くやってきて失敗も繰り返して学んできました。ベンチャーは先行勝ち逃げという形で成功したパターンが多いと思いますが、電力はそのパターンは無理ですね。Nature RemoやNature Remo Eを売って終わりというわけにはいかないので、パートナーシップで事業を進めていく形に大きく舵を切りました。自然とより調和した社会を作るという形で進んでいけたらと考えています。

――電力会社など大きな会社がベンチャー企業としっかり組んでくれるのですか?

塩出:これまでやってみて分かったのは大きな会社も意外と困っている、ということです。これまで大手電力会社は燃料を調達し、それを燃やして需給調整するのがエネルギーマネジメントだったのが、分散電源への移行をいわれています。また大手メーカーも、戦後ハードウェアをどんどん作って成長してきたものの、今後は“ハードウェア一本やり”から脱却してサービス事業立ち上げを求められているわけです。みんな分かってはいても、彼らとしてもやりにくい面はあるんです。そこでスタートアップと組むことで何とか脱却できないかと模索している。僕らが提供できる価値はありそうだと感じていて、今後十分な可能性はあると考えています。

――最後に家電 Watch読者へ向けて、何かお伝えしたいことはありますか?

塩出:日本はもっと再生可能エネルギーを上手に使っていかないといけない状況に来ています。そのためには太陽光発電、風力発電などを増やすしかないですが、そうすると変動率が高くなるという問題がでてきます。その発電量に合わせて消費電力を調整する必要があるのです。

経産省によると2030年は70%の電力が家庭での消費だといわれています。これは電気自動車や蓄電池の使用も含めての数値ではありますが、そうなったとき、家庭で調整をすることの重要性はますます高まっていくことは間違いありません。太陽光発電を導入するだけではなく蓄電池やEVなどを導入して自家消費率を最大化することをもっと積極的に行なってほしいですね。

藤本 健