藤本健のソーラーリポート
売電ではなく“自家消費”、新発想の太陽光発電システム「ジャストコンパクト」とは
2019年9月25日 00:00
住宅の屋根に設置する太陽光発電の考え方が、最近少しずつ変化しているように思う。先日の台風15号による千葉県での被災と長期間の停電のニュースも、ひとつのキッカケになりそうだ。つまり「太陽光発電の売電で儲ける」という考え方から「太陽光発電を自家消費しつつ災害にも備える」という考え方への変化だ。その自家消費に完全に振り切った製品を開発し、工事費込みで40万円以下で設置できるとして、4月から展開をはじめたのがエクソル。
一般的に家に太陽光発電システムを設置するとなると、100万円以上の費用負担が必要になる。しかしそれが40万円となると導入へのハードルは大きく下がる。
価格が安いだけに、発電容量は一般のものよりも小さくなるわけだが、本当に使えるものなのか、家計的に見た経済効果はあるのか、いざというときに、どのように機能し、どう使えるのか……など気になることもいっぱい。これまでに見たことがない製品なだけに気になっていたので、エクソルに話を聞きに行った。
台風15号でダウンした千葉県内2カ所の発電所
今回の千葉の台風は想像を絶するものだった。筆者の自宅は横浜だが、千葉県内2カ所に50kWの発電所を1つずつ持って運営しているので、台風15号が関東に向かっているというニュースを見たときから気が気ではなかった。
もちろん普通の台風程度の風速ではビクともしない設計をしているし、片方は元資材置き場、もう片方は耕作放棄地という平地なので、土砂崩れなどの心配はなかった。
とはいえ、突風で何かが飛んで来たらパネルは割れてしまうし、万が一、ウチのパネルがはがれて、近所に被害を及ぼすようなことになったら一大事。祈るように台風が過ぎるのを待っていた。
翌朝、見回りに行ってくれた知人から連絡をもらい、事故がなかったことはすぐに確認できたものの、2つの発電所はともに停電でダウン。
普段は発電状況がリアルタイムに確認できるモニタリングシステムを導入しているが、2か所とも通信も遮断されてしまって、どうしようもない状況に陥ったのだ。
すぐに見に行こうかと思ったものの、近所の倒木がひどく、電柱も倒れているほか、近辺の信号も動いていないとのこと。下手に行くのは危険という忠告をもらったため、東京電力の停電情報を見つつ、ただただ復旧を待つしかない状態となった。
結局、山武市の発電所のほうは3日後の12日に復旧。千葉市内のほうは1週間以上が経った17日に復旧となり、現在は通常運転になっている。反省点は、やはり早い時点で現地に行って発電所を自立運転モードに切り替え、近所に電気を配布すればよかった……ということ。
これほど長引くとは思わなかったので、すべてが後手に回ってしまい、心苦しいところ。発電所を囲うフェンスが倒れるといった問題は起きたものの、システムそのものが破損するなどの事故にならなかったのが不幸中の幸いといったところだろうか……。
環境破壊による温暖化現象などで、異常気象が普通になっていてきる今、同様もしくはそれ以上の台風がやってくる可能性も高くなっているような気がするが、次にどう備えればいいのかは悩ましいところだ。
電気は買うよりも作ったほうが安い!? エクソル「ジャストコンパクト」の考え方
さて、その台風よりも以前に取材に行ったのがエクソルだ。4月にニュース記事で「ジャストコンパクト」という製品を見て気になっていたので、話を聞いてみたのだ。
対応していただいたのは、株式会社エクソル 経営企画本部 経営管理部長 兼 成長戦略開発推進室長の楠田 大祐氏。いろいろな角度から質問を投げてみた。
――先日発売された「ジャストコンパクト」、とても面白いコンセプトだと思いますが、これはどういう経緯で出されたのですか?
楠田:ジャストコンパクトに限った話ではないのですが、当社がいま多くの方に訴えているのが「エネルギーの“あたりまえ”が今変わる」という事実についてです。これまで電気は電力会社から買うのが当たり前でしたが、実は買うよりも作ったほうが安いという状況、いわゆるグリッドパリティが現実に来ているということについてです。それをまだほとんどの人が理解していないので、多くの人に知ってもらいたいという思いが起点にあるのです。
――とはいえ、太陽光発電システムを導入コストは非常に高いし、切り替えようと思って簡単にできるものではありません。
楠田:そこも大きく変わってきています。やはりFIT制度によって、国内でも太陽光発電が普及したため、システムコストは大幅に下がってきています。従来、FIT制度があったので、太陽光発電は「いっぱいパネルを載せて、いっぱい売るのがいい」とされていましたが、「電気は買うより作ったほうが得だ」という発想に切り替えてもらうのと同時に「使う分だけ載せましょう」というのが、ジャストコンパクトの製品コンセプトなのです。
ただ、従来の家庭用太陽光発電システムで、このコンセプトを実現するには、大きな障害が1つありました。それは屋根で発電した直流の電気を、家庭で使える100Vの交流に切り替えるのに使うパワコン(=パワーコンディショナー)を動作させるためには、屋根に最低でも4枚以上のパネルを載せなくてはならない仕組みになっていたことです。
そこで、従来のパワコンとは異なる、とても小さなマイクロインバータという小さなパワコンを採用したのが大きな特徴です。このマイクロインバーターであれば、パネル1枚で使うことができますし、パネルの内側に設置することもできて非常にコンパクトなのです。
――マイクロインバーターであれば、別途パワコンを設置する必要もなく、シンプルな構造ですね。
楠田:はい。だからこそ、安価なシステムにできたわけです。ぜひ、これから家を新築するときは、こうしたものを当たり前につけていただきたいと思っています。
いま、新築でお風呂がない家というのはないと思うし、エアコンがない家もないでしょう。それと同じ感覚で太陽光発電も導入していただければと。サイズ的にもとてもコンパクトなので、東京などの狭所住宅にも設置できる大きさになっています。
売電ではなく自家消費、FIT不要だからこそ実現したシステム
――このジャストコンパクト、かなり昔から計画をして開発した、ということなのですか?
楠田:実は、1年半くらい前、当社の代表が「必要な分だけ付ければいい」と言い出したのです。しかし、パワコンの問題で、そうもいかない。ただ、国内ではほとんど見たことがないマイクロインバーターもアメリカでは一般的に普及しており、国内メーカーでも数社が開発を行なっています。5年くらい前に東芝さんが、マイクロインバーターを持ってきてくれたこともあり、検討はしたのです。
ただ、各パネルごとにインバーターが搭載されるとなると、故障率が上がる可能性があります。そして、故障した場合、屋根に上ってパネルを取り外す必要があり、メンテナンスが困難になるということで、当社も含め、日本のメーカーはどこも手を出さなかったのです。
――それなのになぜアメリカではこれが普及しているのですか?
楠田:法律の問題なのですが、アメリカではラピッド・シャットダウンという制度が義務付けられています。これは断線したときに、電源を落とすというもので、火事で消防士が屋根に水をかけたときに感電するのを防ぐ目的で実装されたものなのです。
つまりパネルの段階で電気が流れないようにして、事故を防いでいるのです。一方ヨーロッパやオーストラリアでもマイクロインバーター搭載のパネルが売れているようです。
その理由はDIY。電気工事の資格という点が微妙なところではありますが、系統に連携せず、グリッドから独立したパネルを設置して使おうというわけなのです。韓国でもベランダで独立系統で利用するケースが増えているそうなので、マイクロインバーター自体は、まったく珍しいものではないのです。
――とはいえ、オフグリッドの独立系統だと、結局、携帯電話の充電に使うとか、昼間にテレビを見るとか、用途が非常に限られて、あまり使いものにならないという印象がありますが……。
楠田:そこで、われわれが取った手法は、系統連系はするけれど、FITは使わない、売電はしないというものです。連系すると製品としての認定をとる必要はありますが、FITが不要であれば、事務手続きはとっても早く、スムーズです。普通に電気を引くのとほとんど変わりません。
そもそも新築時であれば、パネルがあるろうとなかろうと、電気を引くのに申請から2週間程度かかるので、それと変わりません。しかし、FITを申請すると、5カ月以上かかるケースもあるので、それとは比較にならないほどスピーディーです。
――発電した電気の自家消費が前提であれば、それでまったく問題ないわけですね。小さいパネルとはいえ、電気を使いきれず余るケースもあると思いますが、その場合はどうなるのですか?
楠田:売電メーターは動かないので、タダで電力系統へ流れていくことになります。ですので、電気は晴れた日の日中に使うのが有利になるわけです。どのくらい屋根に載せるかは家庭環境や屋根の大きさに応じて決めていただければと思います。
最小規模では325Wのパネル1枚から始めることができ、必要に応じて増やすことが可能です。新築時に何にお金をかけるかというと、従来はどうしても「太陽光発電に100万円かかるなら、システムキッチンを優先させよう」と負けちゃうケースが多くありました。しかし、これからはこの値段であれば、載せることを前提に考えていただきたいなと思っています。
――40万円以下とはいえ、投資対効果という面で、メリットが出せないと、なかなか決断できない面はあると思いますが、実際どのくらいの期間で回収できるものなのでしょうか?
楠田:これもケースバイケースとなりますが、売電ではなく自家消費であっても12~13年程度で回収できる、と試算しております。一方で、現在販売をしているのは新築向けであり、既築向けの販売はまだ行なっておらず、これからアプローチしていく予定です。
ただ、新築の場合は足場があるので工事費が抑えられるのですが、既築の場合、これのために足場を組む必要があるため、どうしても6~7万円は上がってしまいそうです。
停電した場合は? 非常時に向けた製品も予定
――ところで、もう一つお伺いしたかったのが停電になった場合、どのようになるのかという点です。ジャストコンパクトは非常時にも使えるものなのでしょうか?
楠田:マイクロインバーターの場合、自立運転ができないため、停電時は残念ながら使うことができません。そこで当社としてはバッテリーとの組み合わせをお勧めしています。
今扱っているのは9.8kWhで150万円(販売店の仕入れ価格)というものなので、お手軽に……というわけにはいかなくなってしまいます。そこでもう少し安くエンドユーザー価格、大体80万円で導入可能な3kWhくらいの蓄電池の製品化を予定しているところです。
――80万円となると、さすがに元をとることはできなそうですね。
楠田:そこは、また考え方を変える必要があると思います。このバッテリーは配電盤を分けて設置する形になるので、停電になった場合、1つの部屋だけとか、冷蔵庫と照明のみ、一部のみへの供給ではあるものの、停電のない住宅を作ることが可能になります。
また通常利用においては、経済性優先か、エコ優先かを選べるようにするなど、効率的に活用できるものとしていく予定です。
――ありがとうございました。
以上、エクソルにジャストコンパクトについて、いろいろと話を聞いた。40万円以下とはいえ、1モジュールで325Wなので、kW単価でみれば、決して安いものではないが、「電気は自分で作る」というこれからの考え方にはマッチしたものであり、導入のハードルを下げるという点では大きな意味がありそうだ。
今後、こうしたものが国内で受け入れられていくのか、他社が追随していくのかなど、注目していきたい。