大河原克行の「白物家電 業界展望」
「家電の東芝」は消えてしまうのか ~他社との事業再編を視野に入れる家電事業の行方は?
by 大河原 克行(2015/12/24 12:06)
東芝は、2015年12月21日、「新生東芝アクションプラン」を発表。そのなかで、家庭電器事業の構造改革についても説明した。東芝・室町 正志社長は、「PC、映像、家庭電器の各事業において構造改革を断行。最初のステップとして、事業の絞り込みと運営効率化を実施する。
一方、PC事業と家庭電器事業は、次のステップとして、他社との事業再編など、さらに踏み込んだ施策を検討している」と語った。「家電の東芝」の行方はどうなるのか?
1万600人の人員削減、ライフスタイル事業の構造改革に踏み込む
今回、東芝が発表した「新生東芝アクションプラン」は、「構造改革の断行」、「内部管理体制の強化および企業風土の変革」、「事業ポートフォリオおよび事業運営体制の見直し」、「財務基盤の整備」の4つを柱とし、「このプランの策定、実行により、すべてのステイクホルダーからの信頼回復につなげるとともに、強靭な事業体質への変革を図る」(室町社長)のが狙いだ。
会見でも、室町社長は、「新生東芝として再生するために、課題事業の構造改革や資産価値の見直しなどの必要な措置を、2015年度中に実施することが必須。痛みを伴うものであるが、いまこのタイミングで、これらの施策を断行しなくてはならないと考えた。これを完遂することで、東芝グループが新しく生まれ変わり、再び信頼を得られるよう、私が先頭に立って全力を尽くす」と、不退転の決意で、この計画に取り組んでいくことを宣言してみせた。
同社が打ち出した新生東芝アクションプランは、PC、映像、家庭電器の3つで構成されるライフスタイル事業グループの構造改革が柱となる。
すでに、半導体事業においては、システムLSIおよびディスクリート事業に関する構造改革を発表しているが、ライフスタイル事業グループについて、詳細な構造改革の姿が明らかにされたのは今回が初めてだ。
ライフスタイル事業グループ全体で、人員の約3割にあたる6,800人の人員削減を行なうことを発表。すでに発表している半導体事業の2,800人の人員削減と、コーポレート部門での1,000人の人員削減を加えて、合計で1万600人の人員削減を行なうことになる。国内5,800人、海外4,800人という内訳だ。
国内5,800人のうち、半導体部門の500人は要強化部門へとシフト。残りの5,300人については、半導体部門のうち、約1,100人がソニーグループに移籍するほかは、人員再配置、再就職支援、早期退職優遇制度による人員対策を実施すると語る。だが、「社内配転の受け皿はないのが実態。ほとんどが早期退職制度の活用になる」とも語る。
白物家電部門は1,800人を削減
家庭電器部門の構造改革では、2015年度中をめどに、現在、1万4,600人の国内外社員を1,800人削減して、1万2,800人規模とし、それに伴う構造改革費用として2015年度中に約40億円を計上する。
東芝ライフスタイル社において、家庭電器事業における再配置および早期退職制度の対象者は、わずか50人が対象であり、一方で、家庭電器をはじめとするライフスタイル製品の販売、保守を行う関係会社で、約600人の社員が再配置および早期退職制度の対象者となる。そして、残りの多くは海外従業員ということになる。
さらに、同社では、家庭電器事業における首都圏の拠点を現在の6拠点から3拠点に集約。オペレーションの効率化などにより、2016年度の総固定費は、2015年度比で50億円以上の削減を目指す。
また、二層式洗濯機の自社製造および販売を終了。洗濯機事業は、ドラム式洗濯機および全自動洗濯機などに特化することになる。2014年度実績で、東芝の二層式洗濯機の事業規模は約30億円で、これらはインドネシア工場で生産しているが、この工場の敷地内には、テレビ工場もある。
今回の計画では、二層式洗濯機工場とテレビ工場を閉鎖し、この土地と建物を、中国スカイワース社へと売却することが決定したことも発表した。
そのほか、現在は、主力製品となる洗濯機と冷蔵庫のいずれもが大幅な赤字構造となっており、在庫削減などの取り組みにも力を注いでいるという。さらに、中国で冷蔵庫および洗濯機を生産する東芝家電製造(南海)および、掃除機などの生産を行う東芝家電製造(深セン)については、いずれもスカイワースが5%ずつ出資しているが、「これらの工場の閉鎖は決めていないものの、再編を視野に入れており、様々な選択肢がある」などと述べた。
東芝では、これらの構造改革により、2016年度には、家庭電器事業の黒字化を目指す考えだ。
白物家電は他社との事業再編も
だが、その一方で、「事業運営のさらなる効率化を実現する一方で、他社との事業再編も視野に入れている」(東芝・綱川 智副社長)との姿勢も強調する。
室町社長も、「東芝グループ内では、事業運営に必要な資源配分に制約があることから、他社との事業再編などのさらに踏み込んだ施策が必要である」と異口同音に語る。
具体的な社名などについては、今回の会見では明らかにせず、「様々な選択肢が同時並行的に進んでいる。進捗について、お話しすることは控えたい」(室町社長)としたが、一部では、家電事業の事業再編では、シャープとの統合が最有力との見方も出ている。
しかし、シャープ自らも経営再建のなかにあり、両社の生い立ちや企業文化の違い、さらには重複する製品が多いという点で、統合効果が限定的であることを指摘する声もある。一部には、「東芝とシャープの白物家電事業の違いは、アイロンをやっているか、いないかだけ」というように、あまりにも重複分野が多いことを示すコメントも聞かれるほどだ。
また、人員削減後も、東芝の白物家電事業には、1万2,800人規模の社員が残ることも、再編にはマイナス要素とみることができる。国内メーカーや海外メーカーと、家電事業を仮に統合したとしても、そのあとには大規模なリストラが必要になるとの指摘もある。
他社との統合という選択肢においても、厳しい状況にあるのは事実だ。
PC・映像事業の開発拠点である青梅事業所は閉鎖
ここで、ライフスタイル事業グループにおける家庭電器事業以外の構造改革の取り組みについても触れておこう。
ライフスタイル事業グループ全体における構造改革の柱は、「地域および商品ラインアップの絞り込み」、「固定費削減を中心に運営効率を高める」、「自助努力による黒字体質の確立」の3点だと、東芝の網川副社長は語る。
PC事業においては、パーナソル&クライアントソリューション社を分社し、国内のBtoB販売子会社である東芝情報機器(TIE)と統合。2015年度をめどに、国内外の社員を、約3割にあたる1,300人を削減。3,200人体制とする。また、PCと映像の開発拠点である青梅事業所を閉鎖および売却する方針を明らかにし、構造改革費用として2015年度に約600億円の計上を見込む。2016年度には、総固定費で300億円以上を削減し、現在、700万台のPC出荷台数は、約300万台にまで絞り込み、利益が出る体質へと転換を図る計画だ。
これまでにも打ち出してきたBtoB事業を中核化する方針をさらに明確化。ソリューションサービス事業に軸足を移すとともに、納入実績がある保険、流通、セキュリティ関連およびIoT事業を拡充。ODMへの委託生産の中止とともに、不適切会計処理の温床となったBuy-Sell取引を廃止する。プラットフォームは現在の3分の1に削減。BtoC向けPCについては、国内市場を中心とし、海外は北米市場だけで展開。BtoB事業の自社生産、自社設計能力の範囲でBtoC事業を展開することになる。
「PC事業は、競争力や成長力に問題がある。そして、採算性が悪く、利益が取れない。そのため、将来の成長戦略を描けない。一層の軽量経営を実現し、2016年度の黒字化を目指す一方で、他社との事業再編も視野に入れる」としている。
ここでも具体的な企業名は、今回の会見では明らかにはしなかったが、富士通およびVAIOとの再編への動きが水面下で進んでいるとの見方も出ている。
映像事業は大きな痛みを伴う改革
また、映像事業では、2015年度中に、国内外の社員の8割弱に当たる3,700人を削減するという大規模な人員削減を実施する。これにより、約4,800人の同事業の社員数は、約1,100人にまで削減することになる。
構造改革費用として、2015年度中に約400億円を計上。2016年度には総固定費で180億円以上を削減。ターゲットを国内市場に集中させ、販売台数は、約60万台にまで絞り込み、利益が出る体質に転換すると説明する。国内向けの60万台のテレビは、ほとんどを海外生産により調達するが、ホテル需要向けにカスタマイズした国内市場向けの一部の高画質小型製品については、青森県三沢市の東芝メディア機器で生産するという。同工場では年間16万台の生産を予定している。
また、国内市場への集中に伴い、海外全地域での映像事業の終息を発表。すでに、台湾コンパルが、欧米市場におけるブランド供与型ビジネスを開始しているのに続き、アジア地域においては、先にも触れたように、インドネシアのテレビ工場を、中国スカイワースに売却することを決定。ブランド供与型ビジネスに移行させる。
さらに、中近東、アフリカ地域では、エジプトの製造合弁会社および販売合弁会社を、パートナーであるエルアラビに対して保有株式を売却して、49%の出資比率とすることで非連結化。ブラジルの製造・販売子会社であるセンプ東芝アマゾナスについては、同社の個人所有者に対して、保有株式のすべてを譲渡。ブランド供与型ビジネスへ移行することになる。
「映像事業は、大変な痛みを伴う構造改革になる。だが、これにより大きな赤字にはならない。むしろ、来年度にはある程度の収益が見込める。三菱電機のようなビジネスモデルになる」と説明した。
2015年度は過去最大の最終赤字を見込む
なお、同社では、今回の構造改革の発表にあわせて、2015年度の連結業績見通しの修正を発表している。
売上高は2014年度実績から4,559億円減の6兆2,000億円、営業損益は5,104億円減の3400億円の赤字、税引前損益は4366億円減の3,000億円の赤字、当期純損益は5,122億円減の5,500億円の赤字。「営業損益、当期純損失は、過去最大の赤字になる」(室町社長)とする。そのうち、ライフスタイル事業グループの売上高は前年比27%減となる3,131億円減の8,500億円、営業損益は303億円減の1400億円の赤字になる。売上高は為替の影響を除けば、前年比30%減になる見通しだ。
「東芝は、当期利益市場主義に陥った反省を踏まえて、キャッシュフロー重視の経営を推進することになる。悪化した財務基盤の改善を最優先の経営課題に取り組んでいく」と述べた。
「家電の東芝」の看板を降ろすのか
室町社長は、今回の新生東芝アクションプランの発表に伴い、東芝の強化事業領域を再定義する姿勢を示してみせた。
「東芝は、今後、エネルギー事業とストレージ事業を注力領域とする」とし、さらに、「ヘルスケア事業については、画像診断などの高い収益性が見込めるものの、企業価値を最大化するには、継続的に研究開発資金を投入する必要がある。今後のさらなる成長に必要な経営資源を確保するために、外部資本を導入する必要がある。これは、東芝メディカルシステムズの株式を売却することである」という。つまり、ヘルスケア事業も同社の中核事業からは外れることになる。
今回の新生東芝アクションプランで示されたように、東芝の今後の事業の柱は、原子力発電などによるエネルギーと、セミコンダクターを含むストレージ事業となる。つまり、電力社会インフラと、電子デバイスの会社になると宣言してみせたわけだ。
一方で、「家電の東芝」の看板は、事実上、降ろすことになったといってもいいだろう。
東芝には、数多くの家電技術や映像技術があり、それが高く評価されていたことは周知の通りだ。
今後、他社との再編を含めた構造改革が進められることになるが、東芝が培ってきた技術や製品は、どこまで残るのか。いまの状況をみると、残念ながら不安でならない。