大河原克行の「白物家電 業界展望」
シャープ「ソーラー事業をやめる気ない」~工場に14億円を投資
by 大河原 克行(2015/4/1 07:00)
シャープは、3月30日、大阪府堺市の堺太陽電池工場において、住宅用単結晶太陽電池「BLACKSOLAR(ブラックソーラー)」の生産ラインを公開するとともに、エネルギーソリューション事業に関する説明を行なった。
そのなかで、シャープのエネルギーシステムソリューション事業本部長の向井和司常務執行役員は、「ソーラー事業は、やめる気も、売却する気もない」と発言。
「シャープは、1959年にソーラー事業を開始して以来、56年目を迎える。これからも『開発・生産・販売』をしっかりと維持するとともに、事業成長に取り組む」との決意も示し、さらに、「シャープ再建のひとつの柱になる」と位置づけた。
ソーラー事業は撤退せず、差別化を図ることで黒字の見込み
シャープは、2月3日に行なった2014年度第3四半期業績発表において、ソーラー事業の2014年度見通しが、当初の30億円の黒字から、50億円の赤字になることを発表。
ソーラーパネルの原材料となるポリシリコンの安定調達のために結んだ2020年までの購入計画が、結果として時価水準を大幅に上回る価格で調達することになり収益性の悪化、円安の影響を受けた業績悪化や、人員シフトによるスリム化の影響など、マイナス要素が噴出したことで、同事業の行方が注目を集めていた。また、一部では、ソーラー事業からの撤退報道も出ていた。
今回の事業方針説明は、ソーラー事業からの撤退を真っ向から否定したもので、さらに自社生産も継続する姿勢を改めて強調したものになった。
向井氏は、「2015年度は、ソーラー事業の黒字化が見込める。当社が優位性を持てる技術は自ら開発し、差別化できるものは生産する。そして、これらの技術を将来のモジュール開発へとつなげる。この仕組みは、きちっと守っていきたい。また、人員シフトは、エネルギーソリューションなどの新たな分野への展開が必要になったことが要因」と説明。今後もソーラーセルおよびモジュールの自社生産にこだわるとともに、ソリューション分野に力を注いでいく姿勢を示した。
説明会では、ポリシリコンの調達価格が長期間に渡り、高止まりする契約内容が収益悪化の要因になることを指摘する質問が相次いだ。
「ポリシリコンの調達量は所要数量内であり、しかも、モジュール全体に占めるコストはわずか数%。シリコンの厚みを薄くすることで、コスト面での吸収は可能になる。トータルプロセスのなかで解決できる」と、コスト増にはつながらないことを強調してみせた。
また、向井氏は、2017年度には、現在約1割の海外事業比率を約3割に拡大。15~17%に留まっているソリューション事業比率を、約5割に拡大する計画も明らかにした。
技術の集まった堺工場だからこそ生産できる「BLACKSOLAR」
そうした方針を打ち出す一方で、今後のエネルギーソリューション事業の方針について、向井氏は、「国内生産モジュールの競争力強化」、「海外生産モジュールのサプライチェーン強化」、「為替影響をミニマイズするための海外事業拡大」の3点から事業方針の説明を行なった。
国内事業においては、住宅用市場の強化に向けて、単結晶太陽電池モジュール「BLACKSOLAR」の新製品を今年6月に発売。それに向けて、堺太陽電池工場において、今年3月までに4億円、6月までに10億円の合計14億円を投資し、200MWの生産能力を、210MWにまで拡大すると述べた。
「堺太陽電池工場は、高効率技術を結集し、セルからモジュールまでの一貫生産により、高品質の量産を実現できる拠点であり、BLACKSOLARも堺太陽電池工場だからこそ実現できるものだ」と強調する。
新たに発売する太陽電池モジュールは、表面にあったマイナス電極を、プラス電極とともに裏面に配置するバックコンタクト構造を採用。これにより、表面においては電極部によって発生する集光のロスを排除し、セル全体で光を受けることができる。受光面積は、従来製品の94%から100%に高めることができた。
さらに、一般的な太陽電池に比べて10分の1となる、同社ならではの微細加工技術により、裏面電極の銅配線は200本以上を実現。また、一般的な太陽電池セルに比べて約40%薄型化した120μm(マイクロメートル)レベルというセルの厚みを実現。これにより、高出力化するとともに、信頼性向上を実現したという。
なお、ブラックソーラーの変換効率は継続的に上昇しており、2015年モデルでは、220Wの出力が実現できるという。
日本のソーラーパネル設置家屋の約半分にあたる約68万件の実績や、それをもとにした66万件の屋根パターンに及ぶCADデータをもとに、屋根への最適な設置を実施。
「サイズの異なる太陽電池モジュールを組み合わせることにより、効率性の高い太陽電池モジュールの設置と、屋根と一体化した美しい外観を実現できるのはシャープならではの特徴といえる。日本の屋根に最適な太陽電池モジュールの設置が可能だ」と強調した。
さらに、モジュールで20年間、システム機器で15年間という無償保証もシャープ独自のものであり、「これも、セルからモジュールまで、堺太陽電池工場で一貫生産するからこそ実現できたものである」と胸を張る。
新たな安全基準をクリアしたクラウド蓄電システム
もうひとつ、日本の住宅市場向けに提案しているのが、クラウド蓄電システムだ。
同社では、屋外タイプ、屋内タイプの2種類を用意。さらに、4.8kWと9.6kWの2種類を用意して、ライフスタイルにあわせた提案を可能にしているという。
さらに、シャープの蓄電池は、安全性の観点からも優位性があると語る。
「今年度から新たな安全基準として、震災対策基準が追加された。電池自体に5寸釘をさした試験や、筐体天面への加圧試験を行ない、貫通、変形したあとに、1時間内に発煙、発火、破裂しないことが求められている。シャープの蓄電池は、新たな厳しい基準をクリアするものになっている」と、安全性にも自信をみせた。
また、クラウドサーバーとの連携により、時間ごとの電気料金の変化や、気象変化を捉え、それを蓄電池に指示することで、蓄電する電気量を可変。賢く電気を使う暮らしを提案できるという。
そのほか、これまでは蓄電池を導入しようとすると、太陽電池のパワコン(パワーコンディショナー)と、蓄電池のパワコンの2台が必要であり、導入コストがかかるといった問題や、2台のパワコン間で電力ロスが発生するといった課題があったが、シャープでは、ハイブリッドパワコンの導入により、これらを改善できるという。さらに、DC家電との一体システムの提案、HEMSによる消費電力の削減といった提案も行なっていくという。
「2004年までに太陽光発電システムを導入した住宅は12万件。パワコンは10年が買い換えのタイミングであり、こうした買い換え需要に対して、パワコンの1台2役を切り口に、蓄電池とのセット提案を行なっていく」と、向井氏は語った。
さらに、堺工場内には、試験棟となるDCエコハウスを設置しており、ここでHEMSやV2H(ビーグル・トゥ・ホーム)、DC照明やDCエアコンなどとのDC連携などを検証。「DCエコハウスで徹底した検証を行ない、確かなものを市場に投入していくことになる」という。
また、千葉県の柏の葉スマートシティプロジェクトにも参画。ゲートスクエアへの太陽電池モジュールの設置のほか、同シティ内の三井ガーデンホテルに併設するレジデンスにおいて、146戸分にHEMSを導入。また、建材一体型の結晶太陽電池を3,542台納入し、720kWの発電が可能になっているという。
「国内ではこうしたプロジェクトにも積極的に参加したい」と語る。
海外ではピークカットシステムを本格展開
一方、海外エネルギーソリューション事業の取り組みとしては、ピークカットシステムへの取り組みを説明。米国では、蓄電と電力制御アルゴリズムを活用することで、電気のデマンドチャージを削減。ピーク電力を抑えることで、余分な電力コストをカットできる提案をしている。
「ピークカットシステムは、2014年10月から、米国で販売を開始しているが、2015年2月時点で6ユニットを導入した。それ以降、急速な勢いで関心が高まっており、現在約700ユニットを商談中。この4月から、本格的にピークカットシステム事業を拡大する」という。
エネルギーや環境に関心が高い米国西海岸から事業を開始し、現在はニューヨークへと展開。今後、米国の主要地域に販売提案活動を広げていくという。
また、アジア地域では、「EPC」と呼ぶ、メガソーラーに関連する発電所総請負型ビジネスを加速させる考えだ。
タイでは、NED社に対して、2期に渡って、薄膜モジュールを活用したメガソーラーサイトを請け負い、すでに稼働。同じくタイのSSP社でも今年1月にメガソーラーサイトを完工し、そのほかにもいくつかのEPC案件が発生しているという。
同社によると、現在、EPCに関しては、タイ国内で約640MW、タイ国外で約218MWの商談案件があるという。
「EPCでは、保守やメンテナンス事業にも乗り出している。この実績をもとに、今年4月からは、地元法人に増資し、Sharp Solar Solution Asia(SSSA)をタイに設立。営業力の強化とともに、EPCによる一括請負事業の拡大に向けた布石を打ちたい」とした。
ディーゼル発電機との連動提案も
海外ソリューション事業として、同社が取り組んでいるもうひとつの事例が、既設のディーゼル発電機に後付けで設置する太陽光発電システムの提案だ。
インドネシアをはじめとする東南アジア地域では、エネルギーをディーゼル発電に頼るケースが多い。だが、シャープが提案する「PV-Diesel Hybrid System」では、ハイブリッド化することで天気の状況などにあわせて、太陽光発電とディーゼル発電を使い分け、ディーゼル燃料の消費量削減を可能にするという。
「インドネシアの炭坑において、生産設備などの電力を補うといった例が出ている。また、バナナ農園でも、バナナを貯蔵する業務用冷蔵庫用電力などを補う目的で導入が検討されている」という。
さらに、ソリューション提案として取り組むのが、PV-T(サーマル)システムだ。
太陽電池モジュールの発電に加えて、屋根周辺の集熱によるダブル効果を狙ったもので、表面には高効率の太陽電池モジュールを配置。裏面には集熱モジュールを配置することで、電気と熱エネルギーを効率よく取り出すことができる。
2013年2月から英国の一般家庭において、試験システムを設置。生活するために十分な給湯や暖房機能を提供することの実証に成功したという。
「電気温水器に比べてランニングコストは約30%削減でき、ガスボイラーシステムと比較しても約60%のエネルギー消費量を削減できた。経済メリットがあることも実証されている」とする。
向井氏は、「これらのソリューションのほかにも、将来に向けては家まるごとシステムや、蓄電池により電力コストを削減するデマンドレスポンスシステムなど、様々な提案を行なっていきたい」と述べた。
ソリューション提案が勝利の方程式
このように、シャープのソーラー事業は、セルやモジュールといったハードウェアだけでなく、ソリューションを加えて提案していくのが基本姿勢になる。それがソーラー事業における勝利の方程式だと考えるからだ。
向井常務執行役員は、「ソーラー事業が、シャープ再建のひとつの柱になる」と位置づけたが、その理由については、次のように語る。
「新エネルギー市場は80兆円を超える規模が見込まれ、生活をよりよくするためにも、エネルギー分野におけるソリューションが必要になる。今後、大きな成長が見込まれる市場において、シャープのエネルギーソリューションが数値として貢献し、シャープの新たな成長を描くことになる」
やはり、ソーラー事業の収益改善と安定化には、ソリューションが重要な鍵を握るのは確かだ。
シャープのソーラー事業は、2013年度には黒字化したものの、ここ数年は、慢性的な赤字に陥っている。これは多くの人に共通した、シャープのソーラー事業に対するイメージとなっている。そして、ソーラーシステムの導入支援制度や、電力買い取り制度といった外部の影響を受けて、業績が大きく変化してきたのもこの事業の特徴である。もちろん、海外での生産を拡大したことによる円安影響も、マイナスの外部要因として見逃せない。
「集中と集約を図り、物流コスト、管理コストもかなり削減できた。円安が続いても対応できるコスト力を実現している」と向井氏は語り、外部影響の縮小化を図っていることを示す。しかし依然として、市場動向が制度変更などによる外部要因に大きく影響を受ける点は変わりそうもない。
今回、向井氏が事業説明において強気な姿勢で発した「黒字化」、そして「再建の柱」という言葉が現実のものになるために与えられた時間は少ない。
まずは、ソーラー事業が2015年度に黒字化に向けて、スタートダッシュを切れるのかが、シャープのソーラー事業復活に向けた最初の判断材料になる。