大河原克行の白物家電 業界展望

日立が“新しい家電”をスタート。「ハロー! ハピネス」に込めた思いとは

 日立アプライアンスは、家電の新コンセプトとして「ひとりひとりに寄り添い、暮らしをデザインする」を掲げるとともに、家電製品の新しい宣伝キャンペーンワードに「ハロー! ハピネス」を採用し、2月から新たなキャンペーンを開始した。

 過去8年間に渡る「エコにたし算」のメッセージは、機能軸からの訴求であったが、「ハロー! ハピネス」では、生活シーンを軸にした、家電が生み出す新たな価値の訴求が中心になる。そして、新たなコンセプトにあわせた新製品3機種を投入。今後、ラインアップを拡大することになる。

 「日立の新しい家電がはじまる」と語る、日立製作所 生活・エコシステム事業統括本部長の中村 晃一郎氏と、日立アプライアンス 取締役社長の徳永 俊昭氏、そして日立アプライアンス 執行役員の漆原 篤彦氏に、日立の新たな家電事業の方向性について聞いた。

家電製品のキャンペーンワードとして「ハロー! ハピネス」を新たに採用

家電とサービスを結びつけて新たなスマートライフを創造する


――日立は、2017年秋の段階で「360°ハピネス」というスローガンを打ち出ました。そして今回、家電の新コンセプト「ひとりひとりに寄り添い、暮らしをデザインする」を掲げるとともに、新宣伝キャンペーン「ハロー! ハピネス」をスタートし、いよいよエンドユーザーに対するメッセージを開始することになりました。改めてこの狙いを聞かせてください。

中村:ひとことでいえば、「日立の新しい家電が始まります」という意味を込めています。日立は過去8年間に渡り、「エコにたし算」を、家電のメッセージとし、当社の家電の方向性や狙い、特徴などをお客様にお伝えしてきました。しかし、人生100年時代を迎え、暮らし方や年齢、健康状態などによって、人々のライフシーンが多様化し、単に、家電製品をハードウェアとして提供するだけでは、提供できる価値に限界が生じてきたといえます。かつての家電は、家事の負担を減らして、便利にすることが最大の目的でしたし、昨今では、暮らしの豊かさや、生活にゆとりをもたらすといった役割も果たしています。しかし、これからの家電の役割を考えると、家電とサービスが結びつくことによって、新たなスマートライフを創造することが大切な要素になってきます。お客様の様々な生活シーンや、ライフスタイルのなかで、最適な家電を届けていく。日立の家電を持っていれば、自分の暮らしに期待が持てる、あるいはプラスになると思える環境を提供したい。そうした思いを込めたのが、新たなコンセプトであり、新たなキャンペーンメッセージです。

日立は、2017年秋の段階で「360°ハピネス」というスローガンを打ち出した
新宣伝キャンペーン「ハロー! ハピネス」をスタートした

中村:まずは、新コンセプトの第1弾製品として、2月下旬に、大容量冷蔵庫「真空チルド R-HW60J」と、コネクテッド家電のロボットクリーナー「minimaru RV-EX20」、IHクッキングヒーター「火加減マイスター HT-L350KTWF」を投入します。

 これらの製品は、ハードウェアの提供だけに終わるのではなく、これから先、どんなサービスと組み合わせるのかを考えていくことになります。家電とサービスの組み合わせが具体的になってくれば、お客様にも、「日立の家電はそういうことをやってくれるのか」ということを理解していただけると思います。今後も具体的な製品を通じて、なぜその製品を作ったのか、生活シーンのどこに「嬉しさ」や「幸せ」があるのか、ということをお客様に伝え、これを積み重ねていくことが大事だと思っています。

日立製作所 生活・エコシステム事業統括本部長の中村 晃一郎氏
大容量冷蔵庫「真空チルド R-HW60J」
ロボットクリーナー「minimaru RV-EX20」
IHクッキングヒーター「火加減マイスター HT-L350KTWF」


――新たなキャンペーンを開始するにあたり、どんなところに力を入れますか。

中村:最も大切なのは、我々の提案していることが、しっかりとお客様にフィットする提案になるかどうかです。たとえばワーキングマザーといっても、ワーキングマザーひとりひとりの生活の仕方は大きく異なります。それでも、多くの人たちが、「今度、日立から発売された冷蔵庫は、私のことを考えて作ってくれた冷蔵庫だ」と思ってもらえるかどうかが大切です。私たちが考えていることを、実感として、お客様に受け止めていただけるかどうか。これは私たちが、「360°ハピネス」を打ち出す上で重視していかなくてはらない点だといえます。


――新コンセプトに基づいた製品、サービスの準備はどれぐらい進んでいるのでしょうか。

徳永:製品という点では、第1弾として、3機種の家電製品を発表しましたが、2018年度中には、さらに2、3機種の投入を予定しています。その後の「弾込め」という点でも準備は順調に進んでいます。一方で、サービスという切り口では、2つのハードルがあります。ひとつは、日立の家電をタッチポイントとしたサービスを実現するために、エコシステムを構築するという点です。いま、2、3社のパートナーと話し合いを進めていますが、これを具体的なサービスとして提供するための準備が必要です。もうひとつのハードルは、仮にサービス開始の準備が整ったとしても、それがマネタイズできるサービスにできるかという点です。これは、お客様に対して、しっかりと価値を提供できるかどうかということの裏返しでもあります。

 これまで日立は「IoT家電」という名称で、いくつかのサービスを展開してきた経緯があります。しかし、いずれも、マネタイズまで行き着いていません。言い換えれば、お客様にしっかりと価値をお届けできていなかったという反省があります。

 いま、数社とPoC(コンセプトの検証)をやっていますが、お客様に対する価値を生みそうだ、という点での手応えはあります。ただ、それが果たして受け入れられるかどうかという点では、まだそこまでの確証が得られていないというのが正直なところです。なんとか2018年度中には、サービスとして提供し、お客様にそれを見ていただくというところまで持って行きたいですね。

中村:私自身も、スモールスタートでもいいので、2018年度中には、なんとか新たなサービスを開始したという強い思いがあります。


――新たなコンセプトの具体的な取り組みとして、3つのポイントを掲げました。「お客様の視点での商品開発をさらに強化」と「毎日の暮らしを彩るデザイン価値の創造」、「デジタル技術の活用により新たな価値を提供」です。それぞれの取り組みについてお伺いしたいと思います。まず、「お客様の視点での商品開発をさらに強化」では、顧客の声を吸い上げる活動を加速し、商品やサービスに反映させることを挙げています。これまでにも日立はその点では力を注いできたと思います。従来からやってきたことと、なにが違うのでしょうか。

徳永:確かに、これまでにも国内に設置した生活ソフト開発センターを通じて、お客様の声を収集し、モノづくりに反映する活動は行なってきました。さらに2017年4月には、タイにグローバル商品開発センターを開設し、2017年10月にはVoC(Voice of Consumer)センターを設立しました。2018年2月からは、外部機関との共同研究を行なう生活マーケティング機能の強化を進めます。

 ご指摘のように、これまでも、お客様の声を収集することに力を注いできました。しかし、振り返ってみますと、その結果をアウトプットするときに、最大公約数的な製品企画に落とし込むことが多かったといえます。この機能があれば、大きな母集団に刺さる提案ができるだろうという考え方で製品企画を行ない、開発をしてきました。しかし、もしかしたら、最大公約数の外側に非常に重要なお客様の声があったのではないかということにも気がつきました。お客様の声をどう活用するのか、どう捉えていくのかという点での基本姿勢は変わりません。

 だが、これからはお客様に寄り添う製品企画を行なうなかで、いままで価値をお届けできなかったお客様に対しても、価値をお届けするといったように考え方を変えていく必要があると思っています。それを実現する回答のひとつが、インターネットやスマホと接続したコネクテッド家電です。この仕組みを活用すれば、これまでは生かし切れていなかったお客様の声を、生かせるかもしれない。それが、これからの変化になります。

中村:これまでにも、お客様の声は数多く集めていましたし、とくに、家電利用の中心となる主婦の声を重視して、製品開発をしてきました。こうした声に対する解決策として「機能」を開発し、それを「エコにたし算」という形で、機能の高さや利便性を訴求してきたのが、日立のこれまでのやり方です。

 しかし、これからは、まずは、お客様の生活シーンでこうした嬉しいことが実現できること、それはこの機能があるからだという形で、訴求していきたいと考えています。言い方を変えれば、これまでにもお客様の声は集めてきましたが、それをお客様にどう返していくかという「返し方」を変えていこうというわけです。また、声の集め方も変え、サービス部門や営業部門、店舗からあがってくるお客様の声も有機的に結びつけていく考えです。昨年秋に新設したVoCセンターは、それをやるための組織ということになります。

徳永:実は、この取り組みは、すでに成果としてあがりつつあります。今回発売した冷蔵庫も、お客様の声を集めていますが、かつては、「真空チルドがあります」といったように機能の訴求が中心となっていました。しかし、お客様は、真空チルドの機能が欲しいわけではなく、自分の生活の課題を解決したいと思って、我々に要望を伝えているわけです。それに対して、日立は、こうやって解決できるというように訴求の仕方を変えていきます。

 つまり、生活シーンで発生する「この課題」を、「この技術」で日立は解決できますという伝え方をすると、お客様にもっと響くのではないかと考えています。そうすれば、お客様が、「実は、それを解決して欲しかったんだ」と、自分のこととして捉えていただけると思っています。今回の冷蔵庫のカタログを見ていただくとわかるのですが、自分の生活課題はこれだということを感じたり、認識してもらえたりする伝え方にこだわりました。

愛着が湧くような家電を目指したい


――2つめの「毎日の暮らしを彩るデザイン価値の創造」では、高品質デザインの採用をあげました。

徳永:「エコにたし算」で機能性を前面に打ち出してきたことで、当社のプレミアム商品は市場から認知され、その機能があるから日立の家電を購入したいという声も数多くいただいています。しかし、残念ながら、デザインがいいから日立の家電を購入するという声はあまり聞かれません。今後は、外部デザイナーとのコラボレーションを実施し、「シンプルだけど、思わず触りたくなる(Less but seductive)」というデザインを採用していきたい。日立の家電は華美ではないけれど、生活に馴染んで自分のそばに置いておきたくなる、といった価値を提供したいと考えています。愛着が湧くような家電を目指したいですね。


――基本となるデザインはあるのですか。

徳永:我々が目指すデザインの根源となる「デザイン言語」を、著名な国内外のデザイナーとともに策定することにより、それを幹に位置づけ、社内デザイナーなどが、幹を踏まえた形で、冷蔵庫、洗濯機、掃除機といった白物家電に適合させていく形になります。いま、その幹となる部分を作り上げる作業を進めているところです。デザイナーと共有しているのが、先ほどお話をした「Less but seductive」という言葉です。これは、日立が目指す家電とは、そばに置いておきたいものだということを込めた言葉であり、それを共通認識としてデザイン言語を策定しています。

日立アプライアンス 取締役社長の徳永 俊昭氏


――過去の日立の家電のなかで、この言葉に近いデザインの製品はありますか。

徳永:かつて、日立は、国内メーカーとして初めて、冷蔵庫にガラス扉を採用しました。いまから振り返ってみると、これは、「Less but seductive」の考え方に基づいたデザインであったといえます。当然、当時はそんな言い方はしていませんでしたが、シンプルだけど側に置いておきたいというデザインが実現できていたと考えています。ガラス扉によって、華美ではないが質感の高さを持った冷蔵庫が実現できたといえます。


――新たなデザインはいつから採用することになりますか。

漆原:実は、国内の著名なデザイナーとは、すでに共同で商品づくりに取り組んでいます。今年夏以降に発表する国内向け商品の一部に採用していくことができます。また海外のデザイナーとは、デザイン言語の策定に向けて、形、色、仕上げ、質感などを検討しているところです。これはデザイン言語といえるものが完全に出来上がってから採用するのではなく、途中段階でもどんどん採用していく形で進めます。

 今回発表した冷蔵庫は、デザイナーとコラボレーションをしたものではありませんが、色彩のアドバイスなどをいただきながら一緒に進めました。従来は冷蔵庫の一部分に目立つような色を使うといったこともありましたが、それを排除し、触る部分にはちょっとしたポイントを採用したり、色についてもインテリアをイメージしたり、流行色であるグレイを取り入れたりしています。

家電の動きをソフトウェアで変えることで、ユーザーのライフスタイルに寄り添える


――3つめの「デジタル技術の活用により新たな価値を提供」としては、コネクテッド家電の投入を挙げました。ただ、これは家電各社が取り組んでいる領域です。日立のコネクテッド家電は、他社とどこが異なるのですか。

徳永:これは、我々も常に自問自答をしながら、進めている部分です。これに関しては、2つの観点からお話ができます。ひとつは、コネクテッドになったことで、家のなかで、そのメリットをどう還元できるかという点です。家電は、購入してから長期間に渡ってお使いいただく製品です。その間、家族が増えたり、減ったり、もしかしたら生活パターンが昼夜逆転するといった極端なライフスタイルの変化があるかもしれません。そうしたイベント発生時に日立の家電を使っていると、生活によりフィットするような利便性や機能を、ソフトウェアで提供できるという環境を作っていきたいですね。

 これが、「ソフトウェア・デファインド・コンセプト」という考え方であり、最新のソフトウェアをダウンロードすることで使い勝手や機能性を向上させることになります。たとえば、いまの洗濯機は節水に振り切った形で省エネを追求していますが、なかには、もう少し水を使ってもいいし、時間が少しかかってもいいから、子供の衣類の泥汚れをしっかりと落としたいというニーズがありますよね。このときに、ソフトウェアを使って、泥汚れ専用モードを用意し、泥汚れ専用といえる洗い方をするといった提案もできるわけです。家電の動きをソフトウェアで変えることによって、お客様のライフスタイルに寄り添えると考えています。現時点では、すぐその状態まで行けるわけではないのですが、まずは第1段階として、ネットにつながることで、その素地ができたと考えています。

漆原:日立は、昨年の時点で、Amazon Alexaに対応しましたが、家電は一度、新商品として発表すると、そのあとに、機能が進化しましたという発表は基本的にはありませんでした。しかし、日立が発売しているロボット掃除機とオーブンレンジは、クラウド上のソフトウェアをアップデートすることで音声サービスに対応できます。今後、「新たな機能が追加されました」ということをどんどんお知らせできると思います。

徳永:もうひとつのポイントは、日立グループの広範なビジネス領域を生かせる点が、他社との大きな違いだといえます。言い換えれば、家の中でだけ価値を提供するのではなく、自分が移動する場合にもコネクテッド家電が役立ったり、オフィスで仕事をする場合にも役立ったりということが提案できます。日立は、都市生活全体をカバーするような幅広い事業領域があり、これらのデータをつなぐことで新たな価値を提供できます。そのセンシングデバイスのひとつとして、家電を位置づけられると考えています。

コネクテッド家電が社会インフラとつながっていくフェーズを目指す


――日立のコネクテッド家電が、日立の広範なビジネスとつながるという点では、具体的にはどんな活用がありますか。

徳永:たとえば朝起きて、これからオフィスに移動するといった場合に、家の電気を消し始めたことを、日立が提供するIoTプラットフォームであるLumada上のデータに基づいてAIが判断し、クルマのエンジンをかけて、車内のエアコンを最適なものにしておくという制御が自動的に行なわれます。

 また、クルマのなかで、ナビをセットした際に、その近くに駐車場が少ないということが事前にわかれば、データ同士が連携して、駐車場を事前に予約して確保するといったことができるわけです。そこから先も、家とクルマ、街がつながったサービスをいくつも提供できます。このように、家から街までのデータをつなげることで、スマートな社会を実現する一助に、コネクテッド家電が使われるわけです。日立は、家電の各製品カテゴリーで必ずコネクテッド家電を用意し、コネクテッド家電を軸にしたラインアップを進めることを前提にしています。

社会インフラと繋がっていくコネクテッド家電を目指す


――家や街において、あらゆる年齢や地域の人々のQOL(Quality of Life)を向上する「360°ハピネス」を実現するために、日立は今後、どんな段階を踏んでいくのでしょうか。これは、いくつかのフェーズに分けることができるのでしょうか。

中村:現時点で、詳細なタイムスケジュールがあるわけではありません。ただ、2020年というひとつのターゲットのなかで、コネクテッド家電が進化を遂げ、サービスがたし算され、ひとつの価値を生み出すことを現実のものにしたいと考えています。

 日立は、注力4分野として、「電力・エネルギー」、「産業・流通・水」、「アーバン」、「金融・公共・ヘルスケア」を掲げており、家電事業を行なう生活・エコシステムは、「アーバン」のなかに含まれます。Society 5.0による超スマート社会に向けて、家電が家庭内のセンシングデバイスになり、日立が持つ各事業とのシナジーを生んでいくということは、2、3年で形になるものではなく、もう少しかかるかもしれません。

 日立のビジネスユニットと組んでやっていくということのほかに、他社との深い共創を進める必要もあるでしょう。これらの取り組みによって、家の中だけでなく、家の外とも連携することになります。そのためには、まずは我々がやることをもっと先鋭化しなくてはいけないと思っています。

徳永:時期という観点から、フェーズを明確に設定できていないのには理由があります。それは、世の中の進化がどうなるのかが明確に見えないからです。たとえば、家の中の話であれば、日立アプライアンスや日立コンシューマ・マーケティングだけでコントロールしやすい範囲にあります。これは、まずはきっちりとやっていきます。ここをフェーズ1と表現できるかもしれません。しかし、家の外になった途端に、日立だけでなく様々な企業との連携が必要になります。日立の各ビジネスユニットと連携するということだけでは、生活者に価値を提供することが難しくなり、提供できたとしても、部分的なものに留まってしまうでしょう。

 2020年には、自動運転も始まると見られていますし、それを活用して地域にコミュニティバスを自動で走らせるということが始まるかもしれません。そうした社会の変化に対しても、Lumadaで日立の家電と結ぶことで、さらなる価値を提供できることになるでしょう。このように、コネクテッド家電をタッチポイントに新たなサービス事業の立ち上げに取り組むというところが、フェーズ2と呼べるかもしれません。

 そして、社会全体と日立の家電が結びついて、様々なサービスを提供できるという時代は、社会インフラとして、CPS(サイバー・フィジカル・システム=実世界にある多彩な情報をサイバー空間で解析し社会的な課題を解決していく仕組み)がどの程度整備されるかにも影響されることになります。これをフェーズ3とすれば、まだその時期が見えません。ただ、そこに向けて加速度的に社会インフラが整備されていくことは明らかで、日立のコネクテッド家電の活用の広がりがますます増えていくことになるでしょう。明確な時期の設定はしてませんが、このような観点から、日立のコネクテッド家電は進化し、「360°ハピネス」を実現していくことになります。

ハードウェアとサービスとを組み合わせたビジネスをスタートする


――これまでの「エコにたし算」のメッセージは、8年間続きました。「ハロー! ハピネス」は何年ぐらいを想定したメッセージですか?

徳永:何年ぐらい持たせたい、というような想定があるわけではありません。ただ、今回の「ハロー! ハピネス」のメッセージを決めるにあたっては、日立の白物家電事業が永続的に発展していくために、普遍的なところに差し込んでいこうという狙いがありました。

 日立の家電事業は、「Human Centric SIB(ヒューマン セントリック ソーシャル イノベーション)」という言葉を使い、人の生活の課題を解決することを事業の目的に定義しました。人がいる限り、家電はなくなりません。つまり、家電事業で「Human Centric SIB」を定義したからには、人に寄り添わなくてはなりません。寄り添うことで、課題を解決することができるというわけです。我々の事業も、お客様にメリットを提供することで、永続的に続くと考えています。それを示したのが、「ハロー! ハピネス」。ですから、このメッセージは、「エコにたし算」を超えるほど、長く続くことを願っています。


――最初の1年において、新たな取り組みが合格点に達する条件はなんでしょうか。

中村:事業ですから、当然、業績の観点から、一定の成果をあげることが求められます。そして、「日立は、今日から家電を変えます」と宣言したわけですから、お客様にもその変化を感じていただかなくてはなりません。日立が家電メーカーとして存在し続けることで、生活を高めてくれるというメッセージが届き、それをお客様からもしっかりと評価してもらえることが大切だと思っています。

 「日立の家電が変わってきた。それが私たち利用者にとっていい方向に変わってきた」という声が聞かれるようになりたいですね。これまで100年間、ハードウェアだけでビジネスをやってきた日立の家電事業が、サービスとの組み合わせにおいても、しっかりとビジネスをスタートでき、最初はスモールだが、マネタイズされているという世界を、2018年度中に作り上げることができるかが、今後の進化において、重要な試金石になると考えています。

徳永:定量的な評価という部分では、やはり業績になります。ただ、業績の結果というのは、お客様に価値を提供できたことの「総和」であるといえます。ですから目標にした業績を達成することは、価値を提供できたかどうかという意味に置きかえることができます。

 一方で定性的な部分でいえば、日立の商品を選んでいただくお客様が、その理由として、「この機能がついているから」ではなく、「日立の家電は、私の生活をこんな風に変えてくれる」とか、「こんな生活の課題を、こんな風に解決してくれた」といった形に変わり、それが増えていったとしたら、1年目としては、合格点に達したといえるでしょう。

一方で、社内の変化も重要な要素だと思っています。今までは、たくさんの数を売ることを目標にしたり、この機能があるから日立の家電を購入してください、という作り方や売り方をしていましたが、お客様のこうした課題を解決できる、あるいはこの課題を解決するために、この機能をつけた、というものが社内からどんどん出てきたら、内部が大きく変化したサインだといえます。

 社内の人材が、お客様のどのシーンに寄り添って、どのペインポイントを解決するかということを考えるようになり、そうした考え方や仕事の仕方へとトランスフォーメーションさせたいですね。お客様の価値を考えたり、お客様が利用する具体的なシーンを想定したりといった発言や行動ができるようになることが大切です。これによって、日立の家電が大きく変わったということを、社内的にも認識できるようになります。


――ちなみに、日立製作所の東原敏昭社長からはなにかいわれていますか(笑)

中村:もちろん、業績をよくするようには言われていますが(笑)、「Human Centric SIB(ヒューマンセントリックソーシャルイノベーション)」を打ち出した日立の家電事業こそが、生活に一番近いところでビジネスを行なう組織ですから、そこでバリューを発揮し、日立全体で取り組む社会イノベーション事業に貢献することが求められています。その期待に応えるように、日立の家電事業を変えていきたいですね。

大河原 克行