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高級シェーバー「ラムダッシュ」を作り上げる、匠の集団とロボット
by 河原塚 英信(2015/10/22 07:00)
パナソニックは、同社の高級シェーバー「ラムダッシュ」を製造している彦根工場をプレス向けに公開した。最上位機「ES-LV9A」をはじめとする同シリーズを製造。その生産台数は、月産15~20万台に及ぶという。
そのラムダッシュシリーズの特徴の1つが、駆動部にリニアモーターを搭載していること。これにより、内刃を高速に駆動させることを実現。5枚/4枚刃モデルでは、約14,000ストローク/分の高速駆動を可能にしている。
工場内に設けられた説明会場には、第1世代の「ES881」から、第12世代となる現行最上位機「ES-LV9A」までがズラリと並べられていた。
リニアモーターと合わせて、高速駆動を可能にしているのは、外刃と内刃に採用した「安来鋼」。島根県安来市で作られた鋼は、しなやかで強く耐久性に優れているという。これを日本刀と同じく「叩く、焼く、研ぐ」という製法を通して鍛えあげ、製品パーツとして使用しているのだ。
ラムダッシュのキモである"刃"の製造工程
今回の工場公開では、1枚のステンレスの板が、徐々にシェーバーの内刃と外刃に仕上げられていく工程を主に見てきた。
シェーバーに取り付けられるヘッドには、シェービングの滑らかさを決定づける細かな刃(穴)が付けられている。均一に付けられた刃の製造には、元となる金型が必要。その1つの金型を作るのに、20~30年の鍛錬を積んだ職人が、3カ月かかるという。
匠の目によって刃を1枚ずつ高速チェック
プレスされた外刃は、歪みなどがないかを高速でチェックしていく。ユーザーの肌に直接触れるパーツだけに、少しの異常でも見逃してはいけない。そのため多くの工程が自動化されるなか、この検査工程だけは自動化できないという。
その検査速度は、1分間に約100枚。流れてくる刃のプレートを手袋をはめた手によって微妙に速度調整し、1枚あたり1,300個の穴を、匠の目が厳しくチェックする。
オートメーション化が進む製造工程
金型製作や外刃の検査、最終組立てラインなど、人の手と目によって進む工程が残るものの、作業工程のほとんどは自動化されていると言える。また、自動化されるだけでなく、複数工程を1つの機械で行なうなど、効率化も進んでいる。
例えばプレス機から出てきた内刃は、作る前のプラモデルのように複数枚の刃が1枚の板でつながっている状態。これを1つ1つに分離し、焼入れ、曲げる、という工程を一貫して行なっていた。
また、シェーバーのヘッド部に搭載するリニアモーターの組立てについては、そのほとんどを自動化。組立てられたモーターを、さらに別のラインのロボット群がリード線を絡げ、カメラを使って検査して完成させていく。
匠の技能とロボットが精度の高い高級シェーバーを作り出す
ここまで見てきた彦根工場でも、自動化による生産が主流となっていた。例えばモーターの製造工程では、75%が自動化されている。だが、最終的な製品の品質を決めるのは、人の技能であるという。
中でも「金型製造」「樹脂成型」「開孔検査」の3つは、ロボットでは代替できない代表的な工程として挙げられる。金型製造では1,000分の1mm単位で正確に加工する技が、極薄の樹脂部品を作る成型技術が、1分間に約100枚の外刃をチェックする目が求められるのだ。
その他、繊細な日本人にしかできない高品質な技能が、高級シェーバー「ラムダッシュ」の製造を支えている。そして、これこそが、同社が日本生産にこだわる理由だという。