そこが知りたい家電の新技術

高級シェーバー「ラムダッシュ」を作り上げる、匠の集団とロボット

ラムダッシュを生産するパナソニック アプライアンス社の彦根工場

 パナソニックは、同社の高級シェーバー「ラムダッシュ」を製造している彦根工場をプレス向けに公開した。最上位機「ES-LV9A」をはじめとする同シリーズを製造。その生産台数は、月産15~20万台に及ぶという。

 そのラムダッシュシリーズの特徴の1つが、駆動部にリニアモーターを搭載していること。これにより、内刃を高速に駆動させることを実現。5枚/4枚刃モデルでは、約14,000ストローク/分の高速駆動を可能にしている。

 工場内に設けられた説明会場には、第1世代の「ES881」から、第12世代となる現行最上位機「ES-LV9A」までがズラリと並べられていた。

工場内にはラムダッシュの歴代モデルが並ぶ。手前が12,000ストローク/分で駆動させた第1世代の「ES881」
第12世代にあたる「ES-LV9A」は、約14,000ストローク/分で駆動(233ストローク/秒)
歴代ラムダッシュと、小型化と高速化されてきた搭載モーター
最新モデル「ES-LV9A」は、数多くのパーツで構成されている

 リニアモーターと合わせて、高速駆動を可能にしているのは、外刃と内刃に採用した「安来鋼」。島根県安来市で作られた鋼は、しなやかで強く耐久性に優れているという。これを日本刀と同じく「叩く、焼く、研ぐ」という製法を通して鍛えあげ、製品パーツとして使用しているのだ。

ラムダッシュのキモである"刃"の製造工程

 今回の工場公開では、1枚のステンレスの板が、徐々にシェーバーの内刃と外刃に仕上げられていく工程を主に見てきた。

外刃が出来るまでの工程表
素材のステンレス刃物鋼(外刃)
外刃のパターンを、素材の板にプレス加工していく工程(外刃鍛造圧印工程)
圧印工程で使用する、精巧に作られた金型。この金型を1つ製作するのに、3カ月掛かるという
プレス後の板を顕微鏡で覗かせてもらった
均等な形と厚さでパターンが付いているのが分かる

 シェーバーに取り付けられるヘッドには、シェービングの滑らかさを決定づける細かな刃(穴)が付けられている。均一に付けられた刃の製造には、元となる金型が必要。その1つの金型を作るのに、20~30年の鍛錬を積んだ職人が、3カ月かかるという。

内刃が出来るまでの工程表
外刃のプレス機の隣では、内刃の鍛造工程が行なわれていた
幅0.3mmの桟26本の打ち抜きと、鋭角30度のエッジ鍛造を1つの金型で加工していく(一体内刃鍛造工程)
1枚の板が、内刃の形へと変わっていく(写真左が内刃。写真右が外刃)
研削された刃
曲げられた内刃(右)と外刃(左)

匠の目によって刃を1枚ずつ高速チェック

1分間に約100枚の刃を、1枚1枚人の目によって検査していく

 プレスされた外刃は、歪みなどがないかを高速でチェックしていく。ユーザーの肌に直接触れるパーツだけに、少しの異常でも見逃してはいけない。そのため多くの工程が自動化されるなか、この検査工程だけは自動化できないという。

 その検査速度は、1分間に約100枚。流れてくる刃のプレートを手袋をはめた手によって微妙に速度調整し、1枚あたり1,300個の穴を、匠の目が厳しくチェックする。

オートメーション化が進む製造工程

 金型製作や外刃の検査、最終組立てラインなど、人の手と目によって進む工程が残るものの、作業工程のほとんどは自動化されていると言える。また、自動化されるだけでなく、複数工程を1つの機械で行なうなど、効率化も進んでいる。

 例えばプレス機から出てきた内刃は、作る前のプラモデルのように複数枚の刃が1枚の板でつながっている状態。これを1つ1つに分離し、焼入れ、曲げる、という工程を一貫して行なっていた。

左側から分離された刃が焼入れ、曲げられながら右側に移動していく
高周波焼入れ。真っ赤に熱せられた刃が出てくる

 また、シェーバーのヘッド部に搭載するリニアモーターの組立てについては、そのほとんどを自動化。組立てられたモーターを、さらに別のラインのロボット群がリード線を絡げ、カメラを使って検査して完成させていく。

リニアモーターの組立工程
見学時は組立てていなかったが、ここでモーターが組立てられていく
リニアモーターにリード線を絡げて、ケースに収める組立工程
ロボットがリード線を絡げていく様子

集められたパーツが組立てられてラムダッシュが完成

 別々に作られてきた内刃と外刃、リニアモーターを搭載したヘッド部、蓄電池などは、集められて最終的に人の手によって組立てられていく。

次々と製品が完成していく組立てライン
手作業で一つ一つの製品が組み上げられていく
組立てと同時に検査も行なわれる
本体が完成

匠の技能とロボットが精度の高い高級シェーバーを作り出す

 ここまで見てきた彦根工場でも、自動化による生産が主流となっていた。例えばモーターの製造工程では、75%が自動化されている。だが、最終的な製品の品質を決めるのは、人の技能であるという。

 中でも「金型製造」「樹脂成型」「開孔検査」の3つは、ロボットでは代替できない代表的な工程として挙げられる。金型製造では1,000分の1mm単位で正確に加工する技が、極薄の樹脂部品を作る成型技術が、1分間に約100枚の外刃をチェックする目が求められるのだ。

 その他、繊細な日本人にしかできない高品質な技能が、高級シェーバー「ラムダッシュ」の製造を支えている。そして、これこそが、同社が日本生産にこだわる理由だという。

見学した彦根工場の概要
高品質な技能が、精度の高さを担保する

河原塚 英信