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陶器のようなクラフト感をエアコンに。感性に響く「ノクリア Z」デザインと機能性の狙いを聞いた
2021年4月16日 08:00
昨年春、エアコンの在り方に一石を投じる新コンセプトのエアコンを発売して話題となった富士通ゼネラル。従来の「エアコンといえば、プラスチック素材の白い箱」というイメージを覆し、ファブリック(布地)調の質感を備えた「nocria(ノクリア)」SVシリーズを発売した。それからおよそ1年が経ち、さらに高機能な新モデル「Zシリーズ」が4月3日に発売。果たして今度はどんな趣向のデザインなのか、さっそく富士通ゼネラル本社を訪れ、開発担当者から話を聞いてきた。
SVシリーズに込められた“感性価値”
昨年発売されたSVシリーズは、横幅698mmと業界最小サイズのエアコンで、ノクリアで初めて室内機にファブリック(布地)調デザインを採用した。開発当時の思いを、デザインを担当した稲垣 恵理氏は次のように語っている。
「エアコンは部屋の目立つところに設置されるので、本来は家具同様、機能だけでなくデザインも重視すべきプロダクトのはず。ですが実際はプラスチック感がむき出しで、インテリアの中では異質な存在でした。しかし今は機能だけでなく“感性価値”が求められる時代です。エアコンも感性に響き、インテリアに心地よく調和する存在であるべきだと考えました」。
こうして生まれたのが、やわらかい風合いを感じさせるファブリック(布地)調の質感を備えたSVシリーズだ。プラスチックを感じさせない質感となめらかで美しいフォルムが「今までの室内機とは一線を画している」として注目された。
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実際に販売したところ、「明らかな手応えがありました」と話すのは、商品企画を担当する平 律志氏。「今までエアコンは、機能や価格で選ばれることが多かったのですが、今回は“デザインが決め手”という声が多く聞かれました。購入の動機としては今まで、ほとんど聞かれなかったものです」。店頭でも、エアコン本体をじっくり眺めたり触ったりする人が多かったそうで、「布のように見えるけど、実際は何でできているんだろう? と思われたのでしょう(笑)。 改めて、エアコンにも質感やデザインが求められていたと確信しました」(平氏)。
そこで同社は、この質感にこだわったエアコンを「クラフトデザインシリーズ」と位置づけ、デザインの訴求にいっそう力を入れることに。そして次に着手したのが、ノクリアのハイエンドモデルに次ぐ上位モデル「Zシリーズ」。4月3日から発売された。
日本の感性に寄り添う「クラフトデザインシリーズ」
クラフトデザインシリーズのコンセプトは、エアコンのあるべき姿を模索する中で生まれたという。「エアコンは居心地のいい空間を構成するインテリアアイテムであり、丁寧な暮らしを大事にされるお客様に寄り添うものですから、つつましく映え、飽きのこないデザインが大切だと考えました」(稲垣氏)。クラフトデザインというシリーズ名は、気持ちを込めてつくられたもののぬくもりや愛着を感じてほしい、との思いからつけられたという。
それでは具体的に、使う人に寄り添い、飽きのこないデザインとはどのようなものか。先にデザインを刷新したSVシリーズはサイズや機能的に、寝室や個室などに設置されることが多いことから、ゆったり過ごしたい部屋にフィットする優しい雰囲気としたが、今回着手したZシリーズはリビング空間への設置がメインとなる。そこで、「お客様を出迎える空間として上質感があり、インテリアを引き立てるデザインになるよう意識した」という。
中でもこだわったのが質感だ。同社は海外にも展開しているため、デザイン部では海外の嗜好調査も行なっているが、そこで「日本人は海外の人に比べ、質感に強いこだわりを持っている傾向がある」ということに着目。
「日本語には、質感を表現する言葉として、ツルツル、ザラザラ、テカテカ、サラサラなど、非常に多くの擬態語があり、これは外国語には見られない特有の文化です。色や形よりむしろ、素材や天然色の質感を楽しむ……そんな日本人の奥ゆかしい感性に応えるデザインを提供したいと思いました」(稲垣氏)。
そこでインテリアと調和しつつ、温かみと上質感を表現する質感とはどのようなものかを検討したところ、「日本人は土と触れ合う暮らしをしてきた」というキーコンセプトが浮かんだという。「例えば壁には漆喰や珪藻土が使われますし、陶器などの焼き物も私たちの暮らしの中になじみ深いもの。インテリアとの相性もいいですよね」。
こうして生まれたのが、“素焼きの陶器”をモチーフとした質感だ。もちろん本物の陶器で作るわけにはいかないため、一体成型の中で陶器のような風合いを再現。サラっとしたマット素材には、線の文様が施され、細かな粉が散りばめられている。「よく見ていただくと分かるのですが、線が端のほうが薄く消えかかっていたり、幅が不均一だったり、職人が1つ1つ手作りしたようなクラフト感を表現しています」。
開発には、SVシリーズとは違った苦労があったという。SVシリーズは新たにラインナップするシリーズだったため、コンパクトという制約はあったものの、自由に設計することができた。しかし今回のZシリーズは既存モデルの改良となるため、元からあるものに手を加えて新しいものを生み出すという制約があったという。「あちらをちょっと変え、こちらをちょっと変え……と細かく変えていかなければいけなかったので、大変でしたね(笑)」。
特に試行錯誤したのが、多機能がゆえに大きくなりがちな本体をいかにスッキリ見せるか、ということ。「前面パネルを連続性のある柔らかな一枚板に見える構成にするなど、圧迫感を軽減するデザインを追求しました」。表面にあしらった線の文様にも、上下の高さをスリムに見せる効果があるという。
同社はこうした“感性的な価値”を知的財産にしたいと考え、現在特許出願中だ。また「クラフトデザインシリーズ」は、塗装やメッキなどの二次加工を行なわないことでリサイクルを可能とするなど、サステナブル社会に貢献することを目指したものづくりをしている。
Zシリーズのデザイン性は世界的に評価され、65年以上の歴史を持つ世界三大デザイン賞のひとつ「レッドドットデザイン賞プロダクトデザイン賞2021」を受賞。世界各国の応募の中から選ばれたという。それだけに、部屋に響き合いリビングルームにも品よく溶け込んでくれる。
Xシリーズで好評のダブルAIをZシリーズにも搭載
そのほかZシリーズは、上位モデルならではの高い機能を備えているのも特長。今回、新たに搭載されたのは、フラグシップモデルXシリーズにも搭載されている「ダブルAI」機能だ。エッジ(本体)とクラウドそれぞれにAIを搭載することで、これまでより高精度かつ高速なレスポンス制御が可能になったという。
「2つのAIが連携して学習し、ユーザーが暑さや寒さを感じる前に先回りして温度や気流をコントロールし、快適に保ってくれる機能です。暑さ/寒さの感じ方や、部屋の冷え方/暖まり方、温度ムラなどはユーザーの体感や住環境によって変わってきますが、個々に合わせたオーダーメイド感覚の快適空間を実現します」(平氏)。使えば使うほどAIが学習するので、いずれも設定要らずで常に快適を保ち続けてくれるというわけだ。
空気の清潔さが気になる今だからこそ嬉しい「ノクリア クリーンシステム」も引き続き搭載している。たとえばエアコン内部を清潔に保つ「熱交換器加熱除菌」機能。エアコン内部に発生した水滴で汚れを浮かせて洗い流し、55℃以上に高温加熱し湿熱(しつねつ)効果でカビや細菌を除去して、エアコン内部を清潔に保ってくれる。ただし同機能の運転時は室内温度が上がり、部屋に人がいない時間に稼働するのが理想的なため、ZシリーズではAIが部屋に人がいる時間といない時間を学習したうえで、人がいないと判断した時間に自動で行なってくれるという。
さらに吸い込んだ空気の汚れを取り除き、キレイな空気を吹き出す電気集じん方式の空気清浄機能「プラズマ空清」も搭載。プラズマイオンで微粒子をプラスに帯電させ、マイナスの電極板に強力に吸着させることで、空気中のウイルスの抑制やカビ菌・細菌の除去効果を発揮するという。
「フィルターを使わない電気集じん方式は、エアコンの性能をほとんど悪化させずに空気の汚れを除去できるので、実は当社が長年こだわって搭載し続けている方式なんです」(平氏)。熱交換器加熱除菌で内部の汚れを撒き散らさず、プラズマ空清で室内の汚れを除去する清潔機能も、再注目したい機能だ。
ステイホームの今だからこそ、暮らしになじむデザインを
コロナ禍で在宅時間が増えた今、「ユーザーが求めるものも少しずつ変わってきていると感じる」という稲垣氏。「不安やストレスを感じやすい今、居住空間には安らぎや心の豊かさをもたらす雰囲気が求められています。エアコンも今後、従来の“機械的な冷たさ”より、“自然なあたたかみ”のある外観が重視されていくのではないでしょうか」。
平氏も「エアコンのデザインや質感についてはこれまでも、様々な趣向が取り入れられてきました。特に最近は家電量販店での見栄えを重視していたところもありますが、今後は、このクラフトデザインシリーズのように、暮らしになじむデザインが重視されていくのでは」と分析。これからも“デザインの力”を活かしたものづくりに意欲を見せている。
協力:富士通ゼネラル