難波賢二のe-bikeアラウンド
始めよう、自転車通勤!! クロスバイク? MTB? それともe-bike? 何を選べばいい?
2020年6月23日 07:00
新型コロナウイルスの緊急事態宣言も解除され、「ワクチンも開発されていないのに、また満員電車で通勤するの?」と考える人も多いでしょう。こうした状況で再注目されているのが、クルマやモーターサイクル、そして自転車などのパーソナルモビリティです。
クルマやモーターサイクルは、大都市圏に住んでいると移動時間が読みにくいですし、勤務先での駐車場を用意してもらえるケースは少ないので、現実的な選択肢には入ってきません。そこで「自転車通勤」が再注目されています。実際に自転車通勤がOKになったという企業の話も耳にします。
自転車通勤用にクロスバイクが売れている
自転車メーカー数社の在庫状況を聞いてみると、主要ブランドのエントリークラスのクロスバイクは2020年モデルがほとんど売り切れ中とのこと。10万円前後の、クロスバイクとしては高価格帯モデルの在庫がわずかにあるというのが現状です。その理由としては、春先に中国の自転車部品工場がストップしていたこともあり、メーカー各社はストックパーツで完成車を組み立てていた経緯もあり、出荷台数が限られていたことも影響しているのですが、都心部の自転車販売店の友人に聞いてみても、クロスバイクが飛ぶように売れているのは事実です。
実は、2000年代初頭のIT黎明期の頃に、自転車通勤が大注目されたことがあります。「クロスバイク」という単語も、その当時に誕生した和製英語(英語では自転車用語でcrossといった場合は「シクロクロス」の略を指します)です。自転車通勤について語る前に少しだけ歴史を振り返りましょう。
日本でクロスバイクが選ばれる理由
クロスバイクが登場する前の1990年代は、サイクリストの間ではMTBが日本の自転車市場の中心でしたが、街乗りするにはMTBの走りが重いことに気づきます。そして、MTBのリラックスしたポジションと、ロードバイクの走行性能を持つタイヤとホイールを組み合わせて誕生したのがクロスバイク。
そこからステップアップした人たちが、ヨーロッパの自転車の主流はロードバイクだと考えて(本当はヨーロッパではMTBが主流で、現在ではe-bikeが中心です)、それからロードバイクの人気が高まり、これまで日本市場での席巻状態が長く続いていました。しかし、ポストコロナ時代で通勤・通学用の自転車を求めるユーザーの多くが選択したのはクロスバイク。まずは手頃な価格帯であることが理由のひとつでしょう。そして、ロードバイクのスポーツさよりは、移動時の乗りやすさを重視しているのでしょう。
前置きが長くなりましたが、密を避けた自転車通勤・通学を検討中ならば、どんなモデルが考えられるかご紹介しましょう。
ロードバイクでの通勤・通学
現在、趣味でロードバイクに乗っている人が通勤・通学を考えるならば、私からアドバイスできることはあまりありません。ひとつ言えることは、有料駐車場で大切な宝物のロードバイクの盗難はあまり考えられませんが、隣の自転車がぶつかってキズがつく覚悟は必要です。もちろん、隣に停めている人に非がありますが、自転車が少々隣にぶつかっても気にしないという構造の駐輪場が多いため避ける術はありません。
ロードバイクは移動手段としては速くてラクですが、速く走ることを追求している乗り物なので、ある程度神経を使って路面状況を把握しながら走ることも必要でしょう。その一方で、河川敷のサイクリングロードの近所に住んでいて、オフィスもサイクリングロードに近いのであれば、ロードバイクを使わない手はないと思います。
初心者にオススメの自転車は?
次に初心者の自転車通勤・通学について考えていきましょう。往復で5km以内の短距離で平坦な移動が中心で、金銭的にも安く抑えたいのであれば、e-bikeよりも軽快な走りが手頃に入手できて維持も容易な人力のクロスバイクがオススメかもしれません。
その一方で、5kmよりも長距離の通勤・通学であれば、個人的にはクロスバイクよりも幅広なタイヤを装着するMTBをオススメします。グリップ力が高く、急制動や段差の乗り越えでも安全です。先述しましたが、MTBは舗装路での走りが重いため、舗装のキレイな日本でクロスバイクが誕生したという時代の流れがあります。
しかし、MTBタイプのe-bike(e-MTB)ならば、これらの問題をすべて解決しています。自宅の環境がe-MTBを保管できる状態で、予算的にも選択肢に入ってくるのであれば、フロントのみにサスペンションを搭載するハードテイルタイプのe-MTBをオススメします。あるいはクロスバイクタイプのe-bikeでも、30mm以上の幅広タイヤを装着するモデルが快適でしょう。
この数年で日本のe-bikeのラインナップも爆発的に増えました。その中でもドライブユニットではシマノSTEPSシリーズ搭載車がもっとも多いですが、ハイエンドからエントリーまでさまざまなモデルがあります。
昨年発売されたシマノSTEPS「E5080シリーズ」は、エントリーモデルの位置づけになりますが、街乗りならば十分なパワフルさを誇りながらも、20万円を切るモデルまで登場しています。メジャーなブランドのクロスバイクは、比較的高価格帯のモデルしか残っていない現状ですし、自転車通勤・通学を考えるならばe-bikeという選択肢も加えてはいかがでしょうか。
もし高めのモデルを購入するつもりなら、そこに特別定額給付金の10万円を足すことでe-bikeも候補に加わってきます。きっとe-bikeが、これまでよりも身近に感じられるはずです。
【訂正】初出時、スタンドを標準装備としていましたが、正しくは別売のため修正しました。お詫びして訂正いたします(6月25日)
リターンサイクリストにオススメの自転車は?
かつてMTBやクロスバイク、ロードバイクのいずれかに乗っていたけど降りてしまった。しかし、ポストコロナ時代にもう一度自転車通勤を始めたい。そんなリターンサイクリストには、私はe-bikeを強くオススメします。
自転車が大好きだったけど辞めてしまったことには、きっと理由があるでしょう。しばらく遊んでみたが辛かった。自転車仲間が体育会系すぎて付いていけなくなった。レースで自分の限界まで追求して燃え尽きた。さまざまな理由があると思いますが、その多くは「自転車は楽しいけど体力的に辛かった」「自転車はこわい」と感じた人も少なくないのでは。
この2つの理由を取り除いて、自転車の楽しい部分だけを満喫しながら乗れる乗り物がe-bikeです。だからこそ、自転車の楽しさも知っているリターンサイクリストにe-bikeをオススメするのです。
e-bikeでの通勤・通学がオススメの理由
まず、天候に左右されないe-bikeなら、暑い日でも風の日でもアシストのおかげで快適に移動できます。そして、自宅やオフィスが坂のあるエリアだとしても心配は不要。人力のスポーツサイクルですと、真夏の場合はわずかな標高差の坂でも汗が吹き出します。オフィスに着いたら汗だく……なんてことも。しかし、e-bikeならば坂がラクなうえに、そよ風を感じられるスピードが出るので快適なのです。
ルート選びに関してもe-bikeのメリットを受けられます。幹線道路はクルマが多く危険ですが、一本入った裏道は驚くほど交通量も減り、実は頻繁にアップダウンがあるというのが特徴です。東京でも起伏が激しいエリアも多いので、想像しやすいのではないでしょうか。裏道に入った住宅街は道が狭く、一旦停止や死角が多いので加減速が求められますが、e-bikeならばストップアンドゴーがラクなので、快適で安全に通勤・通学できます。
好みのジャンルが選べるほどラインナップが充実するe-bike
もう一度自転車に乗り始める場合は、かつてMTBに乗っていた人ならばMTB、ロードバイクに乗っていたならロードバイク、と自分がよく知っているジャンルに興味がいきがちです。しかし、e-bikeは日本に本格的に入ってきてからわずか3年ですが、驚くほど幅広いラインナップとなりました。予算を抑えたい、気軽に扱いたいならクロスバイクタイプ、平日の通勤から週末のトレイルライドまで楽しめるMTBタイプなど、好きなジャンルの自転車を好みに合わせて選べるところまで揃っているのもオススメの理由です。
もちろん、MTBに乗っていた人が通勤用にe-MTBを購入すれば、勝手知ったるMTBらしさも味わえるうえに、激坂を凄くラクに上れて驚くことでしょう。それでいて20年前のMTBとあまり変わらない車体重量なので、e-bikeの車体重量も気にならないかもしれません。
自転車のカテゴリー同様に、コンポーネンツでもお気に入りのブランドがあるもの。サイクリストから絶大な支持を集めるシマノが、e-bikeになってもドライブユニットのサプライヤーとして高い評価を集めています。ドライブユニットのシマノSTEPSシリーズは、サイクリストが求める繊細なペダリングフィールを見事に体現し、まるで自分が強くなったかのようなアシストを実現しています。自転車経験が長い人ならば、シマノSTEPSシリーズ搭載車を検討する価値はあると思われます。
また、そもそも自転車に乗っていて遊び方を知っている人だからこそ、通勤だけではなく、e-bikeならば体力的なことを心配せずに、昔一緒に乗っていた友達(まだバリバリ自転車に乗り続けているとしても)を誘って、週末に遊びに出かけられます。こうした点でもe-bikeはボーダーレスな自転車として楽しめます。
初心者の人でも通勤・通学以外に、坂の上のカフェに行ってみたり、ちょっと景色の良い高台に上ってみたり、郊外の山に早朝リフレッシュを兼ねて上りに行ってみたり、週末のライフスタイルも含めて、きっと行動範囲が広がるはずです。「e-bikeのある生活」が楽しいことは、筆者も自信を持ってオススメします。