難波賢二のe-bikeアラウンド

新型コロナの世界的パンデミックのなか、ヨーロッパのサイクリストの現状は? e-bikeの売れ行きは?

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の発令、そして延長。39県で緊急事態宣言は解除されたとはいえ、日本では不要不急の外出自粛も引き続き要請されていますが、日本よりもケタ違いに感染が広がっている欧州や世界の様子について取材してみました(5月5日~6日時点での取材情報)。

イタリア事情

まずは中国の次に爆発的な感染拡大が確認されたイタリアですが、ご存じのとおり2カ月前からロックダウン(都市封鎖)と非常事態宣言が発令されており、州や自治体により規制は異なりますが、基本的に生活必需品の製造工場や商店を除く経済活動がストップしていました。

イタリア北部のオーストリア国境に近いボルツァーノに住む筆者の友人で、以前のピアッジオグループの日本社長を務めていたフランチェスコ・ファビアーニさんに取材したところ、「もうかれこれ2カ月はステイホームを続けてきたよ。期間中の外出は理由を記入した書類を持った状態で、本当に必要な時だけに限られてきたよ」とのコメント。

スッドチロル地域の主要都市ボルツァーノドロミテ山塊を望める観光地 ©Francesco Fabbiani

イタリアでは、ロックダウン中はレジャー目的のサイクリングは禁止で、罰金の対象になるという状態が続いてきました。しかし、新規感染者数の減少を踏まえて政府は5月に入って段階的な経済活動の再稼働を行ないました。「ようやく会社にも行けるし、サイクリングもできるんだ! でもリージョン(州)の中だけだけどね。でもボルツァーノには(有名な)ステルビオ峠だってある。家族以外と乗りに行くことはできないし、他のライダーと喋る時はマスクをつける必要があるけど山には行けるよ」と喜んでいました。

©Francesco Fabbiani

ドイツ事情

ヨーロッパの大黒柱で、ボッシュ含むe-bikeやスポーツサイクルの最大マーケットのドイツはどうでしょうか。

雨の晴れ間の歩行者・自転車専用道では、サイクリングや散歩、ランニングにウォーキング、犬の散歩をする人が絶え間なく行き交っていた ©Aki Schulte

現地在住でかつて日本国内自転車メディア編集部員だったアキ・シュルテさんに聞くと、「ドイツでは健康維持のためのレジャーとしてのサイクリングは禁止されていませんでした。ドルトムント観光局は『社会的アクティビティがないなら、サイクリングをしよう』と銘打って市内のサイクリングスポットを含めたコンテンツを配信していたほどです。無用な外出は控え、ソーシャルディスタンスを保ちましょうとアナウンスされ始めてからも、外に出て身体を動かすことは明言を持って許可されていたと思います」とのこと。

©Aki Schulte

実際にサイクリングロードには自転車に乗る人があふれているそうで「まさに私の夫がそうですが、地下室に眠っていたバイクを引っ張り出して乗っています。もともと環境意識は高い国なので、これを機にクルマに乗るのをやめて自転車に乗り換える人は増えるのではないでしょうか」と話してくれました。

©Aki Schulte

オランダ事情

ドイツと経済的な結びつきの強い隣国オランダは、世界でも有数のサイクリング大国。人口一人当たりの自転車保有台数は世界トップクラスで、主要な幹線道路の横には、自転車専用レーンが整備されているサイクリングフレンドリーな国です。しかし、当地のメリダ・ベネルクス代表を務めるピーター・コッペンドラードさんに聞くと、ロジカルなオランダらしい回答が。

「新型コロナウイルスで会社が休みなら自転車に乗ろうという人は確実に増えています。2人以上のグループでサイクリングすることは法律では制限されていませんが、自粛しようという声が大きくグループライディングしている人は基本的にいません。(ベルギーはオランダと比べて感染者数がかなり多いが)隣国ベルギーでもサイクリング自体は規制されていません。ただし、オランダとベルギーの国境は業務上の理由以外での往来は制限されているため、オランダから国境を越えてベルギーに走りに行くことはできません。その一方で、ドイツとの国境は封鎖されていないのでドイツには走りに行くことができます。ベネルクス3国では、e-bikeを含む自転車への注目はコミューティングとフィットネス両方の理由から非常に注目されていて出荷台数は瞬間風速が吹いているのが現状です」とのこと。

道路における自転車の権利が明確に存在するオランダは、世界的な自転車先進国 ©MERIDA Europe

ルーマニア事情

東欧に目を向けてみると、ルーマニア在住の自転車ジャーナリストであるドラオス・ミトロイさんによると、「ルーマニアでは新型コロナウイルスの感染・拡大は、中央ヨーロッパより少し遅れてやってきましたが、他国同様に大変な問題となっています。サイクリングは、自宅から半径500mを越えて乗ったら、『罰金約5000USドル』です。なので、現実では食料品買い出し以外は禁止されているので、サイクリングしている人は都市ではいませんね。ちなみに、罰金は2週間以内に払うと半額に減免されるのがルーマニアらしさかな。でも、新規感染者数が減少しているので5月15日に一旦規制は解除されるとアナウンスされています。ルーマニアでもe-bikeは大注目されていて、自然が豊かなルーマニアにぜひ一度遊びに来てください」とのこと。

この10年間劇的な経済発展を遂げてきたルーマニアは、ダイナミックな眺望の豊かな自然で知られるe-bike大国 ©Dragos Mitroi

その他各国の事情

フランスでは、自宅から半径100kmのサイクリングを含む移動は可能になりました。スペインでも段階的にロックダウンは解除されているのが、現在のヨーロッパの現状です。アメリカも州によって規制内容が大幅に異なるため、一概には言えませんが、欧州の状況とあまり変わらない印象です。

その一方で、アジアはどうでしょう。例えばシンガポールでは、トライアスロンのアイアンマン世界選手権出場経験があり、ご自身もe-bikeオーナーの松井大さんに話を聞きました。

「シンガポールは、5月末まで非常事態宣言でオフィスは封鎖。家族以外の人と会合することも制限されています。ジョギングやサイクリングは禁止されていませんが、グループでのサイクリングは完全に禁止。違反した場合は、外国人在住者は国外退去を求められる可能性もあります。仲間内ではトレーニング中の落車で怪我が相次いだので、しばらくはインドアサイクリングだけにして野外でのサイクリングは自粛していますね。こういう時に一致団結できるのでシンガポールは強いと思います」と教えてくれました。

シンガポールでの爆発的な感染拡大は封じ込め期にあるが、政府は厳しい姿勢で自体に対処している

日本国内でも、直近は新規感染者数は低下傾向にありますが、根本的な脅威が去ったわけではないのは事実。まだまだ遠出してe-bikeでサイクリングとは言い難い状況です。しかし、スポーツアクティビティとして将来を見据えると、自動車や交差点の少ない自然豊かな環境で安全なスピードでサイクリングを楽しめ、コミューターとして考えると、満員電車を避けつつ移動自体をリラックスして楽しめるe-bikeは、ポストコロナ時代に適した乗り物のひとつと言えるのではないでしょうか。

難波賢二

国際派自転車ジャーナリスト 1979年生まれ。20年近く昔のe-bikeの黎明期よりその動向を取材してきた自転車ジャーナリスト。洋の東西を問わず自転車トレンド全般に詳しく世界の自転車業界に強いコネクションを持つ。MTBの始祖ゲイリー・フィッシャーの結婚式にアジアから唯一招待された人物として知られる。