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【これからは予防の時代23】乳ガンの発見率を上げるための「J-START」

今回は、厚生労働省の「乳ガン検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験」、別名「J-START」を紹介します。J-STARTは、マンモグラフィ単独と、マンモグラフィと超音波併用の検診効果を検証します。ここでいう「効果」というのは、ガンを見逃さないこと(感度が高い)、ガンを誤診断(疑陽性)しないことと、定期的に行なう検診として費用が高すぎないことなど、さまざまな側面から判定しなければなりません。

 

マンモグラフィ検診単独の場合の問題点

以前ご説明したとおり、マンモグラフィ検査は乳腺濃度の高い乳房では相対的に診断精度が低下してしまいます。高濃度乳腺が多い日本人女性のなかでも、特に若年者は乳腺濃度が高いため、40歳代でもガン発見率が低かったり、疑陽性率が高くなってしてしまうことが、指摘されています。

 

厚生労働省による「J-START」とは?

「J-START-乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験」サイト

そこで40歳代女性を対象に、「マンモグラフィと超音波検査を併用したグループ」と「マンモグラフィ検査を単独で実施したグループ」に分けて、検査の有効性を比較する試験が、厚生労働省により進められていて、「Lancet」という世界的な臨床雑誌にも掲載されました。

マンモ検査単独と、超音波検査併用の現状

マンモグラフィと超音波を併用したグループの感度は91.1%で、マンモグラフィ検査単独グループの77%より高い結果となりました。しかし特異度は、併用グループが87.7%、単独グループが91.4%と併用の方が低くなり、疑陽性率が高くなっていました。ガン発見率は、併用グループが0.5%、単独グループが0.3%、早期ガン発見率は併用グループが71.3%、単独グループが52%でした。

 

マンモ単独、超音波併用、どっちがいい?

これはどういうことかというと、マンモグラフィに超音波検査を上乗せすることで、ガンは見付かりやすくなるものの、本当はガンではないのに精密検査を受けなければならないリスクは、マンモグラフィだけの場合よりも増える、ということです。ガンがたくさん見つかる検診が良い検診だと単純に考えがちですが、本来は不要である検査が増加すると、本人の経済や心理的負担、検診コストの上昇といった不利益も発生します。どういう検査方法が有効かを判定するためには、利益だけでなく、不利益も正しく評価して、そのバランスを検証することが重要なのです。

 

現段階はそれぞれに長所短所、引き続きの調査が必要

ということから、現段階では「乳ガン検診としてマンモグラフィに超音波を上乗せしよう!」と簡単に言うことはできません。J-START研究の目的は、超音波を上乗せしたグループが優れていることを示すことではなく、受診される方にとっての利益と不利益を正しく評価し、その結果を明らかにしてゆくことです。そして今回の論文の成果はまず第1歩にすぎません。

 

超音波検査の上乗せによってより多くの早期ガンが発見され、その結果として乳ガンで亡くなる方の数を減らすことができるのかを検証するためには、引き続き長い調査が必要となります。

 

マンモグラフィと超音波の総合判定に期待

出典:NPO法人乳がん画像診断ネットワーク

 

J-START研究でも分かりますが、マンモグラフィと超音波の検査結果を別々に判定して精密検査が必要かどうかを決めると、感度は上昇しますが特異度は低下してしまいます。ですが、マンモグラフィの画像と超音波の画像を総合して判定すると、特異度の上昇が期待できます。つまり、ガンは良く見付かるし、不必要な精密検査をしなくても済むのです。

 

参考文献:「乳ガン診療ガイドライン 疫学・診断編(2015年版)」日本乳癌学会

 

 

高島裕一郎(医学博士)

予防医学を専門としている医師です。医療の高度化でさまざまな病気の原因がわかるようになりました。これは同時に、いろいろな病気を予防することができるようになってきたことを意味します。生活習慣病やガンなど、生活のなかで予防のできる病気と、その予防方法について、お伝えしていこうと思います。日本医師会認定産業医、日本人間ドック学会認定医。