老師オグチの家電カンフー

老眼勢に朗報? 視覚に難アリの筆者が「オートフォーカス眼鏡」を試す

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
視覚に難がある1人として応援していきたいデバイス

歳を取ってからでないと分からないことってありますよね。そのひとつが老眼です。近い距離が見えにくくなる症状で、普通の近視用のメガネは読書やスマホの画面を見る際にかえって邪魔になる。遠くはメガネをかけないと見えず、近くは眼鏡を外さないと見えないというメンドクサイ状況です。

そんな老眼勢にも希望の光となりそうなのが、オートフォーカスアイウェア「ViXion01S」。2023年のクラウドファンディングで4億円超の支援を達成した「ViXion01」の進化モデルで、新しいものに目がないガジェット好きの皆さんも注目しそうなアイテムです。プレス向けの体験会で試着する機会を得たのでインプレッションを書いておきます。

左が昨年リリースされた「ViXion01」、右が最新版の「ViXion01S」

普通のメガネに使われているレンズは、ガラスやプラスチックといった固形ですが、ViXion01Sに使われているのは、電気信号で厚みを変化させるオートフォーカスレンズです。

フレームに内蔵したセンサーで見ようとする対象との距離を測定し、それに応じてオートフォーカスレンズを変化させ、ピントを調節するしくみとなっています。

左右の黒丸がオートフォーカスレンズ、中央部にあるのが距離センサー

焦点距離は約5cmから無限で、その調節時間は約0.1秒と高速です。紙に書かれた文字など近くを見ている状態から、いきなり遠くを見る、またはその逆でもピントがスッと合います。今ではカメラのオートフォーカスは当たり前ですが、最初に搭載されたときの感動を思い出しましたね。何より、距離に応じてメガネを掛けたり外したりする必要がありません。

そして普段の生活では、自分の目はそんなに速く焦点を合わせていないことにも気づかされます。ヒグマが前方に迫っている、といった緊急事態でもないかぎり、近く・遠くのピント合わせは、たいていゆっくり。この傾向は、加齢による視力の衰えがあればなおさらで、例えばスタジアムで野球観戦をしていても、ボールの行方を追うのが難しかったりしますからね(大画面で表示され、ピント合わせも不要なテレビ観戦がラクです)。

またViXion01Sは、本来は眼球の毛様体筋で調整する焦点距離をオートフォーカスレンズ側で調整してくれるので、目が疲れにくくなる効果もあるといいます(体験会の場で短時間試してみただけなので実感はありませんが)。

新製品は見た目が普通のメガネのようになり、矯正レンズや乱視、偏光レンズといったアウターレンズを装着できるのも特徴

人間の目にオートフォーカス機能を追加できるViXion01Sですが、レンズ自体が小さく覗き込む形になるので、視界が狭くなるという難点があります。そのため、現状では読書などには向いていますが、例えば道路の歩行やスポーツ、クルマの運転には適していません(将来的にはオートフォーカスレンズの大型化も可能だそうです)。

そんな弱点もあり、万人にとって便利なアイテムとは言いがたいので、購入は実際に体験してみてからがおすすめ。二子玉川の蔦屋家電+などで実際に試すことができます。

ViXion01Sが体験できる場所(ViXion公式サイト)

とはいえ、視力に問題のある人、仕事などで目を酷使する人には、福音となりうるデバイスであることは間違いありません。WHOによれば、世界に近視は26億人、老眼は18億人、糖尿病網膜症1.46億人と、視力に問題を抱えている人はかなり多い。必要とする人には人生のクオリティを変えるインパクトがあります。

何を隠そう、私自身が近視+乱視+老眼に加えて、5年ほど前に視神経炎を発症し、一時期は視力がまったくなくなり、しばらくは文字もまったく読めなかった時期があります(細かい経緯はnoteに書いたので、ご興味のある方はお読みいただければ幸いです)。さらに最近は白内障も確認されていて、視力を補うデバイスへの期待はますます大きくなっています。近い未来、高性能なカメラを脳の視野角に直結する日が来るまで、こうしたテクノロジーが着実に進化していってほしいです。

突然目が見えなくなりました記(note 小口覺)

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>