老師オグチの家電カンフー
目が見えなくなった時の家電使いこなし術
第1回 スマホの音声機能に頼りきりだった入院生活
2018年4月11日 07:30
先日、視神経炎という病気にかかりまして、一時期はまったく目が見えない状態でした。3週間ほど入院し、現在の視力はスマホやパソコンが使えるほどに回復しています。突然目が見えなくなると、家電や情報機器との関係はどうなるのか。これから何回かに分けて書いていきます。
目が見えなくなることは稀かもしれませんが、視力は老眼など加齢と共に落ちていくものなので、今後少なからず参考にしていただける情報があるかもしれません。
最初に症状に気づいたのはスマホを触っていたとき。数日前から頭痛がひどく、インフルエンザB型の診断を受けて寝込んでいたのですが、どうもスマホの文字が霞んで見えにくい。最初はインフルエンザのせいだと思い、気にしていなかったものの、次第にアイコンも判別できなくなる。さらに部屋の電気を付けても明るく感じなくなり、これはただ事じゃないと総合病院の眼科へ。その後、別の病院に入院するまでの間に、どんどん視界は暗くなっていき、まったくのゼロになります。真っ暗闇の世界……。
我々はテレビをはじめとするメディアから、看板などの表示に至るまで、ほとんどの情報を視覚から得ています。当たり前のことのようですが、見えなくなると実感させられます。(別の回で書きますが)生活家電も、基本的には目が見えることを前提として設計されています。主にディスプレイで構成されているスマホもしかり。
しかし、意外なことに生活家電よりもスマホの方が視覚障がいへの対応が進んでいるんですよ。
VoiceOver(ボイスオーバー)は、iPhoneに備わっている画面読み上げ機能です(Androidには「Google TalkBack」という同様の機能があります)。アプリのアイコンをタッチすればアプリ名が音声で流れ、ダブルタップで開く。また、OSやアプリの文字情報も読み上げてくれます。
実は以前から、このVoiceOverについては存在を知っていました。たまたま何かの拍子にオンになったことがあり、その時は逆に不便で苦労して元に戻したのですが、この記憶にあったことで、今回は早めに対応できました。
VoiceOverのオンオフは、設定から切り替えられますが、Siriに「VoiceOverオン(オフ)」と言うだけでも可能です。とはいえ、細かい操作方法については、家族にネットで調べてもらいました。たとえば、電話が着信したときに応答するには2本指でダブルタップ、スワイプは3本の指を使うなど、教えてもらわないとわかりません。
入院中は視力がかなり低く、文字はほとんど読めなかったのですが、VoiceOverのおかげで、ニュースやメール、SNSの内容はけっこう把握できていました。
ただし、読み上げ機能は読み間違いがかなりあります。ロック画面をタップすると、日付や時間を教えてくれるのですが、日曜日の「(日)」を「ひ」と読み上げます。火曜日の「(火)」も「ひ」です。人の名前なんかひどいもんです。平原智という名前なら、「へーげんちー」といった具合です。とはいえ、慣れてくるとFacebookなどのSNSも目で読むのと同じ速度で確認できるようになりました。どうも脳が最適化されていくようです。
一方で、VoiceOverの機能を使っても、かなり使いにくいアプリもあります。たとえば、ラジオアプリの「radiko」。画面が番組情報などにあふれていて、再生や選局といった基本的な操作が、VoiceOverでも見つけにくいのです。やり玉に挙げるようで申し訳ありませんが、ラジオを楽しんでいる視覚障がい者は多いはずで、設定でシンプルな操作画面が選べるようにしたほうがいいんじゃないですかね。
ラジオと並ぶもうひとつの入院中の暇つぶしが音楽鑑賞。再生操作は、もっぱらSiriに頼っていました。「<アーティスト名or曲名>を再生」と言えば、契約しているApple Musicの中からかけてくれます。ただ、英語の発音が悪いせいもあってか、日本でメジャーじゃない洋楽アーティストは認識されにくい。たとえば、シガー・ロスというバンドのボーカルであるヨンシー。「ヨンシーを再生」と言うと「44」と認識してしまう。よん(4)としー(4)って子供でもそんな間違いはしないよってレベルです。
文字などの入力は、VoiceOverでのフリック入力にどうしても馴染めず、もっぱら音声入力を使っていました。メモアプリには日記代わりに、その日あったことや思いついたネタなどを入力。LINEやFacebook Messengerの返信も音声入力でした。ただし、誤変換が多いため、家族や親しい友人とのやりとり以外では使いづらいのも事実です。音声入力でメモしたアイデアも後から見てみると、誤変換で意味不明な文字列になっていたり。
ちなみにLINEで便利だったのは、音声を録音して送信する機能。昔、ガラケーの時代に似たようなサービスもありました。聞く方は場所を選ぶなどちょっと面倒に感じることもあるでしょうが、音声通話とメッセージアプリの利点を兼ね備えていると、その時は感じました。
VoiceOverに慣れていくのと同時に、視力も徐々に戻ってきました。真っ暗からモノクロ4階調ぐらいになり、退院する頃には階調や解像度が上がり、色も判別できるようになってきました。さらに退院後は、iPhoneの文字を大きく設定することで普通に使えるようになり、ひどいようですがVoiceOverに鬱陶しさを感じるようになります。
別れの時です。ラブ・イズ・オーヴァー(欧陽菲菲)ならぬ、VoiceOver・イズ・オーヴァー。私がいないと何もできなかったのに、利用価値がなくなったら捨てるのね……、そうSiriの声で言われた気もしますが、あんたを忘れやしないよ。