藤原千秋の使ってわかった! 便利家事アイテム

心配性の災害対策グッズその14「非常用トイレ」

家事アイテムオタクなライター藤原千秋が、暮らしの不具合等々への現実的対処法とともに、忌憚ないアイテム使用感をご紹介していく連載記事です
トイレ119「非常用トイレ」

実は「非常用トイレ」的な商品を、すでに5種類以上……排泄回数にして数百回分所持している。本当はもっとあるかもしれないけど勘定したくない心もちである。どこにしまったか、わからないやつも少なくないからである。

明らかにそういう残念な現状に気づいている家人から、定期的に家庭用防災用品の在庫について確認されるのだが、のらりくらりとごまかし続けて久しい。非常によろしくない状況であるのは重々承知しているのだが、日々の雑事に追われて、今年もまた防災の日である9月1日がやってきてしまった。

言い訳なのだが、「非常用トイレ」的な商品を購入しつつ散逸させてしまうのには、それなりに理由がある。「トイレではないところ」で排泄することに対して、異様な忌避感があるためだ。

余談だが筆者は緑豊かな武蔵野の山裾で、昭和50年代に子供時代を過ごしたのだが、当時まだ男児女児問わず「野ション」は日常であった。アラレちゃんに頻出する「野グソ」すらも案外頻繁に目撃しており、下水の整備も遅れていた地域ではバキュームカーが活躍していた。今よりも自他共に排泄物に近しい時代だった。

そんな素朴な原体験があってすら、数十年の水洗トイレ生活を経てしまえば野生を忘れるのが人である。忌避感ゆえに「非常用トイレは……非常時に使えばいいや」と思っていたが、3.11の後の計画停電でマンションの水道ポンプアップが止まった時すらも非常用トイレの使用は回避してしまった。自分の排泄は我慢し、子供たちの排泄は我慢させずにトイレでさせたあと、蓋を閉めて通電の時をひたすらに待ったのである。あの時期、お腹を壊す風邪が流行っていなくて本当に良かった。

しかし家庭用防災用品の蒐集を始めて20年強が経過すれば、こちらも20歳年を取っているわけであり、各種災害に対してだんだんと弱気になってくる。とりあえず目に付いたもの、コンパクトなもの、安価なもの、防臭に力を入れたものなどなど、これまで購入してきた非常用トイレに加えていま新たに購入するにあたり、筆者は「とにかく頭を使わなくてよさそうなもの」を探し、チョイスした。

対峙せざるを得ないときは非常時、焦りや不安とともに体調不良に陥っている可能性もある。そのとき、あれこれ準備したりセットしたり始末したりに気を回せるだろうか。否。

そこで単純セッティング、単純始末、もしものときにトイレットペーパーがない不安に対処、コスパ、などを勘案して今年購入したのがトイレ119の「非常用トイレ」50回分であった。そして今回、初めて……!!! 非常時じゃないのに使ってみた。すごい高さの心理的ハードルだったが、超えてみた。以下、その様子をレポートする。

1箱に50回分が入った「非常用トイレ」

この商品、50回分セットはややボリュームのある箱入りで、そこそこ重い。中には銀パック入りの粉末「抗菌凝固剤」と、黒ゴミ袋状の「排便袋」、半透明の「処理袋」、そしてポケットティッシュ状の「ティッシュ」、「防災ガイドブック」もついている。重さの源は黒ゴミ袋のようである。

使い方はごくシンプルで、まず既存のトイレの便座を上げてそこに黒ゴミ袋状の「排便袋」を被せ、その上に二重にもう一枚の「排便袋」を被せ、そこに「抗菌凝固剤」をサラサラと入れ、便座を載せる。これで準備完了。

使い方も後始末もシンプル
トイレに排便袋を二重でセットするだけ

そして鎮座して用を足すわけだが……ものすごく落ち着かない。慣れ親しんだ水音がない。あるのはビニールに落ちていくカサカサという音のみ。そしてダイレクトに感じる排泄物臭。もしやと思って立ち上がる。案の定、振り入れた抗菌凝固剤ははるか遠くにあり、全くもって交じり合っていない。これでは凝固するものも凝固しない。

慌てて排便袋を手に取り、シェイクを試みつつ、すばやく袋の口を縛ってしまう。たかが小水の処理でこの動揺。自分が情けない。一回縛りでは心もとなく、二回縛る。この排便袋はかなり大きく、一回の排泄で一枚使うのがもったいないとセッティング時には思ったが、封をするにあたって大きい方が謎の安堵感があるなと感じた。

おそらく一重目の、便器に最初にかぶせる方の排便袋は有事にはセットしたまま中身だけを替えていくのだろうが、今回は一重目も速やかに抜去した。トイレのたまり水に触れていたほうが内側になるよう、注意深く引っ張り出し、凝固尿入りの袋を濡れた側に仕舞って、一重目袋の口も縛る。とりあえず液体は凝固し、においもない。はあ、ふう……。しかし、なんともいえぬ一仕事だ。

処理後の袋は可燃物として収集可能だそうだが、いささかの罪悪を感じざるを得ない。でもいま練習して良かった。不思議な手応えが、確かにある。ただ、より有事に「実行」のハードルが高そうなのは、生まれてこのかた「野ション」経験一切皆無である平成生まれの筆者の子供世代だろう。いささか不穏な心持ち。折を見て家族にも排泄の練習を勧めてみたい。

藤原 千秋

主に住宅、家事、育児など住まい周りの記事を専門に執筆するライターとして21年目。リアルな暮らしに根ざした、地に足のついたスタンスで活動。現在は商品開発アドバイザリー等にも携わる。大手住宅メーカー営業職出身、大1、中3、小5の三女の母。『この一冊ですべてがわかる! 家事のきほん新事典』(朝日新聞出版)、『ズボラ主婦・フニワラさんの家事力アップでゆるゆるハッピー‼』(オレンジページ)など著監修書、マスコミ出演多数。