神原サリーの家電 HOT TOPICS

家電メーカーは「未来の暮らし」をミラノでどう描いたか
2026年6月1日 08:04
今年も4月20日~26日の7日間、「ミラノデザインウィーク」が開催されました。本会場で開催される「ミラノサローネ」では家具や照明、ビルトインキッチンの新作などの発表もありますが、ミラノの街中で行なわれるミラノデザインウィークは、ラスベガスのCESやベルリンのIFAのように新製品を発表する場ではありません。
では何が見えるのかというと、それは“暮らしの未来をどう描くか”という、企業の姿勢そのものです。
今年も、各社がそれぞれの方法で「これからの暮らし」を語っていました。その中から家電メーカーをピックアップ。その空気を、現地で見たままにお伝えします。
ショールームをSignatureから「SKS」としてリブランディングしたLG
これまでミラノの人々は、ミラノにあるショールームをLGのものとは認知しておらず、「あれは、シグネチャーだ」という人がほとんどでしたが、LGは2025年にSignature Kitchen Suiteを“SKS”としてリブランディング。ミラノのショールームも従来のSKS中心から“LG+SKS”の統合拠点へと再構築し、LGブランドとしての存在感をより明確に打ち出す方向へ舵を切っていました。
SKSブランドの母体であるLGのビルトイン家電事業が30周年を迎えたこともあり、展示全体も「30Years of Innovation」を軸に、LGのビルトイン技術の進化やSKSブランドのクラフトマンシップ、“料理文化とテクノロジーの融合”という新しい方向性を視覚的に伝える構成に。
また、「FEEDING THE FUTURE」をテーマに体験型展示を開催。『暮らし方そのものを再考する招待状』というアプローチで、廃棄物を減らし、再利用に価値を与え、フードロスを最小限に抑えるという、より持続可能な明日を作るために、こうした変革に意識的に参加することを促していました。
都市の居住空間に合わせ、キッチン、仕事、生活のためのワンユニットを発表したミーレ
ミーレはミラノのショールームで「Designed to Move with You」というテーマのもと、「Small Spaces. Big Rituals.」と題して、都市生活者の変化に応える新しい住空間提案を世界初公開。料理、ダイニング、ワーキングスペース、リビングというあらゆる役割を1か所で担うモジュール型ユニットを披露しました。
ビルトインのオーブンやスチーム引き出しなどが回転して壁の中に収納され、テーブルの高さが上下し、自在に変貌する空間を作っていく様子に目を奪われました。ラグジュアリーなビルトインキッチンのイメージが強いミーレが、狭小住宅のためのこうした提案をしていたのがとても興味深いことだと思います。
キッチン、ダイニングルーム、ホームオフィスを単一のモジュールで柔軟なシステムに統合するこのプロジェクトは、家具金具の大手メーカーであるヘティヒ社(Hettich)とのコラボレーションから生まれたもの。1日を通して機能が変化するユニットになっていて、午前中はワークスペース、昼食時は調理台、夜は集いの場…というように柔軟に役割を変えて使える仕組みです。家具金具の精度が家電の可動性を支えているという点で、最強のタッグを組んだといえるでしょう。
ミーレのビルトイン家電(オーブン・電子レンジ一体型、冷蔵庫、スチーム調理引き出し※2027年3月発売予定)は標準的な60cmのスペース内に統合されて収まるという点も見事でした。
今年はキッチンの年で本会場にも出展していたミーレですが、未来の住空間を示すこのモジュール型ユニットは、あえてショールームで世界初公開されたことも、外せないポイントです。フォーリサローネが“ブランドの思想を語る場”として、ますます重要になっていることを象徴する展示だったのだと思います。
近未来的な展示が印象的だったサムスン
トルトーナ地区のSuperstudio Piùで未来感のある展示が注目を集めていたのがサムスンです。2024年はサムスンのデザイナーが主体となった展示で、世界観を語るうえではとても魅力的だったのですが、今年は一気に製品主体となり、どちらかというとCESっぽい雰囲気でした。「AIアバター」や「AIビューティースクリーン」といった、AIを活用したアイテムの提案がまさに今の時代を表しています。
等身大のAIアバターは、その人の人生の歴史全体を振り返りながら洞察し、健康、栄養、スタイル、マインドフルネスなどを優しくアドバイス。一見、普通の鏡に見えるAIビューティースクリーンは、ニーズに合わせてパーソナライズされたスキンケア方法やおすすめの製品をアドバイスするほか、日焼け止めが均一に塗られているかどうかもチェックできるとしていて、現段階ではコンセプトモデルですが、製品化されたら人気が出るのではないでしょうか。
そこに置かれたものを認識して、瞬時に食卓の上を魅力的なビジュアルで彩り、雰囲気作りに役立てる「オーラテーブル」も、近い将来実現することでしょう。
時計やまるで水槽のようなオブジェなど、透明ディスプレイを使った製品の提案も見逃せません。芸術であり、情報源であり、音楽体験ができる機器でありながら、その透明感ゆえに私たちの暮らしの空間に溶け込んでいるところが素晴らしいなと思いました。
技術を誇示するのではなく、テクノロジーが人の感情や生活にどう寄り添うかを見せる展示だったのがミラノらしかったと思います。
色鮮やかな展示で、アイテムごとに暮らしの情景を提案したハイセンス
2025年と同じトルトーナ地区・Via Bergognone にある蔦に覆われた建物で「The Colorful District」と題した展示を行なったのがハイセンス(Hisense)。製品単体ではなく、色彩と空間を通して“暮らしの情景”を描く構成が印象的でした。
入口を抜けると影絵のようなインスタレーションによって、家電を使ったさまざまな暮らしが描かれています。そしてその先にある小さな階段を上ると部屋ごとにリビングや子供部屋を思わせる個室、寝室やランドリールームなどがあり、カラフルなインテリアとともに暮らしぶりが目に浮かぶような仕掛けです。
さらにその奥にはクッキングショーを見せてくれるエリアも。扉に液晶画面があり、それをPCやタブレット端末のように使って調べたり、食材を注文できる冷蔵庫なども展示されていました。
ハイセンス・イタリアのマーケティング責任者、タチアナ・パンパローネさんによれば、「色彩は単なる美的要素ではなく、私たちが暮らす環境を変革する言語となります。私たちの目標は、誰もがテクノロジーを自分たちの世界の自然な一部として認識し、日々の体験を感情や共有された物語で豊かにすることです」と。
“未来”だと思っているテクノロジーは、今すでにここにある。体験型のインスタレーションによってそれを示しているようでした。
ミラノのメイン地区ブレラではMideaによる圧巻のプロジェクションマッピングが
ミラノの中でもハイブランドのブティックが並び、人通りが最も多いブレラ地区で開催していたのがMidea(マイディア)の展示です。青いカラーが目を引く会場の入り口に掲げられていたのは「QUALUNQUE CASA TI IMMAGINI-あなたが想像するどんな家でも(叶えます)」という言葉。窓には「ここはショールームではありません。そして紙の上で構想されたプロジェクトは、現実のものとなるのです」というメッセージもあります。
中に足を踏み入れてみると、洗濯機や冷蔵庫、エアコンといった家電が展示されていますが、特段目を引くものではありません。ところがその奥の部屋へ足を進めると、そこにはまるで二次元の世界に迷い込んだかのような手描きのラフスケッチの室内の様子が現れます。そこには実物の炊飯器やオーブン、エアフライヤーなどが置かれた棚もあります。
すると部屋が一気に暗くなり、壁全体を使ったプロジェクションマッピングで家族構成とともに移り変わるこれからの暮らしの様子や、Mideaが描くブランドメッセージが次々に表現されて、目が離せません。わずか3分程度の短い時間だったと思うのですが、近くにいた親子やカップルも一心にそれを見つめている様子が心に残りました。
手描きのスケッチと実物家電を組み合わせ、プロジェクションマッピングで暮らしの変化を描く構成は、限られた空間でも没入感を生む好例。Mideaがブランドとして「家=感情の場」と定義していることが、空間全体から伝わってきました。
サッカーという共通言語でブランドの存在感をアピールしたハイアール
ハイアール(Haier)は、トルトーナ地区で「INSIDE THE EXPERIENCE」を開催。世界ナンバーワンの白物家電メーカーとしての技術力とグローバル展開力を背景に、サッカーという“世界共通言語”を使ってブランドの存在感を高めていることを印象づけられました。
会場の入口で個々にヘッドホンを受け取り、まるでサッカー場にいるような感覚で自由に歩き回りながらの体験は、音と光が交錯。華やかなプロジェクションマッピングを使い、スポーツの高揚感を通じて「テクノロジーが生活の一部になる」ことを体験させる仕掛けは没入感の高いものでした。ただ、ヘッドホンの使用だったため、同行者との“共有体験”が生まれにくかった点は少し惜しいところです。
プロジェクションマッピングが終わると、次の部屋では最新テクノロジーを発揮した家電を展示。先進的なデザインの家電は来場者たちの興味を強く引き付けていました。
鼓動で自分自身を落ち着かせる「Pulse Pack」を発表したKonel
2025年、ブレラ地区にあるオークションハウス「BLINDARTE Milano」の地下のスペースで未来の睡眠服「ズズズン スリープ アパレル システム」を展示したKonel(コネル)は、今年も同じ会場に出展。ユーザーの心拍と物理的につながるウェアラブルバッグ「Pulse Pack(パルスパック)」を発表しました。
これは、ユーザーの心拍を感知し、その半分のリズムで脈動するというもの。この内側からのリズムが、外部刺激から一瞬距離を置く“間”を作り出し、静かに意識を取り戻す手助けをしてくれるのだといいます。やわらかなパルスパックを胸元に抱えて、センサー部が自分の脈拍を捉えるようにすると、あら不思議!幼いころに母親にとんとんと手のひらでゆっくり優しく背中をたたかれていた時のように、心が落ち着いていくのがわかります。
絶え間ない情報と刺激に満ち、落ち着きや心の余白を持つことが難しくなっている現代の生活において、場所を変えたり、活動を中断しなくても静かに自分を取り戻せるのはありがたいなと思いました。
コネルはこのアプローチを、科学・文化・デザインを組み合わせ、未来の新しい可能性を描く「Good Singularity=人間にとって望ましい形でテクノロジーが進化する未来」と位置づけているとのこと。来年のミラノが楽しみです。
ソニーはミラノ大学で環境配慮型の紙素材を使った家具を展示
ソニーは、最新家電の展示ではなく、環境配慮型の梱包材から椅子をつくるという静かなアプローチを選んでいました。会場となったミラノ大学は、INTERNIが主催する大規模な展示で毎年注目を集めていますが、今年のテーマは「Materiae(素材)」。ちなみに、INTERNIは、イタリアの建築・デザイン専門誌(1954年創刊)で、ミラノデザインウィーク期間中に“都市規模の展示イベント”を主催する存在です。
ソニーはこのテーマに呼応するように、竹、サトウキビ繊維、再生紙などを原料にした環境配慮型の紙素材「Original Blended Material」を使った家具のプロトタイプを展示。 「ESQUISSE(スケッチ)―未来の素材との対話―」と題したこの展示では、実際にソニー製品の梱包に使われている素材を使用し、ソニーのデザイナーがデザインしたスウェイという椅子などの家具を提案。会場では、企業名を大きく掲げていないながらも、座り心地を確かめてみる人も多く、家族連れなどでにぎわっていました。
筆者も実際に座ってみましたが、包み込まれるような優しい座り心地でデザインも美しく魅力的。ただし、紙製であるため水濡れ厳禁というところがネックかもしれません。とはいえ、素材の未来を語るという点で、今年のミラノデザインウィークの本質に深く結びついている展示だといえるでしょう。
ブレラの名門劇場で心身を癒す空間を表現したGROHE
LIXIL傘下のGROHE(グローエ)は、ブレラ地区にある名門劇場「Piccolo Teatro Studio Melato」で「Aqua Sanctuary(水の聖域)」と題した展示を行なっていました。劇場の舞台技術を活かし、水栓金具や素材の質感を最大化する没入型空間を作っており、それが話題になったのでしょう。たくさんの人が列を作り、その人気ぶりを見せつけていました。
「グローエ スパ」と書かれた入り口を入ると、まずは水の樹(Water Tree)のインスタレーションから始まり、水が生命を育む象徴として立ち上がる構図に息をのみます。続いて、暗く抑えた劇場空間で、水の力強さと美しさを体験として提示。LIXILの技術背景を感じさせる“金継ぎ”のような仕上げのデザインや、滝行を思わせるダイナミックなシャワーの演出が印象的でした。
製品そのものの魅力を、光と音と水の動きで立体的に見せる展示は、水を通して人の感覚を呼び覚ますブランドとしての成熟を感じさせたように思います。
今なお、装飾を問い続ける――ヤマハがミラノで静かに提示した「PAESREY(パセリ)」
会場は、ブレラ地区にあるアーティストの創造拠点「Casa degli Artisti(カーザ・デッリ・アルティスティ)」。光が柔らかく差し込む静かな空間で、ヤマハは「装飾とは何か」をテーマに『PAESREY(パセリ)』と題した展示を行なっていました。
音楽は生活に潤いや彩りを与え、暮らしを豊かにするもの。それらは暮らしを装飾する存在だともいえる。では装飾とは何だろう、それは単なる飾りなのだろうか、装飾を排除したミニマルな表情も、またそれは装飾の一種なのだろうか――
そんな限りない思索の繰り返しのもと、多様な切り口から装飾をテーマに思いを巡らせたデザイナーたちの軌跡が今回の作品群なのだといいます。
真っ白な壁にやわらかく光が差し込み、その中で楽器と花が奏でる変化を「刹那的だからこそ美しい」と表現した「シーズニング」や、1983年製のピアノをドレッサーとして生まれ変わらせた「ドレッシング」。
さらには400個以上の独立した鏡を備えたピアノが自動演奏に呼応してスポットライトを拡散させ、まるでミラーボールのように空間を彩る「スパークリング」や、楽器の一部をアクセサリーとしたものなど、それぞれの装飾が胸を打ちました。
AIやスマート化が語られる一方で、今年のミラノでは、人の感情や記憶、素材や感覚といった目に見えない価値に向き合う展示が数多く見られました。企業ごとに表現方法は違っていても、その先に描こうとしていたのは、テクノロジーそのものではなく、人がどう心地よく暮らすかという未来だったように思います。
















































