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バルミューダ「ザ・クロック」時間を感じるための道具とは?

バルミューダ「ザ・クロック(The Clock)」59,400円

3月中旬にバルミューダからリリースされ、すでに予約販売が始まっている新製品「ザ・クロック(The Clock)」。筆者は今回、バルミューダ代表取締役社長の寺尾玄さんへのインタビューと、発売前の実機を社外で初めて使用する機会を得ました。

寺尾さんが語ったのは、“時刻を知るための時計”ではなく、“時間を感じるための道具”という考え方です。4月中旬からの出荷を前に、「ザ・クロック」がもたらす時間の質についてお伝えしたいと思います。

バルミューダ代表取締役社長・寺尾玄さん

時刻と時間は全く異なるもの。ザ・クロックは時間を感じるための道具

この日の取材は、表参道にあるバルミューダの旗艦店2階の個室で行われました。照明をかなり抑えた静かな空間に、寺尾さんがそっと取り出したのは、手のひらに収まるほどの小さな時計。その名も「ザ・クロック」です。

旗艦店BALMUDA The Store Aoyamaで取材しました

新製品が時計であることは事前に聞いていましたが、想像とは異なる造形に思わず言葉を失い、筆者は寺尾さんが口を開くのを静かに待ちました。

小さすぎるし、針がない――。

いったいこれはどのようなものなのか、早く説明してほしいというのが正直なところでした。

寺尾さんが語り始めたのは、時計という形をしていながら、従来の時計とは全く異なる発想でした。

「生活家電はローカライズの塊です。それも大切ですが、これからグローバルに展開していくには、生活家電からの脱皮が必要だと考えました。全人類が使えるもの、体験価値を提供できるものは何か。それを模索してたどり着いたのがザ・クロックなんです」

寺尾さんはそう切り出し、「時刻と時間は全く違うものだ」と続けます。「時間とは、流れや質、心の状態まで含んだ体験そのものだという考え方です。ザ・クロックは時刻を知るための時計ではなく、“時間を感じるための道具”。朝のアラームから、集中のためのタイマー、夜のリラックスタイムまで、1日の流れを穏やかに整えるための存在」だといいます。

「1日をよくしたいんです。夜はスマホをリビングに置いて、ゆっくり眠ってほしい。寝るために作ったと言ってもいいくらいです」

「時刻と時間は全く違うものだ」と語る寺尾さん

実際、寺尾さん自身もザ・クロックを使うようになってから、リラックスタイムにiPadではなく本を手に取るようになったのだとか。 “時間の質”を変える道具としてのクロックという考え方が、少しずつ輪郭を帯びてきます。

開発が始まった当初のラフスケッチ。「Sleep Clock」の文字や2024年12月4日の日付が記載されている

光の動きで時の流れを示す――日時計にも通じる発想と柱時計の振り子

さらに印象的だったのが、ザ・クロックの造形に込められた思想です。秒針もガラスの風防もなく、アルミニウムのブロックを精密に削り出した本体には、くぼみが設けられています。そこに灯るLEDの光の動きで、時間の流れを示す仕組みです。 この「光の動きで時を示す」という発想は、日時計にも通じるものだといいます。

“アルミ削り出し”というのもバルミューダの原点を思わせる重要なポイントです。なぜなら、バルミューダの最初の製品「X-Base」はノートパソコンのための冷却台ですが、厚さ8㎜のアルミニウムプレートがベースになり、ほとんどの部品が無垢の金属の削り出しによって構成されているから。ここに寺尾さんの深い決意のようなものさえ感じられます。

バルミューダの最初の製品「X-Base」(2003年)。厚さ8㎜のアルミニウムプレートに大型ヒートシンクをフローティングマウントし、ファンを使用せずに-7度の冷却性能を実現。ほとんどの部品が無垢の金属の削り出しによって構成されている

毎正時の時報は、柱時計の振り子を参考にしたもの。「時刻を知らせるのではなく、時間の流れを感じてもらいたかった」と寺尾さん。振り子の自然な動きを再現するため、デザインチームは国立科学博物館にあるフーコーの振り子を見学に行ったそうです。

操作部には懐中時計のクラウン(リューズ)を採用。「回して押せる」という直感的な操作性は、クラシックな道具に使われていたものの再定義ともいえるでしょう。

映画『クラッシュ』の冒頭シーンから着想を得たLEDの光のモーション

ザ・クロックの造形の中でも、特に印象的だったのが、「リラックスタイム」モードに設定したときに現れるLEDの光のモーションです。遠くの街のきらめきや、夜空にまたたく星のような光が、静かに、しかし確かに空間に広がっていきます。

雨の音や大河をゆく舟の音、ロッジの暖炉の響きなどのオリジナル音源を臨場感あるサウンドで再生するリラックスタイムモード。輝く光のモーションとサウンドが深い落ち着きの空間を作る

寺尾さんによれば、この光の動きは映画『クラッシュ』(2004年)の冒頭、LAの丘の上から見下ろす夜景のシーンから着想を得たものだといいます。あの独特の光の揺らぎを再現するために、何度も映画を見直したとのこと。

「ただ明るくするのではなく、光そのものに“情景”を持たせたかったんです」

寺尾さんが着想を得たという映画『クラッシュ』の冒頭には、LAの丘の上から見下ろす夜景だけでなく、タイトルバックに登場する文字そのものが、光の粒のように揺らめいているのが印象的です。筆者も実際に映画を見返してみたのですが、あの“生きているような光の粒子”の揺らぎは、ザ・クロックのリラックスタイムで灯るLEDの動きと驚くほどよく似ています。

寺尾さんが意識していたのは夜景のほうかもしれませんが、タイトルバックの光の揺らぎも、無意識のうちに記憶に残っていたのではないか――そんな想像をしたくなるほど、光の質感が共通しているのです。

7.5センチの小さなボディには、ムラのない均一な発光を実現した75個のLEDからなる照明構造(写真)を含め、200以上ものパーツが精緻に組み合わされている

「そういえば、これって満充電でどれくらい使えるのですか?」

そんな何気ない質問に返ってきた答えは「約24時間」でした。え? 時計なのに24時間? 思わず聞き返してしまいそうになりました。ということは、常に充電しながら使うということなのでしょうか。

話を聞くほどにザ・クロックへの興味が強まり、ぜひ手元に置いて使ってみたいと思っていた矢先の、ある意味衝撃的な回答でした。この意味を理解するためにも、いち早くお借りして使ってみるしかない――そう思った瞬間でもあります。

実際に手にしてみると、手のひらに収まるサイズ感とともに伝わってくるのは、吸い付くような滑らかな手触りと、ずっしりとした持ち重りです。この凝縮された質量こそが精緻な削り出しの証。手にするたびに道具としての確かな品格を感じられ、使い込むほどに愛着が深まっていく……そんな予感を抱かせる一品でした。

本体重量は約259g。手のひらに収まるサイズ感ながら、ずっしりとした持ち重りが心地よい

アラームとリラックスタイム。音が鳴るのではなく、空間を作る

アラーム音にも強いこだわりがあります。大きな音で起こすのではなく、設定時刻の3分前から環境音が静かに流れ始め、徐々に音量が上がっていく仕掛け。いくつか用意されている環境音の中でも、寺尾さんのお気に入りは、昨年訪れたミラノの朝をイメージした「Milan」。ゆっくりとざわめきを取り戻していく朝のミラノに響く鐘の音を再現しています。筆者も毎年春にミラノを訪れているため、その情景がすぐに思い浮かび、深く共感しました。

実は取材の途中、寺尾さんはザ・クロックをリラックスタイムのモードに設定していました。かすかな雨音やコオロギの鳴き声、遠くの雷鳴が室内に流れていたのですが、ほとんど気づかないほどの小さな音量です。ところが、取材の終わりにその音をオフにした瞬間、空間の質がふっと変わったことに驚かされました。

もし何も音がしていなかったら、この取材時間はもっと無機質なものになっていたかもしれません。「音が鳴るのではなく、空間を作る道具」という寺尾さんの言葉が、静かに腑に落ちた瞬間でした。

使い始めてわかった“時間の質”の変化

実際にザ・クロックを生活の中に迎え入れてみると、寺尾さんが語っていた“時間を感じるための道具”という言葉が、少しずつ実感として立ち上がってきました。

何より幸せな気分にさせてくれるのが、毎正時の時報です。やわらかなチャイムの音に気づいてザ・クロックに目を向けると、光で示された振り子の動きがふっと視界に入り、思わず微笑んでしまいます。家人も「時報のときに近くにいて、これを聞いたり見たりできると得した気分になるなあ」と。これまでなら「もうこんな時間!」と焦ることが多かったのに、不思議なものです。

タイマー設定時のホワイトノイズ(アナログレコードの“ザー”という連続音)も、思った以上に効果的でした。周囲の雑音がすっと消え、集中力が高まるのを実感できます。音が“鳴る”のではなく、空間の質が変わる――そんな感覚です。

先日の取材時に感動した「リラックスタイム」も、自宅やアトリエで試してみると、また違った表情を見せてくれました。焚火の音に重なるピアノの旋律のLodgeなど6種類そろっていますが、お気に入りは秒針音と静かに響くギター音のDeparture。月のマークで設定するため、寝る前の“夜モード”という印象がありましたが、仕事の合間の休憩タイムにもぴったりですし、ミーティングの際にそっと持参してもよさそうです。

自宅のベッドサイドに置いてリラックスタイムを穏やかに過ごす
専用アプリBALMUDA Connectでスマートフォンと連携が可能。アラーム時刻やサウンドの選択、文字盤の光り方まで細かく設定ができる

ザ・クロックは「時計」ではない。使いたいときだけオンにすればいい

ザ・クロックは名前こそクロックですが、実は時計ではないのではないか。使い続けるうちに、そんな思いが強くなっていきました。

時間の流れを視覚的に意識させ、明るすぎる日々の暮らしの中で“抑えた照明の心地よさ”に気づかせ、限りある時間を大切に使うことをそっと促してくれる存在。北欧のヒュッゲな暮らしにおける照明のように、空間の質を整えるための道具なのだと感じます。

アトリエではパソコンの隣に置いてタイマーで執筆に集中
自宅のダイニングテーブルにて。どこに置いてもしっくり馴染み、家人からは時報を心待ちにする声が聞こえる

気になっていた内蔵バッテリーの約24時間という駆動時間も、実際に使ってみるとまったく問題ではありませんでした。ザ・クロックは一般的な時計のように、ずっと駆動させておく必要がないのです。

近くに置いてLight Hour(時のまたたき)を楽しみたいとき、集中したいとき、くつろぎたいとき、そんな“いい時間を過ごすための瞬間”だけ電源をオンにすればいい。時刻を知りたいだけなら、スマホやデジタル時計で十分なのです。

モバイルバッテリーで充電中。できれば使っていないときに充電しておきたい
アトリエのソファコーナーで休憩するときにもリラックスタイムの優しい音色に心が休まる

さらに使って初めてわかったことがもうひとつ。電源をオフにしても、再び立ち上げれば時刻を正確に記憶しているということ。約2.5時間でフル充電できるので、移動中や不在時、就寝中に充電する習慣をつければ、日常の中で困ることはありません。そして何より、ケーブルの“しっぽ”がついていない状態で使うほうが、ザ・クロックは圧倒的に美しい。近くに置いて眺めるたび、気分がふっと上がります。

「Time is Life(時は命なり)」――時間を使うということは命を使うということ。毎日を、この時間を大切に慈しみながら生きたいとあらためて気づかせてくれたザ・クロックです。

神原サリー

新聞社勤務、フリーランスライターを経て、顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして独立。現在は家電+ライフスタイルプロデューサーとして、家電分野のほか、住まいや暮らしなどライフスタイル全般の執筆やコンサルティングの仕事をしている。モノから入り、コトへとつなげる提案が得意。企画・開発担当者や技術担当者への取材も積極的に行い、メーカーの現場の声を聞くことを大切にしている。 テレビ・ラジオ、イベント出演も多数。