藤本健のソーラーリポート
ソーラーマニア的スマートメーター導入記。HEMSと連携して発電データを取得
2016年8月31日 07:30
電力会社の乗り換えなどを機に交換される電力メーターである、スマートメーター。このスマートメーターには、検針員が来なくても使用電力が電力会社に送られる通信機能を装備している。
それが電力会社側とスマートメーターが自動で通信するAルートというものなのだが、電力を使用している本人がHEMS機器などを利用して直接情報を入手するBルートもある。電力会社を乗り換えるつもりがない筆者でも、スマートメーターに交換してもらえる秘密のワザ(?)を教えてもらい、これを入手したので、実際にBルートを利用すると、どんなことができるのかを試してみた。
前回の記事でも書いた通り、先日、東京電力に対して「Bルート利用の申し込み」をすることで、電力会社を乗り換えずに既存の買電メーター、売電メーターからスマートメーターに交換してもらえ、7月下旬にBルート利用のためのIDとパスワードを入手した。
一方で、そのBルートを通じてスマートメーターから電力情報を入手するためのHEMS機材も2つ借りることができた。1つはIIJから借りた「SA-M0」で、もう1つはソフトバンク コマース&サービスから借りた「iRemocon Wi-Fi(SM)」だ。
それぞれ同時に使えると比較しやすいのだが、BルートはスマートメーターとHEMS機器との1:1での通信となっているために、片方しか利用できない。そこで、それぞれ1週間程度試してみたので、どんなことができるのかを順番に見ていくことにしよう。
スマートメーターの3つの通信機能「Aルート」「Bルート」「Cルート」
まずは前回の復習になるが、スマートメーターには使用電力情報を伝えるために通信機能を装備しており、その通信の流れとしてAルート、Bルート、Cルートという3つがある。
Cルートはスマートメーターから直接のルートではなく、電力会社間でのものなので、実質的にはAルートとBルートと言っていいと思うが、ルートによって取得できる情報が少し違っている。
まずAルートは、まさに電力料金を算出する目的のものであり、従来であれば検針員の人が毎月、自宅まで来てメーターをチェックして前月との差分を算出した上で、検針票を作っていたが、それを自動でできるようにしたわけだ。
もっとも東京電力では、Aルートでの情報を受け取った後のシステムにトラブルが生じている。5月以降、一部のデータに遅延が発生していて、正確な料金計算が未だにできていないケースもあるが、本来であれば効率よく測定できるようになっている。
一方のBルートは、スマートメーターからの情報をローカルネットワークで直接取得するというもの。この表からも分かる通り、最短取得間隔は1秒となっているため、リアルタイムの使用電力、および売電電力がこれで取得できてしまうのだ。でも、実際に何がどう利用できるのか、といわれるとピンと来ないのが正直なところ。
そこで、2つの機器を試してみたのだが、それぞれ、まったく違うコンププトの機材であり、利用法、得られる情報もいろいろと違ったのだ。
IIJ「SA-M0」でメーターデータを取得
まずはIIJの「SA-M0」から。IIJではPMS=Power Mertering Systemというクラウドを用いたBルートの活用サービスとともに、2種類のハードウェアを発売している。具体的にはルーター、HEMS、Bルートを1台で実現するオールインワンモデルのSA-W1と、Bルートによるメーターデータ取得に特化したコンパクトモデルのSA-M0の2つ。
トライアルとして、どちらかいずれかのハードウェアを貸してもらえることになったのだが、Bルートの機能はどちらも同じとのことだったので、シンプルなSA-M0のほうをお願いした。
SA-M0は見てのとおりとっても小さな機材であり、接続はいたって簡単。ACアダプタを使って電源につなぐとともに、LANのポートに、家庭のLANケーブルを接続するだけ。
これによってSA-M0はインターネットに接続され、クラウドとのデータのやりとりが可能になるのだ。ただし、これだけだと、まだBルートの接続は確立されていない。事前にIIJスマートメーターBルート活用サービスのアカウントを取得してログインするとともに、東京電力から来たID、パスワードを入力する必要がある。これによって、通信がスタートし、その情報が随時クラウドへアップされていく。
ブラウザを用いてIIJのサービスにログインすると、メインメニューが出てくる。画面下のほうには「総消費電力量」というグラフがあり、30分ごとの消費電力量がkWh単位で表示されている。その意味では、Aルートで東京電力に届くデータと同じはずだ。試しに「でんき家計簿」で8月9日の内容と比較してみると、折れ線グラフか棒グラフ化という違いはあるものの、ほぼピッタリ一致するのが分かる。
でも、これだけだと電力会社から買っている電気の情報だけで、売っている情報が分からない。これがどうなっているのかというと、「検針データ」というメニューを使うとわかる。まずは「瞬時電力計測値」というものだが、こちらは単位がWで、その時々の使用電力が表示されており、縦軸を見てみると真ん中が0になっている。
電気を電力会社から買っている場合は上側のプラスで表示され、売っている場合は下側のマイナスで表示される。これを見ても、日中はグラフが谷になっていて0より小さいマイナスの値になっていることから、売電していることが分かる。また水色が当日のもの、青が前日のものだが、よく晴れていた8月8日、9日、だいたい同じようなグラフになっていた。
IIJによると、Bルートでは1秒ごとに電力データを取得できるが、処理速度が求められるのと、クラウドへのデータ転送容量が膨大になってしまうため、通常は30秒ごと、または60秒ごとにデータを取得しているという。これによって瞬時電力を見ていたわけだが、この画面の下には「定時電力量」というものがあり、こちらは単位がkWhとなっている。
そう、電気代は使用した電力量、つまり電力[kW]×時間[h]で決まるわけだが、このグラフではそれが30分ごとに表示されているのだ。グラフをマウスオーバーすると、各棒グラフの値が数字で表示されるようになっている。
正方向というのが買っている電気であり、逆方向が売っている電気だ。電力量を30分ごとに表示しているという意味では、最初に見たグラフや、東京電力の「でんき家計簿」で見ることができるグラフと似ているが、こちらは逆方向も出ているから、売電の状況もハッキリと捉えることができるわけだ。
ここで、やはり欲しくなってくるのは、いまリアルタイムにどのくらい売電できているのか、という情報だ。以前なら外に出てアナログの売電メーターを見ると、晴れていれば猛スピードで円盤がクルクルと回転していたし、曇りだとゆっくりになり、夜は止まるということで感覚的に状況が掴めた。
しかし、現在のスマートメーターには買電の積算値と、売電の積算値が、約5秒ごとに切り替わって表示されるのみ。ちょっと味気ない感じなのだ。
せっかくデータが取得できているのなら、それをダウンロードしてExcelなどで手元で加工してみたいとも思うところ。こうした点についてIIJに確認すると、「データのダウンロードは可能です。IIJスマートメーターBルート活用サービスのWebページは、あくまでも参考としてのもの。APIを開放していますので、ぜひ試してみてください。またデータの保存期間は3カ月であり、データは月次データのダウンロード可能ですので、こちらもご活用ください」とのこと。
IIJは基本的に個人ユーザーへの販売というよりもBtoBのビジネスを考えているから、開発者用のツールを提供している。リアルタイム値を得るにはコンピュータのプログラミングが必要になるのだ。またダウンロードも試してみたところ、CSVのテキストデータが得られるのではなく、JSON形式によるもの。見て分からなくもないが、Excelで簡単に読み込ませるのは難しいのでここでは諦めた。
ちなみに、SA-M0の価格は18,000円(税抜)で、クラウド利用料金はデータ取得間隔が60秒ごとであれば100円/月、30秒ごとであれば150円/月とのこと。現在は企業向けの販売のみだが、今後は個人向けの販売、サービスも検討しているという。
金額ベースで売買電データがわかる「iRemocon Wi-Fi(SM)」
今度は、グラモが開発し、ソフトバンクC&Sが販売している「iRemocon Wi-Fi(SM)」を使ってみた。これを利用するには一旦SA-M0を取り外し、BルートのID設定を解除した上で新たに設定する必要があるのだが、こちらは同じBルートを掴む機材ではあるものの、かなり発想が異なる。
まず、iRemoconという学習リモコンがベースにあり、iPhoneやAndroidなどのスマートフォンから利用することを前提とした機材になっている。筆者はiPhoneを用いて使ったが、iPhone上のgHOUSEというアプリを使って操作するのだ。本体にACアダプタとLANケーブルを接続し、gHOUSEを使ってiRemocon固有のIDを入力するなど初期設定をすると、iPhoneからiRemoconを通じて赤外線の信号を発信できるようになる。
具体的にはテレビやエアコン、照明といった家電をスマホから操作できるようになる。各主要メーカーの設定が用意されているから、この中から選ぶことでたいていの設定は可能。たとえば、エアコンの場合、帰宅する30分前、電車の中から冷房を26℃設定でONにし、玄関手前で照明をONにして、家に入る……なんてことができるわけだ。
なお、ここではLANケーブルを直接iRemoconに挿して使ったが、この名称からも分かる通り、Wi-Fi機能も装備しているため、LANケーブルなしにWi-Fiで接続する機能も有している。また、iRemoconとそれぞれの家電は赤外線でつながっているため、操作したい機器はiRemoconの赤外線が届く範囲に置く必要がある。
さて、このiRemocon Wi-Fiはもともと、スマートフォンなどと連携できる学習リモコンとして販売されていたが、ここにUSBメモリーのような形をしたUSBスティックと呼ばれる機器を接続して新たな製品となったのが今回のもの。このUSBスティックに、Bルート接続のための送受信機能が搭載されているようだ。
が、設定してみたものの、どうもうまくBルートを掴んでくれない。マニュアルを見てみると、受信状態が悪い場合は、付属のUSB延長ケーブルを使って、スマートメーターに近づけてみると改善される場合がある、との主旨の情報が書かれている。試してみたけれど、それでもダメ。筆者の仕事部屋は鉄筋コンクリートの構造であるため電波が入りにくいのは事実。SA-M0の場合は、しっかりしたアンテナが備わっているからか、まったく問題なかったのだが、どうにも電波が弱いようだ。
そこで、さらに手持ちのUSB延長ケーブルを使って窓から外にUSBスティック部分を出してみると……ようやくBルートの電波を掴むことができ、使えるようになった。普通の木造の家であれば問題ないと思うが、スマートメータの設置位置や方向によっては、ちょっと工夫が必要になるかもしれない。
ここからは、すべてiPhoneアプリであるgHOUSEでの操作となるが、メニューから「電力情報」というものを見てみると、グラフィカルな画面が出てくる。
真ん中にはTotalと書かれて、金額とW表記がされているが、よく見ていると15秒ごとに数字が切り替わる。そう、Bルートからの情報を元に、現在の売買電の電力表示とそれを時間単位に換算した金額が表示されており、買電のときは青、売電のときは緑になる。
先ほど求めていた、今の状況が一目でわかるという意味ではSA-M0にはなかった機能だ。また、画面下には今日と昨日の使用電力が金額ベースでグラフで表示されている。
IIJのSA-M0では、あくまでもWやkWhという単位でしかなかったのが、iRemoconというかgHOUSEでは金額表記されているのはどうしてなのか。それは、このアプリ(もしくはクラウド側)がしっかり計算してくれているようで、事前に接続している電力会社や電力メニュー、さらには売電単価の設定も行なうので、それを元に正確に計算してくれているのだ。さらに収支グラフを選択すると、金額ベースでの売買グラフ、Whベースでのグラフを表示することもできる。
ただし、これを見てみると、金額ベースでは売買状況が分かるがWhベースは買電のみの表示となっているようだ。また時間ごとだけでなく、日ごと、月ごとの表示もできるが、iPhoneアプリ画面として作りこまれているので、それ以上に細かく表示することはできないし、見たところデータをダウンロードすることなどはできないようだった。
普通の使い方としては、SA-M0よりもiRemocon Wi-Fiのほうが分かりやすい気はするが、PCでの利用ができず、受信感度が非常に低いというのが難点に思えた。この辺は環境によって違うかもしれないし、好みの問題もあるかもしれない。
なお、iRemoconの価格は32,000円(税抜)。アプリの利用料は2018年12月31日までは無料。その後、電力使用量などを確認したい場合は、iOS端末では月額360円、Android端末では月額300円が掛かる。
スマートメーターと繋げてわかった発電データ
以上が、2つのBルートデータ取得機材を使ってみてのレポートだが、おそらく太陽光発電ユーザーからしてみると、これだけでは満足のいかない点があるはずだ。それは単に、売買電のデータだけでなく、発電データと実使用データも見てみたいという思いがあるという点。家庭での10kW未満の太陽光発電は、余剰電力売電という制度が取られているため、発電した電力と売電する電力が同じではない。発電した電気をまず自家使用し、余った電気を売る形になっているのだ。そのため、夏の晴れた日の日中にエアコンを使っていたとすると、その電力がどのくらいであったのかが、これでは見えないのだ。
まあ、売電メーターと買電メーターを合体させて通信機能を付けたのがスマートメーターなのだから、そこからの情報であるBルートに、こうした情報を求めること自体が間違っているのだが、もしかして何か分かるかも……なんて淡い期待を持ったのはやはり間違い。あくまでの出入り口の情報しか得られなかったのだ。こうした太陽光発電に関するさらなる情報を掴むには、パソコンからの情報を元に得るか、エコめがねのようなモニターシステムを設置する必要がある。
筆者の場合は、12年も前の太陽光発電システムなため、パソコンからクラウド経由で情報を得るなんて高性能な機能はない。普段はエコめがねを使用しているのだが、先ほどの8月9日のエコめがねの時間帯別のデータを見ると、スマートメーターからだけでは見れない情報が見えてくる。金額ベースでのデータはiRemoconのものとほぼ同様だが、電力量はエコめがねだとさらに詳しい情報が見えてくるのだ。
発電した電力と使用した電力がそれぞれ別のグラフで表示されている。これを相殺した結果が、金額ベースのものだったわけだ。リアルタイムでの使用電力などは分からないが、実質的な利用状況を把握する上ではエコめがねが最強であったともいえる。
ただ、筆者の場合、エコめがねを利用するために、月額980円を支払っているので、電力の見える化には貢献しているけれど、必要以上な使用料であるといわざるを得ない状況。最近のエコめがねユーザーであれば、月額利用料という体系ではなく、設置時に10年分の利用料が支払われているはずなので、あまり気にすることはないのだが、筆者がこのまま続けるべきなのか悩ましいところ。スマートメーターのBルートからの情報でよしとするべきか、もう少し悩もうと思っている。