藤本健のソーラーリポート

太陽光発電システムをタダで設置できる「じぶん電力」とは

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 電力自由化がスタートして4カ月。なかなか決定打になるようなメニューがないためか、実際に電力会社を切り替えた人は2%程度とのことだ。そんな中、「電力契約を結ぶと、自分の家の屋根にタダで太陽光発電システムを設置してくれ、そこで発電される電気を利用できる」というユニークなサービスがあるのをご存知だろうか?

 「じぶん電力」というサービスで、まさに自分の屋根でできた電気を買うというもの。無料またはきわめて低額で太陽光発電システムを設置してくれるサービスとしては、以前にもDMMやソフトバンクが行なっていたが、これらとは考え方も少し違うようなのだ。

「じぶん電力」

 この「じぶん電力」とはいったいどんなものなのか、サービス展開をしている会社、日本エコシステムに伺い、代表取締役社長の白髭博司氏、取締役・電力部長の石原敦夫氏に話を伺ってみた(以下、敬称略)。

日本エコシステム 代表取締役社長 白髭 博司氏
取締役・電力部長 石原 敦夫氏

「じぶん電力」とは、そもそもなんだろう

――「じぶん電力」って、なかなかユニークなネーミングですが、太陽光発電システムをタダで設置してくれるサービスというのは本当なんですか?

 石原:その通りです。3月16日に、国内初のサービスとして太陽光発電を活用した電力小売り事業「じぶん電力」というものを展開することを発表しました。この「じぶん電力」の最大の特徴ともいえるのは、メガソーラーなどから送配電網を通じて各家庭に電力小売りをするのではなく、各家庭の屋根から直接電力を供給するサービスとなっており、そうしたサービスモデルとしては国内初のものとなっております。まさに自分の屋根で発電した電気を買うので、「じぶん電力」と名付けさせていただきました。

「じぶん電力」の事業モデル

――電力自由化に伴って、いろいろな電力会社が登場してきました。ガス会社や電話会社、石油会社など大手企業が中心である印象もありますが、日本エコシステムというのは、どんな会社なのでしょうか?

 白髭:当社は20年前に設立したベンチャーで、ちょうどシャープが初めて住宅用太陽光発電の国内販売を始めたタイミングであったことから、その代理店としてビジネスをスタートさせました。それ以来、住宅用太陽光発電システムの設置・施工を中心にずっと展開してきまして、これまで累計で37,000棟の個人のお客様に対して設置してきた実績を持っております。

 独立系の企業として歩んできましたが、一昨年、東証一部上場企業である日本コムシスの傘下に入り、現在は日本コムシスの100%子会社となりました。その意味では、安心していただける大きな企業となっております。

――無料で太陽光発電システムを設置するという意味ではソフトバンクが以前そうしたサービスを展開していたし、DMMも8万円で設置するというサービスを行なっていますが、これらとはどう違うものなのでしょうか?

 白髭:ソフトバンクのサービスはスタート後1年で終了していますが、実は同社が設置したうちの200棟は当社が審査業務や割り付け業務を行なっていたのです。それを引き継ぐというわけではありませんが、無料で設置するという形のサービスを当社でも展開してきており、これまで550件・5.2MWのシステムを設置するとともに、現在もその運用が続いてます。

 そうした経験を踏まえて、今回の「じぶん電力」をスタートさせたわけですが、これらの大きな違いは、電力会社との契約という面です。従来のものは、お客様はあくまでも東京電力や関西電力などの大手電力会社と契約をしたまま、当社と太陽光発電に関する契約を行なうというものでしたが、今回のものはそれを1本化しているというのは大きな違いです。

 また仕組み的にいうと、従来は全量売電という形をとっていましたが、今回は余剰売電という形になっているので、電気の流れも大きく違っているのです。

屋根で作られた混じりけのないクリーンな電気が使える

――確か、ソフトバンクでのサービスは、各家庭の屋根にある複数の太陽光パネルをまとめて大きな発電所と見なすことで、全量売電を実現していたんですよね? そういう意味でも、ある種、屋根貸ビジネスだったと思います。余剰売電ということは、それとは違う、と。

 石原:その通りです。実はこうした屋根貸というか、屋根の上の太陽光発電システムを家主ではなく、第三者が持つという事業、日本ではまだ少ないものの、アメリカでは新規設置される住宅用太陽光システムの6割以上がそうした形になっているんです。Solar Cityという会社がその大手なのですが、そうした事例も参考にしつつ、FIT価格の動きも考えた上、今回の「じぶん電力」を設計しています。

 全量売電としてしまうと、屋根で発電した電気は、いったん全部、外に流れてしまいますが、余剰売電にすると、発電した電気はまず自分の家で使う形にできるので、このようにしたかったのが1つ大きな理由として挙げられます。

 まさに送電線を介さない、混じり気なしの再エネ電気。電気を買う側としても、明らかに自分の屋根で発電された、クリーンなエネルギーであり、いわゆるFIT電気とは違うもので、環境価値を持った電気なのです。

送電線を介した電気は他の電源と混ざってしまうが、「じぶん電力」を用いることで屋根で発電されたクリーンな電気を直接使うことができる

――確かにFIT電気は、自然エネルギー由来であるとはいえ、その環境価値は、賦課金という形で国民全体で負担しているものなのに対し、これなら産地直送というか、家の屋根で発電した電気だから意味合いも違いますね。また、論理的にはFIT電気を使っているとはいっても、電線を流れてくる電気に色はついてませんから、物理的に石油で発電したのか、ガスで発電したのか、原子力で発電したのか、メガソーラーなどで発電したのかは分かりませんから……。

 石原:一方で、電力自由化と合わせ、電力契約を1本化できたのも従来との大きな違いです。お客様は複数の電力契約を結ぶのではなく、当社の「じぶん電力」に切り替えるだけですので、シンプルな形になっています。

電気が不足したら? 電気代はどうなるの?

――日中の晴れている時間帯は、屋根からの電気が使えるのはいいですが、雨天のときや、夜間の電気はどのようになるのでしょうか?

 石原:その場合は、エネットからの電気をお使いいただくことになります。エネットは新電力でトップシェアをとっている会社で、NTTや東京ガス、大阪ガスが出資した会社という意味でも安心できる会社です。使われている電力の構成もオープンになっており、LNG火力による電気を中心に供給する形になっています。

屋根からの電力が不足の場合、エネットから電気を供給する

――一方で、昼間発電した電気において、家で使いきれなかった分はどのようになるのでしょうか?

 石原:これは余剰電力としてFIT制度により当社が売電を行なう形になり、当社の利益になります。つまり、太陽光発電を使って自分で利用する電気、夜間など足りないときに使う電気、売電する電気と大きく3種類の電気をうまく活用していく形となります。

 どれだけ発電し、どれだけ使ったのかといった情報については、太陽光発電システムの設置とともにNTTスマイルエナジーのモニタリングシステムである「エコめがね」を設置しますので、これと売買電の検針結果を元にして算定していきます。この辺は、すべて当社で行なっていきますので、お客様を煩わすことはありません。

――なるほど、使う側としては、従来と変わりなく電気を使うことができるわけですね。初期費用ゼロで、太陽光発電が設置できるという点も魅力ではありますが、結果として月々の電気代が膨大に上がるとしたら、やはり躊躇してしまいそうです。

 石原:電気代がどうなるかはお客様の消費パターンや天候によっても変わってきますが、多くの場合、従来よりも安くなるはずと試算しています。

電気代の比較例

 図のように、50A契約の場合、年間で8,496円安くなる試算です。基本料金が安くなるほか、エネットから購入する電気代も東京電力と比較すると単価が安くなっているので、こうした価格が実現できているのです。肝心の太陽光発電での電気代は27.00円と設定していて、変動要素が小さいというのも大きなポイントとなります。

――変動要素が小さいというのは、どういう意味ですか?

 石原:ご存じのように、現在の電気代は規定料金のほかに、「燃料費調整」と「再エネ発電賦課金」というものが加算される形になっています。現在、原油価格が安くなっていることもあり、燃料費調整についてはマイナスとなっていますが、将来は大きく上がっていくということも言われています。

 一方で再エネ発電賦課金は、今後しばらくは毎年上がっていくことが予想されているわけですが、「じぶん電力」における太陽光の電気代は、あくまでも屋根で発電した電気を使うだけなので、「燃料費調整」も「再エネ発電賦課金」もかかりません。その意味では、安く使える電気ということができると思います。

――太陽光発電システムのもう一つの大きなメリットとして、災害時など、インフラが止まったときに利用できるというものがありますが、「じぶん電力」で設置したシステムは災害時に使えるものなのですか?

 白髭:外部からの電力供給がストップした場合、ご自宅に設置した太陽光発電システムで発電した電気を非常用コンセントから使うことができます。こうした安心も、「じぶん電力」に切り替えていただく大きなポイントだと考えております。

契約年数、設置場所……「じぶん電力」の導入条件は?

――そう聞くと、メリットばかりで、何のデメリットもないようで、すごく魅力的ですが、何か落とし穴があるのでは……とちょっと不安にもなってしまいます。たとえば、設置した太陽光発電システムに故障が発生したような場合はどうなるのでしょうか?

 石原:この太陽光発電のシステムは、当社のモノなので、トラブルがあった場合は、当社が修理を行ない、ここで費用がかかるようなことはありません。またデメリットというのか分かりませんが、ここでの契約は20年間となります。この20年間の契約期間を満了した後は、太陽光発電システム一式は無償でお客様に譲渡し、お客様の所有になります。

――20年間の契約というのは、さすがに長くて、この先どうなるのか分からないという不安もありますね。たとえば3年後、5年後に、やっぱり電力会社を乗り換えたいと思ったら、どのようなことになるのでしょうか?

 石原:その場合は、「太陽光発電システム買い取りオプション」というものをご利用いただく形になります。つまり、電力供給の契約を解除するとともに、屋根に乗せた太陽光発電システムを買い取っていただく形になるのです。といっても、ここで高い金額を請求するつもりはありません。

 たとえば初年度にすぐに買い取りオプションを実行していただいた場合、新規に太陽光発電システムを導入する金額とほぼ同一です。また年を重ねるごとに、減価償却していくので、買い取り価格も安くなっていく形です。そのため、本当は普通に太陽光発電システムを屋根に載せたいけれど、いきなりその金額を用意するのは厳しいという方に利用いただき、何年か運用して安くなってきたところで購入いただく、という使い方でも構わないんですよ。

――なるほど、それはなかなか面白い導入方法ともいえますね。

 白髭:実は、この「じぶん電力」のスキームについて各パネルメーカーにもお話しをしたのですが、ソーラーフロンティアさんが非常に気に入ってくださり、パネルを安く提供いただくことができました。そのため、買い取りオプションを初年度に実行したとしても、おそらく他社で設置するよりも安くすむのではないかと思いますよ。

――つまり「じぶん電力」の契約をした場合は、ソーラーフロンティア製のCISソーラーパネルが設置されるということなんですね。ここでもう一つ気になるのは、誰でも申し込めば「じぶん電力」の契約ができるのか、という点です。いろいろ条件があったりするのでしょうか?

 石原:はい、条件はあります。まずはマンションなどの集合住宅ではなく、屋根のある一戸建ての家であることが前提となりますが、1つ目の条件としてお客様の年齢が60歳未満であるということです。ただ、これは契約者ご自身がというのではなく、住んでいらしゃるご家族の方のどなたかが60歳未満であれば大丈夫です。そして家が築20年未満であるということ。こちらも屋根の葺き替えをされていれば、そこは考慮しますので、ご相談いただければと思います。

 また現時点においては、北海道、東北の日本海側、北陸および沖縄は対象外とさせていただいております。まずはWebからお申込みいただけるようになっており、その後コールセンターからメールや電話で上記基本条件の確認をしていきます。その上で、家の屋根の図面と電力の検針票を元にシミュレーションさせていただいた上で、現地調査なども行ない、設置可能かどうかのチェックをした上で契約に進んでいただきます。

――以前、ソフトバンクやDMMに聞いた際は、やはり屋根の大きさがある程度ないと契約は難しいということを言っていましたが、その辺はいかがですか?

 石原:総合的に見ていくので、決まった基準があるわけではありません。設置可能容量が2.5kW未満など非常に小さな屋根だとお断りするケースもありますが、一般的な大きさであれば十分対応可能だろうと考えております。

――いろいろ伺ってみても、やはり魅力的に感じます。これだけのメリットがあれば、切り替え希望者が殺到するのでは……とも思いますが、かなりの投資額が必要になるでしょうから、無制限にいくらでも契約するというわけではないですよね?

 白髭:資金調達については外部に頼ることなく、すべて親会社の日本コムシスから受けられるようになっており、2年間で100億程度と想定しています。これは10,000棟に相当する金額であり、目標としては今年4,000棟、来年6,000棟。まだ、広報不足ということもあり、それほどの申し込みは来ていません。また工事に人手もかかるので、この目標をクリアするのは、なかなか大変だろう、と考えているところです。ぜひ、多くの方に興味をもっていただければと思います。

藤本 健