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約半世紀にわたりツッパってきた「つっぱり棒」の進化

「つっぱり棒博士」の称号を持つ平安伸銅工業の竹内香予子社長。自宅には100本以上のつっぱり棒を備え、「つっぱり棒ハウス」と称してメディアなどに公開している

つっぱり棒。改めて説明が必要な人はどのぐらいいるでしょうか? 40〜50歳以上の人なら使ったことがあるでしょうし、若い人であれ実家などで目にしたことがあるはずです。

今さら説明するのもなぁと、ChatGPTにしてもらった説明がこちら。

「つっぱり棒(つっぱりぼう)とは、両端が伸縮自在で、端部にスプリング(ばね)などのメカニズムを持つ棒です。この棒を使って、壁や家具の間に固定し、物を掛けたり、収納スペースを作ったりすることができます。主に、カーテンレールとして使われることが多いですが、クローゼットの中で追加の棚を作るために使われることもあります。また、小さなスペースを区切るパーティションとして使用することも可能です」

「つっぱり棒の利点は、取り付けが非常に簡単で、壁に穴を開ける必要がないことです。そのため、賃貸住宅に住んでいる人々にとっては、特に便利なアイテムとなっています。サイズや材質も様々で、用途に応じて選ぶことができます」

はい、ほぼ100点。1つ付け加えるなら、日本では地震対策として家具と天井を固定する使われ方も多いですね。

このつっぱり棒を日本で最初に売り出し、現在も最大のシェアを持つのが、平安伸銅工業株式会社。1975年の発売以降、日本中につっぱり棒が普及します。他社との価格競争もあり、(同社の)売上のピークは1994年で、以降下がり続けていました。もはやオワコンかと思われた事業をV字回復させたのが、3代目社長の竹内香予子社長です。

創業者の孫に当たる竹内社長は、どちらかというとダサいイメージ(失礼!)のあったつっぱり棒を、インテリアにも使えるアイテムへと再定義します。その結果生まれたのが、ホームセンターなどで購入した木材をつっぱり棒やつっぱり棚に加工できる「LABRICO(ラブリコ)」や、クリエイティブユニット「TENT」とのコラボレーションブランド「DRAW A LINE(ドローアライン)」です。

「LABRICO」を使えば、穴を開けることなく薄型テレビを壁に設置可能。こうした、天井と床の間に設置するタテ型のつっぱり棒は、玄関など限られたスペースにも向いています。

デザイン性の高い「DRAW A LINE」シリーズでは、照明器具との組み合わせも人気が高く、ランプの品揃えを充実させているとのこと。

木材をつっぱり柱にするパーツ「LABRICO」を使えば、薄型テレビを壁に設置できる
クリエイティブユニット「TENT」とのコラボブランドレーション「DRAW A LINE」シリーズ(写真は、「ShadeArmL Floorlight Set」)

スペースパフォーマンスの向上

「このような取り組みに加えまして、私自身、オワコンじゃないかと思っていた既存のつっぱり棒も、たくさんの方に愛をいただいていると実感し、まだまだ可能性を広げていけるんじゃないかと考えました」(竹内社長)

竹内社長は「つっぱり棒研究所」を立ち上げ、自らテレビなどのメディア出演を含め、つっぱり棒の正しい取り付け方の訴求や普及を促す活動を行なっています。

つっぱり棒も、コロナ禍の巣ごもり需要があり、その後は売上が踊り場の状態です。しかし、一方で、住宅価格の高騰による居住面積の縮小傾向や、在宅勤務の定着などは、つっぱり棒にとってポジティブな要素だと竹内社長は言います。

「スペースのパフォーマンスを上げる、いわゆるスペパが、暮らしにまつわるトレンドになっています。つっぱり棒を使っていただくことで、大がかりな工事をすることなく、空間の価値を変えることができる。賃貸でも可能ですし、引っ越しなど住環境が変わっても取り外して、また別の場所で別の用途で使っていただけます」(竹内社長)

2月末発売の「AIR SHELF(エアシェルフ)」は、コード類のごちゃつきを隠すカバーやキャップ、支柱のくぼみがあり、家電製品をすっきりと設置することができます。

コード類を隠してすっきり見せる「AIR SHELF」

パワーも昔よりアップしている

つっぱり棒は、見た目だけではなく、性能も進化しています。2005年に発売した「HGP-75」は、見た目は普通のつっぱり棒のように見えますが、業界最強の耐荷重80kgを実現。

「つっぱり棒は落ちる、重い荷重に耐えられないというイメージの中、トップメーカーとして他社にはない強力なつっぱりポールを発売しました。細部に渡る改良とこれまでにない機構を持ったキャップを開発したことで実現しています」(竹内社長)

つっぱり続けて、50年近くが経とうとしているつっぱり棒。ちょっと緩んでいそうなご自宅のつっぱり棒を再点検するとともに、新たなスペース確保などを考えてみてはいかがでしょうか。

業界最強の耐荷重を実現した「HGP-75」。長さは75〜110cmで、最短75cmでの使用では80kgの重量に耐えられる(画像提供:平安伸銅工業)
2月8日に開催された「つっぱり棒の日」記念発表会では、ゲストになかやまきんに君を迎え、「HGP−75」が80kgベンチプレスのおもり(プレート)に耐えるデモが行なわれた。ヤー!
小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>