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世界に認められた日本の星空を照明が守る!? パナソニックと地元の「環境と観光」連携

「星空保護区 アーバン・ナイトスカイプレイス」に認定された福井県大野市 南六呂師地域
写真撮影:パナソニック

秋の訪れで気温が下がっていくとともに、キレイな星空が楽しめる季節がやってくる。普通は満天の星が輝く星空を楽しみたいなら、ビルなど建物の照明が多い都会を離れ、山奥など自然の豊かな場所へ行くことになるが、街から遠く移動しなくても明るい星空が楽しめる場所があるという。

8月にアジア初という「星空保護区 アーバン・ナイトスカイプレイス」に認定された、福井県大野市の南六呂師地域。この場所が”世界に認定された星空”となるためには、実は屋外照明において、多くの改修や工夫がなされているとのこと。パナソニック エレクトリックワークス社が開発した特別な照明器具がこの地域に導入され、大野市や地元の福井工業大学との連携で認定に至ったという。パナソニックが行なったメディアツアーに参加し、具体的にどのような取り組みで星空を守る環境が実現したのか取材してきた。

街に近くても星空が楽しめるのはなぜ?

南六呂師地域が認定された「星空保護区」は、米国を拠点とする国際団体ダークスカイ・インターナショナル(旧・国際ダークスカイ協会)が制定したもの。同団体は、天文関係者や照明技術者、環境学者ら幅広いメンバーで構成し、照明などで星が見づらくなるほど明るい「光害」に関する調査や啓発活動を展開。世界のキレイな星空を守っている団体といえる。

星空保護区に日本国内で選ばれたのは、西表石垣国立公園(沖縄県石垣市・竹富町)、神津島(東京都神津島村)、美星町(岡山県井原市)に続いて4番目。いずれも自然の豊かな地域だが、今回の大野市が選ばれたのは、新しい「アーバン・ナイトスカイプレイス」というカテゴリーだ。

ダークスカイ(DarkSky)の星空保護区カテゴリー

「アーバン・ナイトスカイプレイス」のカテゴリーに認定されるのは、簡単に説明すると「大きな都市から遠く離れなくても星空が楽しめる自治体」。人口1万人以上の自治体の居住エリア(または複数の自治体で合わせて人口5万人以上の居住エリア)の端から50km以内に位置し、夜間でもアクセスできる場所でなければならないほか、道路や建物などにある公的な屋外照明が全て「光害対策基準」を満たしていなければならないという、とても細かく厳しい内容だ。

星空保護区に認定されるまでの道のり

星空を守るための“明るすぎない”照明

大野市が星空を守る取り組みを始めるきっかけの一つとなったのは、環境省の「日本一美しい星空」に2年連続で選ばれたこと。この美しさに惹かれた地元の福井工業大学教授が、大野市にこの星空の素晴らしさを周知/活用するよう提案したことが、現在の取り組みにつながっているという。

ところで照明の基本的な役割といえば「安全を守るために周囲を明るく照らす」こと。特に自治体は、道路や建物、駐車場などの安全を維持することが求められるため、広く明るく照らせる設備を配置する方が効率が良い。

一方で、認定団体であるダークスカイが星空保護区に求める条件であり、パナソニックや福井工業大学が取り組んだのは「どうやって暗くするか」だった。正確に説明すると「星空の明るさを邪魔しないように照明の光を“下だけ”に照らし、上へ漏れないようにする」ことだ。

具体的な基準の一つ「上方光束率0%」は、上方への光の漏れが一切ないこと。もうひとつ「色温度3,000K以下」は、一般的な屋外照明に比べて色温度が低い(黄色っぽい)光で照らすことだ。色温度が高い(青っぽい)光は、空に漏れると広がりやすく、星が見えづらくなってしまうためだという。

パナソニックが開発した、ダークスカイ認定済みの照明を実際に近くで見ると、光が真横よりも下を照らしており、上に漏れていないのが分かる。また、電柱などで見かける街路灯(防犯灯)は、より広い範囲を照らせるように「斜め上」方向に角度を付けて設置されることが多いが、南六呂師に設置された照明はいずれも電柱などに対して垂直90度の「真横」になっている。これも光を上に漏らさないための方法だ。

光が上に漏れないように、真横の方向になる角度で設置した。説明してくれたのはパナソニック エレクトリックワークス社 野中厚志さん
下から見ると、しっかり明るさがあることが分かる
ダークスカイ認証照明
実際の設置例。道路はしっかり照らしながら、上には光が漏れないように配慮
写真撮影:パナソニック

認証照明を取り付ける前の建物を写真で見ると、確かに明るく照らしていて周囲の様子が分かるため安心できるが、少しまぶしすぎるほどに見えて、夜の落ち着いた雰囲気はすこし損なわれているようにも感じられる。

認証照明を設置する前の照明
認証照明を設置した後の例。上には光が漏れていない

改修後の照明は、決して足元など周りが見づらいほど暗く危なくなっているのではなく、はっきりと照らされているが、上を見ると光が必要以上に広がっていないのが分かった。

福井工業大学の下川勇 教授が具体的な取り組みを説明

自治体や大学との協力で星空保護区に認定

星空保護区への認定にあたって必要だったのは、大野市、福井県それぞれの自治体が所有する屋外照明の改修。防犯灯や街路灯も、屋外にあるものはダークスカイ認証済みの照明に改修された。

パナソニックが開発したダークスカイ認証済み照明の設置例
高い所の照明も同様に上へ光が漏れないようになっている
照らしている下側部分はしっかり明るい

改修したのは屋外だけではない。例えば「建物の軒下」は、ダークスカイによる区分では屋外ではなかったものの、明るすぎると外に光が漏れて星空を見えにくくしてしまう。そこで、先ほどのダークスカイ認証照明とは別の製品で、光が上へ漏れないよう物理的にカバーされたパナソニックの照明が用いられていた。

子供たちの研修やキャンプなどに活用されている、福井県立奥越高原青少年自然の家。玄関前の軒下にある照明も、光が上に漏れないように工夫されていた

大野市の石山志保 市長にも話をうかがった。かつて環境庁に務め、「環境と観光」への取り組みを大切にしてきた石山市長。星空保護区認定のために、市の照明改修を行なったほか、詳細な観測データ提供や光害対策、この環境を未来に続けていくための啓発活動などにも協力してきた。

大野市 石山志保 市長
星空保護区認定を記念して作られたロゴマーク。星空保護区を活用する場面で使用される

大野市は、長野県松本市を起点に飛騨、奥越地方を通って福井市まで続く中部縦貫自動車道の開通が控えていることもあり、地域経済を盛り上げる観光の一つとして着目したのが美しい星空。福井工業大学のアプローチもあって、具体的にプロジェクトが進められた。

石山市長によれば、ダークスカイに認証済みの照明をパナソニックが開発していたことや、先に星空保護区に認定されていた美星町(岡山県井原市)の取り組みも、大野市が認定に向けて活動することを後押ししたという。

星空保護区認定に関する啓発活動も

福井県の観光面でいま注目されているのは、2024年3月16日に開業することが決まった北陸新幹線。そこから大野市の星空の誘致について「大野市に来るためのコースを作ってあげることが大事。中心地の宿泊施設から『星空バス』で観光客が訪れやすくするなど、星空を見たい人に届くような取り組みが必要」と語っている。

照明を設置した事例として訪問した、大野市「ミルク工房奥越前 六呂師高原の時計台」は、緑の広がる大自然の中で生乳アイスやバーベキューなどが楽しめる施設。防犯灯などの照明器具は、もちろん星空の明るさを邪魔しないダークスカイ認証のものだ。星を楽しむイベントとして、軒下にハンモックを並べて、寝ながら星空を眺める「星空ハンモック」などを行なっている。

ミルク工房奥越前 六呂師高原の時計台。牧場の濃厚なソフトクリームなども味わえた
「星空ハンモック」で揺られながら空を眺めることも

身近な自然が最新技術とのかけ合わせで観光のきっかけに

今回の取材は残念ながら曇り空が続き、世界に認定された星空を見ることはできなかったが、年間で100日前後はキレイな星空を眺められる日があるとのこと。福井県出身の筆者にとって「六呂師」といえば、子供のころによくスキー場へ行ったイメージが強く、県内の身近な遊び場として親しんできたが、大野市の新しい魅力を知る機会にもなった。

写真撮影:パナソニック

福井県大野市といえば、街の中心エリアにある大野城が、特定の気候条件がそろったときに雲の上に浮かんだようにみえる“天空の城”でも知られている。広大な「九頭竜湖」、百名山に選ばれた「荒島岳」などのほか、キャンプやアウトドアを楽しめる場所も多い。

天空の城 越前大野城(大野市公式YouTube)

大野市長も語っていたが、地元の良さは、そこに住んでいると実は気づきにくく、他の場所へ行ったときに初めて実感することも多い。星空がキレイに見えることも、地域の人たちにとっては日常の風景だが、それを守るために、照明などの技術だけでなく、企業や大学の協力などいくつもの連携があって今回の認定につながったことを知った。

今回のように星空を新たな観光資源とする取り組みは、もともとある自然を守りながら地域を活性化する事例として、同様の環境を持つ自治体などでもヒントになるかもしれない。

写真撮影:パナソニック
中林 暁