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睡眠の悩みに応えるcheero「NEM」。低価格なシンプル機に込められた願いとは?

睡眠をサポートするcheero「NEM」

現代人の悩み、不眠

筆者はいたって寝付きはいいほうなのだが、夜中に一度トイレに起きてしまうと、それから朝まで眠れないことがある。妻も眠りが浅い方で、少しの物音でも起きてしまうので、筆者のトイレで目が覚めてしまう。そのかわり、昼過ぎにガクッと眠くなって2人とも寝落ちしてしまったりして、どうにも1日の効率が悪い。まくらを変えたりマットレスを買ったり色々試してみたが、変えた当初はいいなと思っても、慣れてしまうとまた同じ事の繰り返しである。

ストレスが高まると睡眠に影響が出ることはわかっているのだが、簡単に解決できないからストレスになるわけだ。寝不足の頭ではいい知恵も浮かばないのでストレスが解決できないという、堂々巡りである。

そんな折、モバイルバッテリーやイヤホンで知られるcheeroから、睡眠をサポートする音源再生プレーヤー「NEM」を試用させていただく機会を得た。実際試してみると、これが実によく眠れる。

もともとcheeroは8年前から「Sleepion」というスリープテック商品を開発・販売しており、このジャンルでは老舗と言ってもいいメーカーだ。ただ、最新のSleepion 3が1万円を切るまではどれも2万円越えの製品だったので、筆者としてはなかなか思い切ることができなかった。

一方NEMは直販サイトで7,150円と、それほど高くない。最近睡眠で悩んでいる方に、ぜひご紹介していきたい。

出先でも乗り物の中でも使える

NEMの本体は、手のひらサイズのシンプルなポータブルプレーヤーである。サイズは約70×44×16mm(幅×奥行き×高さ)で、Bluetoothに対応し、イヤホン対応のアナログ端子もある。バッテリー内蔵で、2時間の充電でBluetooth使用時は約22時間の再生が可能。

小型・軽量な本体
右側に充電用USB Type-C端子と電源ボタン
左側にはヘッドホン端子

しかし外部から音源が書き込めるわけではなく、価値は内蔵されている音楽にある。睡眠用として1時間の音源が20種類、仮眠用として25分の音源が10種類内蔵されている。

睡眠用の音源は、いわゆるヒーリング系のサウンドもあればオルゴール音もあり、波の音、雨の音、小鳥のさえずり、朗読など、多様なジャンルに渡っている。ただ聴いているうちに途中で寝てしまうので、どれも最後まで聴けたことがない。

仮眠用の音源はヒーリング系8つ、波の音、鳥のさえずりの10種類で構成される。だいたい20分ぐらいで起きられるよう、そのぐらいになるとリズムを刻んだアップテンポの音楽に変わる。

操作は簡単で、ホームボタンにはBluetoothの設定と、SLEEP、RESTの3ボタンしかない。Sleepをタップすると、すぐに音が流れはじめる。音のタイプを変えたい時は、上の番号をアップダウンするだけだ。寝る前に頭を使ってゴチャゴチャする必要がないのは助かる。

ホームにはボタンが3つしかない
「SLEEP」をタッチするとすぐ再生画面になる

Bluetooth対応ということで、イヤホンで聴く前提なのだろうが、筆者はBluetoothスピーカーで聴くことをお勧めする。イヤホンだと寝返りを打ったときに外れたり、横を向いたときに耳にめり込んだりと、快適とはいえないからである。

筆者はベッドサイドに置いたAmazon Echo StudioにBluetooth接続で鳴らしている。小さい音でも低音がちゃんと出るので、イヤホンで聴くのと変わらないバランスで聴く事ができる。さらに「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」と組み合わせると完璧だ。

NEMはポータブルプレーヤーなので、どこにでも持って行けるのもポイントだ。筆者は旅先のホテルで夜はいつも輾転反側、翌日の予定の段取りなどが頭から離れず、明け方近くまで眠れないことがよくある。だが先日滋賀県に出張した際は、「いつも眠れている音」を持ち歩いている安心感もあったのだろう、NEMのおかげでサックリ眠ることができた。

「自分が眠れない」からのスタート

いくら筆者が眠れると言ったところで、個人の感想の域を出ないレポートではどうにもつかみ所がないだろう。そこで今回はNEMの開発を指揮したティ・アール・エイの代表取締役・東 享氏に、開発経緯や製品の狙いについて話をうかがった。

製品開発を指揮したティ・アール・エイ 代表取締役の東 享氏

――御社は以前からスリープテック製品を開発されていますよね。そもそも御社がこの領域に参入されたきっかけは何でしょう?

僕は今72歳なんですけど、我々くらいの年齢になるとなかなか眠れないんですよ。またビジネスであちらこちら行くんですけど、ホテルのベッドで眠れないのが苦しくて苦しくて。翌日仕事ですから、眠らないといけないという焦りでさらに眠れないという。

出張で眠れないのがいかに大変なのか、私自身が体験したんですね。かといって睡眠薬やサプリメントは副作用もあって体に良くないという話も聞きますが、皆さんそのリスクを負っても使っておられる。そこをなんとかできないだろうかという思いはずっとありました。

そんなとき、睡眠と健康の関係を30年以上研究されている大阪府立大学名誉教授の清水教永医学博士と知り合う機会がありまして。気さくな方なのでその悩みを相談したところ、条件が揃えば眠れるよと。「ホンマですか!」という中でスタートしたわけです。

――その条件というのは?

人間には五感というのがありますよね。視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚。そのうちの三感を使えれば寝られるよと。そこで8年前に開発した初代Sleepion 1のころから、聴覚、視覚、嗅覚を使って寝られる環境を作るということをやっています。

音の問題は特に大きいですね。テレビ見ながら寝るという人も多いし、お坊さんの読経も眠くなる。あれもひとつの抑揚の声なんですね。そこをもっと研究せんといかんと。4年前にアメリカで第31回の睡眠学会に参加したんですけど、アメリカは国の援助があるので、眠りに対しての音の研究が相当進んでいます。

一方で香りは、昔からかなり研究が進んでいます。西洋のアロマは、自律神経に作用するものと、副交感神経に作用する2通りがありまして、昔から治療に使われていたんですね。また日本では昔からお香による「香道」が発達しています。

――そんなSleepionシリーズも改良を積み重ねて3世代目まで開発されていますが、製品アプローチとしてはどう違うんでしょうか。

Sleepion 1は基盤から音楽からあらゆるものを日本製で作りましたから、当時は3万6千円ぐらいで高かったですね。僕自身は、未だに家ではずっとSleepion 1で寝ています。出張する時はバッグに入れて持っていって、寝られるようになってずいぶん助かったんですが、ちょっと大きかった。

Sleepion初号機

そこで持ち運びに便利な物として、Sleepion 2を開発しました。これはモジュールが色々あったんですが、睡眠で困っているのは主に年配者なんです。そうなると多少操作が複雑と感じられるようで、説明が必要になってしまいました。また小さいと、音の問題も出ます。1はステレオスピーカーでしたが、2はモノラルでした。音としては1の方が良かったんです。

持ち運べるように小型化したSleepion 2

次のSleepion 3は、安く簡単操作にできないかということで、中国メーカーと話をしました。設計は日本できっちりやって。スイッチは3つしかありません。ボリュームと、ライトと、曲のスキップだけです。アロマもシールに染みこませた独自のシートを、日本メーカーと共同開発しました。アロマというのは油なので、夏はべとつきます。寝ようと思ったら油が手について、手を洗ったら目が覚めて、とならないようにですね。

低価格と簡単操作を両立したSleepion 3

――製品を世に出されて、手応えとしてはいかがでしたか?

実際売ってみたら、海外のほうで反響が大きかったですね。現在は日本だけでなく、ロシア、イギリス、中近東、アメリカで製品化しています。 一方日本は一生懸命仕事せいというような精神論が大きく、眠りに対してアプローチが浅いように思います。睡眠の重要性の理解は深まっていますが、日本人は薬に頼りがちなのではないでしょうか。

ただ日本のお客様からも、よく眠れるようになった、睡眠薬の量が減ったとユーザーアンケートハガキが大量に戻ってきています。こういうのをみると、作って良かったなぁと思いますね。

それでも「NEM」を開発したわけ

――ある意味Sleepion 3で完成の域に来たという気がします。価格も1万円を切って、ずいぶん買いやすくなりました。それでもNEMを開発した理由というのは?

Sleepion 3ができて、これで終わろうかなと思っていたんですけど、出張中の電車、飛行機の中では使えません。また、音はステレオで聴きたい。Sleepion 2と3はモノラルでしたから。何か方法はないか、イヤホンではどうか、というところから、新しいシリーズを作る事にしました。

名前を変えたのは、これまでは音と光と香りの3つでやってましたけど、今度はアメリカで研究が進んでいる音を中心にやってみようと。音の複雑さ、神秘さは我々も痛感しているところですが、NEMは音に特化して、中に入っている音楽も変えました。

――音楽配信サービスでも、睡眠のためのプレイリストなんかがあります。こうしたヒーリングミュージックと、NEMに入っている音は何が違うんでしょうか?

ヒーリングミュージックは、「曲」なんですね。心を落ち着かせるためのものというか。実は眠るのには、「曲作り」は不要なんです。なぜかというと、曲を聴く事に集中してしまうから。我々が一番いいと思うのは、なるべく単調な音の繰り返しで、「曲」ではないんですね。それで心を静めて脳が疲れて眠りに導くというのが我々のやり方です。

普通音楽にはリズムがあって、一定の速度を壊すことができないんですが、NEMに入っている音楽はだんだんスローになっていく。編曲の方もこんな事したことないとおっしゃっていましたが、人間の呼吸に合わせてだんだん遅くしていっているわけです。

また昔から優秀な音楽が多数あって、特にグレゴリオ聖歌は有名です。これはソルフェジオ周波数という528Hz付近の音を中心に作られていて、この周波数は心身を癒やす効果があると言われています。我々の音楽も、この周波数をベースに作られています。

――NEMはBluetooth対応のポータブルプレーヤーですから、イヤホンやスピーカーがあればどこにでも持って行けますね。価格もSleepionシリーズに比べればだいぶ買いやすい価格になっています。

やはりこうした製品が普及して欲しいという事と、この値段なら騙されたと思って買ってくれるんじゃないかと(笑)。まあそれはさておき、いくら言葉で説明しても、使ってみないと効果がわからないという製品ですので。

人間は元々、夜になれば寝られるようになっているはずなんですが、その力を放棄している。わざわざ眠れない環境に追い込んでいる、そこが大きな問題なんじゃないでしょうか。本当は、こういうものがなくてもら寝られるのが正しい。ただ、薬(睡眠導入剤)はやっぱり良くないと思うので、負担なく眠れるようにヘルプしたいんです。

我々も事業としてはまったく採算に合いませんけど、会社である以上はこういうのをやってもいいかなと。末永く進めようと思っています。

睡眠を味方に付けるツール

コロナ禍の最中である現在では、出張もあまりなくなってきているとは思う。それでも日々、これまでと違って思うように事が運ばないという事態に数多く直面しているのではないだろうか。通常時よりもストレスは高まっているように思う。そのしわ寄せとして不眠になるというケースも多いだろう。

寝られないぶん翌朝寝坊できればいいのだろうが、いくら在宅勤務とはいえ昼前まで寝ているわけにもいかず、しかたなく重い体を引きずって起きあがるというのでは、効率も下がるし体調まで悪くしてしまう。今は薬局で睡眠導入剤やサプリメントも比較的買いやすくはなっているところだが、ワンポイントならともかく、常用すると体の負担が気になるところである。

日常的に使うのであれば、NEMとBluetoothスピーカーやイヤホンという組み合わせは、体の負担がなく導入しやすい。筆者の場合は2番と5番の音楽がよく眠れるが、これは相性もあるだろう。もし最近寝付きが悪いと感じている人は、試してみてはいかがだろうか。

    小寺 信良

    テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。