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経済成長のベトナム、パナソニックが家電以外でも住まい支える裏側を見た

バイクがひしめき合う風景があちこちで見られるベトナム・ホーチミン市。取材当時の1月後半、日本では真冬の一方で乾季のホーチミンでは30℃を超える日も続いていた

日本にいるとあまり実感しにくいが、少子高齢化と労働力不足が続く国内とは対照的に、世界には人口増加が続いたり、経済発展や新しい都市開発が進む国や地域がある。その一つが、東南アジア・ベトナム最大の都市であるホーチミン市に隣接する「ビンズオン省(ビンズン省)」の新都市だ。

工業団地として発展し、月間平均所得は首都ハノイを上回る全国1位。外国からの直接投資額(FDI)はホーチミンに続く規模と、注目されている地域だ。

その新たな都市開発には多くの日本企業も参入しており、パナソニックもその一つ。住宅や設備に欠かせない配線器具など電気設備の面で現地の建物に、パナソニック エレクトリックワークス社(EW社)の製品が採用されている。同社は同省に自社工場を構え、製造と販売一体経営の会社としてベトナムで事業展開している。

パナソニックは2月4日に発表したグループ経営計画において、家電事業について「(競合に比べて)競争力が低下傾向」として徹底的な再建を掲げており、抜本的な事業構造や体制の見直しなどをパナソニック ホールディングスの楠見雄規代表取締役社長執行役員が発表している。

この会見より前の1月中旬に、経済成長や都市化に沸くビンズオン省やホーチミン市街を訪ね、これらの街を電気設備のインフラ面でサポートするパナソニックEWベトナムの工場や、販売などの現場を取材してきた。生活環境の整備が急速に進むエリアで、街づくりや住宅において“家電以外”でもいま何が注目されているのかを、パナソニックEW社によるプレスツアーに参加して見てきた。

ホーチミン市に隣接するビンズオン省にあるパナソニックエレクトリックワークスベトナムの工場

外資が集まる新都心、若者憧れの新しい住宅に日本の技術が

ビンズオン省は、2014年に省都(日本での県庁所在地に相当)が移転し、現在の「ビンズオン新都市(Binh Duong New City)」として住宅や商業施設などの建設が盛んに進められている。日本では“県庁所在地が移転する”ことはなかなか想像しづらいが、旧市街は土地の広さなどの関係で、再開発が難しかったとのこと。

そのため、かつてゴム林だったという土地が新都市に選定。都市化と人口増が続くこの地域の新たな中心として、公共機関や企業のオフィス、大学といった様々な施設がつくられている最中だ。

工業団地を中心に高所得層を抱えるというビンズオン省
ビンズオン新都市。1月末は旧正月を前にお祝いムードだった
新都市の模型

GDPが安定成長中とされるベトナムの平均年齢は33歳(日本は48.4歳)。人口ピラミッドを見ると日本の1975年の構成に近く、2019年の労働人口は約70%を占める。日本の住宅販売市場が拡大した1970~80年代に似た状況がベトナムで起きているとのことだ。その中でも前述した通り工業団地開発などで所得が高いビンズオン省の人口は276万人。住宅設備などは、まだこれに十分追いついているとはいえない状況だ。

人口ピラミッドは日本の1975年に近い構成

そのインフラを整えるため様々な企業が新都市に集まっている中、東急は単に住宅を売るだけではなく長期的な視点で「地域に根付き、愛される街づくり」で同社の持つノウハウを活かしていくという。

省内で最高級物件とする「MIDORI PARK The TEN」は、高所得者層をターゲットとした住宅で、広さは平均110m2。2025年に竣工予定となっている。

MIDORI PARK The TENの模型

現地のモデルルームを見学すると、高い天井とたっぷりの採光、落ち着いたトーンの室内で、高級ホテルの居室にも近い贅沢な空間となっている。

ダークカラーで統一された室内をよく見ると、壁の照明スイッチやコンセントも同様に質感の高いデザインで、インテリアを邪魔せず統一感を生み出している。ここにパナソニックの最新製品が使われており、目立ちにくいが、必要な設備を部屋に調和させているのが分かる。

MIDORI PARK The TENのモデルルームの一室
壁のスイッチやコンセントなどにパナソニック製品が

住宅に使われるのは、こうしたスイッチや配線、換気扇など。東急としても日本メーカーの信頼性の高い製品を積極的に採用し、住民にとっての付加価値としている。

ベカメックス東急で都市開発を進める釣 佳彦(つり よしひこ)設計部 部長はパナソニックと組むメリットを「高い製品力。スイッチ関係で故障したとか壊れたというクレームは一切ないですし、製品の信頼度もあります。選定の中で、高価なものも入っていますが、その中でも高い信頼度を我々の顧客に提示できる」と語る。

ベカメックス東急で都市開発を進める釣 佳彦 設計部 部長。これまでシンガポールやインドネシア、中国など各地で設計業務に携わり、東急入社後はベトナムやタイの設計監理を務めてきた

電材製品だけではなく、例えばモデルルームを作るときに乾燥機、冷蔵庫といった生活家電や、販売イベントなどのスポンサーとしてパナソニックから製品提供を受けるといった協力関係にもあるとのこと。

冷蔵庫などパナソニックの家電も、見学したモデルルームには採用されていた

先ほど見た高級住宅だけでなく、中間層をターゲットとした住宅も展開。現地の一般的な住宅よりも天井を高めに確保するなど余裕を持った空間が特徴の一つ。地方から来た若年層にとっても憧れとなるような高級感を持つ居室となっているのが伝わった。

住宅以外でも印象的だったのは、2023年に新都市で初めてオープンしたというショッピングセンター「SORA gardens SC」。イオンのスーパーマーケットを中心に、無印良品やニトリ、ユニクロ、ABCマートといった、日本の商業施設でもなじみ深いテナントが並ぶ。総賃貸面積は約15,000m2、駐車場は最大2,500台という規模だ。

SORA gardens SCには日本でおなじみのテナントも数多く入っている
日本でホームセンターとして親しまれるコーナンは、この店舗では少し違った印象。旧正月前ということもあってバラエティ雑貨などが前面に並び、ドンキにも近い印象だった

この地の都市開発に早くから参入した日本企業の一つが東急。これまで日本で手掛けてきた開発のノウハウを活かし、人口増が進む魅力的な市場で、住宅だけでなくショッピング、飲食など幅広い施設を含む「街づくり」を提案。現地の国営企業との合弁で2012年に設立したBECAMEX TOKYU(ベカメックス東急)において、街づくりをパッケージとすることで、既存の都市が抱える課題にも取り組みながら、新しい形の都市を根付かせるために活動している。

ベカメックス東急による開発コンセプト
東急の施設には、他にもHikari AreaやMIDORI PARK Area、KAZE Shuttle Busなど、日本語を用いたネーミングの設備や交通網もあり、日本への親しみなどが表れていた

スイッチやコンセントなど都市を支える電気設備工場に潜入!

新しい住宅や施設などで欠かせないのが、利便性が高く安全性の高い電気設備。

パナソニックといえば家電のイメージが強いが、同社グループ内で家電や空調などの部門であるパナソニック株式会社の売上のうち約12%、利益では約17%を占めるのがこのEW社であり、BtoB事業を加速させるパナソニックをけん引する会社の一つとなっている。

パナソニックEW社の配線器具。アジアでも高いシェアを持つ

急ピッチで都市化が進む住宅や商業施設などを支える配線器具やブレーカーなどの電気設備。パナソニックはかつて輸出の形で製品を販売してきたが、現在はパナソニックベトナムというグループ統括会社があり、その元で、生活家電や車載デバイスなどの6社が研究開発から製造、販売までカバーしている。

今回取材した工場は、その6社の中の、配線器具や照明、空調ファンなどを担うパナソニックエレクトリックワークスベトナム有限会社(PEWVN)だ。操業開始は2014年。2024年末時点の従業員数は1,576人。販売拠点はハノイとホーチミンにあり、製造拠点がビンズオン省にある。

パナソニックの配線器具やブレーカーなどを生産するビンズオン省の工場
コンセントやスイッチの一例。様々な規格に対応し、住宅の種類に合わせたデザイン性の高さも

安全に関わるコンセントなどの配線器具やブレーカー、分電盤などの「ECM(Electrical Construction Materials)」事業などでパナソニックはベトナム国内シェア1位を占め、2024年でベトナム事業スタート(配線器具の販売開始)から30年を迎えた。

PEWVNの坂部正司社長。2030年までにはこの電材関連でベトナム国内販売を1.6倍まで成長させるという

日本メーカーとしての高い品質をこの地でも守るための技能人材を育てるだけでなく、企画開発や評価なども含めた現地一貫生産を実現し、生産設備や金型は100%現地調達。販売チャネルについても、全土に21の倉庫を構えて全57省をカバー。後で説明する強力な現地パートナーらとの連携でサプライチェーンを確立したことが他社に比べた優位性となっている。

今回見ることができたのは、コンセントや配線器具などができるまでの工程や、安全などの商品評価、人材育成といった、高品質を守るための徹底したこだわりと、この地に根差した取り組みの内容。

パナソニックの配線器具などのマザー工場は、三重県の津工場。これまで弊誌でも藤山哲人さんのレポート記事などで紹介してきた。

ビンズオン工場には、この津工場の技術者もOJTで品質管理やメンテナンス、機械加工機の操作、安全教育まで指導を実施。そうして津工場から引き継いだ生産技術や、高い安全意識などを見ることができた。

2025年以降は、現行品だけでなく新製品開発などについてもベトナム現地で自走化することで、企画開始からリリースまでのリードタイムを約40%削減するというスピードアップも図る。

現在、配線器具の一貫生産を行なっている第1棟では、金属やプラスチック部品の加工などを見ることができた。

品質において重要な金型のメンテと加工の工程。高い技能が必要とされる金型も現地で加工
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の成型の工程
配線器具の自動組立生産工程
人による作業も組み込まれている。2025年4月からは自動機による組立から検査までの一貫した生産も予定。省人化や高効率、高品質化などを見込んでいる
プラグの抜き差しや、スイッチのON/OFFなどを繰り返す評価テスト
日本の工場にもある「安全道場」が現地にも。事故などを防ぐための取り組みを徹底
「ものづくり道場」では、新しく工場に加わった人もスムーズに習得できるような仕組みが導入されている

2024年から本格稼働した新棟では、配線器具やブレーカーの生産を強化。2029年度までに2022年比で既存工場と合わせて生産能力を約1.8倍まで拡大する見込みだ。

活気あふれる「電材街」。現地販売店との強固な連携も

ホーチミン市の中心部は、高級ブランドの路面店や大手デパートなども目立つ一方で、少し路地を入ると昔ながらの商店や屋台なども多く立ち並んでいる。

そうした中でも特に中小規模の店舗などが立ち並んでいるヤーシン市場と呼ばれる地域は、東南アジアに見られる“電材街”と呼ばれるエリアの一つ。ここには電気工具や部品などの製品が販売されている店舗がひしめき合っている。

電材街と呼ばれるエリアが複数あるという。日本で見慣れたブランドの名前も

秋葉原のような電気街とも少し異なり、一般消費者よりは電気工事などプロの業者が多く訪れているようだ。

この中にある店舗「Nguyễn Giang」には、照明などの家電や工具といった個人でも購入できる製品が並ぶ中、パナソニックの配線器具なども販売されている。

パナソニックの配線器具なども販売されているNguyễn Giang

こうした地域に根付いた店舗に対して製品を流通させているパートナーの一つが、PEWVNの大手代理店である「Nanoco(ナノコ)グループ」。1991年設立で、パナソニックEW社との関係は30年に渡り、ベトナムでの事業をともに成長させてきた。

Nanocoグループは強力な物流網を整備しており、ベトナム国内で21の拠点と、カンボジアに1拠点を持ち、これまで土地や建物に2,800万米ドル超の投資をしてきた。

Nanocoグループ

現在は基本的に1日で配送できる物流環境ができているほか、今後ベトナム国内で整備される高速道路などにより、ベトナム国内の各営業所をトラックで約2時間以内に移動できるようになるという。

ベトナム全土とカンボジアに拠点を持つNanocoグループ

Nanocoグループのルーン・リュク・ヴァンCEOは、2024年の実績としてパナソニックとの電材ビジネスが12%成長しており、2025年はさらに国内経済の成長などから伸びるとの見方を示している。

Nanocoグループのルーン・リュク・ヴァンCEO

配線器具のシェアでみるとパナソニックは日本では8割を超えるのに対してベトナムでは約50%としており、まだ十分な成長の余地があるとみている。競合として中国企業などの存在は注視しながらも、国内経済成長もあって高収入層が増えていることから、こうした層に対して「所有していることが高い満足感につながるパナソニック製品を提供できる」と今後の成長に自信を見せている。

急激に開発が進む都市と、整備が求められるインフラ

今回取材したビンズオン省とホーチミン市では、経済成長による都市部の賑わい、新興住宅や商業施設などへの高い期待感を目の当たりにした。

バイクや車がひしめきあった都市部はかつての日本の経済成長期のような風景にも見える一方で、開発のための土地は広くあっても整備がこれからという場所が多くみられたのも事実。

都市の交通渋滞が深刻化する中、地下鉄や高速道路といった交通インフラは徐々に整備されている。さらに多くの人が住みやすくなるために電気や水など生活インフラも需要が高まっていくことだろう。

中国はじめアジア各国の現地企業でも、これからより高い品質の製品がつくられることで競争が激しくなることも予想される。そうした中で、パナソニックや東急を含む日本の企業が、どうやってビジネスを拡大しながら地域に根付いていくのか、ますます注目されそうだ。