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最新の冷蔵庫、どうやって作られてるの? パナ草津工場で見てきた

パナソニックの冷蔵庫に対する取り組みを、草津工場の製造現場からレポートする

ほとんどの家庭にあって、電源スイッチが付いていない珍しい家電、それが「冷蔵庫」だ。コンセントに挿したその日から、1日24時間365日稼働し、その寿命を迎えるおよそ10年間動き続ける唯一の家電といえる。

最近では「カメラ付き」の冷蔵庫も登場し、スマホを使って出先から冷蔵庫のストックを確認できるようになったが、パナソニックから6月に発売された「CVシリーズ」は、カメラとAIを融合させて「野菜室にある野菜を個別に見分けて鮮度を自動管理する」画期的な冷蔵庫となっている。

そんな近未来の冷蔵庫をいち早く開発したパナソニックは、冷蔵庫をどのようにして製造しているのか? 普段は見られない冷蔵庫内部につまったテクノロジーの数々を報道陣に公開した。これまでも各メーカーの冷蔵庫の裏側や製造ラインを見てきた筆者が、その様子をレポートする。

ワールドワイドに展開する冷蔵庫の生産拠点

パナソニックは世界各国向けに冷蔵庫を製造販売しているため、日本の滋賀県草津工場をはじめ、台湾、中国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、インド、ブラジルの世界8拠点に工場を持ち、世界34カ国で販売されている。

それぞれの奥に柄に合わせたサイズやカラー、機能などを持ち日本向けとは少し違う冷蔵庫
世界に広がるパナソニックの冷蔵庫の生産拠点。ベトナムと中国には、研究開発センターも併設

しかもパナソニックの冷蔵庫の歴史は古く、1953年に発売された1号機から現在に至るまで70年以上愛され続けている。当初は大阪や神奈川の工場で生産されていたが1969年から草津工場での生産が開始され、2003年からは草津工場に集約。それ以来日本向けの主力冷蔵庫はすべて草津で生産されている。

1953年に作られた家庭用第1号冷蔵庫。1ドア式で100Lの容量を持つ(写真中央)。写真は「松下幸之助記念館」の展示。同時代のテレビや洗濯機もレトロな感じ
1977年(昭和52年)製の2ドア冷蔵庫201L(冷蔵室149L,冷凍室52L)。大型スーパーの登場で「まとめ買い」が定着し冷凍庫が大型化。いま見るとこんなに小さくても、当時はファミリー向けだった。写真は「ものづくりイズム館」の展示

また最新のパナソニック製冷蔵庫は、単に食品を冷やすだけでなく、「うまもり保存」では冷凍時に食品から出る水分と霜付きを抑えておいしさをキープしたり、1984年に搭載した半冷凍保存のパーシャルを発展させた「微凍結パーシャル」は肉や魚を-3℃で保存し新鮮さを長持ちさせる。半冷凍なので包丁で切れるのですぐに調理が可能になっている。

「うまもり保存」は長期間置いておくと霜がついてしまうのを防止し、「はやうま冷凍」は冷凍しても野菜の細胞を壊さないので水分が保持

「Wシャキシャキ野菜室プラス」は、野菜室を適温にし加湿することで、しおれやすい葉物野菜をより長期間シャキシャキに保つなど、鮮度とおいしさにこだわっている。

「Wシャキシャキ野菜室プラス」の構造。基本は温度管理に加え湿度も制御している。また野菜を腐敗(老化)させる「エチレンガス」を「パラジウム」というレアメタルを使ってガスを分解。かなりハイテクだ

サイズも種類も違うモデルを1本のラインで作る「ミックス生産方式」

さまざまなモデルに加え、容量やデザイン、そしてパナソニック独自の機能をたくさん持つ冷蔵庫。1~2人向けの小型冷蔵庫以外は、草津工場で作られているといっていいだろう。しかし冷蔵庫は、そんなに大量に売れるものではない。それゆえ生産は「多品種少量生産」になる。

多品種で少ロットしか製造しない場合、多くの工場では「セル生産」という方法を使うのが一般的だ。これは一人の作業員が最初から最後まで作り上げる方式で、作業員がすべての製造工程に熟練している必要があり、訓練には時間がかかる。しかし最近は、コンピュータで組み立て手順を表示し、別のカメラで作業員の動きや閉めたネジの数などをカウントすることで、訓練時間を削減しても製造できるように工夫している企業もある。それはたとえば数が多く出ないキャニスター(床置き式)の紙パック掃除機や、カスタマイズできるBTOパソコンの製造現場などでよく見られる。

パソコンをカスタマイズして注文できるBTO。多品種小ロットの極みと言ってもいいだろう。こちらは1人がすべてを組み立てるセル生産なので流れるラインがない

パナソニックの冷蔵庫は、流れるラインで生産する「ライン方式」を少し「セル生産」に近づけた、「ミックス生産」という方式を取っている。

以前に紹介した三菱の冷蔵庫のラインは、同じ「ミックス生産」でも、自動車の製造ラインのように2レーンある片側に冷蔵庫本体が並び、もう一方のレーンには冷蔵庫と同じ速度で移動する「パーツラック」が流れる方式だった。

三菱は手前がパーツラック、奥が冷蔵庫の流れるラインの2レーンが同期して動く大規模な生産ラインだ

パナソニックの場合は、冷蔵庫本体が流れる1レーンのラインで、部品はレーンに流れる型番順に整列された部品棚が作業者の脇に手動で設置されるものだ。これにより小規模なレーンながら、コンピュータを使ってそれぞれの作業員が製造している型番を把握し、必要な部品をピックアップして部品棚に並べるようになっている。

パナソニックのラインは、同時に流れるパーツラックはなく、作業員が自ら部品を判断するか、手元に届けられるパーツ棚から順番に取っていく方式

冷蔵庫ができるまでの製造ラインとは

【1】巨大な内側を1枚板から樹脂成型

厚さ2mmのABS樹脂板を内側と外側の金型に挟みこんで熱をかけ真空生成する。すると一気に冷蔵庫の内側(庫内)ができる。

左が樹脂の1枚板。熱を加え型で抑え込みつつ真空引きをして金型に密着させる。これで高精度の冷蔵庫の内側樹脂が成形できる。1発でこれだけ複雑で大きなモノを作るのは、それだけで多くの技術が必要

【2】別ラインで作った金属製の箱の中に樹脂製の内側に入れる

金属製の箱は冷蔵庫の外側になる。この中に少し小さめの【1】で作った樹脂をはめ込み、治具と呼ばれる金具を使った正確に位置決めをする。

写真右上の「キャビネットブロック」に注目。外側の金属箱には、あらかじめ真空断熱材が埋め込まれている
真空断熱材は右側のように100℃で加熱しても反対側は25.4℃までしか上がらない。厚さ1cmなのに驚くべき断熱性能だ。ただ自由に折り曲げられないので、冷蔵庫では部分的に使われている

【3】内側と外側をしっかり抑え込み発泡ウレタンを充填

庫内と外側の隙間には、断熱効果の高い「真空断熱材」などがあり、これに加えて「発泡ウレタン」という素材を流し込む。このウレタンは最初液体の状態だが、すぐに発泡スチロールのように膨らむ素材。10tもの力で膨らもうとするため、内側と外側をしっかり抑え込んで、庫内や外側は膨らんだり爆発しないようにする。また中に入っていた空気は、冷蔵庫の背面にある小さな穴から抜けるようになっていて、製品では銀色のテープなどが張られている。

冷蔵庫のカットモデル。赤い部分に発泡ウレタンが注入され、外部の熱を遮断する
背面には真空断熱材が張られているのが分かる。コンプレッサーは熱を持つので発泡ウレタンを厚めに注入
発泡ウレタンの膨らむ様子がわかる実験

【4】断熱材が充填された本体に心臓部「コンプレッサー」を取り付け配管

パナソニック以外のメーカーは、冷蔵庫の最下部に設置している重いコンプレッサー。しかしパナソニックは上部に配置しても倒れにくく、さらに最上段奥の手が届かないデッドスペースに配置したことで使いやすくなり、最下段の冷凍もしくは野菜室を奥行きいっぱいの容量まで増やしている。

工場のラインも特殊で、通常コンプレッサーのラインは、半地下に埋まりながら作業をするが、パナソニックでは2階に座って配管をロウ付け(はんだ付け)するため、イスがラインに合わせてスライドできるようになっている。

作業員の座るイスはラインに合わせてレールの上をスライドする。向こう側に見えるのは冷蔵庫の背面部分。最上段の30cmほどが開いた状態で組み立てする
コンプレッサーから出る高圧ガスと、戻ってくる低圧ガスの配管をロウ付けする。重要部品なので有資格者しか組み立てが許されない工程だ
パナソニック製の高効率コンプレッサー。省エネ性の高いピストン式(レシプロ:上部黄色の部分)コンプレッサー。頻繁に運転開始と停止を繰り返すとその瞬間に大きな揺れが発生する。パナソニックは開始と停止の衝撃を抑える独自のモーター制御技術を持ち、他メーカーにもOEMしている

【5】電子・機械・引き出しなどの部品を組み立てる

ここでは1本のラインに多数の機種や容量の冷蔵庫が流れるミックス生産を行なっている。つまりたくさん流れる冷蔵庫は1台1台違う機種で、取り付ける部品や手順が異なるのだ。そのため各製造ブロックには部品のストックが置かれており、流れてくる機種順に必要な部品をピックアップして、作業者の元にある部品棚に供給する。

生産ラインを眺めると、写真右の“ただの箱”から、左奥へ流れるにつれ電子部品やドア、棚、引き出しが実装され冷蔵庫になっていく
1台1台、サイズも色も違っている。こうして1本のラインで複数のモデルを作る生産方式を「ミックス生産」と呼ぶ
省エネタイプの冷却器。エアコンの「熱交換器」と同じ働きをするが、エアコンより冷たく霜が付きやすいので、少し粗めになっている。ここで作った冷気を各室に送り込む送風量を調整して、-20℃の冷凍庫から、3~8℃ほどある野菜室までの温度を制御

【6】ミックス生産だから取り付けるドアが1台1台異なる

パナソニック独自のミックス生産がよく分かるのは、ドアの取り付け工程。作業員の前には、ドアの部品が並んだキャニスター付きの部品棚が置かれ、作業員は1番から順番にラインを流れる冷蔵庫に取り付けていく。ラインの各所には、製品のバーコード読み取り機が設置されているので、何台あとにどんな機種が流れてくるかがコンピュータで分かる。これを見ながら部品棚から順番にドアをピックアップし、作業者の元へ運んでいくというわけだ。

作業員の前に運ばれる部品棚。1番から順番に部品を取っていくと、ラインに流れる機種と一致するように並べられている。これで工場の経費節減ができ、かつ確実にラインに流れる製品の部品を作業員が選べるようになっている
順番に部品棚からドアを取って取り付け。部品棚が空になったら、次の部品棚が控えているのでチェンジする

【7】厳しい検査工程で傷ひとつ見逃さない

冷蔵庫が完成するとまずドアや引き出しの開閉テストや外観検査を行なう。このあとに動作検査やガス漏れ、異音検査などが行なわれる。

ドアや引き出しの開閉検査。寿命の約10年の間に数万から十万回以上も開閉されるからスムーズでなければならない
外観検査は眩しいほどの光を当て、傷や歪みをチェック。天井には鏡があって上部の目視検査もできる

苛酷すぎる? 環境下で動作を保証する試験の数々

生産ラインでは個々の検査をしていたが、開発段階やラインから任意の1台を抜き取り長期に渡る検査も行なっている。これらの検査現場を見せてもらったが、検査というより拷問(?)にも近い苛酷なものばかりだった。

まずは日常生活でのあるある。「冷蔵庫にモノをぶつけてしまう」を試験するのが打撃検査だ。冷蔵庫のドアにビール瓶を打ち付け、傷が入らないか、機能的な障害が出ないかなどチェックする。

メーカーの試験は結構アナログだったりするが、これを越える物はなかなかない。本格的な試験をする装置もあるが、ニッチなので激高価!安価だがこの基準があるのでテストとしては十分だ。ドア面はへこむことなく、ほとんど傷も付いていない
冷蔵庫のドアにビール瓶をぶつける打撃試験

もちろん高温や低温下での動作試験も行なっている。こちらは正しく動作するかという試験もだが、ゴムパッキンなど熱に弱い部品が正しく機能するかどうかの試験が中心のようだ。

低温チャンバー(実験室)から高温に入ったため、カメラが結露。こんな中での厳しい試験が繰り返される

さらにドアの開閉試験も20年の使用を想定して行なわれる。1日20回開けると仮定しても、その回数は数十万回に及ぶだろう。しかしロボットだと、リニア(等速直線運動)しかできないので、人間の力の入れ方と少し異なる。そのためロボットとドアの接合部は、ロープが使われ、人間が開閉したときの力のタメや抜きも再現されていた。

ドアの取ってと開閉ロボットは、ロープで接合。これで力を貯めて一気に開く人間の動きを再現。閉めるときはトン!とドアを押すだけ
ロープを使ったドア開閉試験

野菜室などに使われる引き出しは、パナソニック独自の「ワンダフルオープン」が採用されている。一般的なドアは、引き出しの奥10cmほどは庫内に隠れてしまうが、パナソニックは独自のスライドレールを使い奥まで完全に引き出せる。そのためレールに使われているベアリング(レールにはめられているいくつかの小さな金属球)には大きな負担がかかるので、20年間摩耗することなくスムーズに開閉できるかもチェックされるのだ。

こちらも接合部はロープ! 引き出しが飛び出さないためのストッパーにも負荷をかけるような乱暴な開け方だ(家なら奥さんに怒られる?)
パナソニック独自のスライドレール。これを2本使って重い野菜の引き出しを開閉する。このため全重量が1レールあたり16個はめられている鉄球×2レールにかかる。20年ガタがこない自転車を作るようなもので技術的に非常に難しい
引き出し開閉検査

おいしさを支える技術とAIによる野菜管理

パナソニックの冷蔵庫は、このほかにもおいしさを長持ちさせる機能がたくさん搭載されている。その中から要点だけをシンプルにお伝えする。

保存期間に合わせて各部屋に置いておいしさが長持ちする

そして6月に発売されたCVシリーズで新たに搭載されたのが、AIによる野菜の自動認識と保存アシスト機能だ。2段式の野菜室に入っている野菜の出し入れをAIが認識、しかも45種類の野菜を自動で見分けて、今何が入っているかを画像ではなく文字情報として管理できる。

チンゲンサイとほうれん草も区別できていた
現時点で認識できるのは45種類だが、アップデートで増える予定

つまり野菜室に今日買って来た「ネギ」と「ピーマン」を入れて、今晩食べる「レタス」と「きゅうり」「トマト」を出したことを認識するのだ。使い終わって残ったレタスを冷蔵庫に戻せば「レタス」の在庫ありと認識される。

消費すべき野菜を優先順に表示できる。また利用目安日も案内してくれる。
さらにレシピと連携して「この野菜を早く食べたいけどどうしよう?」というときに、レシピまで提案してくれる

しかも野菜それぞれによって「持ち」が違う。傷みやすいもやしや葉物野菜は、入れてから日数が経過すると、優先して使うべき野菜の順番に、スマホに表示してくれる。さらにその野菜を使ったレシピの提案もしてくれるのだ。

もちろん出先から冷蔵庫のストックも確認できる

「おいしく食べる」ために進化する冷蔵庫

AIによる野菜認識や高度な冷凍技術は、フードロス対策にもなる上に、パナソニックは4月からはリユース品の冷蔵庫の取り扱いも開始。限りある資源の投入量や消費量を抑えつつ製品の価値を高めて経済効果を生む「サーキュラエコノミー」にも積極的に取り組んでいる。

冷蔵庫は今や食品を冷やして保存すためだけの家電から、食品をおいしく食べるソリューションへと変化した。これは開発段階や材料の技術の発展だけでなく苛酷なテストの数々、そして製造段階における工夫や試験、そして何より人の考えたアイディアの賜物といえる。