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最新の冷蔵庫、どうやって作られてるの? パナ草津工場で見てきた
2024年8月20日 08:05
ほとんどの家庭にあって、電源スイッチが付いていない珍しい家電、それが「冷蔵庫」だ。コンセントに挿したその日から、1日24時間365日稼働し、その寿命を迎えるおよそ10年間動き続ける唯一の家電といえる。
最近では「カメラ付き」の冷蔵庫も登場し、スマホを使って出先から冷蔵庫のストックを確認できるようになったが、パナソニックから6月に発売された「CVシリーズ」は、カメラとAIを融合させて「野菜室にある野菜を個別に見分けて鮮度を自動管理する」画期的な冷蔵庫となっている。
そんな近未来の冷蔵庫をいち早く開発したパナソニックは、冷蔵庫をどのようにして製造しているのか? 普段は見られない冷蔵庫内部につまったテクノロジーの数々を報道陣に公開した。これまでも各メーカーの冷蔵庫の裏側や製造ラインを見てきた筆者が、その様子をレポートする。
ワールドワイドに展開する冷蔵庫の生産拠点
パナソニックは世界各国向けに冷蔵庫を製造販売しているため、日本の滋賀県草津工場をはじめ、台湾、中国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、インド、ブラジルの世界8拠点に工場を持ち、世界34カ国で販売されている。
しかもパナソニックの冷蔵庫の歴史は古く、1953年に発売された1号機から現在に至るまで70年以上愛され続けている。当初は大阪や神奈川の工場で生産されていたが1969年から草津工場での生産が開始され、2003年からは草津工場に集約。それ以来日本向けの主力冷蔵庫はすべて草津で生産されている。
また最新のパナソニック製冷蔵庫は、単に食品を冷やすだけでなく、「うまもり保存」では冷凍時に食品から出る水分と霜付きを抑えておいしさをキープしたり、1984年に搭載した半冷凍保存のパーシャルを発展させた「微凍結パーシャル」は肉や魚を-3℃で保存し新鮮さを長持ちさせる。半冷凍なので包丁で切れるのですぐに調理が可能になっている。
「Wシャキシャキ野菜室プラス」は、野菜室を適温にし加湿することで、しおれやすい葉物野菜をより長期間シャキシャキに保つなど、鮮度とおいしさにこだわっている。
サイズも種類も違うモデルを1本のラインで作る「ミックス生産方式」
さまざまなモデルに加え、容量やデザイン、そしてパナソニック独自の機能をたくさん持つ冷蔵庫。1~2人向けの小型冷蔵庫以外は、草津工場で作られているといっていいだろう。しかし冷蔵庫は、そんなに大量に売れるものではない。それゆえ生産は「多品種少量生産」になる。
多品種で少ロットしか製造しない場合、多くの工場では「セル生産」という方法を使うのが一般的だ。これは一人の作業員が最初から最後まで作り上げる方式で、作業員がすべての製造工程に熟練している必要があり、訓練には時間がかかる。しかし最近は、コンピュータで組み立て手順を表示し、別のカメラで作業員の動きや閉めたネジの数などをカウントすることで、訓練時間を削減しても製造できるように工夫している企業もある。それはたとえば数が多く出ないキャニスター(床置き式)の紙パック掃除機や、カスタマイズできるBTOパソコンの製造現場などでよく見られる。
パナソニックの冷蔵庫は、流れるラインで生産する「ライン方式」を少し「セル生産」に近づけた、「ミックス生産」という方式を取っている。
以前に紹介した三菱の冷蔵庫のラインは、同じ「ミックス生産」でも、自動車の製造ラインのように2レーンある片側に冷蔵庫本体が並び、もう一方のレーンには冷蔵庫と同じ速度で移動する「パーツラック」が流れる方式だった。
パナソニックの場合は、冷蔵庫本体が流れる1レーンのラインで、部品はレーンに流れる型番順に整列された部品棚が作業者の脇に手動で設置されるものだ。これにより小規模なレーンながら、コンピュータを使ってそれぞれの作業員が製造している型番を把握し、必要な部品をピックアップして部品棚に並べるようになっている。
冷蔵庫ができるまでの製造ラインとは
【1】巨大な内側を1枚板から樹脂成型
厚さ2mmのABS樹脂板を内側と外側の金型に挟みこんで熱をかけ真空生成する。すると一気に冷蔵庫の内側(庫内)ができる。
【2】別ラインで作った金属製の箱の中に樹脂製の内側に入れる
金属製の箱は冷蔵庫の外側になる。この中に少し小さめの【1】で作った樹脂をはめ込み、治具と呼ばれる金具を使った正確に位置決めをする。
【3】内側と外側をしっかり抑え込み発泡ウレタンを充填
庫内と外側の隙間には、断熱効果の高い「真空断熱材」などがあり、これに加えて「発泡ウレタン」という素材を流し込む。このウレタンは最初液体の状態だが、すぐに発泡スチロールのように膨らむ素材。10tもの力で膨らもうとするため、内側と外側をしっかり抑え込んで、庫内や外側は膨らんだり爆発しないようにする。また中に入っていた空気は、冷蔵庫の背面にある小さな穴から抜けるようになっていて、製品では銀色のテープなどが張られている。
【4】断熱材が充填された本体に心臓部「コンプレッサー」を取り付け配管
パナソニック以外のメーカーは、冷蔵庫の最下部に設置している重いコンプレッサー。しかしパナソニックは上部に配置しても倒れにくく、さらに最上段奥の手が届かないデッドスペースに配置したことで使いやすくなり、最下段の冷凍もしくは野菜室を奥行きいっぱいの容量まで増やしている。
工場のラインも特殊で、通常コンプレッサーのラインは、半地下に埋まりながら作業をするが、パナソニックでは2階に座って配管をロウ付け(はんだ付け)するため、イスがラインに合わせてスライドできるようになっている。
【5】電子・機械・引き出しなどの部品を組み立てる
ここでは1本のラインに多数の機種や容量の冷蔵庫が流れるミックス生産を行なっている。つまりたくさん流れる冷蔵庫は1台1台違う機種で、取り付ける部品や手順が異なるのだ。そのため各製造ブロックには部品のストックが置かれており、流れてくる機種順に必要な部品をピックアップして、作業者の元にある部品棚に供給する。
【6】ミックス生産だから取り付けるドアが1台1台異なる
パナソニック独自のミックス生産がよく分かるのは、ドアの取り付け工程。作業員の前には、ドアの部品が並んだキャニスター付きの部品棚が置かれ、作業員は1番から順番にラインを流れる冷蔵庫に取り付けていく。ラインの各所には、製品のバーコード読み取り機が設置されているので、何台あとにどんな機種が流れてくるかがコンピュータで分かる。これを見ながら部品棚から順番にドアをピックアップし、作業者の元へ運んでいくというわけだ。
【7】厳しい検査工程で傷ひとつ見逃さない
冷蔵庫が完成するとまずドアや引き出しの開閉テストや外観検査を行なう。このあとに動作検査やガス漏れ、異音検査などが行なわれる。
苛酷すぎる? 環境下で動作を保証する試験の数々
生産ラインでは個々の検査をしていたが、開発段階やラインから任意の1台を抜き取り長期に渡る検査も行なっている。これらの検査現場を見せてもらったが、検査というより拷問(?)にも近い苛酷なものばかりだった。
まずは日常生活でのあるある。「冷蔵庫にモノをぶつけてしまう」を試験するのが打撃検査だ。冷蔵庫のドアにビール瓶を打ち付け、傷が入らないか、機能的な障害が出ないかなどチェックする。
もちろん高温や低温下での動作試験も行なっている。こちらは正しく動作するかという試験もだが、ゴムパッキンなど熱に弱い部品が正しく機能するかどうかの試験が中心のようだ。
さらにドアの開閉試験も20年の使用を想定して行なわれる。1日20回開けると仮定しても、その回数は数十万回に及ぶだろう。しかしロボットだと、リニア(等速直線運動)しかできないので、人間の力の入れ方と少し異なる。そのためロボットとドアの接合部は、ロープが使われ、人間が開閉したときの力のタメや抜きも再現されていた。
野菜室などに使われる引き出しは、パナソニック独自の「ワンダフルオープン」が採用されている。一般的なドアは、引き出しの奥10cmほどは庫内に隠れてしまうが、パナソニックは独自のスライドレールを使い奥まで完全に引き出せる。そのためレールに使われているベアリング(レールにはめられているいくつかの小さな金属球)には大きな負担がかかるので、20年間摩耗することなくスムーズに開閉できるかもチェックされるのだ。
おいしさを支える技術とAIによる野菜管理
パナソニックの冷蔵庫は、このほかにもおいしさを長持ちさせる機能がたくさん搭載されている。その中から要点だけをシンプルにお伝えする。
そして6月に発売されたCVシリーズで新たに搭載されたのが、AIによる野菜の自動認識と保存アシスト機能だ。2段式の野菜室に入っている野菜の出し入れをAIが認識、しかも45種類の野菜を自動で見分けて、今何が入っているかを画像ではなく文字情報として管理できる。
つまり野菜室に今日買って来た「ネギ」と「ピーマン」を入れて、今晩食べる「レタス」と「きゅうり」「トマト」を出したことを認識するのだ。使い終わって残ったレタスを冷蔵庫に戻せば「レタス」の在庫ありと認識される。
しかも野菜それぞれによって「持ち」が違う。傷みやすいもやしや葉物野菜は、入れてから日数が経過すると、優先して使うべき野菜の順番に、スマホに表示してくれる。さらにその野菜を使ったレシピの提案もしてくれるのだ。
「おいしく食べる」ために進化する冷蔵庫
AIによる野菜認識や高度な冷凍技術は、フードロス対策にもなる上に、パナソニックは4月からはリユース品の冷蔵庫の取り扱いも開始。限りある資源の投入量や消費量を抑えつつ製品の価値を高めて経済効果を生む「サーキュラエコノミー」にも積極的に取り組んでいる。
冷蔵庫は今や食品を冷やして保存すためだけの家電から、食品をおいしく食べるソリューションへと変化した。これは開発段階や材料の技術の発展だけでなく苛酷なテストの数々、そして製造段階における工夫や試験、そして何より人の考えたアイディアの賜物といえる。