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肉のおいしさ保つ「急冷凍」8割が未使用 日立がとった対策は

鮮度に徹底的なこだわりを見せる日立の冷蔵庫。写真左が「まんなか冷凍 R-HXCC62V」、右が「まんなか野菜 R-VW50V」

庫内の様子をスマホで確認できるように“カメラ”を搭載するなど、使いやすくする工夫が詰め込まれている日立の冷蔵庫。進化を続けながらも同社が長年大切にしているのは、食材を長持ちさせる「保鮮機能」だという。

なかでも特徴的なのは、ホームフリージングがラクにおいしくできる「デリシャス冷凍」、冷蔵室全体をチルド温度にする「まるごとチルド」、野菜を眠らせるように保存する「新鮮スリープ野菜室」の3つの機能。これらがどのようにして生まれたのか、細部まで凝らされたこだわりも含め、開発者に聞いてきた。

カメラで庫内を撮影し、スマホで中身を確認できるようにしている機種も

「急冷凍」機能 8割が使っていなかった

日立のデリシャス冷凍は、通常の冷凍室よりも素早く冷凍する急冷凍機能。急冷凍することで肉や野菜などの細胞が壊れにくくなり、解凍時のドリップや栄養素の減少を抑えたりするのがメリットだ。

「弊社の冷蔵庫には従来から急冷凍機能を搭載していましたが、同機能を使うためにお客様自ら設定ボタンを押す必要がありました。そのため、約8割の人が急冷凍機能を使ったことがないという結果が出ています」

そう話すのは、日立グローバルライフソリューションズ 冷熱家電本部 設計部 技師の服部圭介さん。この課題を克服するため、温度センサーを用いて急冷凍を自動化し、ユーザーの手間を省くことに取り組んだ。

開発時には食品を模擬したものを冷凍室内に配置し、冷え方を確認。さらに銅でできた部品を各場所に配置し、温度を常時モニタリングしながら検証を進め、温度センサーの設置場所や冷却制御を定めていった。

日立グローバルライフソリューションズ 冷熱家電本部 設計部 技師の服部圭介さん。手に持っているのは検証で使用した食品を模擬したもの
銅柱と呼ばれるパーツで、冷凍室の場所ごとの冷え方を確認した
冷凍室の上部に温度センサーを配置

温度センサーはデリシャス冷凍スペースの上部に配置されている。センサーが温度上昇を見極め、自動で急冷運転に切り替え。さらに、デリシャス冷凍スペースにはアルミトレイが敷かれており、トレイが食品の熱を奪って素早く冷凍する。

一般的には、冷凍したお肉などを解凍するとドリップとともにうまみが流出してしまう。これは食品に含まれる水分が凍る際に氷の結晶が生成され、結晶が細胞を破壊してしまうことが原因という。この氷の結晶は-1~-5℃の温度帯でより成長する。

デリシャス冷凍ではアルミトレイを使って急冷凍することで、-1~-5℃の最大氷結晶生成帯を素早く通過させる。これにより食品の細胞の破壊を抑え、うまみの流出を防ぐという。

デリシャス冷凍スペース
アルミトレイで素早く冷凍する

ユーザーの手間、うまみの流出という2つの課題に向き合った末のデリシャス冷凍の誕生。食品を入れたら特別な操作なしに自動で急冷凍を開始し、さらにおいしさを保ったままホームフリージングできる機能は、まとめ買いや作り置きが増えている昨今のニーズにマッチしている。

3段構成の冷凍室
冷凍食品もたっぷり入る大容量

冷蔵室がまるごとチルド室に

通常、冷蔵室の最下段に配置されているチルド室。冷蔵室よりも低い温度で肉や魚の鮮度を保つ場所だが、これを冷蔵室全体に適用したのが「まるごとチルド」だ。冷蔵室のすべての棚に約2℃のうるおい冷気を行き渡らせ、肉や魚だけでなく、さまざまな食品の鮮度を長持ちさせるという。

冷蔵室全体がチルド温度帯の「まるごとチルド」

「一般的に限られた小さなスペースのチルドルームを冷蔵室全体にすることができれば、さまざまな食品を保存することができて、さらに鮮度も長持ちさせられるため、お客様の使い勝手を向上できるのではないかという思いから開発に至りました」(服部さん)

従来は冷却器1つで冷蔵庫のすべての部屋を冷却していた。その際、冷却器は一番低い温度帯の部屋に合わせるため、過剰に除湿されてしまうのが難点だ。

まるごとチルド搭載機種には冷蔵室専用の冷却器と大風量ファンを搭載。冷蔵室のみを冷やせばいいため従来よりも冷却器の温度を高められ、除湿量を抑えたうるおい冷気を送ることが可能になった。庫内の湿度は80%で、ロールケーキなども乾燥させずにおいしさを保てるという。

冷蔵室専用の冷却器と大風量ファンを搭載

なお、まるごとチルドは購入時から設定されているため、購入後の操作は不要だ。まるごとチルド設定時は消費電力量が約5%増加するが、設定はオフにもできるため、使用状況にあわせて選べるようになっている。

10年目の「眠らせる野菜室」にはさまざまな技術

野菜を眠らせるように保存する「新鮮スリープ野菜室」は製品に搭載されてから2024年で10年目となる。当時の開発メンバーでもある同社 冷熱家電本部 設計部 技師の國分真子さんが、新鮮スリープ野菜室に詰め込まれた技術を紹介する。

日立グローバルライフソリューションズ 冷熱家電本部 設計部 技師の國分真子さん

「野菜は収穫後も呼吸していて、エチレンガスというガスも放出します。これは野菜が成熟する上で必要な機能ではありますが、成熟後も放出することで老化を促進してしまう一面もあります。呼吸活動を抑え、エチレンガスを少なくするのが鮮度を保つ仕組みになります」

日立が参考にしたのは、りんごなどを通年流通させるために倉庫などで使われるCA貯蔵技術。庫内の炭酸ガス濃度を高めて保存する技術で、業務用では酸素ボンベが用いられる。同社では触媒でニオイ成分などを分解して炭酸ガスを増やす「スリープ保存」技術が確立されていたため、これを野菜室に応用することになった。

開発チームで野菜室に見立てた容器を手作りし、野菜を入れて検証したところ、野菜室の密閉度を高めることで炭酸ガス濃度が高まり、野菜の精度が格段によくなることがわかったという。このことから、2段構造になっている野菜室の下段にパッキンを備えるなど、密閉度を高める構造を採用している。

野菜室の下段にパッキンを備える
密閉性を高めたことで庫内に水分が付着してしまう問題を、空気清浄機などに搭載される吸放湿剤を活用した「うるおいユニット」で解消

また当初はLEDが必要な光触媒を搭載していたところ、北海道大学が光を必要とせず、エチレンガスを炭酸ガスに分解する触媒を開発したというニュースをたまたま見かけ、「野菜室に使える」とすぐにコンタクトを取り、最新機種にも搭載されているプラチナ触媒の開発に至った。

北海道大学と共同開発したプラチナ触媒でエチレンガスを分解

実際に新鮮スリープ野菜室で10日間保存した小松菜と、非搭載機種で保存したものを比較すると、非搭載機種の小松菜は力なくしおれてしまっているのに対し、新鮮スリープ野菜室のものはシャキッと立っており、買ったばかりのようにも見えるほどだった。

左が新鮮スリープ野菜室で10日間保存した小松菜、右が非搭載機種で保存したもの
非搭載機種で保存したものはしおれている。新鮮スリープ野菜室で保存した小松菜やチンゲンサイは買ってきたばかりのようにシャキッと立っている

デリシャス冷凍、まるごとチルド、新鮮スリープ野菜室を搭載し、徹底的に鮮度にこだわりながらも、それらをユーザーが手間なく使えるようにしている日立の冷蔵庫。従来の中央に冷凍室を配置した「まんなか冷凍」に加え、2024年からは「まんなか野菜」にも新鮮スリープ野菜室が搭載され、よりたくさんの人の生活にフィットすることだろう。

野菜室が真ん中の「まんなか野菜」にも新鮮スリープ野菜室を搭載