家電製品レビュー

ヤマハのオールマイティe-bike「YPJ-TC」に荷物をたっぷり積んで、アップダウンのある奥多摩を走ってきた

ヤマハ「YPJ-TC」は街乗りから旅までオールマイティに使えるe-bike!!

 電動アシスト付きのスポーツ自転車ことe-bike。続々と新車種が発売され、実際に購入した人も増えているようです。

 ただ、車体もドライブユニットもスポーツ走行に耐えうる性能・耐久性があり、アシスト距離が100kmを超えるような大容量バッテリーを搭載するだけに、お値段はけっこーお高め。気軽に買える値段ではありませんよね。大雑把に言って30万円前後するe-bikeが多く、さらに高価な車種も少なくありません。そんな値段なので、かなり慎重に選ぶことになります。

 ひとつ購入指針を挙げるとすれば、「どうせ買うなら徹底的に使い倒せるe-bike」という方向。幅広く使える車種ですね。そんな車種を考えた場合、筆者的にかなり魅力的に映るのがヤマハの「YPJ-TC」です。

ヤマハ「YPJ-TC」。クロスバイクタイプのe-bikeですが、標準でフェンダー(泥除け)やキャリア(荷台)やスタンドが装備されており、最長アシスト距離は237km(プラスエコモード)となっています。街乗りや通勤・通学からロングライドまでこなせる、オールマイティに使えるe-bikeです。メーカー希望小売価格300,000円(税抜)

 上の写真のとおり、フェンダーやキャリアやスタンドがあるので、ちょっと実用車っぽい雰囲気のYPJ-TC。でも詳細を見ていくと、スポーツ走行も十分楽しめそうな仕様になっています。またアシストモードは4段階あり、それぞれ最大アシスト距離は91km(ハイモード)~237km(プラスエコモード)と、いろいろな用途・状況をカバーしてくれそうです。

 このe-bikeを調べていると、なんかこう「日常使いもできる旅向けe-bike」って気がしてくるんですよね。長距離対応で、たぶん激坂も得意で、荷物もたくさん積めそう。日頃は「働くアシスト自転車」として使い、休日は裏道細道山道を通り抜けて遠くまで自転車旅ができる「旅のe-bike」として使えるよな~、と。

 というわけで、実際にヤマハ「YPJ-TC」を借りて試走してみることにしました。以下、写真多めでレポートしていきます。

ヤマハ「YPJ-TC」って、どんなe-bike?

 まずはYPJ-TCの概要から。前述のとおり、クロスバイクタイプのe-bikeですが、フェンダーやキャリアが標準装備であることから、日常使いとスポーツ走行の両方を視野に入れたオールマイティ志向のe-bikeです。

 ちなみに、ヤマハは電動アシスト自転車の老舗だけあって、非常に多くの電動アシスト自転車がラインナップ。そのうちスポーツ走行向けのいわゆる「e-bike」は6車種で、「YPJシリーズ」としてラインナップされています。そしてそのうち4車種が2018年発売の最新世代YPJシリーズです。具体的にはMTBタイプの「YPJ-XC」ロードバイクタイプの「YPJ-ER」クロスバイクタイプの「YPJ-EC」オールマイティモデルの「YPJ-TC」となります。

 で、今回試すのがオールマイティモデルのYPJ-TC。まずは、どういうe-bikeなのか? 以下、写真と説明文で見ていきましょう。

ヤマハのYPJ-TC。この車体のボディカラーは「Satin Silver」ですが、ほかに白を基調とした「Pure Pearl White」があります。フレームはアルミ製。サイズは、身長154cm以上に対応のSサイズ、身長165cm以上対応のMサイズ、身長170cm以上対応のLサイズが用意されています。他メーカーのe-bikeはサイズの選択肢が狭かったりしますが、3サイズから選べるあたり、さすが老舗メーカーの品揃えです
ドライブユニットはヤマハ独自の「PWseries SE」を搭載。YPJ-ERやYPJ-ECと同じドライブユニットで、定格出力は240Wです。筆者はヤマハのモーターサイクルにも乗っていますが、このロゴを見るとなんかキュンときます♪
大容量リチウムイオンバッテリーを搭載し、電圧/容量は36.0V/13.3Ahです。盗難防止ロック付き。電池残量確認ボタン・LEDランプ内蔵です
もちろんバッテリーだけ外して、室内に持ち込んで充電可能。持ちやすい取っ手付き
ハンドル周りはこんな感じ。疲れにくいエルゴグリップを採用。中央左手前にあるのは「コンパクトマルチファンクションメーター」で、ハンドルバーの高さに合わせて「上に出っ張らないように装着」されています
コンパクトマルチファンクションメーターでは、アシスト電源やフロントライト/リアランプのオン/オフを行なう他、トリップメーター/平均車速/最大車速/残りアシスト走行可能距離/バッテリー残量/ケイデンス/ペダリングパワーメーター/消費カロリー/時計/オドメーターなどを表示可能。Bluetoothに対応しており、スマートフォンと無線接続してアプリ上に情報を表示させることも可能です(表示可能項目はアプリによる)
アシストモードやコンパクトマルチファンクションメーター表示の切り替えは、左グリップ内側にあるスイッチユニットで操作します
コンパクトマルチファンクションメーターのライトボタンを押すと、ハンドル前方の白色LEDヘッドライトと、キャリア後部の赤色テールランプが点灯します。ヘッドライトは6V/4.2Wで、トンネル内などでも路面を明るく照らせます
リアキャリアの後端に内蔵されたテールランプ。これもかなり明るく点灯します。ただし、発光モードは前後とも連続点灯のみで、点滅などはありません
タイヤサイズは700×35C相当(ETRTO:37-622)。オンロードを軽快に走れるのに加え、タイヤの太さとフロントサスペンションがあるので、ちょっとしたオフロードの走行にも対応します
変速は、フロント2速(46T/34T)×リア9速(11-30T)の18段変速です。快速走行から激坂登坂にまで対応というイメージですね。コンポーネントはシマノ「SORA」
フロントフォークは63mmトラベルのサスペンション(SR SUNTOUR NCX E)搭載
フロントフォーク右側上のノブを回すことで、サスペンションのロックアウト(上下可動の一時ロック)が可能です
フロント・リアとも油圧ディスクブレーキ(シマノ「M315」)を搭載。ハブはフロント・リアともスルーアクスルです
サドルはお尻が痛くなりにくいコンフォートタイプ
シートチューブにはボトルケージ取り付け用のネジ穴があります
サイドスタンドが標準装備
リアキャリアも標準装備。リヤキャリアの許容積載質量は25kg。リアキャリア後端に赤色LED内蔵というのがニクい!
コンパクトマルチファンクションメーターには給電用のUSB出力があります
USB出力ポート形状はmicroUSB
こんな感じでスマートフォンなどをUSB接続して充電可能。なお、使用にはmicroUSB変換ケーブルの類が必要になると思います
ちゃんと充電されています♪
旅のe-bikeとして使えそうだな~、ということで、オプション・アクセサリーの「ドライサイドバッグ40」も借りてみました
後ろから。なかなかサマになってます
袋タイプのパニアバッグで、素材はウレタンコーティングがなされた420デニール・ナイロン・オックス。薄いですがけっこう頑丈です。素材の継ぎ目はウェルディング加工されていて、高い防水性を備えています
開口部はクルクルっと丸めて畳んで、バックルでロック。ここも水が侵入しにくいタイプです
脱着も容易で、装着は押し下げてカチャッとはめるだけ。外すときは脱着用の取っ手を引き上げます
そうするとカチャッと外れます
下部はリアキャリアのステーに半固定できるしくみ。これらの位置調整も容易です。バッグ内キャリア側にはポリエチレンパネルが挿入されていて、走行中にバッグが歪むこともありません。荷物の出し入れもスムース

 といった感じのYPJ-TC。ひととおり見た段階での筆者的な雑感を申しますと、「やっぱりヤマハはわかってるなあ」ということ。このe-bikeの開発者が「あっ○○○の部分ですよね、○○○にすると使いやすくなるので、そうしておきました!」と言っているのが聞こえてくるかのようです。

 持ちやすいバッテリーなんて当たり前、サイズ展開しっかりするのも当たり前、そのうえで、さらにしっかりユーザーのことをよく考えたつくりになっている感じがします。たとえば、e-bikeには必須となるディスプレイ(ヤマハだとコンパクトマルチファンクションメーター)は、バーハンドルやステムなどと高さが合っています。「メーターが上に出っ張ってるのお嫌でしょうから、そうしときました!」てな声が聞こえてきます。同様に、エルゴグリップだとか、アシスト用バッテリーを電源とした前後ライトとか、耐荷重が高いキャリアとか便利なサイドスタンドとか、「日常使いにもサイクリングにもお使いだろうと思って、そうしときました!」という雰囲気です。

 さすが老舗。ていうか、ヤマハって世界で初めて電動アシスト自転車を発売したメーカーでしたね。乗る前から完成度が高い感じの車体です。

YPJ-TCで東京・奥多摩に行ってみよう♪

 それでは、実際にYPJ-TCに試乗してみましょう。せっかく大容量バッテリー装備でアシスト距離が長く、レンジの広い18段ギアを搭載していて、パニアバッグまでお借りしたので、ちょっと距離を走りつつ、獲得標高(上った標高の合計)もそこそこあるコースを……東京の西端、奥多摩湖(おくたまこ)へ行ってみましょう。出発は青梅駅(おうめえき)から。

 青梅駅から奥多摩湖までの距離は約29kmで、獲得標高は約600m。国道411号線を通り、行きは上りで帰りは下りの基調となりますが、わりとアップダウンがあったりするルートです。合計でだいたい60km走る予定。

 余談ですが、筆者は実際にこのルートを何度か、普通のスポーツ自転車で走っています。その印象は「行きはだらだら長い上り坂が続いてわりとくたびれる、帰りは快速ダウンヒルで楽しいけど、たまにちょっと上りがあって怠い」みたいな。

 ともあれ、以下に写真と説明文にて、YPJ-TCでの奥多摩湖サイクリングの様子を。率直な印象とともに書いてみます。

青梅駅前交差点から出発。自宅からココまではお得意のトランポ。トランスポーター車両はホンダ「N-VAN」です
走り始めて3kmちょっと。アシストのおかげで奥多摩名物「へそまんじゅう総本舗」まで一走りです
ここでドリンク追加。本屋さんには入りませんでした……また今度
もう御嶽駅(みたけえき)の前。あれっ? こんなにアッサリ来られたっけ!? 青梅駅からの距離は約9kmです
奥多摩大橋です。YPJ-TCはアシスト力も十分あるんですが、スピードがよく乗るe-bikeという印象があり、20km/h前後でスイスイと上ってこられる感覚です
上ってきた国道411号線の左側には、多摩川を見下ろせます。多摩川サイクリングロードから見られる多摩川とは雰囲気が違い、こちらは渓流エリア。水が青く美しい!
数十メートル下の多摩川に下ることもできます。国道に戻るには激坂登坂となりますが、e-bikeなら激坂登坂もラク。躊躇ナシで川面まで下りられるのが愉快です。YPJ-TCはフロント2段でリアが9段のギアがありますので、ギアをいちばん軽い組み合わせにした状態でアシストを「ハイモード」にすると、平然と激坂を上れます
徐々に徐々に奥多摩深部へ
左を見下ろすと涼しげな渓谷です
進むほどに高度感のある風景になっていきます
ここは鳩ノ巣駅(はとのすえき)の近くで、出発地点から約16km。このあたりからトンネルが増えていきますが、自転車だとやはりトンネル内はリスキーです。トンネル手前に左に迂回できる道があったりしますので、そちらを進みます。そうすれば、自動車事故のリスクを減らせますし、ちょっと楽しい思いもできます♪
迂回すると、たとえばこんな風景が!!
魚道見学ができたりする「白丸ダム」を見下ろせるポイントなのでした
奥多摩湖へ向かうルート途中には、多摩川を見下ろせる橋も多々あります。その大半が自転車通行可能
こんな手彫りの隧道も! 「数馬の切通し」という古道の下にある岩のトンネル。国道のトンネルを迂回すると、こんな風景があるんです。国道トンネルのリスクを避けつつ、自転車ならではの寄り道を楽しみましょう
などと寄り道しつつ走っていたら、奥多摩駅(おくたまえき)に到着。出発地点から約20kmで、獲得標高は約300mですが、「なんの苦労もなくここまで来られた」という感覚です。パニアバッグにはカメラ×2台とストロボと着替えとパンク修理セットと数本の鍵(借り物自転車なので駐車時は超厳重にロックするため)とかが入っていてかなり重いのに~。なのに、坂らしい坂を上ったという印象すらない。散歩サイクリングみたい。でもそこそこの運動にはなっている。やっぱりe-bikeって楽しい!!
20km走行時で、YPJ-TCのバッテリーは82%残っていました。ここまで、アシストモードはほとんど「スタンダードモード」で走行。ただ、目的地の奥多摩湖までのこの先約10kmは、ちょっと坂もきつめになってきます。と、思っていたら雨。あらら……
雨がパラついてきたということで、桧村橋(ひむらばし)手前から国道411号線を逸れて、「奥多摩むかし道」を進むことにしました。旧青梅街道で、現在でも生活道やハイキングコースとして使われています。林のなかを走る部分が多いので、少々の雨ならこっちが快適かな、と。YPJ-TCならこのくらいのダートロードも問題なく走破できますし
奥多摩むかし道には、巨石や巨木など、けっこう見どころがあります。ただしハイカーも多いので安全運転第一で。すれ違うときは口角上げて挨拶を~
吊橋も多々。「3人以上では渡らないでください」などと怖いコトが書いてあったりします
吊橋の板を踏み抜きそうな気がしたりしなかったり……
途中から舗装されたワインディングに変わったりする奥多摩むかし道です。新緑のなかをYPJ-TCで駆け抜けます
駆け抜けた先に見えたのは、小河内(おごうち)ダム。つまり奥多摩湖です
はい、奥多摩湖に到着。あー楽しかった♪
お約束で、小河内ダム名物「小河内ダムカレー」。お値段1,000円(税込)。けっこうボリューミー。1日20食限定らしいです

 という感じで奥多摩湖に到着。ダムカレーを食べて青梅駅前へと戻りましたが、YPJ-TCのバッテリーはだいたい半分になっていました。奥多摩駅から奥多摩湖までの奥多摩むかし道走行は、考えてみたらけっこう急な坂が多かったような感じで、そこでやや多めにバッテリーを消耗したのかもしれません。

 総じての印象としては、YPJ-TCはパワーもありつつ速いe-bikeという感じです。クロスバイクとしてバランスがいいのかも。細かいことを言えば、身長180cmの筆者の場合Lサイズがマッチするサイズで、今回試乗したMサイズはちょっと小さめだとは思います。ですが、小さめ自転車に乗ったときの「乗りにくさ」「ペダルを踏む力をロスしている感じ」がほとんどなく、快適に走ることができました。車体剛性も十分あり、重めの荷物&かなり重いライダーでも、シッカリきっちり走れました。

 アシストの感じも非常に自然で好印象。「あっ、今、唐突にアシストが効いた!?」というような感じがなく、どんな場面でもだいたいスムーズにアシストがかかります。アシストの音も静か。奥多摩の鳥のさえずりや川が流れる音を邪魔しません。

 あと、今回の走行では、フロントのギアはアウター(重いほうのギア)ばかり使った感じです。青梅駅前を出発したときは「上り坂だからフロントはインナー(軽いほうのギア)で軽くゆっくりと」と考えたんですが、アウターでもスイスイ進むので、アウターにしがち。多摩川から国道へ上がる激坂とか、奥多摩むかし道から国道へ出る激坂あたりは、フロントをインナーにした記憶があります。ともあれYPJ-TCの場合、このルートの登坂ならフロント・インナーはたまにしか使わない、という感じでした。

 それと、ストップアンドゴー。信号などで一時停止したときは、その後の走り出しがラクです。まあこれはほかのe-bikeでも同じですが、こういうストップアンドゴーのラクさは上り坂であっても「少し停車して風景を眺めよう」みたいな気分にさせてくれます。「上り坂だし止まると疲れるからこのまま走ろう」とは考えなくなるのが、e-bikeのいいところですね。なお、YPJ-TCはそのギア比もあってか、信号待ちなどからの走り出しから3~4秒で時速20km/h以上に達します。交通の流れに乗りやすいので、車道での安心感があります。

 標準装備のキャリアとフェンダーも良かったです。筆者は自転車ではわりとバックパックを多用しますが、荷物を体に担がなくていいのは、やっぱり快適。「どうせだからコレも持っていこう」「万が一のためにコレも携帯しよう」って気にもなります。重くてもアシストがあるから大丈夫ですし。

 フェンダー(泥除け)は、やっぱりあると凄くイイ!! スポーツ自転車ですと「あーっ水たまり~減速ッ!」となりがち。フェンダーのないスポーツ自転車で水たまりを通過すると、タイヤが跳ね上げた水で足やお尻が濡れちゃう(どころか泥だらけになる)からです。奥多摩むかし道でいくつかの水たまりをYPJ-TCで通過して「あ~やっぱフェンダーいいわ~」と思いました。ついでに、当たり前ではありますが、どこでも自転車を自立させられるサイドスタンドも非常に便利です。

 これはちょっと余談になりますが、帰宅して一休みしてから、何度か太ももが攣りそうになりました。その感覚は「サイクリングで脚がなくなった(脚の筋力を使い果たした)とき」と同じ。ていうか実際、帰宅時には筆者の脚がなくなっていたのでしょう。思い起こすと、青梅駅から奥多摩湖までの距離約29km・獲得標高約600mの上りを平均15~17km/hくらいのスピードで走っていて、普通の自転車だったら筆者的にはアリエナイというレベル。e-bikeとは言っても、けっこう脚力を消耗するので、運動にはなっているんですね。

 てな感じのヤマハ「YPJ-TC」。日常使いにバッチリ実用的な装備がしっかりありつつ、スポーツ走行における性能も十分高い。ある程度の高速走行もでき、激坂にも強いのもいいですね。ホントにオールマイティに使えるe-bikeだと感じました。正直なところ、見た目がけっこうおとなしいので、ヤマハ「YPJシリーズ」の他の車種に目がいきがちかもしれません。でも、乗ってみるとYPJ-TCの汎用性の高さがよくわかりますので、ぜひ試乗してみてください♪

スタパ齋藤