e-bike試乗レビュー

e-bikeは遊びもレースも楽しい。仲間と再会のうれしさも実感したヒルクライムレース

e-bikeは自分の体力や行動範囲を拡張してくれる乗り物です。スポーツタイプのドライブユニットはアシストの制御が絶妙で、単に"楽”をさせてくれるだけでなく、自分がペダルを踏んで動かしている感覚はありながらも、体力の消耗は抑えられるので行動範囲が一気に広がります。これまで行ったことがない場所へに足を伸ばしてみたくなったり、新たなチャレンジへ挑戦もしてみたいという気にもさせてくれるのです。

そして、乗り慣れてくると、さらなる激坂に挑んでみたくなったりチャレンジの幅はさらに広がってきます。e-bike Watchでも、これまでe-bike部門のあるヒルクライムイベントなどにも挑戦してきました。その中で、新しい仲間にも出会うことができ、e-bikeには交友関係が広がる効果もあったのだと実感しています。そうやって一緒に走った読者から、編集部に「ツール・ド・美ヶ原」ヒルクライムレースを一緒に走ってほしいというお誘いが! かなりおもしろそうなイベントなので、筆者もヒルクライムレースは久しぶりですが一緒に参加させてもらいました。

以前から参加したいと思っていた美ヶ原のヒルクライムレースに参加できることに。こちらは前日の試走です

e-bikeなら参加ハードルも低め

「レース」と聞くとハードルが高く感じる人もいるかもしれません。しかし、ヒルクライムは自身の体力やペースに合わせて楽しめる比較的安全なレースです。特にe-bike部門は、まだ歴史も浅いこともあって参加者も少なめで、参加者同士は仲間のような和気あいあいとした雰囲気を感じています。自分の体力だけだったら上り切れないようなコースでも、アシストがあればがんばれるかも……という心の余裕が持てるせいかもしれません。もちろん、タイムによって順位は付きますが、どちらかというと"愛車と一緒にどこまでがんばれるか”というチャレンジです。

今回の「ツール・ド・美ヶ原」には、筆者が知るなかで過去最多のある26台がエントリーしていましたが、以前一緒に走ったことがある人や、e-bike Watch読者の人も多く、友人と一緒に山へ上りに行くような気分で挑むことができました。e-bikeの車種も多種多様で、スペシャライズド「CREO」のような軽量なロードバイクタイプもいれば、e-MTBでのエントリーも何台もいました。なかには、スペアバッテリーを背負って参加した人や、奥様のe-bikeで走るという人も。順位やタイムだけを追い求めるのではなく、それぞれのスタイルで楽しもうという姿勢でエントリーしていることが感じられました。

日頃は山を走っているというフルサスe-MTBで参加したライダーも。タイヤだけ太めのスリックに履き替えています
今回、筆者はパナソニックのe-MTB「XEALT M5」で参加しました。タイヤはブロックタイプのままです。レース前なのでスタンドは装着しています

試走で美しい絶景を実感

「ツール・ド・美ヶ原」のコースは全長21.6kmで、標高差は1,270mあり、平均勾配は5.9%。筆者はペダルバイクでは走り切れる自信はありませんが、e-bikeだと挑戦しようという気にさせてくれます。事前のコース練習なども特にしていないので、前日にエントリーを済ませてから試走してみることに。

この日は天気も良く、かなり景色の気持ち良いコースと聞いていたので、期待が高まります。

試走に向けて出発。かなり天気が良かったので、スタート地点周辺は暑かったです
噂に聞いていたとおり、景色は素晴らしい。試走なので、ゆっくり景色を見ながら走れます

前日にレースコースを走るなんて、e-bikeでなければ翌日に疲れを残さないか心配になりますが、アシストがあると筋肉に疲れが残らないのでチャレンジできてしまいます。ただ、距離がそれほどないから大丈夫だろうとタカをくくって7~8割くらいのバッテリー残量で走ってしまったので、途中でバッテリー切れという事態に……。残念ながら頂上まで行くことはできず、そこから先は一緒に行った清水氏に任せてしまいました。本番を想定して他の参加者は事前に練習に来ていたりするのに、最低限の充電の準備すら甘かったことを反省しました。

中間地点までは調子良く走っていたのですが、バッテリーを確認すると頂上までは持たないことに気付く……
頂上近くは本当の絶景だったようですが、この写真は清水氏が撮ったもので筆者は到達できませんでした
この絶景の中を走りたかった……
激坂の上りは思った以上にバッテリーを消費することがわかっていたのに、基本的な充電というミスで後悔。お互いに車内で持参したポータブル電源でしっかり充電し、本番に備えます

残念ながら絶景は拝めず……

そして、いよいよレース当日。といっても、あまりピリピリした雰囲気はありません。e-bike部門は出走が一番最後の組ということもあり、スタートを待つ間もお互いのe-bikeを見せ合ったりしながら笑顔で過ごしている出走者たち。速い人たちは、事前に試走に来たりしていたそうで、練習もしっかりしていたようですが、それでもリラックスした雰囲気は変わりません。どこから来たのか聞いてみると、関西や北陸方面など結構遠くから来ている人も少なくないのですが、みんな楽しもうという気持ちで参戦していることが感じられます。

スタートはグループごとで、タイムは個別に計測されるのでスタートから焦る必要はありません

スタートすると、まずは温泉街を抜けて行きます。道の両脇からは地元の人たちが応援の声をかけてくれて、とても気持ちがいい。笑顔に送られるように、山の中へと入って行きました。レースの名物でもあるいきなりの激坂や約4km弱続きます。ペダルバイクで走っている人たちはキツそうですが、e-bikeだとスイスイ上って行けるので、間を縫うように前へ前へ。特にe-MTBは、こういう激しい上り坂が得意なので、ここが頑張りどころです。

地元の人たちが声援を送ってくれるので力が湧いてきます
「XEALT M5」は最大トルクが90Nmと強力なので、アシストを活かして前へ出ます

同じe-bike部門でも、乗っている車種によって得意なシーンが違うのもおもしろいところです。筆者が乗ったe-MTBはトルクが強力で、ギア比も軽いものが選べるので激上りが速い。特に「XEALT M5」は最大トルクが90Nmと強力でハイペースで上って行けます。

ただし、コース中盤からはフラットでスピードが出る箇所が増えてくるため、そういうシーンでは軽量なロードバイクタイプが有利です。スピードが24km/h以上出るような場面では、車体が重く、タイヤも太いe-MTBは不利でした。そのため、中盤以降はズルズルと順位を落としていくことに……。とはいえ、後述しますがチャンピオンは日本市場初期のe-MTBで、上位には別のe-MTB参加者も。完全に筆者の脚力や練習不足が原因であることは付け加えておきます。

斜度のキツい坂では前に出られるものの、フラットなエリアでは抜き返されるような展開

そして、山頂に近づくにつれて周囲に雲が立ち込め、終盤になると雨も降ってきました。ゴール付近は標高も高いため、かなり寒い! スタート地点周辺は結構暑かったので、これだけ気温が変わるのもヒルクライムならではです。実は前半の激上り区間でアシストが強力なHIGHモードを使ってしまったため、中間地点を通過したときにバッテリー残量が50%を切ってしまっていて、かなり焦りました。

「XEALT M5」のカタログ値ではHIGHモードでも約73km走れることになっていますが、ずっと坂を上り続けるようなコースではアシストが強力な分、バッテリーの消費も激しいようです。これまでいろいろなe-bikeに乗ってきてバッテリー消費は理解していますが、レースで頑張りたいためにHIGHモードを使わざるを得なかったのです。

上りではケイデンスを表示させていましたが、中間地点でバッテリーをチェックすると40%台でした……
スピードが出る区間にはロードバイクの人たちにバンバン抜き返されてしまう

ゴール直前の区間は、下りもあってかなりスピードが出ます。前日に走った清水氏からは、かなりの絶景だと聞いていたのですが、当日は残念ながら霧が濃くて100m先もよく見えないような状態……。バッテリー残量がギリギリだったこともあって、ドキドキしながらもなんとかゴールまでは持たせることができました。

スピードが出る区間にはロードバイクの人たちにバンバン抜き返されてしまう

ゴール地点は霧と雨に加えて風も強く、台風のような天候。でもゴールできた満足感でいっぱいです。ゴール後は、e-bike部門の参加者たちと談笑しながら下山を待ちます。ついさっき、力を出し切って走ったつもりだったのに、普通にしゃべれるのはe-bikeのおかげかも。下山の際は、上り返しもあるためバッテリーは完全にゼロに……。

下山中にバッテリーの数値が完全にゼロになりました。レース中に切れなくて本当に良かった……滅多に見られない場面です

ゴールタイムは1時間14分台で、順位は15位/22人中(リザルト※PDF)。同じe-bike Watchチームの清水氏は11位でした。ちなみにトップの人のタイムは59分台。ペダルバイクの人よりも速いタイムです。しかも乗っていたのはヤマハの「YPJ-XC」というe-MTBです。2018年に発売されたモデルで、車体も年期の入っている感じでしたが、やはり速い人は何に乗っても速いのですね。

スタート地点に戻ると、1人ずつ完走証を発行してくれます
e-bike部門で優勝した勝田さん。e-MTBですが、1時間を切るタイムは凄い!!
e-bike部門で走った仲間たちと記念写真。また、どこかのイベントでご一緒したい

ヒルクライムレースの参加は約2年ぶりでしたが、e-bikeのアシストもあって何とか走り切ることができました。久しぶりに会う読者の人たちともe-bike談義ができて、ちょっと同窓会のような楽しい時間でした。e-bikeは購入したものの、仲間がいないという人は、こういうイベントに参加してみるのも1つの手です。心残りなのは当日の天気が悪くて絶景が拝めなかったこと(自分が悪いのですが)。次は来年のレースか、プライベートかわかりませんがしっかり準備をして絶景の中を走りたいところです。

増谷茂樹

乗り物ライター 1975年生まれ。自転車・オートバイ・クルマなどタイヤが付いている乗り物なら何でも好きだが、自転車はどちらかというと土の上を走るのが好み。e-bikeという言葉が一般的になる前から電動アシスト自転車を取材してきたほか、電気自動車や電動オートバイについても追いかけている。