e-bike試乗レビュー
後付けとは思えないe-bikeっぽい走り!! ホンダ×ワイズロード「スマチャリ」試乗してみた
2023年7月28日 09:05
ホンダが3月に発表した「SmaChari(スマチャリ)」。既存の自転車を電動アシスト化・コネクテッド化する世界初のシステムとして、「サイクルモード東京2023」の会場でも展示され大きな注目を集めました。そのスマチャリのメディア向け試乗会に参加してきましたので、乗り味やシステムの詳細についてレポートします。
人気のクロスバイクを電動アシスト化
スマチャリの第1号モデルとして登場したのは「RAIL ACTIVE-e(レイル アクティブ イー)」。国産ブランドであるKhodaaBloom(コーダーブルーム)が製造・販売するクロスバイク「RAIL ACTIVE」をベースに、全国に自転車ショップ「ワイズロード」を展開するワイ・インターナショナルがスマチャリのシステムを組み込んで製品化したモデルです。販売は全国のワイズロードとワイズロードオンラインで販売され、予約受付は7月21日から開始されます。また、同日から全国24店舗での試乗もスタート。できるだけ多くのユーザーに届けるためにコストパフォーマンスも重視。価格は220,000円。この数年の原材料の高騰がなければ10万円台で提供したかったとのこと。
「RAIL ACTIVE」はKhodaaBloomが展開する人気のクロスバイク「RAIL」シリーズの人気モデルで、価格は69,960円。コストパフォーマンスが高いモデルで、通学の足として高校生などにも支持されているクロスバイクです。
ホンダがスマチャリの開発に乗り出したのは、まさにこの自転車通学の課題に取り組むためでした。ホンダの調査によると、全国に自転車で通学する高校生は約180万人で、通学経路に急な坂道がある高校は約45%に当たる2,316校あるとのこと。電動アシスト自転車がほしいという高校生は48%に上るとのことですが、ニーズに対して10~20代への電動アシスト普及率は低いのが現状です。
価格を抑え、購入しやすい価格の電動アシスト自転車の選択肢を増やすこと。好みのスタイルに合わせて選びやすくすること。事故の対策など安心して使える機能を進化させることを課題として考えたとき、解決策として選択したのが既存の自転車を後付けで電動アシスト化・コネクテッド化させるという手法だったのです。
バッテリー容量は240Wh(24V/10Ah)で、大容量化が進むe-bikeでは少なく感じるかもしれません。後述するAIモードの1充電あたりの走行距離は、約100km(標準パターンのアシストレベル1、市街地平たん路の実走結果)となっています。実際に試乗すると分かりますが、車体が軽量なのが大きく影響していると思います。
「RAIL ACTIVE-e」が革新的なのは、後付けで電動アシスト化されているにも関わらず、国家公安委員会の型式認定を取得していること。日本国内の法規に適合していることを示すものなので、安心して購入できます。システムはホンダが手がけていますが、組み付けはワイズロードが担当。車種に合わせたセットアップを行なうことで、法規に合わせたアシストの制御を実現し、型式認定の取得が可能となりました。
今回、型式認定を取得して販売されるのは「RAIL ACTIVE-e」1サイズのみとなりますが、反響次第ではラインナップを拡充していくことも考えているとのこと。将来的には、好みの車種をワイズロードに持ち込んでアシストシステムを取り付け、法規に対応するセットアップまで行なうことを視野に入れているようです。
海外では普通の自転車をe-bike化するキットも販売されていますが、こうしたキットを組み込んで日本の法規に対応するのはハードルが高いものでした。ホンダとワイズロードという企業が連携し、法規に合わせてセットアップしてくれるところまでが実現すれば、e-bikeの可能性が大きく広がると期待が膨らみます。
e-bike的なアシストフィーリング
型式認定を取得することで信頼性の高さを示している「RAIL ACTIVE-e」ですが、見た目にはやはり“後付け”感は漂います。実際の乗り味がどうなっているのか、試乗で確認してみました。
坂道でペダルを踏み込んで発進してみると、ペダルを少し踏み込んだところからググッと車体を押し出すようなトルクが立ち上がります。予想していたよりずっとパワフル。それでいて、踏み込んだ瞬間から唐突にパワーが出てしまうこともありませんでした。このあたりの制御はかなりe-bike的。試しに停止した状態でペダルに足を乗せ、踏み込むような動きをしてみましたが、車体が停止しているとアシストは立ち上がりません。
担当者に確認してみると、スピードセンサーやトルクセンサーに加えて、加速度センサーが内蔵されているとのこと。車体が停止した(加速度が発生していない)状態ではアシストが発生しないようになっているので、少しペダルを踏み込んで車体が動き出してからアシストが立ち上がるようです。
ペダルを止めているのにアシストが残って車体が予想以上に進んでしまう感覚は皆無で、ペダルを止めるとアシストもきちんと切れます。狭い路地でハンドルを切り返すようなシーンで、アシストが残ると思い描いていたラインよりも大回りしてしまったりすることもありますが、アシストの切れがいいので、そうした怖さがないのも好印象でした。
アシストモードの切り替えなどはスマホアプリで行ないます。デフォルトでは「AIモード」という自動でアシストを切り替えてくれるモードがONになっています。このモードで漕ぎ出すと、上り坂ではペダルを踏み込む力に合わせて強力なアシストが立ち上がります。そのレスポンスも速く、踏み込んだ瞬間にトルクが立ち上がるのでタイムラグは感じませんでした。平坦な部分に差し掛かると、パワーが抑えられていくのが感じられ、乗り味は自然。普通に使うのであれば、この「AIモード」で不満は出ないでしょう。
「AIモード」をOFFにすると、アシストのパワーとレスポンスをそれぞれ1~4の間で任意に設定できるので、こちらも試してみました。パワーの違いはもちろん、レスポンスの違いもかなり体感できます。上り坂ではパワーもレスポンスも最大にすると、パワフルなアシストが自由に取り出せる感覚。同じパワーレベルでもレスポンスのレベルを下げると、立ち上がりが穏やかな印象になります。平坦な路面では、レスポンスは敏感過ぎないほうが乗りやすい。いろいろ試してみましたが、結論としては「AIモード」がかなり良くできているので、このモードをONにしておくとほぼ希望通りのアシストフィーリングになりました。
ちなみに、アプリの画面には地図も表示でき、ナビゲーションも利用できます。走行履歴を地図上で見られたり、消費カロリーやどれくらいの強さでペダルを漕いでいたかの出力なども確認できます。ホンダが提供する通信型ナビで得られた急ブレーキが多い場所など、危険が予想されるスポットを表示してくれる機能も。今後、自転車でもそうしたデータが得られれば、表示されるようになるかもしれません。
また、アプリユーザー同士で位置情報を共有する機能もあるので、例えば子供に「RAIL ACTIVE-e」を買い与えて親もアプリをダウンロード・登録しておけば、通学中の子供の位置を確認して見守ることもできます。もちろん、スマチャリユーザー同士でツーリングする際などにも位置情報を共有してはぐれるのを防止することも可能です。ユーザー同士のコミュニティ機能も提供されるとのこと。アプリは「RAIL ACTIVE-e」の発売日前にリリースされるとのことですが、アプリだけでも利用価値がありそうです。
既存の自転車に後付けすることで電動アシスト化できるという手法は、ホンダが1947年に初めて製品化した「Honda A型」エンジンを思わせるもの。このエンジンは、自転車に装着することで動力を得られるようにするもので、排気音から“パタパタ”という愛称で親しまれました。本田 宗一郎氏が自転車で遠くまで買い物に行く妻をラクにしてあげたいという思いから製品化したという逸話が残っていますが、スマチャリの企画意図や電動アシスト化するという手法は、まさに現代版パタパタといえるものです。
アシストのフィーリングもe-bike的で好印象だったので、ぜひ搭載モデルも拡大していってほしいところ。個人的にはディスクブレーキを装備した「RAIL DISC」と組み合わせてほしいところです。そして、個人で持ち込んだ自転車にも組み込んでもらえるようになったら、筆者も電動アシスト化したい自転車が結構あります。最近は体力の衰えも感じているので、そんなサービスが開始されるのを心待ちにしたいと思います。