e-bike試乗レビュー

FANTICのミニベロe-bikeがポタリングに最適!! モペットみたいな「ISSIMO」に乗ったら物欲が……

FANTIC「ISSIMO FUN」

2021年7月、イタリアのモーターサイクルメーカー「FANTIC(ファンティック)」が日本国内で発売したe-bike「ISSIMO(イッシモ)」ニュース記事をご覧になって、その外観に「おっ!!」と驚いた方もあると思います。

ISSIMOは往年のFANTIC製モペット(ペダルを踏んで進むこともできるモーターサイクル)の車名ですが、その名が現代にカムバック。車名を継いで最新e-bikeとして発売されたというわけです。

なお、ISSIMOには「URBAN(アーバン)」と「FUN(ファン)」の2種類があります。URBANは、市街地走行向けのロード用タイヤを装着し、小物入れ付きラゲッジキャリアが標準装備で、車体重量33.5kg。FUNは、スポーティなオフロード走行も可能なブロックタイヤを装着し、車体重量は32.4kg。ドライブユニットは共通で、バーファン製ドライブユニット「M500」(最大トルク95Nm)を採用し、満充電からの航続可能距離は約70~120km。価格はどちらも396,000円。

左がURBAN、右がFUN。両モデルとも、ジェットブラック、シルバー、キャンディレッド、ホワイトの4カラーが用意されています
バッグをはじめとする豊富なオプションも用意されています。写真はサイドカバー。車体色に合わせてフレーム部を装飾できるデザイン系オプション品で、個性的な外観のISSIMOを超個性的に演出できます
ISSIMO URBANにアウトドアグリーンのサイドカバーを装着した様子

国内発売されたISSIMOについて「あの超ファットタイヤの乗り心地はどうなんだろう?」と興味を持った筆者。ステップインで乗れるトラスフレームや、生産も組み立ても全部イタリアで行なっているというあたりにも興味を覚えましたので、実車をお借りして試乗してみました。

以降、レビューをお届けしますが、とりあえずの印象を書いてしまいますと、「予想を裏切られる良さ」をいくつも発見。最初の印象は「デザイン重視のおしゃれe-bike」というものでしたが、実は……どんな道でもとても楽しく走れて、日常の“平凡な移動”を“喜び”に変えてくれる、非常に魅力的なe-bikeでした。筆者が最も購入したいe-bikeのうちの1台となりました。

なお、国内にはFANTIC製の“海外仕様e-bike”も存在するようです。これは特定敷地内での走行を想定した車体で、国内の公道で走行すると違法になります。今回試走したISSIMOは、もちろん日本国内の法律に適合した車体。型式認定も取得しているので、問題なく日本の公道を走ることができる車体です。

FANTIC「ISSIMO FUN」って、どんなe-bike?

まずはISSIMOの概要から。モーターサイクルのような個性的な外観です。ドライブユニットは最大トルク95Nmのバーファン製「M500」を搭載。バッテリーは630Whの大容量で、満充電からの航続可能距離は約70~120kmです。20×4.0インチというファットタイヤもインパクトあります。

シマノ製内装ギア「Nexus Inter-5E」、前後輪にシマノ製油圧式ディスクブレーキ、80mmトラベルのフロントサスペンションも搭載。サイドスタンドやリアフェンダー、前後ライトなどが標準装備となっています。

今回お借りしたFANTIC「ISSIMO FUN」。カラーはシルバーです。e-bikeじゃなくて、モーターサイクルみたい! とても個性的な外観ですね
とりわけ目を引くのは三角形状を組み合わせて構成されたトラスフレーム。足を後方に蹴上げずにまたげる実用的なステップインフレームでありつつ、フレーム剛性も十分に確保しています
トラスフレームの素材はアルミダイキャスト。しかもパイプを組み合わせたトラス構造ではなく、面で構成したトラスです。頑丈そう。またこの隙間を利用してアクセサリーを装着するのにも便利そうです。FANTICからはそういうアクセサリーも発売されています
タイヤの太さも圧巻!! Vee-tire Co.のファットタイヤ「MISSION COMMAND」の20×4.0インチを採用しています
幅が10cm以上あるファットタイヤ。ブロックパターンはおとなしめですが、アスファルトからグラベルからダートから草地まで、どこでも走れてしまう走破性があります。本国イタリアでは石畳の道でも快適に走れるよう空気圧を低めにするそうです
ドライブユニットはバーファン製「M500」。最大トルク95Nmを発生します。アシストモードは1~5段階で、満充電からの航続可能距離は約70~120km
バッテリーはFANTICによる設計で、容量は630Whと大容量。フレーム一体型のスッキリしたデザインです。専用キーにより脱着可能
バッテリーを外した様子。バッテリーには持ち運びに便利なストラップがつながっています
バッテリーは専用充電器により充電しますが、取り外しても、車載状態でも充電できます。車載状態で充電する場合、バッテリーとドライブユニットをつなぐケーブルを外し、そこに専用充電器のコネクターをつなぎます
シンプルな見栄えのドライブトレイン。ギアはシマノ製内装ギア「Nexus Inter-5E」を採用しています
前後輪ともにシマノ製油圧式ディスクブレーキ。フロントフォークのサスペンションは80mmトラベルです
車体左後方にサイドスタンド。リアフェンダー(泥よけ)は、最近のモーターサイクルによく見られる形状のものが採用されています
ハンドル周辺はこんな感じ
中央右側にはディスプレイがあります。USB端子も装備されています
ハンドル右側に操作機構が集中しています。5段変速のギアはグリップシフト(レボルバー)タイプで、握ったまま回転させてギアチェンジ。その左に見えるのがドライブユニットの電源やアシストモードを切り変えるコントローラーです
コントローラー操作で、リアの赤色LEDテールランプとフロントの白色LEDヘッドライトをオンオフできます。夜間走行にも十分な視認性と光量があります
やや余談ですが、このe-bikeはケーブル類が非常によくまとまっています
トラスフレームの下部をケーブルが通りますが、このケーブルをまとめるための専用カバーがあるという凝りよう。モーターサイクルメーカーならではのこだわりかもしれません
サドルも独自のもので、大きめですがソフト過ぎずに実用的。サドルはもちろん上下できますが、そのときに締め緩めする六角ボルトは6mmで、自転車としてはかなり太い部類。シートポストを保持する部分も独特の機構に見えます。こういったあたりにもモーターサイクルメーカーらしさを感じました
サドルを下から見上げた様子。ISSIMO FUNの車体重量は32.4kgありますが、サドル下部が手をかけやすい形状なので、わりあい容易に後輪をぐいっと持ち上げられます。ただ、前輪はフレームやタイヤの重みがあり、掴む箇所も少ないので、持ち上げるのが少しタイヘン。ISSIMOをクルマに載せるとき「やっぱりISSIMOって重いんだなあ」と実感したりも

どこでも走れる圧倒的走破性!! 激坂は?

ISSIMOで試走するにおいて、懸念がありました。ファットタイヤであることと、車体重量です。自転車用タイヤとしては最も太いクラスで、しかもブロックが目立つオフロード系タイヤ。転がらなさそうです。また、30kgオーバーの車体重量も走行の足を引っ張りそうです。

ISSIMO FUNの車体重量は32.4kg。ブロックの大きいオフロード向けタイヤVee-tire Co.「MISSION COMMAND」は、走行時の抵抗につながりそうです。ちなみにこのタイヤ、1本の重さは1,5kgです

ともあれ、深く考えずにいろいろな路面を試走。結果、アシストのパワーと“超”がつくほどのファットタイヤ、それからトラスフレームの剛性により、どこでも走破できまくりなのでありました♪ すご~い、このe-bike。どこでも走れる!! と驚いた感じ。それぞれの路面と走行感もご紹介しましょう。

まずは草地を走行。芝生のような草で、ほぼ平坦といった場所です。雨の翌日で草がやや濡れていましたが、大きめブロックのファットタイヤの威力で、まったく滑らずスムーズに走り回れました。エアボリュームもあり、乗り心地とトラクションの良さを両立させているという印象。また、このくらいタイヤが太くてエアボリュームがあると、地面に対して圧をかけにくいようで、走行後のタイヤ痕がほぼ見えませんでした
河川敷にあるブロックの上を走行。MTBなら走れる凹凸なので、MTBに近いタイヤを履いたISSIMO FUNでも走れることは想定済みです。が、実際に走ってみると、ここでもファットタイヤの良さが発揮され、凸凹をあまり意識せず走れる乗り心地です。また、進行方向と並行している溝にタイヤが入っても、ハンドルを取られる感じがほとんどない。走破性の高さに驚きました
砂利と草が入り混じるような道路も走行。ぜ~んぜん問題なく走れる。しかもこういう道でも乗り心地がいい。ファットタイヤと大きめサドル、それからドライブユニットの力強いアシストのおかげですね。路面を選ばずどんどん走れるISSIMO FUNです
もちろんアスファルトの道も走りました。普通に快適。ラクに走り続けられます。ただし最高速度を上げるのは、けっこうタイヘン。20km/hくらいまでの巡航なら問題ありませんが、それ以上になると「急に重くなった」という感じがするISSIMO FUN。やはりブロック大きめのファットタイヤと30kgオーバーの車体重量は、速く走るのには向かないのでした

自転車に乗っていると、当然ではありますが、逐一路面状況を確認する必要があります。滑りやすいか? タイヤを取られる段差か? 路面の状態を無視して走ったら危ないですもんね。

ISSIMO FUNでも同様に、路面状態を確認しつつの走行にはなります。が、そこには意外な発見が多い。例えば「この段差はガンッと突き上げが来るかな?」という状況でも、ISSIMO FUNだと全然問題なし。「えーっこんな段差乗り越えちゃうの!!」という驚きがあります。実際10cm程度の段差なら「ボイン!」と乗り越えちゃうISSIMO FUNです。

また、普通の自転車なら滑りそうな箇所でも、ISSIMO FUNだと意外なほど滑りにくい。路面に少し砂が浮いているとか、路面に金属のフタがあるとか、路面が濡れているとか。普通の自転車に乗っている感覚だと「滑るかな……気をつけよう」と少々緊張する路面状態です。でもISSIMO FUNだと「全然滑らない~! マジか!」と拍子抜けする感じ。

悪路も楽々走れるISSIMO FUNなので、アスファルトの道路の路面凹凸などは全然気になりません。ちょっとした段差(とはいえクロスバイクやミニベロにとっては怖い段差)は無問題で乗り越えられる衝撃吸収性とグリップの良さがあります。フレーム剛性は、大きめの段差を乗り越えてもビクともしないレベルです

まあ、すべてがそうってわけではないのですが、ISSIMO FUNは自転車やe-bikeの常識を覆すことが多い。凄い走破性を持つe-bikeだと感じました。そういう走破性を知ってしまうと、よりリラックスして走れるようになり、それがとても楽しい。もちろん路面状態には気をつけますが、「たぶんここも平気」という気分で走れて、実際に何事も起きずに走破できるISSIMO FUN。

どんな道を走ってもだいたいリラックス、そして楽しくなる。「なるほど、これは確かに“FUN”だわ」とあらためて思った筆者なのでした。

ただ、ISSIMOは激坂をガンガン攻略して楽しむようなe-bikeではないとも感じました。多くのシチュエーションで十分力強いアシスト力が得られますが、ある程度以上の急坂になると、ISSIMOの車体重量が「ライダーに効いて」きます。つまり単純に「う~、重い~」となる。10~15%の坂だと「明らかにISSIMOはほかのe-bikeより急坂に弱い」と実感しがち。

でも激坂を上がれないってわけではありません。スピードを10km/h未満に保てば、激坂を座ったままペダルを漕いで上がり切れます。ほかのe-bikeだと15km/hくらいは出せるかなという激坂でも、ISSIMOだとそこまで速度は出せないという感じ。まあ筆者の場合ではありますが、やはりISSIMOの車体重量にはそういうネガティブな一面もあるのでした。

筆者が「マジメに購入を考えるほどISSIMOが好きになった」理由とは?

ISSIMOに試乗した結果、ISSIMOが超欲しくなった筆者。現在、マジメにISSIMO購入を検討しております。

いや~サイコーなんですよISSIMO。裏道細道の探検を含んだ街乗りにはとくに。ポタリング最強e-bikeって感じかもしれない。

前述のとおり、まず凄い走破性がある。街中を走っていて「ここを走り切るのはチョイ厳しい」と感じるようなことはまずない。重さがネックではあるので、階段を上がるような場合はタイヘンではありますが。

それとISSIMOは、意外に小回りが利く。タイヤ径的にミニベロなので、狭い場所でもクルリと回れたりする。またアシスト力と車体重量があるためか、低速での小回り時にも安定しているんですね。

考えてみればISSIMOはミニベロのカテゴリー。ゴツくは見えますが意外とコンパクトなので、街乗りに好都合です。小回りも効く。そして多くの路面状況をクリアできるファットタイヤとアシスト力。自由自在に街乗りを楽しめます

さらに砂利道でも泥道でも草地でも走れること。自転車で走っていての「冒険」が非常に楽しいんです。例えば「この道ってどこにつながってんのかな? まあいいや進んじゃえ~」と前進し、目の前に想定外の路面が現れてもISSIMOならダイジョーブ。行き止まりや通行禁止でなければ、だいたい走り切れちゃう。しかも快適に楽しく、です。

どんな道でも走れちゃうISSIMO。とくにダートロードも走れるタイヤを装備しているISSIMO FUNだと「こういう道は無理」と思うことがほとんどありません。普通の自転車だとタイヤを取られがちな草地などは、意外なほど楽しく走れます

ステップインフレームという点も非常にイイです。恐らくミニベロだからという要素もあり、足を通すフレーム空間部分が広い。なので、無理なく足を通せるんですね。乗り降りが気軽だしラク。小さな要素に見えますが、実際はこの気楽さラクさがクセになる。

20インチの小径タイヤということもあり、ステップインフレーム中央の空間が広め。ISSIMOの使いやすさに大きく貢献している要素だと思います

どんな道でも安心して走れて、走るにつれて楽しい気分になってくるISSIMO。乗り心地自体もいいし、乗り降りしやすいし、アシスト力も十分だし、完成度の高いe-bikeだと思います。

感覚的な話でアレですが「もっと乗りたい、走りたい」という気にさせるe-bikeでもあります。実際ずーっと乗っちゃうわけで。乗ってると、知らない風景にも出会えるわけで。

ISSIMO返却前の最後のライド。「もっと乗ろう~楽しもう~」と夕方近くまで地元を探検していたら、小高い丘に出ました。初めての光景。あぁー楽しいっ♪

機会があればぜひ、ISSIMOにご試乗を。ISSIMOの乗り味を知ると、もっと走りたくなると思います。そして気負わず走れるe-bikeだからでしょう、リラックスして走っていると、やはりいい気分。いい気分でいると、いいことがある。なんかこう、幸福のスパイラルのようなものを感じさせてくれて、そういう観点で非常に稀有なe-bikeだと思います。

スタパ齋藤