藤本健のソーラーリポート

電気自動車から家に電力供給するV2Hを体験してきた! 後編

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 前回、電気自動車から家へ電気を供給する「V2H」とはどういうものなのかという解説をしたが、この新しい考え方によるシステムによって、エネルギーの使い方や考え方、そして生活にも大きな変化がでてきそうだ。

 といっても、V2Hを実現できている家庭は、まだ非常に少ない。そんな中、大船にある三菱電機の研究所敷地内に、V2Hのある生活を体感できるスマートハウスがあるというので、行ってみた。

大船にある三菱電機のスマートハウスにアウトランダーPHEVを繋ぐと、どんなことが起こるのか楽しみだ

 この家にPHEV(プラグインハイブリッド・電気自動車)を接続すると、どんなことが起こるのかを体験してみたので、レポートしていこう。

前編

アウトランダーPHEVを運転して大船スマートハウスへ

 今回、大船スマートハウスへは、家電 WatchとCar Watchの混成チームでの取材となった関係で、Car Watch編集部が三菱自動車から借りていた「アウトランダーPHEV」で行くことになった。

 「せっかくだから、運転してみては?」と言われ、途中のコンビニで運転交代。恥ずかしながら、これまでPHEVはもちろん、EV、さらにはHVも乗ったことがないので、まさに電気自動車初体験。「自分に運転できるのだろうか……?」と不安を感じつつだったのだが、拍子抜けするほど、普通だった。

 シフトレバーの使い方がちょっと違うとか、加速感が違うなど細かな違いはいろいろあるものの、ガソリン車とほとんど変わらない感覚で運転できる。しかもエンジン音もするので「なんで?」と思ったら、このアウトランダーPHEVは電気自動車でありながら、ガソリンも使うのだとか……。普段、クルマにあまり関心をもっていなかっただけに、頭の中は疑問符だらけ。

三菱自動車のアウトランダーPHEVで大船スマートハウスを目指した。電気自動車は初体験だ

 Car Watch編集部の人に教えてもらったところ、「ガソリンでエンジンを回し、それで発電した電気を蓄電池に溜め、その電気を使って走る」のだとか。時速100km以上で走行する場合は、エンジンで直接の力も伝わって走るようになっているけれど、通常はあくまでもモーターで走る電気自動車だというのだ。

 ずいぶん回りくどい? システムになっているのだなぁ……とも思ったが、「プラグインハイブリッドだから、家庭の電気で充電して走らせつつ、その電気がなくなったらガソリンエンジンによる発電ができるから、バッテリー切れの心配をする必要がなくて画期的」という話を聞いて納得。モードを切り替えると、エンジンを止めてモーターだけで走らせることができ、こうすると、確かに非常に静かな走りになった。

 そんな勉強をしつつ、大船のスマートハウスに向かって走行。ガソリンでの発電よりも、予め充電していた電気で走らせたほうが燃費的にもずっと安く、環境にもいいという話も聞いたので、なるべく溜めてある電気を使って走らせ、目的地であるスマートハウスに到着したのだ。

大船スマートハウスは非常に大きくてキレイなオール電化住宅だった
スマートハウスの屋根には三菱電機製の太陽電池パネルが設置されている
急激にエアコンで暖房していたため、消費電力が5kWとかなり大きい

 このスマートハウス、一般公開はしていないが、いわゆるショールームなので、結構大きく、キレイで立派。オール電化住宅となっていて、普通に生活できる環境がほぼ整っている。

 当日は、雨もパラ付く寒い日で、「太陽光発電に関連する取材には厳しいな……」と思っていたが、モニターを見ると、屋根に搭載されている4.76kWの太陽光発電のパネルからは1kW前後の電気が発電されていることが確認できた。

 暖房は、エアコンを複数台使っており、また寒い朝の立ち上げ時であったこともあり、その時の消費電力は5kW超とかなり大きい。太陽光発電だけではまったく賄いきれないので、足りない4kW程度は、東京電力からの系統電力で補う形で動いていたわけだ。

アウトランダーPHEVを接続するがバッテリー残存容量不足で……

 この太陽光発電と系統電力の連系は、筆者の自宅でも行なっているごく普通のこと。今日の目的は、この太陽光発電の家と12kWhのバッテリーを装備したアウトランダーPHEVを接続して、どんなことができるのかを体験することだ。

 まずはカーポートにクルマを停め、スマートハウスに設置されているSMART V2HのケーブルをアウトランダーPHEVへ接続してみた。ガソリンスタンドでの給油みたいな恰好だが、これは「CHAdeMO(チャデモ)」という規格に合致したコネクタになっているそうで、これを使うことで、クルマへ充電することもできるし、クルマから放電して家に電気を送ることもできるそうだ。

CHAdeMOという規格のコネクタでスマートハウスとアウトランダーPHEVを接続
三菱電機 営業部スマートエネルギー営業課 担当課長の中條雄史さん

 というわけで、これであっさり接続はできたのだが、これによって何ができるのだろうか?

 三菱電機の営業部スマートエネルギー営業課の担当課長・中條雄史さんによると、「これはEV、PV、系統電力の3つの電気を混ぜて使える世界初のEV用パワコン、SMART V2Hです。たとえばグリーンモードに切り替えると、エネルギーの自給自足を目指す環境に配慮したモードとなり、なるべく系統電力を買わず、EVやPVからの電気で生活できるようになります」と説明してくれた。

 つまり、グリーンモードにすれば、日中は太陽光発電と電気自動車から電気が家に送られてくるというわけだ。

SMART V2Hのパワコン(EV用パワーコンディショナ)

 ところが、実際に切り替えてみたら、アウトランダーPHEVから電気が送られてこない。「何でだ?」とちょっと慌てたのだが、それもそのはず。ここに向かって運転してくる過程で、できるだけバッテリーに溜まっている電気で走ろうと心がけてしまった結果、バッテリー残量容量が20%を切っていて、「これ以上の放電はよろしくない」とパワコン側が判断していたからなのだ。

 それならば、一旦充電するのが良さそうだ。SMART V2Hでは6kWの電力を使った倍速充電ができるので、通常満充電に4時間かかるところ、これであれば2時間で済むというのだ。

三菱自動車 マーケティング推進部の田村明博さん

 とはいえ、「そんな長時間、ただ待ってるのも無駄だなぁ……」と思っていたら、同行してくれた三菱自動車 マーケティング推進部の田村明博さんから、「それならエンジンで充電しちゃいましょう。それなら10分もあれば、それなりの容量になるはずですから」との提案が。

 田村さんによると、3Lのガソリンで80%までの充電なら約40分。100%まででも50分で終わるというのだ。現在20%を切る容量しか溜まっていなかったが、10分ほどエンジンをかけたところ40%近くまで充電することができ、グリーンモードでの実験が可能な状況になったのだ。

 ただし、エンジンで発電をしながら、家へ電気を送電することはできない。これは法律上で禁止されているそうで、システム的にもそうできないような制御がされている。確かに、走る火力発電所をそのまま家につなぐのは問題がありそうな気がするが、それを禁止しているようなのだ。

SMART V2Hのグリーンモードは電力をかしこく運用

 さて、これでようやく準備が整ったので、SMART V2Hをグリーンモードに切り替えてみると……、確かにクルマから家への給電が始まった。モニターを見てみると、エアコンの電力を含めた電気が太陽光発電とクルマからのもので賄え、系統からの給電がストップしたことが確認できる。

グリーンモードにしたことにより、家庭の電力が太陽光発電とクルマからの給電で賄われている
太陽光発電した電気は家庭で消費され、余った電気がクルマへと充電される

 ただし、このモニターを見なければ、とくに家の中の状況は何も変化がない。とってもシームレスに電力源の切り替えが行なわれるので、ユーザーは単純にモード設定をしておくだけで、最適な電気の使われ方がされる。

 なお、このSMART V2Hではクルマから6kWまでの給電が可能となっているからこそ、これだけ多くのエアコンが動いていても、その電力が賄えたわけだ。ここで、家での消費電力を下げるとどうなるのだろうか? エアコンのスイッチを切り、照明と冷蔵庫程度にしてみると、電気の流れが大きく変わった。

 クルマから給電されるのではなく、太陽光発電で余った電力がクルマへと充電される形になったのだ。ここでも、家の中はとくに何の変化もなく、知らない間に電気の流れが変わっているのだ。

 一方で、クルマへの充電は深夜電力などを活用し、昼間は積極的に売電をするという方法もある。この場合、「EV予約充電モード」では、充電スケジュール、給電スケジュールなどを設定することも可能になっている。

深夜電力などを用いてクルマに充電するEV予約充電モード
充電や給電のスケジュールを時間で設定する

停電時でも普段通りに生活できる

 ここで中條さんから「停電が起こったら、どうなるのかを試してみましょう」と話があり、いざ停電が起こった際のシミュレーションを行なうことになった。

 シミュレーションでは、ブレーカーを落とすので、家の電気がすべて一旦止まる。するとSMART V2Hのシステム内蔵の電池によって、停電が発生したことを知らせるアラートがピーピーと鳴るので、モニターのボタンを使って自立運転モードへと切り替えてみた。

 すると、家の電気すべてがこれによって復旧したのだ。モニターの表示を見てみると、太陽光発電からの電気がフルに活用されると同時に、クルマからの電気で家の消費電力がすべて賄えていることがわかる。

モニターのボタンを使って自立運転に切り替える
クルマからの給電により家の中での電気が復旧した

 筆者の家など、太陽光発電のシステムが搭載されている家であれば、停電時でも電力を得ることはできるが、その場合は太陽光発電用のパワコンが持っている非常用コンセントからの給電しかできないため、天井にある照明などを点灯させることはできない。

 また、最高で1.5kWまでの電力しか供給できないために、かなりの制限があるのだ。しかし、このSMART V2Hを使うと、太陽光発電側からの電気を普段通りフル活用できてしまうのは大きなメリットだ。

三菱電機の太陽光発電用パワコン
太陽光発電のパワコンに用意されている非常用コンセント
停電が起こった時でも天井の照明なども普通に使うことができる
太陽光発電でできた電気のうち、家庭内での消費をまかなって余った電気はクルマへと送られる

 もしそんな緊急事態が起きたら、家中のエアコンをすべてオンにするような使い方はしないはず。使用電力をなるべく減らし、太陽光発電の電気は無駄なく充電へと回したいところだが、SMART V2Hでは、そうしたことも自動的に行なえるようになっている。

 太陽光発電から送られてきた電気は、まず家庭内で消費された後、余った電気がクルマへとまわされる。この辺の制御ももちろん自動だ。ユーザーは節電さえ心がければ、その分電気を溜めることができるので、いざというときも安心だ。

 前述のとおり、アウトランダーPHEVは、一旦、クルマを家から切り離した上でエンジンをかければ、ガソリンによる充電も可能なので、このダブル体制で充電できるというのは、この上ない安心といえそうだ。

 もちろん、そんな非常事態が起こらないに越したことはないが、PHEVとSMART V2H、そして太陽光発電があれば、停電が起こっても、電力に関してはほぼ心配なく過ごせることがよくわかった。

 アウトランダーPHEVの場合、バッテリー容量が12kWhあるので、これで普通の生活であれば1日分の電気が賄えるとのことだし、それを日中に太陽光で充電したり、ガソリンを使って充電すれば、いざというときでも当面は問題なく暮らすことができそうというのは、大きな安心といえるだろう。

 また普段は、生活スタイルに合わせ、効率のいい電気の使い方もできるので、電気代の節約、環境負荷低減への貢献など、エネルギーに対してより積極的に関わっていくことができるのも、重要なポイントだ。

前編

藤本 健