藤本健のソーラーリポート
電気自動車から家に電力供給するV2Hを体験してきた! 前編
by 藤本 健(2015/3/20 07:00)
「V2H」という言葉をご存じだろうか? これは「Vehicle to Home」の略であり、直訳すれば「クルマから家へ」という意味。実はこれ、電気の流れを意味しており、クルマから家へと電気を供給することを表した言葉なのだ。
EV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッドカー)などの登場によって現実化してきた、まったく新しい電気の活用法なのだが、すでにそれを実現するためのシステムを三菱電機が発売しており、太陽光発電と組み合わせることで、まさに近未来的なエネルギー活用ができるというのだ。
このV2Hはどんな使い方をするもので、生活にどんなメリットをもたらしてくれるのだろうか? 実際にV2Hがどんなものなのかを体験してきたので、前編と後編の2回に渡って紹介してみたいと思う。前編となる今回は、まずV2Hの基本的な内容について見ていく。
定置型蓄電池よりもメリットが多いV2H
ここ3、4年で太陽光発電を設置する住宅はかなり増え、近所の屋根を見渡せば、黒や紺色のパネルを搭載した住宅が結構見つかるのではないだろうか? 自宅の屋根で発電できるので環境にいいし、震災などでライフラインがストップするような事態が発生したときにでも安心ということで、設置する人が増えているからだ。
ただ、太陽光発電さえあれば安心なのか……というと、そうともいえないのも事実。そう、太陽光発電というくらいなので太陽が出ていない夜は発電しないし、雨の日などは出力が非常に小さくなってしまうという問題がある。
そこで、最近、各メーカーが推奨しているのが大型のリチウムイオンバッテリーとの併用だ。これがあれば昼間発電した電気を蓄電池に溜めておき、夜間や雨天の日に使うことができるし、平常時は蓄電池に夜間電力を溜めて、朝・夕などに使うことで電力のピークシフトに貢献できたり、家庭での電気代を抑えることができるというメリットがあるのだ。
その定置型の大型蓄電池を設置する代わりに、電気自動車のバッテリーを家につないで使ってしまおうという発想が、V2Hなのだ。でも、このV2Hは単に定置型バッテリーからの置き換えに留まらず、さまざまなメリットがあって驚いてしまう。その特徴を容量、出力、分電盤の3つの観点から整理してみたので、ご覧いただきたい。
まず、最大のメリットともいえるのは電池容量だ。大型の定置型蓄電池といってもその容量は5~7kWhが一般的なのに対し、今回テストに使ったPHEVである三菱自動車のアウトランダーなら12kWh、またEVとして非常に大きな実績を持つiMiEVでも10.5kWhや16kWhといった大容量を持っているのだ。
つまり、いざ停電が起こった際、V2Hのほうがより長時間使えるというわけだ。しかも、普段は単にバッテリーを置いておくのではなく、クルマだから通勤に使ったり、買い物に利用するなど、本来の使い方をしつつ、自宅に帰ってきたときに家と接続するので、非常に効率的でもある。
一方で、出力性能においても大きな差があるのは驚くべき点だ。今回は、「SMART V2H」というEV用のパワコンを用いたということもあるのだが、定置型蓄電池での家への電力供給と比較して3倍もの出力が可能なのだ。
一般の蓄電池による供給能力である2kWだと、本当に限られたことしかできないが、V2Hの場合、6kWとなるので、普通の生活をする上で、おそらく困ることはない。もちろん、エアコンを3台も4台も同時に使う……となると厳しいが、ある程度節約をすれば、緊急時であっても、ほぼ通常通りの生活ができてしまうほどである。
さらに、実際の生活という面で大きく響いてくるのが分電盤の存在だ。実は、定置型蓄電池を使った場合には、普通の分電盤とは別に専用の分電盤を設置する必要があり、蓄電池から電力供給する機器を、予め決めておかなければならない。通常は2階の寝室だけとか、1階の和室と冷蔵庫だけに供給するといった設計をしておき、そこへ蓄電池からの電気を供給するという形だ。
それに対し、V2Hの場合、とくに別の専用分電盤を設置する必要もないし、特定の機器や部屋を指定する必要もない。つまりクルマから住宅全体に電気を供給することができるので、普段の生活と何も変える必要がないというわけだ。
もちろん、いくら容量が大きく、出力が大きいとはいえ、無駄にたくさんの電気を使うと電池切れを起こす可能性はあるので、そこそこセーブする必要はあるだろうが、アウトランダーPHEVの12kWhという容量がフルに充電されていれば、「普通に1日分の生活ができる」と三菱電機の担当者も話す。
さらに太陽光発電を併用していれば、それ以上の電気を使えるわけだし、昼間は太陽光発電で作った電気を充電することも可能。アウトランダーPHEVの場合、ガソリンでエンジンを効率よく回して発電し、クルマに搭載されたリチウムイオン電池を充電できるので、系統からの電力供給がなくても、ほぼ問題なく生活できるほどのレベルなのだ。
実際に試してみた内容については次回、詳細にレポートするが、こうしたことからも、V2Hが単に定置型蓄電池からの置き換えとは大きく異なることが分かるだろう。
なお、三菱電機のSMART V2Hのシステム構成図も載せておくので、これを見れば、電気の流れを大まかに掴むことができるだろう。一言でいえば、中枢にあるEV用パワコンに、電力会社からの電気、EV/PHEVからの電気、そして太陽光発電で発電した電気のそれぞれが統合され、それを無駄なく、効率のいい形で管理し、住宅内へと電気を送っているのだ。
では、V2Hは三菱電機のSMART V2Hが初のシステムなのかというと、実は以前にも別の会社がV2Hの製品は出していたし、経産省もV2H全体に対して実証実験としてバックアップしていたという経緯があるが、新世代製品として登場したSMART V2Hは従来のものと比較すると、かなり大きく進化しているのだ。
まず従来は、EVやPHEVから家へ電力を送る場合、それ専用となってしまい、電力会社からの電気や太陽光発電からの電気と一緒に使うことができなかった。また、家で使う電気がV2Hの供給能力を超えると、V2Hが停止して電力会社からの電気に切り替わる。だが、この際には切り替えのために瞬間的に停電が発生するため、PCでの記録メディアの書き込みなどトラブルが生じる可能性があった。
しかしSMART V2Hであれば、ダブル、トリプルの給電も可能となっており、切り替える際もシームレスに行なうため、瞬時停電を起こす心配もない。その意味でもかなり大きく進化したシステムとなっているのだ。
もうひとつ、太陽光発電システムの設置ユーザーにとって大きいのは、このSMART V2Hには、太陽光発電システムの売電がダブル発電にならないモデルがあり選択できるという点だ。電力会社との売電契約において、太陽光発電分を売電するとき、EVやPHEVから家へ電力を送るとダブル発電とみなされ、売電単価が大きく下がってしまうという問題がある。
だが、SMART V2Hの場合、太陽光発電からの売電がスタートするタイミングで自動的にクルマからの給電をストップする仕組みになっているモデルを選択すると、ダブル発電扱いにならない。そのため、ユーザーとしては経済的にも大きなメリットとなるのだ。
一方、系統電力側が停電した場合でも、従来のV2HとSMART V2Hでの運用に大きな違いが出てくる。従来のものは、停電時にEVやPHEVからの給電は可能だが、太陽光発電側からEVやPHEVへ充電することができない。そのため、クルマに溜まっている電気を使い切ると、それで終了となってしまうのだ。
また太陽光の電力は、自立発電という形で専用コンセントからのみ取り出すことは可能だが、最大で1.5kWという制限があるため、取り扱いが非常に限定されてしまう。
それに対してSMART V2Hであれば、停電時でもクルマから家への給電ができるのはもちろんのこと、太陽光発電側の電気が消費分に対して余れば、それをEVやPHEVの充電に回すことも可能。停電時であっても、太陽光による発電をフルに活用できるので、昼間発電した電気を溜めて、夜に使うといったサイクルを確立することができるのだ。
このように、電力会社からの系統電力と、クルマからの電力、太陽光発電による電力をトータルに組み合わせ、最適化することができるのが、最新のV2Hなのだ。
なおこのSMART V2Hは、ユーザーの志向によって、運用の方法を変更できるのもユニークなところだ。多くの場合は、昼夜の電力料金差をうまく利用し、電気代を最小限に抑えるという使い方になると思うが、「できるだけ環境への負荷を下げたい」、「発電所から買う電力は最小限に抑えたい」という場合には「グリーンモード」という設定にすることで、昼間、太陽光発電で作った電力は、消費分を差し引いてクルマのバッテリーに溜めるようにし、夜はできるだけクルマのバッテリーに溜めてある電力で生活するといったこともできる。
なお、ダブル発電の契約にはなってしまうが、世の中で電力需要の大きいピーク時にEV/PHEVに貯めた電力を宅内で使うことで、よりたくさんの太陽光発電の余剰電力を系統へ送り、ピークカットに貢献するといった使い方もできるようになっている。
以上、最新のV2HのシステムであるSMART V2Hについて見てきたが、V2Hが今までの電気の利用法とは大きく異なる近未来的な電気の使い方であることがお分かりいただけたのではないだろうか? 次回は、そのV2Hを実際に体験してきたので、その内容についてレポートしてきたい。