藤本健のソーラーリポート

日産サクラを「家の蓄電池」にするとどれだけ電気を使える? 試行錯誤の日々

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
主に“蓄電池”としての目的で筆者が購入した日産の電気自動車「サクラ」

家で太陽光発電をしているなら、発電した電気をフル活用したいと思っている人は多いはず。願わくば、その発電した電気だけで暮らしたいところだが、夜間や雨の日はほとんど発電しない。そこで、晴れた昼間に発電した電気を効率的に利用するには、蓄電池が必須となるのが現状だ。

ところが、家全体の電気を賄うような大容量の蓄電池は一般的に300万円以上と高価なものが多く、誰もがおいそれとは購入しにくい。そこで、裏ワザ的な手段として電気自動車の日産「サクラ」を蓄電池用途で買ってみた現状を前回の記事でお伝えした。

結果的にはクルマ本体が305万円、V2Hシステムが112万円でトータル412万円。補助金などを差し引くと303万3,000円も使ってしまったわけだが、本当にこれが筆者の理想を叶えるのかいろいろ試しているところなので、その実態を赤裸々にお伝えしていこう。

V2Hシステム

数日分の電気を使えるはずが、1日だけで放電終了?

みなさんは、自分の家の電気をどれくらい使っているのか、しっかり把握しているだろうか? 何人家族なのか、一戸建てか集合住宅か、季節はいつか、どの地域に住んでいるかで大きく変わってくるので一概にはいえないが、総務省統計局によると、4人家族の1カ月の電気使用量は400kWhなんだとか。

kWh(読み:キロワットアワー)なんて単位についてよく知らないという方も多いと思うが、ドライヤーの使用電力が1,000W=1kWだとすると、それを1時間つけっぱなしにしたときの電力量が1kWhとなり、2024年現在の1kWhの価格はだいたい30円強。細かくは電力会社やプランなどによって異なるが、単純計算すると4人家族の月額電気代は約12,000円ということになる。

ただ、「ウチはその倍以上する!」という人も多そうだし、ここ1~2年でkWhの単価がガツンと上がったため「電気代がとんでもないことになった!」なんて声をよく聞くようになった。それは他人事ではなく、ウチも同様。19年前に家を建てたときから屋根にソーラーパネルを載せているから、一般家庭よりは電気代を安く抑えられているはずだが、それでもこの1~2年の電気代の高騰は気になる状況だった。

その筆者の家は、大学生の子供が一人地方へ出ていったため、現在4人家族。2022年10月~2023年9月の電気使用料、電気代を見ると、季節によってずいぶん違うのが一目瞭然だが、平均すると348kWh/月なので、全国平均よりちょっと少なめといったところだろうか。

現在4人で住む我が家の電気代

もっとも、同じ時期の太陽光発電の実績を見ると月平均で248kWhの発電をしている。半分を売電しているとしても、120kWh/月程度は自家消費しているはずなので、468kWh/月を消費していたことになり、全国平均を上回る使い方でちょっと反省する必要はあるかもしれない。とくに冬場にエアコンをつけっぱなしにしているところは改めたほうがよさそうに思う。

購入した電力量と太陽光で発電した電力量

そんな自己分析をする中、見えてくるのは1日の使用電力量。468kWhを30日で割れば15.6kWh。冬場で見ると25kWh程度になるケースはあるけれど、20kWhのバッテリーがあれば、1日分なら賄えるし、エアコンを使用しない春や夏なら3日分程度賄えそうと考えて、20kWhのバッテリーを搭載した日産サクラを蓄電池として導入したわけだ。なお、サクラだけを持っていても家に放電することができないので、ニチコンのV2Hというシステムもセットで購入している。

前回の記事でも書いた通り、納車されたのは2023年の10月2日。まさにエアコンのいらない、秋のいい季節。前年実績をもとに計算すると、1日の購入電力量は7.3kWhだから、20kWhのサクラなら約3日分に相当する。そして、納車時にほぼ満タンの100%に充電されていて、家までの距離5~6kmで5%程度を消費したが、それでも95%=18.5kWhがあるので、これだけで数日は暮らせる計算だ。ところが、翌朝10時過ぎだっただろうか、確認してみると放電が強制終了されてしまっていた。そしてサクラに乗って、インジケーターを見てみると、残量10%となっていた。

家への放電が強制終了され、サクラの電池残量は10%に

「これはどういうこと?」と焦ったが、何が起きたのか、よくわからない。一つずつ状況を整理していくと、まずサクラというより、ニチコンのV2Hのシステムの仕様で、残容量が10%まで減ったら放電をストップする形になっていた。そのために放電が強制終了されていたのだ。その原因は何なのか。考えられることとしては以下の3つ。

  1. 本当に18.5kWh近い電気を使ってしまった
  2. 納車時100%充電という表示が、実は正しくなかった
  3. どこかが故障している

まず使った電気に関しては、確かに「これからいっぱい電気を使えるぞ!」と思って、普段より無駄にいっぱい使った気はする。ただ、どんなにいっても10kWhは絶対使ってないので残量10%までになるのは変だ。

2番目については確かに考えられそう。サクラ自体は1年近く前に生産されてディーラーのカープールでずっと寝ていたので、その間に放電が進んでしまった可能性はある。けれど、インジケーターは充電のときのものが残っていてリセットされていなかったから、100%という表示が幻だったのかもしれない。

3つ目の故障という可能性も捨てきれないけれど、とりあえず充電も放電もできたので、故障だと断言するのは早計。いずれにせよ、もっとチェックしていく必要はありそうだ。

スマホアプリで細かな設定やモニタリングが可能

いろいろチェックをしていく上で重要なツールになるのが、V2Hシステムをコントロールするアプリ。ニチコンが「EVPS controller」というアプリをiOS/Android用に出しており、これを使うことで本体では分かりづらい各種設定ができたり、さまざまなモニタリングができる。

ニチコンの設定/モニタリングアプリ「EVPS controller」

さっそくこれを使おうとしたが、当初はいきなり壁にぶつかった。9月に買ったばかりのiPhone 15 Proにアプリをインストールして起動しようとしたが、起動画面が表示されたところでダウンしてしまい、まったく使えない。ネット情報を漁ってみると、そういうユーザーがたくさんいるようで、どうやらこのアプリ、新しいiOS 17で起動できない問題があったようだ。iPhone 15 Proは最初からiOS 17なので、動かしようがなかった。

V2Hを使う上で必須のアプリだから「ニチコンは最優先で対応すべきだろう!」と怒りを覚えたが、動かないものはどうしようもない。幸いiPhone 14 Proもバックアップ用として手元にあったし、iPad ProもアップデートせずにiPadOS 16のままにしておいたので、これらでなんとか使うことはできたのだが。ちなみに、ニチコンがiOS 17対応できたのは10月30日のこと。ハードメーカーにありがちなソフトウェア軽視が根本にあるのではとも思ったが、今後は優先順位を大きく上げて対応してもらいたいところだ。

アプリを使うと何ができるのか。V2Hシステム本体だけでも、一通りの設定はできるようになっているが、7セグLEDを使っての操作なため、なかなかわかりにくい。しかし、アプリを使うことで、より分かりやすく細かな設定ができるだけでなく、各種状況をモニタリングできるようになる。事前にWi-Fi経由でペアリングしておく準備さえしてしまえば、あとは簡単。

表示は液晶などではなく7セグLED

充電、放電、停止、CHAdeMO(チャデモ)コネクタでの接続のロックおよび解除といった基本操作をリモコンで行なえるのはもちろん、現在のサクラの充電状況がどのくらいかを、家の中にいながらにして見られるのがうれしいところ。

CHAdeMOコネクタ
コネクタのロックや解除が操作できるほか、乗らなくてもサクラの充電状態が確認できる

20段階表示になっているので5%単位で分かるわけだが、それと同時に、いま充電中なのか、放電中なのかも、アニメーション表示で見える形となっている。そして本体設定としてもさまざまなことができる。

バッテリーはアニメーションで充電か放電かがわかる。そのほかも細かな設定が可能

設定項目を上からざっと見ていくと、タイマー充電、タイマー放電という項目があり、充電、放電それぞれを行なう時間を設定できる。その下にグリーンモードというものがあるが、これはONにすると、指定した時間帯に太陽光発電がされた際、家で使いきれずに余った電力=余剰電力を売電せずにクルマに充電するというモード。以前、この機能が知りたくて日産のディーラーの電気自動車スーパーバイザーに質問して、わからなかったのが、まさにこれだった。

余剰電力を売電せずクルマに充電するというグリーンモード

ちょうど晴れていたので、これをONにした状態で放電してみたところ、放電ではなく、「PV余剰充電」という表示になって充電がされていった。まさにPV=太陽光発電のみでサクラを充電しているわけだ。ただし、ウチの太陽光発電システムは、この時点で運転開始からほぼ19年が経過したタイミングであり、だいぶ劣化が進んでいた。そのため、昼間にこの余剰電力で充電しても4kWh=20%相当を貯めるのがせいぜいという状況なのも事実。

一方、充放電停止充電率設定というものもある。これが初期設定で充電停止が100%、放電停止が10%となっていたため、朝に放電がストップしていた。電気自動車に搭載されているリチウムイオン電池は満充電と完全放電を繰り返すと劣化が早まるといわれている。そのため充電停止を80%、放電停止を30%などにしておくと、余裕あるところで充放電を繰り返すためにバッテリー寿命を長くすることができるらしい。

充放電停止充電率設定の画面

とはいえ、余裕を持たせると実質に使えるバッテリー容量が減るのが難しいところ。筆者の場合は、その後いろいろと考えた結果、20%~100%という設定で利用しているが、状況によっては手動で変更して使ったりもしている。

そのほか、HEMS連動設定などの項目があり、この辺も重要な機能だが、また改めて説明する。履歴においては、日々の放電状況、充電状況が棒グラフで表示できるほか、いつ放電をスタートしたのか、運転終了したのかなど、1週間分の履歴が見えるようになっている。

充電や放電の履歴がグラフでわかり、放電開始や運転終了などの日時が後からでも確認可能

このアプリでできるのは、ここまで紹介した程度。懸案のバッテリーの充電がすぐに消えてしまった理由は、このアプリを見れば即解決というわけにはいかないようだ。とりあえず、充電や放電の動きを見る限りは正しく動いていて問題はなさそうに思えるので、充放電状況をしっかりチェックしながら、原因を追究していくことにした。

充電はほぼロスなしで燃費も良好。でも家への放電は効率が悪い?

筆者の家では、東京電力と電力供給契約をしており、19年前に太陽光発電システムを設置して引っ越してきたときに契約している。プランは「おトクなナイト10」という昼間の値段が高く、夜は安いもの(※既に新規申し込みはできないが、似たものとしては「夜トクプラン」がある)。

具体的には午前8時~午後10時のkWhの単価が49.96円で、夜の午後10時~午前8時が29.19円となっている。正確な料金計算には、これに基本料金、燃料費調整額、再エネ発電賦課金などが入ってくる。細かい解説までは省略するが、いずれにせよ昼と夜での価格差があるので、電気代節約という観点から考えると、夜間にサクラへ充電し、日中にサクラから家へ放電すれば役に立ちそうに思える。

筆者が契約しているプラン「おトクなナイト10」(新規申込は終了)の単価
「おトクなナイト10」のプラン詳細

そこで実際にどうなるのか試してみた。夜10時過ぎにアプリを使って家の中から「充電」をONにしてみると、サクラへの充電がスタート。アプリ画面でみると、5.9kWのパワーで充電が行なわれているのが分かる。EVを使っている方ならお分かりだと思うが、これは結構な急速充電。太陽光で充電した結果、残量30%あったものを100%にするのに2時間半程度だった。

5.9kWhで充電されていた

この数字から1つ見えたことがある。充電においてはほとんどロスすることなく、サクラに貯めることができていたのだ。ウチの電力契約は6kVAとなっているので、家でまったく電気を使っていなければ6.0kWで充電ができ、家で500Wの電気を使っていれば5.5kWの充電ができる。深夜の充電でほとんど電気を使っていなかったから瞬間的に5.9kWを記録したが、実際には5.5~5.9kWで充電していたから、平均5.7kWとすると2時間半で貯められたのは14.25kW。一方、サクラは20kWhのバッテリー容量でありその70%というと14kWだから、計算上ほぼピッタリで、しっかり動いているようだ。

そして翌日、この貯めた電気を使って、ちょっとサクラを走らせて買い物に出かけてみたところ、クルマは快調。6kmを走って3~4%=0.6~0.8kWhの電力量消費なので、1kWhあたりの走行距離は7.5~10kmということになる。サクラのスペック上では20kWhの満タンで180kmということなので、9km/kWhとなり、こちらもスペック通りというか、期待値以上の走りをしてくれている。

せっかくなので、燃費計算をしてみよう。ウチにあるもう一台のクルマ、トヨタのヤリスクロスのハイブリッドは街乗りの場合1Lで27kmくらい走る。現在1Lのガソリン単価が168円なので、これを計算すると1kmを走るのに6.22円となる。一方、サクラのほうは、先ほどの29.19円での充電だとして、1kWhあたり7.5kmだとしても3.89円と約半額になる。一方、太陽光発電で充電した場合は、タダともいえるけれど、売電価格が8.5円/kWhだからこれを元に考えれば1.13円/km。これはサクラの購入費、V2Hシステムの購入費を考えなければの話なので、安いとはいい切れないけれども、気持ちはいいところだ。

ここからが問題。そのサクラを再び自宅でV2Hに接続して放電を開始してみたが、どうなるのか……。確かに確実に放電はされていているが、どうもバッテリーの減りが早い。というか、早すぎる。このニチコンのアプリだけで細かくチェックすることはできないが、1.0kW程度しか使ってないのに、1時間で10%程度バッテリーの残量が減ってしまっていたのだ。普通に考えると1kWhを使えば5%の減りのはずだから倍近いスピードで消費してしまっている。絶対おかしい。

とはいえ1日中、アプリのモニターを見ているわけにはいかないし、昼間は打ち合わせやら取材やらで外に出ることも多く、このアプリはLAN環境下にないとチェックできないため、家にいるときに時々見るにすぎないけれど、V2Hの「クルマから家に送る」電力効率が極めて悪いように感じる。

以前、家庭用蓄電池の変換効率が充電/放電の往復で85%程度というのを見た記憶があり、最近はそれが改善されている、なんてことも読んだ気がするが、そこに遠く及ばないのではないか。しっかりデータが取れているわけではないけれど、どうもここに問題がありそうだ。

1週間点検でわかった、さらに不思議な現象。そして再チェックへ

試行錯誤を続ける中、納車から1週間が経過して、1週間点検の日がやってきた。その日の早朝というか深夜にタイマー充電を使って100%充電した状態で、日産のディーラーへ向かう。ここでまた不思議な現象が発生した。サクラのインジケーターは100%充電の状態が示されているが、4~5km走行してディーラーに到着しても表示が100%のまま減らない。そもそも自宅を出る前に、そこそこ放電していたはずなのに100%残っていたこと自体もちょっと変。ただ点検自体は何も問題なしと診断されて、1時間後に帰宅したが、帰宅しても100%のままだった。

「これはもしかして、サクラのバッテリー容量はスペック上20kWhとなっているけれどホントはそれ以上あって、その余力部分が利用できているのかも。もしかして、異様に早いバッテリー消費現象も、そのことと関係あって、実際にはもっといい数値なのでは?」なんて勝手にいい方向に解釈して喜んだりもしたが、その夢は瞬時に消し去られた。サクラをニチコンのV2Hに接続した瞬間に、100%が85%へとダウンしてしまい、本来の状況に戻ってしまっていた。

この件について、ディーラーの担当者さんに問い合わせたところ、やはり何か問題があるのかも……ということになり、翌週、改めてチェックしてもらうことになった。

(さらに次回へ続く)

藤本 健