大河原克行の「白物家電 業界展望」

2009年のエアコン冷房商戦は厳しい状況に

~エコポイント効果は限定的か?
by 大河原 克行

エコポイントの効果も見られず、厳しい7月


夏のエアコン冷房商戦は、7月までの動きを見ると厳しい結果となっている
 2009年夏のエアコン冷房商戦は、7月末までの動きを見る限り、極めて厳しい結果になっている。

 GfK Japanがまとめた7月のエアコンの販売実績は、台数ベースでは前年同月比32.3%減、金額ベースでは27.5%減と、大幅な前年割れとなっている。

 前年7月には猛暑の影響もあり、エアコンの販売台数が増加。比較する分母が大きいという要素は見逃せないが、それでも販売台数で前年の約3分の2という実績は、各社の予想を上回る落ち込みぶりだった。エコポイント制度という追い風となるべく要素があったものの、残念ながら、それを需要増という成果には結びつけられていないというのが現状だ。

 実際、GfK Japanの調べでも、同じエコポイント対象となる薄型テレビの7月の販売実績が台数で58.3%増、金額で33.4%増。冷蔵庫は台数ベースでは7.4%減となったものの、金額ベースでは5.0%増とプラス成長を見せている。これに比べると、エアコンの落ち込みぶりは異例だ。

【エコポイント対象3カテゴリの
7月の販売動向(GfK調べ)】
3カテゴリエアコン冷蔵庫薄型テレビ
数量前年同月比67.7%92.6%158.3%
金額前年同月比72.4%105%133.4%

冷蔵庫、薄型テレビは、エアコンとは対照的に好調な売り上げとなっている
 エアコン各社のコメントからも、今年の商戦の厳しさが伝わってくる。

 東芝では、「エコポイント対象製品は、明暗が分かれている。薄型テレビは、エコポイント制度導入の効果が高く、市場全体で50%増、そのなかで東芝は2倍の成長。また、冷蔵庫は、エコポイント対象外の製品の売れ行きは減少しているが、大型を中心に伸張しており、前年比10%増の実績となっている。だが、エアコンは、エコポイント効果を帳消しにするほどの天候不順で、前年同期比10%の減少」とする。

 パナソニックでも、「6月までの実績を見ると、薄型テレビが前年同期比12%増、冷蔵庫が32%増、エアコンも同2%増とプラスになった。冷蔵庫は作れば売れるという状況にあり、なかでもエコポイント対象となる400L以上が売れている。だが、エアコンは7月に入って天候の影響もあり、大幅に悪化している」とする。

 薄型テレビや冷蔵庫に比べて、エアコンでは、エコポイント効果が少ないのは共通した認識だ。


エアコンは天候次第

 もともと、エアコンの需要は、とくに夏の場合、天候に大きく左右される傾向がある。しかも、前年の2008年7月は猛暑となり、需要が集中したことから、エアコンメーカーもある程度、前年割れは必至と見ていた。

 だが、エコポイント制度の追い風を期待する声があっただけに、ここまでの落ち込みは想定外だったともいえよう。

 メーカーからは「もし真夏日や猛暑日、熱帯夜が続けば、エコポイント効果が大いに発揮されたと思うが、天気がこの調子では、エコポイントがあっても、とても需要を喚起できない」、「よくて前年並みという読みはあったが、ここまで落ち込むとは思っていなかった」といった声のほか、「暖房商戦も、前年が灯油価格の高騰などの影響があったためにその反動を受けて前年割れ。そこにリーマンショックによる景気後退が影響した。この夏の冷房商戦は、それに天候不順が重なり、引き続き厳しい状況に陥った」と、年間を通じた厳しい状況に、落胆の声が聞かれる。

 あるメーカーでは、エアコン夏商戦の状況を次のように表現する。

 「景気、売る気、人気、買う気<天気」。

 今年の場合、景気は悪いが、買う気にさせるエコポイントがある。だが、それも夏らしくない天気の前では効果が発揮しきれなかったというわけだ。

エコポイントの効果は限定的も、単価アップに寄与


エコポイント制度が開始された週は好調だったが……
 では、エコポイント制度は、エアコン市場にはまったく効果がなかったのだろうか。

 GfK Japanのデータを見ると、エコポイント制度が開始された5月15日を含む5月11日から17日までの集計では、前年同週比44.8%増と大幅な伸びを見せている。まさにエコポイント効果だといっていい。

 だが、業界筋の見方を慎重だ。というのも、実施前の2週間は前年同週比30%減以上で推移。開始翌週以降も前年割れで推移している。「需要がエコポイント開始時に集中しただけで、平準化すれば効果が持続しているとは言い難い」との見方が支配的だ。

 GfK Japanのデータでは、6月22日~28日の集計で前年同週比70.1%増と急激に上昇しているが、この週に関東地区で30℃を超える日が相次いだことが追い風となっており、この伸びも単純にエコポイント効果というわけにはいかない。

【エコポイント発表後の、週ごとのエアコン販売動向(GfK調べ)】
週の開始日2009/4/6
(エコポイント発表)
4/134/204/275/45/11
(エコポイント開始)
5/185/25
数量
前期同期比
119.8%113.6%84%63.8%68.2%144.8%92.8%76.1%
金額
前年同期比
107.1%106.2%79.5%61.5%73.2%152%100.2%81.7%


週の開始日6/16/86/156/226/297/67/13
数量
前期同期比
96.4%84.1%89.1%170%63.6%63.7%86.7%
金額
前年同期比
103.7%92.4%96.3%179.1%70.2%69.8%92.3%


エコポイントの付かない下位機種よりも、エコポイントが付与される中級、高級機種へのシフトが進んでいる(写真はパナソニックのカタログ)
 その一方で、「最下位シリーズを購入していた顧客層が、エコポイントを利用して1つ上のシリーズの商品を選択するといった例が増えた」、「暑くなると、冷やすだけのボリュームゾーンの商品が売れ行きの中心となるが、エコポイント制度で、1つ上のモデルを説明できるきっかけになっている」、「省エネ商品への関心が高まること、省エネモデルの製品へ買い換えるという点で購入を促す効果は出ている」という声が出ている。

 実際、中級モデルの構成比が上昇したという声は、複数のエアコンメーカーから聞かれている。中位モデルや上位モデルにシフトしているという点では、販売台数よりも販売金額の落ち込みが少ないという、GfK Japanのデータからも明らかである。消費者のエコ意識の高まりとともに、商品単価を引き上げる効果は確実に出ているようだ。

 商品単価の引き上げ要素としては、空質に対する意識が高まっていることも影響している。空気清浄機で採用している除菌機能を搭載したり、湿度コントロール機能の搭載に注目が集まっているのも、エアコンを利用して空質を改善しようという動きが顕在化していることの表れだ。また、気流制御やセンサー機能を利用した快適な空調に対する注目度も高まっている。

 「巣ごもり現象という言葉で示されるように、家のなかで過ごす時間が増加している。それとともに、家のなかの空質にこだわる購入者が増加しているのは確か」というように、空質重視のユーザーが、中位および上位モデルを購入する例が増えているというわけだ。



 もちろん、8月の天気の回復次第では、巻き返しの可能性もある。だが、エアコン各社は、引き続き厳しい見方をしている点は変わらない。

 あるメーカーは次のように語る。

 「8月に猛暑が続いたとしても、あと1カ月もすれば涼しくなるという判断があり、我慢する消費者が増加する。7月に猛暑があるのと、8月に猛暑があるのとでは、需要喚起に大きな差がある」

 「8月になれば、とりあえず安いモデルでいい、という意識が強くなる」

 遅れてきた夏はエアコン業界にとっても、すべてがプラスに働くとは限らない。

 いずれにしろ、今後の需要動向は、天気次第という点には変わりなく、メーカーや販売店は、厳しいエアコン夏商戦のなかで、依然として手探りの状態が続くのは間違いなさそうだ。



2009年8月5日 00:00