大河原克行の「白物家電 業界展望」
シャープが市場転換期に投入する「新プラズマクラスター空気清浄機」の狙い
「プラズマクラスター空気清浄機」の2009年新モデル |
このほどシャープが発表した「プラズマクラスター空気清浄機」の2009年新モデルは、空気清浄機市場の大きな変化を捉えたものになっているといえよう。
空気清浄機市場は、花粉対策需要を背景に、2004年度に年間180万台規模の出荷実績となったのをピークに、それ以降、減少傾向にある。2008年度の出荷実績は145万9,000台に留まっており、年々、空質に対する意識が高まりつつある一方で、空気清浄機自体の売れ行きは、逆に減少するという状況に陥っていた。
しかし、減少傾向にあるなかで、いくつかの注目すべき傾向が見られている。
1つは、高機能モデルの売れ行きが好調である点だ。
台数ベースでは年々減少傾向にあるものの、金額ベースは逆に右肩あがりで上昇しており、2008年度は前年比8.4%増の343億円となっている。平均単価の上昇は、まさに高機能モデルに注目が集まっている証しだ。
そして、もう1つは加湿空気清浄機の構成比率が高まっている点だ。2006年度には台数ベースで22%だったものが、2008年度には45%にまで拡大。2009年度は初めて過半数を突破することになると見られている。
見方を変えれば、2004年度までの需要を支えたのは、花粉対策やタバコ対策であり、まずは試しに購入してみるというユーザーが多く、比較的低価格の製品に需要が集中したことがあげられる。
だが、こうした需要が一巡する一方で、加湿機能が風邪予防に必要であるとの認識が高まったこと、アレルギー対策や、部屋干しした衣類のニオイ対策、カビ対策の効果が科学的に実証されるようになったことで、高機能モデルに限定してみれば、着実に需要を拡大してきたといえる。
シャープが、空気清浄機市場が転換期を迎えていると位置づける背景には、こうした空質に対する認識が高まり、高機能モデルに注目が集まっている市場動向をベースにしながら、新たな市場が創出されるであろうとの読みがあるからだ。
シャープ健康・環境システム事業本部空調システム事業部副事業部長兼商品企画部長の鈴木隆氏 |
シャープ健康・環境システム事業本部空調システム事業部副事業部長兼商品企画部長の鈴木隆氏は、「部屋を清潔に保ちたい、家族の健康を大切にしたいといった意識は確実に高まっている。だが、大きさや価格の観点から購入に二の足を踏んだりといったケースが多々見られる。また、リビングには設置できても、それ以外の部屋に設置するには、大きいという声もあった」と話す。
その声を反映して開発を進めたのが2009年モデルだ。「新製品は、普及モデルとして開発したものではなく、カビ対策や、ダニ・アレル物質、浮遊ウイルスにも効果がある本格モデルとしての機能を持ちながら、筐体を小さくし、購入しやすい価格帯にも広げるというコンセプトで開発したもの。巣ごもり現象もあり、家にいる時間が長くなり、それとともに家のなかの空気をきれいにしたいという需要はますます高まってくるだろう。個人がより手軽に本格モデルを購入できる市場の創出を狙う」とする。
新製品では、新たにワンルームやマイルームサイズに適した「KC-Y30」を追加。ホワイトに加えて、ピンクのカラーバリエーションを用意して、家庭内への複数台設置とともに、新社会人や学生などを新たなターゲットとして、積極的に訴求する考えだ。
ワンルームやマイルームサイズに適した「KC-Y30」を新たに追加した | 上位機種でも豊富なカラーリングを揃える |
そして、シャープは、もう1つの新たな市場創出も狙っている。
それは、法人向け市場の顕在化だ。
新型インフルエンザの広がりとともに、企業においては、事業継続の観点、社員の健康管理の観点から、消毒液の設置や、空質改善への取り組みが行なわれているのは周知の通り。公共施設や病院、各種サービス業といった不特定多数の人が出入りする場所においては、社会的責任の1つとして、対策を行なう動きが浸透しはじめている。
「法人のリスクマネジメントとしてもプラズマクラスター機器を導入するといった動きが出ている。今後は空気清浄機においても、BtoB市場が拡大することが見込まれる」(鈴木氏)とする。
シャープでは、すでに、病院や食品工場、幼稚園などにもプラズマクラスターイオン発生機を導入したほか、トヨタ、日産自動車といった自動車メーカーや、鉄道車両・バス車両の製造メーカー、住宅および住宅設備メーカーなど24社の企業にプラズマクラスターを供給。帝国ホテルでは、レストラン、客室の空調ダクトに収納型のプラズマクラスターイオンシステムを導入するといった実績を持つ。2008年12月末には、プラズマクラスターイオンデバイスの累計出荷は2,000万台に達している。
プラズマクラスターイオンは、2000年からアカデミックマーケティングと呼ばれる手法用い、第三者の研究機関による科学的な効果検証を実施してきた。
ウイルスに関しては、鳥インフルエンザの国際会議の議長を務めた、ウイルス学の世界的権威であるロンドン大学のジョン・オックスフォード教授により、高濃度化によって浮遊するウイルスを約10分間で99.9%分解、除去することを実証。メカニズムに関しては、細胞工学分野の世界的権威であるアーヘン応用化学大学のゲハート・アートマン教授により、浮遊菌の表面細胞のタンパク質を破壊して、分解・除去するプラズマクラスターイオンのメカニズムを解明。内部のDNAを損傷しないため、イオンが変化することなく効果を発揮できることも確認したという。
さらに、除去効果については、空気清浄技術の世界的権威であるハーバード大学公衆衛生大学院名誉教授であるメルビン・ファースト博士により、バイオハザードの検査など行なう施設を活用しながら、容積40立方mの部屋(実生活の部屋の大きさ)において浮遊菌の除去効果を実証している。
また、飛行時間型重量分析装置を利用し、重量分布からプラズマクラスターイオンが自然界に存在するイオンと同じ種類であることを解明。その点からも、プラズマクラスターイオンが安全なものであることを証明した。
こうした効果を打ち出しながら、目には見えないプラズマクラスターイオンの効果や、同発生機を搭載した空気清浄機によって、空質が変わるメリットを訴求してきたのが、これまでのシャープのやり方だった。
「これまではこうした調査結果を示す必要があった。もちろんこのやり方は今後も継続する。だが、プラズマクラスターイオンが高濃度化するに従って、ユーザーから、空質に対する実感の声が数多くあがってきた。部屋の空気が澄んでいる気がする、アレル物質を除去していることが実感できる、置いているだけでウイルスを除去してくれているという安心感がある、タバコやペット、部屋干しのニオイが気にならなくなった、という声が実際にあがっている。調査データを見て、商品を選択する時代から、実際にユーザーが体感した結果をもとに、商品を選択する時代がやってきたともいえる」(鈴木隆氏)
ここにも、シャープが空気清浄機市場が変化を迎えていると考える理由がある。
一方で、2009年モデルでは、より快適な利用環境を実現するための改善も行なわれている。
前面からプラズマクラスターイオンを放出する仕組みを採用 |
後ろ斜め20度の気流と、プラズマクラスターイオンを発生する前方気流を実現したツイン気流により、高濃度7,000のプラズマクラスターイオンを直接、体に浴びたいといった使い方にも対応できるようにしているという。
また、吸音ダクト構造を採用。最大運転時で、全機種50db以下、プラズマクラスターイオン7,000の稼働では40db以下という低騒音化を図った。
「吸音ダクトの採用により、風切り音のような耳障りな音を吸収することができ、数値以上に静かな感じを受けるはず。また、中運転時でも、一定の効果がでるような改善を図っており、静音性や省エネという観点でもメリットがある」(鈴木隆氏)という。実際、従来製品に比べて最大運転時の音はかなり静かになった。
なお、省エネの性能では、最上位機種で、強運転時の24時間稼働で一日約31円、中運転時では13円を実現している。
「2006年度の調査では、終日運転しているとした人が37.7%を占めたが、省エネ意識の高まりから、それが26.1%に減少している。本来は外出中も運転させておきたいと思う人が多いはず。外出中に空気清浄機を運転していても経済面からも安心できるように省エネ化を図っている」(鈴木氏)という。
また、加湿用フィルターでは、風通りの邪魔になっていた支柱をなくした新ローター方式加湿構造を採用。効率性を約20%高めたほか、センサー機能との連動により、湿度が高いときには蒸発しない気化方式とし、湿度60%にあわせて自動で加湿運転を制御。さらには、加湿しないときには加湿フィルターが水に濡れない構造とし、送風で乾燥させることができるためカビが生えにくくした。また、従来モデルでは、2年間でのフィルター交換が必要だったものを、フィルターの強度アップなどにより、10年間交換不要としたのも大きな進化だ。
デザイン変更により、後ろパネルの吸い込み面積を20%向上 | 手前が風通りの邪魔になっていた支柱をなくした新ローター方式加湿構造の加湿フィルター。奥が従来までのもの |
一方、吸い込み口となっている後ろパネルの吸い込み面積を20%向上。空気力学を応用した独自のロングノズル採用のホルン機構と、同社がエアコンで採用している空力特性、コアンダ効果により、部屋の隅々のホコリを素早く集め、背面から一気に吸い込む仕組みとしている。
部屋の隅々のホコリを素早く集め、背面から一気に吸い込む仕組み |
「同じ風量で吸塵効率は150%となっている。これをHEPAフィルターでしっかり除去する。HEPAフィルターの長さは畳一畳分にもなる」(鈴木氏)という。
さらに、操作環境が確認できるように、湿度表示やハウスダストモニターを搭載し、室内の湿度や部屋の汚れの状態を可視化した。
ハウスダストモニターで汚れの状態を可視化した |
湿度計は一般家庭にはない場合がほとんど。湿度の状況がわかるようにしている | ハウスダストの状況も確認できるようにしている |
シャープのプラズマクラスター空気清浄機の2009年モデルは、2009年度には新たな市場が創出され、需要全体が一気に拡大することを想定した上で製品化されたものだ。
2009年度の国内空気清浄機市場は、台数ベースでも増加が見込まれ、前年比20%増の175万台の市場規模が想定されている。
いわば、プラズマクラスター空気清浄機の2009年モデルは、市場拡大のポイントとなる新市場創出を担う製品ということもできる。
この新製品戦略は、どんな結果に結びつくのだろうか。2009年モデルの動きが注目される。
2009年8月4日 00:00