大河原克行の「白物家電 業界展望」

新型インフル対策に複数台購入――本格化する空気清浄機市場


売上4倍! 生産が追いつかないほど盛り上がる空気清浄機市場


個人消費が低迷するなか、空気清浄機の売り上げは好調(写真はビックカメラ有楽町店の空気清浄機売り場)
 経済環境減速の影響を受け、個人消費の低迷が指摘されるなか、空気清浄機の売れ行きだけは例外のようだ。

 日本電機工業会の調べによると、今年4~7月の出荷実績は、台数ベースで前年同期比43.1%増の25万7,458台、販売金額では97.7%増の45億7,600万円に達し、大幅な伸びを見せている。

 この勢いは8月以降、さらに加速している。同工業会が速報値として発表したデータによると、8月における空気清浄機の販売台数は前年同月比104.8%増の8万7千台、金額ベースでは188.8%増の25億円。特に加湿機能搭載モデルは、351.1%増の5万3千台と、実に4.5倍もの売れ行きとなっているのだ。

 また、量販店のPOSデータを集計しているGfK Japanの調べによると、9月の販売実績は台数ベースで159.8%増、金額ベースで301.7%増となっている。7月の台数40.8%増・金額70.1%増、8月の台数99.0%増・金額176.2%増という大幅な伸びを、さらに上回る実績となっている。

 量販店店頭でも、空気清浄機売り場を大幅に拡張している例が相次いでおり、東京・有楽町のビックカメラ有楽町店では、前年に比べて空気清浄機の売り場面積を2倍以上に広げている。

 その一方で、メーカー各社は旺盛な需要に生産が追いつかない状態だ。

 三洋電機やダイキン工業では、9月の新製品出荷時点で、すでに11月生産分まで受注が埋まっている状態。シャープやパナソニックも、前年を上回る需要に製品供給面で苦労している。各社とも、量販店店頭展示用のカットモデルの用意を取りやめるなどして、製品生産を優先したり、増産体制を敷きはじめているが、品薄解消、安定供給には時間がかかりそうだ。

ここ数年の空気清浄機は前年割れで推移していたが、2009年に一転して急拡大した
 実は、空気清浄機市場はここ数年、前年割れで推移していた。日本電機工業会の調べによると、2005年度には162万9千台だった市場規模は、2006年度には153万4千台、2007年度には147万5千台、2008年度には145万9千台と、縮小傾向にあった。

 ところが2009年度は、一転して空気清浄機の売れ行きが拡大。シャープでは、「2009年度は175万台の出荷が見込める」、パナソニックでは「168万台の市場規模に達するだろう」として、前年度までのマイナス成長から、20%前後の成長という、高い伸び率を予測しているのだ。


新型インフルエンザの流行が空気清浄機の流行を呼ぶ

 ここまで空気清浄機の需要が集中する最大の理由は、なんといっても新型インフルエンザの広がりに伴い、空質に対する関心が高まったことだろう。

 GfK Japanのデータでも、首都圏における新型インフルエンザ感染者が発見された今年5月から、需要が跳ね上がっていることがわかる。販売台数では、3月、4月と前年同月比1桁台の成長に留まっていたものが、5月には51.9%増と、一気に成長率があがっているのだ。

【空気清浄機の販売台数の成長率 (対前年同月、GfK Japan調べ)】
期間2008年2009年
10月11月12月1月2月3月4月5月6月7月8月9月
空気清浄機全体89%110%101%169%138%102%109%152%126%141%199%260%
加湿なし80%79%72%78%106%83%87%105%96%104%126%130%
加湿あり106%136%125%268%196%162%176%321%232%279%397%499%

 8月には、三洋電機が同社空気清浄機に搭載している電解水技術「ウイルスウォッシャー」技術において、新型インフエンザウイルスを99.9%抑制する効果があることを発表。さらに、9月にはダイキン工業が、やはり同社の空気清浄機に搭載しているストリーマ放電技術が、新型インフルエンザウイルスを4時間で100%分解および除去できると発表したことで、空気清浄機に対する関心がより高まったといえる。

 先に紹介したように、GfKジャパンのデータでは、月を追うごとに空気清浄機の販売台数は増加しており、8月、9月の販売台数成長率はこれまでになく高いものとなっている。景気対策の1つとして打ち出されたエコポイント制度対象製品を上回る実績ともなっている。

ウイルスウォッシャー技術を搭載した、三洋電機の空気清浄機「ABC-VWK14B」三洋電機は、ウイルスウォッシャー技術による新型インフルエンザウイルスへの効果をいち早く発表。同ウイルスを99.9%抑制するという

「タバコのニオイ除去」「花粉対策」ではなく、「健康のため」に購入


ウイルスや菌の抑制など、健康を理由に空気清浄機を購入する人が増えているという
 空気清浄機の需要集中の二つ目の理由として、新型インフルエンザ対策の意識の高まりとは別に、風邪の予防などで空気清浄機を導入しようという動きが出ていることだ。

 かつての空気清浄機の導入理由は、愛煙家がいる家庭においてタバコのニオイを除去するという使い方が多かった。その後は、花粉対策の一手段として、空気清浄機を導入するという動きが多かったのだが、こうした需要が一巡したことが、ここ数年の需要低迷につながっていたともいえる。

 ところがここにきて、健康の観点から導入する検討するという例が増えている。

 シャープでは、「健康に良さそうだからそろそろ買いたいといったように、これまでは必要に迫られて購入していた層から、健康を意識する幅広いユーザーに、事前予防の一環として、空気清浄機を検討しているユーザーが増加している」と指摘する。

 パナソニックの調べでも、ウイルスや菌が気になるという人は81.3%に達し、さらにウイルスや菌が気になり始めた時期が2~3カ月以内が29.5%、1年以内が29.5%という結果が出ている。つまり、合わせて約6割の人が、この1年以内に、ウイルスなどが気になり始めたという。


高価でも主流は加湿機能搭載タイプ

加湿機能を搭載した空気清浄機の構成比が高まってきている。写真はパナソニックの加湿空気清浄機「うるおいエアーリッチ F-VXE65」

 風邪予防や健康の観点から、空気清浄機を購入する例が増加していることを裏付ける証左として、加湿機能付きモデルの構成比が高まっていることがあげられるだろう。

 風邪対策の1つとして湿度が重要であることが認知されていること、うるおいのある肌を維持するには一定の湿度が必要であることなどが知れ渡ってきたからだ。

 もともと加湿機能搭載モデルは、冬場に売れるという傾向があった。乾燥しやすい冬場は、加湿機能を搭載したモデルを購入したいというユーザーが増えるからだ。その反面、春から夏にかけては加湿機能なしのモデルが販売の中心となっていた。だがその傾向が崩れている。

 GfKジャパンのデータによると、2008年1月~3月の加湿機能搭載モデルの構成比は49.8%、4~6月は36.7%、7~9月は43.3%と半分以下の構成比となっていた。ところが、冬場を迎える2008年10~12月には80.6%と一気に増加する。実はここで一度加湿機能搭載モデルの構成比が上昇して以来、その傾向が維持されているのだ。

 データを追ってみると、2009年1~3月には71.8%、4~6月でも58.6%、新型インフルエンザの話題が盛り上がった7~9月では72.9%が加湿機能搭載モデルが占めているのだ。

【加湿機能の有無による、空気清浄機の金額構成比(GfK調べ)】
期間2008年2009年
1~3月4~6月7~9月10~12月1~3月4~6月7~9月
加湿機能無50.2%63.3%56.8%19.4%28.2%41.6%27.1%
加湿機能有49.8%36.7%43.2%80.6%71.8%58.4%72.9%


 特に、今年9月の加湿機能搭載モデルの対前年同月成長率は、台数ベースで399.3%増と約5倍、金額ベースでは523.3%増と約6倍の規模となっている。

 「年間を通じて加湿機能搭載モデルが主流になっている」(パナソニック)
 「例年より3カ月早く、加湿機能搭載モデルの構成比が7割以上を占める結果となった」(シャープ)
 「当社製品に関していえば、今年は、年初から加湿機能搭載モデルの構成比が8割を占めた」(ダイキン工業)

個人消費が低迷するなか、空気清浄機の売り上げは好調(写真はビックカメラ有楽町店の空気清浄機売り場)
 各社とも異口同音に、加湿機能搭載モデルの好調ぶりを示す。量販店でも同様で、ビックカメラにおいても、加湿機能搭載モデルの展示を前面に打ち出している状況だ。

 加湿機能搭載モデルの増加は、そのまま平均単価の上昇、販売金額の上昇につながっている。GfKジャパンによると、2008年4月以降、販売台数の伸びを、販売金額の伸びが上回っているが、今年に入ってからその差が顕著になってきている。

 今年5月の空気清浄機の販売金額の成長率は89.3%増、6月には45.8%増、7月には70.1%増、8月には176.2%増となり、9月には301.7%増となっているほどだ。なかでも加湿空気清浄機は、5月には233.1%増、6月が120%、7月が182.8%、8月が360.1%増となり、そして、先に触れたように9月は523.5%増となっている。

【空気清浄機の販売金額の成長率 (対前年同月、GfK調べ)】
期間2008年2009年
10月11月12月1月2月3月4月5月6月7月8月9月
空気清浄機全体90%122%112%220%160%117%128%189%146%170%276%402%
加湿なし69%69%64%77%109%83%88%111%100%110%148%157%
加湿あり109%145%133%299%206%172%193%333%220%283%460%624%


「家庭に1つ」から「1部屋に1つ」――2台目以降の需要が拡大

 需要集中の別の理由としてあげられるのが、家庭内で複数台を購入するという動きが出ていることだ。

 すでに空気清浄機を1台購入したユーザーが、その効果を実感して、寝室や書斎などにも導入する動きが出ているという。これは、シャープのプラズマクラスターイオン、パナソニックのナノイー、ダイキンの光速ストリーマ、三洋電機のウイルスウォッシャーというように、各社の技術訴求が前面に打ち出させれ、技術や効果に対する認知度が高まっていることがあげられる。

 とくに、シャープでは、「プラズマクラスターイオンに対する認知が急速に広がっており、1台目にプラズマクラスターイオン機能を搭載した空気清浄機を購入し、その効果を体感した後、2台目として空気清浄機までは手が出ないが、比較的手軽な価格で入手できるプラズマクラスターイオン発生機を購入するといった相乗効果も出ている」とする。

 シャープでは、今年の新製品のなかにワンルームに設置することを狙ったモデルを初めてラインアップ。2台目需要の顕在化に取り組む考えだ。

シャープの空気清浄機では、個室向け向けモデルを追加。“2台目需要”に向けたラインナップを強化しているシャープでは、プラズマクラスターイオン発生機の小型タイプも用意。空気清浄機と併せて購入するといった相乗効果も出ているという

 また、その一方で、乳幼児がいる家庭や、高齢者がいる家庭などでは、空気清浄機の導入機運が高まっていることも見逃せない。

 パナソニックによると、2人以上の世帯での空気清浄機の普及率は28.3%であるのに対して、乳児がいる世帯では39.3%と高い普及率になっている。

 三洋電機では、子育て世代向けの「家族でにこにこプロジェクト」を展開。乳幼児のいる家庭向けのプロモーションを強化しているのも、こうした需要を捉えたものだ。「幼児や老人など、空質にこだわらなくてはならない人たちに、まずは使っていただきたい」と、三洋電機は話す。


特需で終わるか、さらなる需要拡大を見せるか

2007年度の空気清浄機の普及率は37.1%。さらなる需要拡大の余地がある(写真はダイキンの加湿空気清浄機「MCK75K-W」)
 内閣府経済社会総合研究所景気統計部の消費動向調査年報によると、2007年度における空気清浄機の普及率は、37.1%。、2008年度は一転して35.7%と減少しており、まだ低い水準に留まっている。シャープによると、2009年度の見通しでも普及率は40%に到達するかどうかと見積もっている段階だ。言い換えれば、需要拡大の余地が大きく、さらに2台目需要なども見込める市場ともいえる。

 シャープでは、空気清浄機を持つ世帯における空気清浄機の平均保有数を、現在のところ1.2台としており、これを今後2台の平均保有率にまで高めることで、2012年度に見込まれる「世帯普及率60%」となった時には、年間750万台もの市場規模が見込めるとしている。

 今年をきっかけにさらに空気清浄機の市場は広がる可能性があるだろう。だが、新型インフルエンザの影響がある今年は、特別な需要がある年と見るのか、それとも今後も一気に市場拡大路線を歩むのか、その判断は難しいだろう。メーカーにとっては、今後の先行きについて、新たな見通しの判断を求められる時期を迎えたともいえる。



2009年10月30日 00:00