大河原克行の白物家電 業界展望

照明は蛍光灯からLEDへ、次世代モノづくりを担うパナソニック・新潟工場レポート

 パナソニックは、施設用LED照明を生産する新潟県燕市のパナソニック エコソリューションズ社新潟工場を、報道関係者に公開した。

新潟県燕市のパナソニック エコソリューションズ社新潟工場
上越新幹線燕三条駅から車で約20分の位置にある

 新潟工場は、エコソリューションズ社ライティング事業のマザー工場であり、施設用LED照明の主力製品である「iDシリーズ」を中心に生産。また、AI、IoT、ロボットを活用したものづくりラインを構築しているのも特徴で、2017年には、需要連動計画生産に向けた取り組みを開始。日本能率協会の「GOOD FACTORY賞」を受賞した先進工場でもある。

 さらに、2019年3月末には、蛍光灯照明器具の生産を終了する予定であり、それにあわせて、「iDシリーズ」の生産にも弾みをつける。

施設用LED照明の主力製品である「iDシリーズ」
日本能率協会の「GOOD FACTORY賞」を受賞

ナショナル電球からスタートしたライティング事業の歩み

 パナソニックのライティング事業は、1936年に、当時の松下電器産業が、ナショナル電球を設立し、電球生産による光源事業をスタートのが始まりだ。1952年にはフィリップスとの合弁により、松下電子工業を設立。1977年にはパルック蛍光灯の生産を開始している。

 一方、1952年には、旧松下電工が、プル式蛍光灯器具の生産を開始して器具事業を開始。1998年からLED搭載器具を発売している。2004年には松下電器産業が松下電工を子会社化。2012年には、光源事業と器具事業を統合し、あかりのトータルソリューションを提供する体制を確立。これまでに約80年の歴史を持つ。

 2017年度実績で、ライティング事業部の売上高は3,177億円。パナソニック エコソリューションズ社全体の売上げの約20%を占めている。

 住宅用照明器具や店舗用照明器具、施設・防災用照明器具、屋外用照明器具を扱う「機器事業」、蛍光灯、白熱灯のほか、プロジェクター用やストロボ用の光源、タングステン商品などを扱う「光源事業」、一般照明用の電子バラストやLEDデバイス、車載用ヘッドライト点灯回路を扱う「デバイス事業」で構成している。

 現在、国内には9カ所の生産拠点を有しており、今回訪れた新潟工場は、施設・防災用照明器具を生産。主力となる施設用LED照明「iDシリーズ」は、2012年12月の発売以来、2018年4月には累計出荷2,000万台を達成。「iDシリーズは、オフィスや店舗、学校、病院、工場倉庫などの様々な場所で利用されており、年間600万台強を出荷。

 2017年度の生産量は、2013年度比で5倍の生産量になっている。今後も2桁成長を計画している」(パナソニック エコソリューションズ社ライティング事業部ライティング機器ビジネスユニット 施設・防災商品部の細川 卓司部長)という。

パナソニック エコソリューションズ社ライティング事業部ライティング機器ビジネスユニット 施設・防災商品部の細川 卓司部長

蛍光灯の生産を終了し、LED照明に弾み

 iDシリーズは、LEDベースライトの定番製品と位置づけられるもので、iDには、「いつでも、どこでも」、「愛される、デザイン」という意味を持たせている。蛍光灯と比べて、同等以上の明るさを達成しながら、約60%の省エネを実現。シンプルで簡単な施工性を兼ね備えるほか、器具で約100品番、ライトバーで約440品番を揃え、この組み合わせによって、約5500種類の豊富なラインアップを提供できる点も特徴だ。

 「器具本体は、一般屋内用や防湿・防雨型、低温倉庫用、クリームルーム用、工場・倉庫用、食品工場用、非常用光源付きなどを用意。ライトバーでは、一般タイプや高演色タイプ、調光タイプなどを用意している」という。

 パナソニック独自の光学設計技術により、専用のプリズムパネルを開発。光の屈折により、配光を制御することが可能で、この技術を活用することでルーバー無しの状態でも、まぶしさを抑制できるグレアセーブライトバーを用意している。さらに、無線で調光が可能な「PiPit調光」シリーズも用意。器具を設置したあとでも無線で最適な明るさに変えたり、時間ごとに明るさを自動制御できることから、照明を使ってオフィスからの帰宅を促すことで、働き方改革にも活用できるとしている。

iDシリーズのキャラクターであるiDマン
ライトバーの器具と構成部品
器具本体(左)とライトバー(右)の組み合わせで多彩な用途に活用できる
無線で調光が可能な「PiPit調光」

 また、快適な照明空間を実現する色度管理、長期間使用しても暗くなりにくい光束維持信頼性、雷の被害からLED照明を守る耐雷サージ性能、激しい揺れにも影響を受けにくい耐震性能など、安心、安全のモノづくりを進めていることを強調。独自開発の装置によって正確な明るさ表示をするための性能表示信頼性にも強みがあるとしている。

 「パナソニックでは、2018年4月末に、約70品番の蛍光灯照明器具の生産を終了。2019年3月末には、約120品番の生産を終了し、蛍光灯照明器具の生産を完全終了する。蛍光灯器具の生産ラインがなくなった部分は、今後、LED照明器具の生産ラインになる。LED照明器具へのリニューアル需要と付加価値製品の展開により、iDシリーズの販売に弾みをつけて、2019年度中には累計出荷3,000万台を目指す。また、それに向けて、新潟工場への継続的な設備投資を進めていく」と意気込む。

 新潟工場には、過去3年間で30億円の投資をしてきたが、今後も年間8~10億円の投資を継続的に行なっていくという。

パナソニックでは、2019年3月までに蛍光灯器具の生産を終了する
工場内のトイレもLED化し、自ら省エネを遂行している

 同社では、全国のエンジニアリングセンターなどに配置している数100人規模のリニューアル提案部隊が、LED照明への転換を支援。企業や店舗などのLED化を推進するという。

 「LED照明器具の国内市場は年間7,000万台弱の規模があるが、今後、さらに市場が拡大することになる。LED照明の認知度が高まっていること、蛍光灯が無くなることが市場成長を牽引する要因。今後も台数ベースでは2桁成長が続くだろう。パナソニックは、そこに向けて付加価値を持った製品を投入していきたい」(パナソニック エコソリューションズ社ライティング事業部ライティング機器ビジネスユニット 施設・防災商品部の細川 卓司部長)とした。

 なお、経済産業省では、2020年までに次世代照明(LED照明および有機EL照明)のフロー(出荷)占有率目標100%を掲げ、一般社団法人日本照明工業会では、半導体照明のフロー100%、ストック(既設器具)50%の占有率目標を掲げている。また、2030年には、経済産業省および日本照明工業会のいずれもがストックでの占有率100%を目指している。

燕三条からパナソニックの「モノづくりビジョン」を体現

 iDシリーズを生産する新潟工場は、上越新幹線・燕三条駅から車で約20分の位置にある。1973年から操業を開始。今年で45年目の節目を迎える。敷地面積は14万4,000平方メートルを誇り、1973年から稼働した第1工場、1988年から稼働した第2工場、1992年から稼働した第3工場と、1997年に建設した技術厚生棟で構成。建屋面積は5万390平方メートルに達する。現在、従業員数は1,270人。iDシリーズをはじめとする施設照明のほか、避難誘導灯や非常灯などの防災照明、照明に利用する電子デバイスやLEDデバイスの生産を行なっている。

避難誘導灯や非常灯の防災照明も生産している
LED街路灯なども生産している

 板、粉といった材料の選択から、最終製品の組立までを行う一貫生産工場であり、金属抜き加工やPCM塗装のほか、特殊巻線や成形、光学レンズ射出成形などの特殊加工、異形部品自動実装やLED特性自動検査、表面実装などの実装および実装検査技術を持つほか、自動組立ラインやAIを活用した検査工程を導入するといった特徴を持つ。

 パナソニック エコソリューションズ社新潟工場の森川誠工場長は、「松下幸之助創業者の『ものをつくる前に人をつくる』、松下電工の初代社長である『掘り抜き井戸』の精神を持った工場である。これが新潟県人の県民性に合致し、全員で考え、すぐに動き、人を大切にして、継続的に育成するという気質がある。そして、企業人である前に、一市民であることを重視している」としたほか、「新潟工場では、安く、安心、早くという3つの観点から投資を進めている」と述べた。

パナソニック エコソリューションズ社新潟工場長兼ものづくり革新センター生産技術開発部長の森川 誠氏

 新潟工場が持ついくつかの特徴を紹介しよう。

 1つめは、高速自動組立だ。新潟工場では、多品種少量製品に関しては、人によるセル組立方式を採用しているが、一定数量を生産する製品については、2014年から、専用自動機を導入し、高速大量生産を実現している。

 ここではラインを止めずに品種の切り替えを可能にしたり、設備のプラットフォーム化により、ラインの組み替えを柔軟に行なえる特徴も持つ。「従来は品種切替に5分間かかったが、いまは、1分間でのランニングチェンジが可能になった」とした。2018年1月から、IoT導入による稼働の見える化によって、生産効率の10%向上を目指すという。

 2つめは、ロボットと人の協業による組立ラインの導入だ。多品種少量品を組み立てるセルラインに、ネジ締めや銘板貼りなどの作業にロボットを導入。小ロットの製品の組立ラインの場合には12人の作業者と4台のロボットで構成している。2016年に導入して以降、1人あたりの生産性が従来比33%向上したという。これにより、環境変化への対応や、労働力不足の課題を解決できるとしている。この2つの取り組みは、「安く」という点での取り組みに位置づけている。

 3つめは、設備稼働の見える化だ。これは「安心」の取り組みとする。

 これまでは手書きでラインの稼働情報を収集していたが、2016年度から、基板実装ラインや組立ロボットなどの設備稼働情報を、IoTを活用してリアルタイムに収集。トラブル改善やタイムリーな生産計画の立案を実現しており、不良ロス率を94%削減。吸着ミスも改善しているという。現在、予兆管理を開発中だという。

 4つめが、AIを活用した外観検査である。これも「安心」の取り組みにあたる。LEDモジュール基板の外観検査において、AIを活用。良否パターンを深層学習によって学び、撮像した画像の特徴を機械自らが抽出して、良品および不良品の画像と照らし合わせて、機械が良否を判定する。良品パターンで1,700種類、不良品パターンで500種類を読み込ませているという。2017年の導入以来、不良見逃しゼロを実現。虚報率は2%から0.5%に改善しているという。

 パナソニック エコソリューションズ社新潟工場の森川 誠工場長は、「これまでにも、市場の成熟や他社の海外生産への移管、急速なLED照明化、価格競争の激化、製品の多様化といった市場環境の変化があり、それに順応するため、モノづくりの仕組みを継続的に革新してきた。照明は品種が多い製品。品種切替が増加するなかで、これをスムーズに行なうために最新技術を活用していく必要がある。現在はIoTやAIの活用によって約2割の生産性向上を実現している。新潟工場におけるIoTやAIといった先端技術への投資は徐々に増加していくことになる。これからはIoTやAIを活用して、さらなる進化を遂げたい」と述べた。

 蛍光灯時代には、供給量重視や短納期重視によりPULL型生産を採用。LED立ち上げ期には、市場供給量を重視し、需要連動型計画生産を採用した。また、今後のLED成熟期に向けて、顧客ニーズの多様化に対応するため、次世代モノづくりへと取り組みを開始したところだ。

 新潟工場は、パナソニックが推進している「モノづくりビジョン」を体現する製造現場にも位置づけられている。また、エコソリューションズ社のモデル工場であるほか、ライティング事業のマザー工場としてのポジションも担っている。パナソニックが目指す次世代モノづくりの重要拠点にもなっている。

 では、写真で新潟工場の生産ラインの様子を見てみよう。

組立ラインの様子

金属プレスライン。平板をプレスして型抜きを行う
型抜きした平板はコンベアに乗せて移動
成形前に塗装するのがパナソニックの特徴。先に塗装することで生産効率を向上。塗装メーカーとの協業で曲げても塗装面が割れない加工を実現したという
金属曲げ工程のロール成形機。器具の形に成形する
成形された器具
人とロボットが共存した組立ライン
ねじ締めや銘板貼りなどで双腕ロボットが活躍している
LEDチップの実装ラインの様子
LED実装ラインでは、IoTを活用してリアルタイムでの情報収集を行っている
LEDチップを実装した基板。8個単位で生産する
LED実装ラインの入口にはLEDの看板が掲げられていた
AIを活用した外観検査工程はパネル撮影のみが許可された
AIが判定したパッケージ外観検査の画像
iDシリーズの自動組立ライン検査工程。点灯確認、調光機能確認などを行う
iDシリーズの最終梱包の様子
こちらは、2019年3月に生産を終了する蛍光灯器具の生産ライン。1992年から稼働しているため老朽化。これをLED照明器具の生産に流用することはないという。なお、蛍光灯ランプは当面製造を続けるという

大河原 克行