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タイを拠点に東南アジア攻略を図る、パナソニックのハウジング事業
2020年2月18日 11:00
プライベートでよくタイに出かけている家電 Watchの編集長から、「タイに行きません?」とメッセージが来た。旅行のお誘いか!? と思いきや、タイのバンコクでパナソニックが東南アジア事業の戦略説明会を行なうので、そのレポートをせよとの仕事依頼であった。「もちろん、行きタイです!」と元気よく即答。数週間後に、東京から約4,600kmの距離にあるバンコクに降り立った。タイとか20数年ぶりだわ。
2030年に海外売上げ1,000億円を目指すハウジングシステム事業部
バンコクで戦略説明会を行なったのは、パナソニックのライフソリューションズ社(以下、LS社)。ご存じない方も多いと思われるので説明すると、LS社は以下4つの事業ドメインを展開しています。
・ライティング(照明器具・デバイス)
・エナジーシステム(配線器具、分電盤、電動工具、防災システムなど)
・エコシステムズ(換気、水・空気の浄化システムなど)
・ハウジング(システムキッチン・バス、建材、ホームエレベーターなど)
ざっくり言えば、住宅や施設まわりの事業ですな。家電製品はすでに東南アジアでは高い知名度を誇るパナソニックですが、住宅事業が今なぜ東南アジアなのか。説明会の冒頭で、LS社の伊東 大三上級副社長は次のように説明しています。
「日本では少子高齢化に伴う人口減少が社会問題になっていますが、東南アジア5カ国は、今後も人口が堅調に増加。2010年に5.1億人だった人口は、2030年に6.4億人に達すると予測されています。また、世界の建設市場は旺盛で、東南アジア5カ国だけでも日本の5倍の住宅着工数となります(※2021年予測)」
ここで言う東南アジア5カ国とは、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム、マレーシアを指します。一方で、2020年以降、東南アジアでも急速な高齢化が進み、生産年齢人口も下落に転じるようです。現在、日本が抱える人手不足などの社会問題に、東南アジア各国も直面するわけです。
「旺盛な建築事業に対して、深刻化する労働力不足と環境問題。それらに対し、工業化やデバイスの高機能化により豊かな暮らしを創造していく。具体的にどう展開するかは、各国の市場成熟度がポイントとなります」(ハウジングシステム事業部・山田 昌司事業部長)
たとえば、急速に都市化が進むバンコクやクアラルンプール(マレーシア)は、日本のバブル期に相当。バンコクも人口集中が加速しており、郊外にまでコンドミニアム(分譲マンション)が建ち並んでいました。必然的に地価も上昇し、1軒あたりの面積は小さくなる。限られたスペースで快適さを追求する、日本メーカーの高機能製品が受け入れられる余地が大きくなったといいます。
また、タイにおいても建設現場の人手不足は深刻で、周辺国の安い労働力への依存が高まりつつあるそうです。そうすると工事の品質が担保されにくくなるため、品質が安定しており工期の短縮につながるシステムバス・キッチンといった、工業化製品の需要が高まる。とはいえ、いきなり1社で本格参入するのは簡単ではなく、デベロッパーやゼネコンといった現地のパートナー企業と提携しての参入となるようです。
その他、インドやミャンマー、ベトナムといった新興国ではシステムバスをはじめとする工業化製品、中国や台湾では高齢化に対応した製品、北米や欧州など先進国には高機能化デバイスを中心に展開。ハウジングシステム事業部として、2030年に1,000億円の海外売上げを目指すといいます。
天井のセンサーで脈拍・心拍数を計測するシステムも
説明会が行なわれたホテルでは、同時に東南アジア地域のデベロッパー向けの展示会が開催されていました。開発中のコンセプトモデルを含めていくつかの商品を紹介しましょう。
Irori Dining(いろりダイニング)
IHヒーターを備えたキッチンとダイニングテーブルを一体化した「Irori Dining(いろりダイニング)」。日本ではすでに発売されている。バンコクのコンドミニアムは狭いため、省スペースでも家族団らんできるアイテムは受け入れられそう。
快眠システム
開発中の快眠システムは、天井の電波センサーが、眠っている人の心拍と呼吸数を計測、睡眠の状態をモニターする。目覚ましや照明は音声で操作、音楽やアロマの香りで安眠や気持ちの良い目覚めへ誘う。
Seekit(シーキット)
紛失・盗難防止の電子タグ「Seekit(シーキット)」。キーホルダーや財布などをスマホアプリで探し出せる。専用のポケットが備わったサムソナイトのスーツケース製品ともバンドル販売されている。クルマのキーへの内蔵も検討されている。
スマートボックス
今年1月よりバンコクで実証実験が開始された「スマートボックス」。宅配便の発送・受け取りや、洗濯物を入れると業者がピックアップして終わったら戻してくれるクリーニングサービス、Eコマースで購入した商品を受け取るサービス、一時的に荷物を預けるコインロッカーとしての機能が、スマホアプリから利用できる。オフィスビルや分譲マンションなど30カ所に設置されている。
シルキーファインミスト
屋外にいる人に涼感を与えたり、ホコリの舞い上げを防止する屋外用冷却機。10μmより小さなミスト「シルキーファインミスト」により、直接触っても濡れ感がない。日本では既に事業化されている。
日本国内のマザー工場と同レベルのアユタヤ工場
説明会の後、同社のアユタヤ工場を見学する機会がありました。バンコクから76km(車で75分ほど)北に位置するアユタヤは、世界遺産にも登録された遺跡群で有名です。周辺にはいくつもの工業団地があり、日系企業の製造拠点となっています。
今から25年前、1995年に創業したアユタヤ工場は、スイッチやコンセント、ブレーカーなど、年間7,200万個の配線器具を生産。タイ国内はもとより、フィリピンや中近東向けの製品まで手がけています。
電設資材の国内のマザー工場は、三重県の津工場です(詳しくはこちらのレポートを参照ください)。このアユタヤ工場は、同レベルの生産体制、品質を持つ“ミニ津工場”として機能しているといいます。ここで作られた金型や加工部品は、ベトナムやインドネシアの工場へ送られ、さらに製品だけではなく、技能や技術を持つタイ人のスタッフが、他の海外拠点の立ち上げ支援や技能支援に出向くこともあります。その実力は、パナソニック全体で実施される技能大会に毎年出場し、何度も金メダルを獲得するほど。
またアユタヤといえば2011年の大洪水ですが、この工場も大きな被害を受けました。操業が停止している間は、60人のタイ人従業員が瀬戸工場で代替生産に携わりつつ、現地スタッフが水中に沈んだ金型や設備を取り出し、洗浄して整備。約5カ月で完全復旧させたといいます。
それでは、工場の中を見ていきましょう。
工場では、高精度の金型を自分たちで設計して自分たちで製造、メンテナンスまで行ないます。これについては日本の津工場と同等のレベルで回せる技術を保有しています。また技能育成に力を入れており、社内の技能大会では何度も金メダルを獲得しているそうです。
さらに、ひとつひとつの金型には、過去のトラブルなどの履歴を記載する「金型カルテ」があり、それぞれの金型に合ったメンテナンスを行なうことで部品の品質が担保されます。
この金型を使って、圧縮成形で部品を作ります。スイッチなどの樹脂パーツには、燃えることのないユリア樹脂を使用しますが、圧縮成形をすると金型のすき間に樹脂が流れ出して、“バリ”という余計な部分が生まれます。バリはリサイクルができずすべて廃材となるため、これをいかに少なくするかが価格競争力につながるのです。
アユタヤ工場のバリの少なさは日本の津工場と同レベル。なぜそれが可能かと言うと、原料を隣の化学材料事業部で生産しているから。ユリア樹脂は生もので、時間が経つと変質してしまいバリが増える。原料の生産から整形までのリードタイムが短いほど狙いの整形が可能だそうです。
それぞれ好みはあるけどナンバーワンのスイッチ
創業から25年経っているだけあり、決して全てが最新の設備というわけではありません。しかし、創業当初から稼働している古いラインも高い稼働率で動かせる、メンテナンス技術の高さもアユタヤ工場のレベルの高さだといいます。それにより、さらにコストを下げられる。スイッチやコンセントのような安い部材にもかかわらず、各国でトップシェアを獲得できている理由です。
それでは最後に、アユタヤ工場などで作られるパナソニックのスイッチ、コンセント製品をご紹介しましょう。各国のユーザーの好みに合わせてデザインは様々ですが、中の部品は共通化することで品質とコストダウンを両立しています。
ちなみに、日本のスイッチには、Panasonicのロゴはありませんが、ASEANや中近東で販売される製品には、高品質の証として、また模倣品と区別できるよう、ロゴを入れているそうです。海外の方が、スイッチ=パナソニックの認知度が高いかもしれません。