そこが知りたい家電の新技術

ダイキンのアイディア商品
睡眠をサポートする「ソイネ」と自動で節電する「ミハリモ」ができるまで

by 藤山 哲人

 夏のエアコンシーズンが始まる2011年6月、エアコンメーカーのダイキン工業から、エアコン用のリモコンが発売された。「ソイネ」、「ミハリモ」という2製品だ。

 ソイネは、人が寝ている状態を常にモニターして、室温を自動で快適な状態に調整する“睡眠時専用コントローラー”、そして1カ月遅れて発売された「ミハリモ」は、エアコンの節電を賢く手助けしてくれる“節電応援コントローラー”だ。いずれも同社の通販サイトで販売されている。


睡眠時専用コントローラー「ソイネ」。「ダイキンの考えるお店」でのみの販売。価格は19,800円節電応援コントローラー「ミハリモ」。「ダイキンの考えるお店」でのみの販売。価格は12,800円

 しかし、ダイキンはなぜこの商品を作ったのだろうか。エアコンを販売する家電メーカーは数あれど、ソイネやミハリモのようなオプション品を販売しているメーカーはほとんどない。それにもかかわらず、ダイキンは作り、しかも家電量販店ではなく、自社通販サイトのみで販売するという。

 製品づくりに至った経緯から機能、販売ルートまで、謎の多い製品だ。一体どのようなコンセプトで企画され、どのように開発されたのか。そこで、ソイネ・ミハリモの開発担当者に話を伺った。


部門を横断した全社的組織「アイデア商品創出プロジェクト」から誕生

 今回発売されたソイネとミハリモは、いずれもダイキンの「アイデア商品創出プロジェクト」という組織が設計・開発・販売を行なっている。まずはそのプロジェクトがどういうものか、というところから話を伺った。

ダイキン工業 アイデア商品創出プロジェクトの篠原葵さん

 「アイデア商品創出プロジェクトは、部門にとらわれず新しい商品を開発していくことを目標として2009年12月に発足しました。ですからメンバーには、営業やお客様相談窓口といった職種から、研究、設計開発、そして生産に携わる者までいます。

 テストマーケティング的な意味合いもありますが、現場にいるとなかなか聞こえてこないお客様の声に耳を傾け、お客様が身近で便利に使っていただける製品を生み出すことで、ダイキンという空調専門メーカーをより多くの方に知っていただくために活動しています」

 プロジェクトの全体像を説明するのは、アイデア商品創出プロジェクトの篠原葵さん。今回のソイネ・ミハリモを販売するECサイト「ダイキンの考えるお店」も、このプロジェクトから誕生した。

ソイネ・ミハリモを販売するECサイト「ダイキンの考えるお店」は、コミュニティサイトとしての意味合いも強い
 「“ダイキンの考えるお店”は、EC(販売)サイトととしての意味合いもありますが、どちらかと言えばダイキン製品を使っていただいているお客様同士、また私たちとの双方向コミュニティーサイトとしての役割が大きくなっています」(篠原さん)

 最初に商品ありきではなく、ダイキンエアコンのユーザーへのサービスと、ダイキンというメーカーをアピールするためのプロジェクトが作られて、その狙いを実現するために、ソイネとミハリモという製品が生まれた、というわけだ。



睡眠の状態に応じて、運転を自動で調節してくれるソイネ。でもどうして分かるの?

 全体的なコンセプトは分かったが、個々の製品はどのような機能を持っているのか。まずは、睡眠時の室温を、自動で快適な状態に調整するコントローラー「ソイネ」について、アイデア商品創出プロジェクト ソイネ担当の湯川奈津実さんに説明していただこう。

ダイキン工業 アイデア商品創出プロジェクト ソイネ担当の湯川奈津実さん

 「ソイネはヒトの睡眠サイクルに合わせて、睡眠中の室温を細かくコントロールするものです。エアコンを付けっ放しで寝ると寒くて眠りが浅くなったり、OFFタイマーで切ってしまうと暑苦しくて目が覚めてしまったということがあると思います。ですがソイネは室温を細かくコントロールするので、どんな熱帯夜でも快適に眠っていただけるというわけです」

 しかし、ヒトの睡眠サイクルに合わせて、睡眠中の室温を調整すると言っても、どのように変えているのだろうか?

 「眠りには深い眠りと浅い眠りがあることが知られていますが、深い眠りでは体温が下がるので暑いと感じないように室温を1℃下げます。逆に浅い眠りの場合は体温が少し上がるので寒いと感じないように室温を1℃上げるようにしています。

 さらに睡眠中は、寝入ってから3~4時間は徐々に体温が下がり、以降目が覚めるまで徐々に上がるという緩やかなU字のカーブを描きます。

 ソイネはこのカーブに合わせて寝入りから3時間にかけて徐々に室温を2℃下げ、目覚めのときには元の室温に近い状態まで戻します。その間はおよそ90分間隔で深い眠りと浅い眠りを繰り返すので、基本となる室温に±1℃を調整して、心地よく眠っていただける空間を作り出すのです」

ソイネはヒトの睡眠の状態に合わせて細かく室温を調整する眠りのリズムと、ソイネが調整する室温の関係。寝入りから最初の深い眠りに入るまでの間は、体温に合わせて徐々に室温を下げると、睡眠への導入もしやすいという

布団に掛かる圧力で睡眠状態を検知し、特殊な計算方法「DCT」で判別

 動作する仕組みはよく分かったが、実際に眠りを検知するのは、ソイネにくっついている、圧力センサーが入ったゴムチューブだけ。これだけで、本当に生体データを検出できるものなのだろうか? 技術的には非常に難しく思えたので、アイデア商品創出プロジェクト 技術担当の堤智彦さんに伺った。

ダイキン工業 アイディア商品創出プロジェクト 技術担当 堤智彦さん

 「ソイネに使っているようなゴムチューブ形の圧力センサーは10年前ほどからあり、開発では目をつけていたのですが、いつの間にかお蔵入りしていました。2009年に改めてアイデア商品創出プロジェクトとして開発してみると、ゴムチューブにはさまざまな圧力がかかるため、そこから睡眠のデータだけを取り出すことが最大の難関でした。

 ソイネは基本的に、センサーのゴムチューブの上に15cmの布団を載せてもデータが取れるようになっています。しかしそこには敷布団や掛け布団の動きをはじめ、外部の振動や騒音なども入ってきます。そこで、データの本質を取り出すために『DCT』という計算法を使っています。これが一番難しかった部分です」

ソイネのセンサーをベッドに敷いたところ。チューブの先に付いている黒いパッドはストッパー「細長いチューブがセンサーです」と説明する湯川さん。初見では黒いパッド部分がセンサーと間違いがちだ
音楽の再生形式として一般的なMP3も、DCTを使っている。WAVEファイルでは42Mバイトあった音楽も、DCTでヒトの耳には聞き取れないような部分を捨て特徴だけを残せば、4.8Mバイトに圧縮できる

 DCTは別名「離散コサイン変換」と呼ばれ、いまや工業数学で最もメジャーな理論のひとつ。MP3などの音楽圧縮や、JPEGの画像圧縮、MPEGなどの動画圧縮に広く使われており、このDCTでファイルサイズが非常にコンパクトにできる。一見複雑で無秩序に見えるデータでも、特徴のみを残し、それ以外はノイズとして無視して処理でききる、それがDCTだ。 


効果をアピールするには法律の壁が……

 しかし、DCTを使ってまで取り出す睡眠の「本質のデータ」とは、寝返り以外にもいろいろなデータを取っているはず。このあたりをさらに詳しく聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

「参りましたね……ソイネは医療機器ではないので、薬事法などの制約があるため、そのあたりの詳しい話はお話できないのです」(堤さん)

「それもあってソイネでは、布団にかかる圧力が大きい、小さいとしか表現できないのです」(湯川さん)

 これは筆者の推測になってしまうのだが、恐らくソイネは、寝返りだけでなく、脈拍もしくは呼吸も含めて検出し、呼吸数と脈拍が多くなるレム睡眠と、呼吸数と脈拍が少なくなるノンレム睡眠を見分け、それぞれに合った室温をコントロールしているのだろう。


睡眠状態を5つ星で評価。睡眠を客観的に見るツールとしてお勧め

 というわけで、ソイネは中身は複雑な機構が入っている。にもかかわらず、使い方は簡単だ。

 「メニューボタンを押して“運転コース”から冷房、暖房、エコ暖房、測定(エアコンは制御せず自分の睡眠状態のみを測る)を選び、スタートボタンを押すだけでいいんです。あとは目覚めの時まで、ソイネが快適な睡眠ができる室温にすべて自動調整します。翌朝ソイネを見ると、以下の写真のようなグラフが表示され、睡眠状態がどうだったのか? どれだけよく眠れたかが★マークで表示されます」(湯川さん)

体調の悪いときの睡眠は、浅い眠りと深い眠りのサイクルが不定期なグラフとなり★は1つしかないよく眠れたと感じたときは、サイクルが一定間隔で現れきれいなグラフとなり、★は5つ表示される

 「このグラフ(上の左の写真)は、体調が悪かったときの睡眠のグラフなんですが、グラフもイビツで、★マークも1個しかありません。

 でも“今日はよく眠れたな!”という日は、キレイなグラフが表示され★が5つ付くんです(上の右の写真)。なんだか朝やってるテレビの占いを見ているみたいで、“今日はがんばるぞ!”っていう励みにもなりますよ。それに過去30日の履歴も残るので、どんなときはよく眠れて、どんなときはよく眠れなかったのかも分かるので、心地よく眠るための参考にもなります」(湯川さん)

 ただ、ソイネには弱点がある。それはダイキン以外のエアコンとは連動できない使えないということだ。

 「大変申しわけないのですが、今は2003年以降のダイキンのエアコンを使っていただいているお客様のみということになり、他社製品への対応の予定はありません」(篠原さん)

 残念! とはいえ「測定」モードは、エアコンを制御しないので自分の睡眠サイクルを知りたい方にもお勧めしたい。

 実は筆者、家庭にダイキンのエアコンはないものの、ソイネを使って、快適な睡眠ができる限界の晩酌量を現在調査中だ。枕や布団などを変えてみても、グラフや睡眠の状態は結構変わる。自分の眠りを客観的に見られる魔法の機械として楽しめる。

ソイネを裏返したところ。裏面は電源スイッチだけとシンプルだ

 「ソイネは実際に使ってみないとその効果が分からない商品なのでお客様に説明するのがすごく難しいのですが、私の経験から言わせていただければ、ソイネ使う前と後では朝の目覚めが違ったので、お客様にも体感していただければ嬉しいですね」(湯川さん)

 確かに精度の高いノンレム睡眠とレム睡眠の判定や、睡眠中の体温の変化に合わせた室温制御ができれば、普通に考えれば“ソイネを使ってもさほど効果がない”なんてことはないだろう。


何もしなくても、普通に運転しているだけで自動節電する「ミハリモ」

 ソイネの次は、自動でエアコンをコントロールしてくれる「ミハリモ」の話に移ろう。この2商品、見た目がそっくりだが、それもそのはず、ミハリモはソイネをベースに作られた製品だからだ。

 ミハリモを開発した背景には、記憶に新しい東日本大震災が深く関係している。

ミハリモは東日本大震災による電力不足の問題を解決するために誕生した。形状がソイネと一緒なのはそのためだ

 「3月11日の東日本大震災の影響で、電力不足の問題が急浮上しました。そこで空調のリーディングカンパニーとして、何とか省電力に貢献できないかというテーマを全社的に取り組むことになりました。

 震災後、当社はいち早く「節電コントロールセンター」を立ち上げ、相談受付や節電メニュー提案を始めました。当社には節電効果がある『VRV・エネ・TUNING』という業務用エアコン向けサービスがあります。サービスマンがお客様の元にお訪ねして、それぞれのニーズや使用状況に合わせて節電運転になるようエアコンを調整するサービスです。

 しかし、一般家庭向けのエアコンは訪問して調整するのはほぼ不可能です。そこで急遽4月上旬から家庭用の節電リモコン、つまり“ミハリモ”に着手しました」(篠原さん)

 節電の夏がやってくる前に発売するため、急ピッチで開発を進めたわけだ。では、ミハリモは一体どのように家のエアコンを自動で節電してくれるのか。

 「先に紹介しましたソイネと同じ形をしていますが、ミハリモは時刻によってエアコンの設定温度をコントロールする節電応援リモコンです。運転コースには3つあり“おすすめ”コースを選んでいただくと、外気が低い深夜~朝、夜~深夜の期間において、エアコンの設定温度を自動的に高めに調整します。一方でお昼の暑い時間帯は、エアコンに設定された温度(通常は28℃)で運転し、快適な空間を作り出します。1997年製以降のダイキンのエアコンに使用できます」

 ミハリモ自体に外気温センサーはついていないものの、涼しい時間帯はエアコンの運転を弱めて、自動的に節電してくれるという賢いリモコンなのだ。

ミハリモのおすすめコースを使った場合の運転内容と、ミハリモなしの場合における消費電力量の比較。同社の試算によればミハリモを使って運転すると消費電力を12%抑えられるという

 「2つ目の“ピークカット”コースでは、政府が呼びかけている9時~20時の時間帯に節電を行なうもので、その時間帯は室温をエアコンの設定温度より2℃高くして運転します。工場出荷時の設定では、先の時間帯になっていますが、10分刻みでお客様が別途指定することも可能です。また“カスタム”コースでは、時間帯と室温を±4℃の範囲で自由に設定していただけるようになっています」(篠原さん)

ピークカットコースの室温コントロールカスタムコースの室温コントロール。時刻に応じた温度を±4℃の範囲で指定できる

 より積極的に節電したいという場合は、いちいち時刻によって室温を変えるのは面倒なので、この機能が便利に使えそうだ。また、ここでは夏場の冷房としての例を説明していただいたが、冬場の暖房としての節電もできるようになっている。

 また、ミハリモで嬉しいのが、設定温度を一時的に変更した時の戻し忘れが防げるところだ。

 「“子供が誤って設定温度を変えてしまった”、“アツアツの食事をとる1時間だけ設定温度を1℃低くしたい”という場合がありますが、設定温度が変わっていることに気づかなかったり、戻し忘れがよくあります。でもミハリモには30分または60分経過すると、元の設定温度に戻すという機能もあります」


本体のモニターでもウェブサイトでも、節電効果の“見える化”ができる

ミハリモの画面グラフは、室温とどれだけ変化させたかを示し、その上にはどれだけ節電できたかを5段階の★で表示する

 ミハリモでは、節電効果の「見える化」もできる。ソイネのように、どれだけ省エネ運転をできたかが本体画面にグラフと★マークで表示される。電気はそう簡単に目に見えないものなので、どれだけ節電したかを確認するのは、月に1度の電気代の請求書になる。しかしミハリモなら「節電の見える化」ができるので、その場で確認し、楽しみながら節電できそうだ。

 楽しみながら節電できる工夫としては、さらにもう1つある。

 「“ダイキンの考えるお店”のコミュニティーサイトで、節電日記をつけることもできるんです。ミハリモに表示される8桁の番号を、お客様専用の日記に入力していただくと、省エネ具合が得点化されて表示されます。小さなお子様と一緒に節電を楽しんでいただけると思います」

 得点表示できる通信カラオケのようで、確かに楽しめそうだ。

節電日記をつけるには、ミハリモに表示される8桁の数字を、同社が運営する節電日記カレンダーに入力する日記には、節電の度合いが点数で表示される点数はグラフで表示することも可能。全国の平均値も表示できるので、ちょっとしたゲーム感覚で楽しめるだろう

たった3カ月で開発着手~販売できたワケ

 快適に運転しながら節電できるミハリモだが、先ほど述べたように、ミハリモは4月上旬に着手し、7月中旬に発売という、非常に忙しいスケジュールでの販売となった。これは、家電をゼロから作るケースでは異例の早さだ。

 「実際に開発スタートとなったのは4月中旬なので、ほとんど時間はありませんでした。私たちダイキンとしては何とか夏までに間に合わせないと、お客様にも社会にも貢献できません。本格的な夏の前に発売することがマストでした。

 しかし、幸いにしてソイネの開発が進んでいましたので、この技術を応用して中身のプログラムを節電できる内容に書き換えるというアプローチでなんとか発売にこぎつけました。つまり堤がヘトヘトになったということです(笑)」(篠原さん)

 ええーっ! 筆者もプログラマの端くれだが、開発の最終段階といえば、色々なプログラム不具合を直したり、最終調整で大変な時期。そこに1~2カ月そこそこで新規のプログラムを書かなければならないというのは、“お前、休むな! 帰るな! 寝るな!”と宣告されるようなものだ。

 そこで堤さんにその惨状を伺ってみると……

「ははは……。ご存知の通りですよ」

今となっては開発の苦労も報われ、笑い話として語ってくださるスタッフのみなさん

 小言の1つもおっしゃらない堤さん! プログラマの端くれとして尊敬します!

 しかし結果的に、ミハリモは本格的な夏の前にちゃんと発売された。それは堤さんだけでなく、ハンドリングする篠原さんをはじめ、関わった多くのスタッフが空調メーカーとしての使命と誇りを頼りに成し遂げた結果だ。



“節電のためにエアコンを使わない”のではなく、“無理なく、上手に節電を”

  節電はこの夏だけでもなく、冬も続くことが予想される。そこで最後に、篠原さんにエアコンの節電のポイントを伺ったが、その言葉は、“エアコン専門メーカー”として非常に重みがあるものだった。その言葉で本稿を終えよう。


 「細々とした節電のテクニックなどは、震災後いち早く立ち上げた“この夏をみんなで乗り切る節電のお話”というページを見ていただければと思います。しかし、弊社のお客様だけでなく広くみなさんに訴えたいのは、“熱中症などの危険性がある中で、節電のためにエアコンを使わない”というのは避けていただきたいということです。

 一番大切なのは、みなさんの健康です。ムリに設定温度を上げたり、エアコンを使わないような生活をして、熱中症になってしまったり健康を損なうような節電は“節電”と言えません。どうか無理をなさらずに、できる範囲で節電していただければと思います」







2011年8月30日 00:00