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テレビ事業撤退以降、初の黒字化。パナソニック アプライアンス 中国が今やろうとしていること

 中国市場に参入してから早40年、日本の家電メーカーの存在感が薄れる中、孤軍奮闘しているパナソニック アプライアンス 中国が新たな局面を迎えている。2014年以降、苦戦を強いられてきた中国市場で、様々な取り組みをスタートし売上が回復してきたのだ。

 今年4月には中国人の呉亮氏をトップに据えて、中国の家電事業を統括する新会社、パナソニック アプライアンス 中国をスタート。もともとパナソニックの工場があった浙江省・杭州に本社を移し、新たな体制にした。この数年事業計画が達成できなかったという状況の中でどのように体制を整えてきたのか、パナソニック アプライアンス 中国の呉亮社長に聞いた。

中国市場でテレビ事業を撤退して以降、最高の売り上げを達成

 4月の就任から半年以上が経った。現時点での手応えはどうか。

 「かなり手応えを感じている。しかし、それは自分がトップになったからというわけではない。今の体制は2年前からスタートしており、前任者が実施した製販一体(製造・販売を別会社で行なっていたのを、1つの会社に統合し、態勢を整えた)などの布石のおかげ。中国市場のお客様に向き合って、本当に求められている商品を製販一体となって提供してきた成果が出てきた。

 ここまでの上半期も計画以上の数字が出ており、3月までの年度で見ても、予算比、前年比ともに、上回る結果になりそうだ。この数字は我々にとって非常に大きな意味がある。アプライアンス 中国は2014年以降、売上は下がり続けてきており、ここにきてようやく事業計画が達成できる。中国市場でテレビ事業を撤退して以降、通年でも最高の売り上げを達成できそうだ」

パナソニック アプライアンス 中国の呉亮社長

 しかし、楽観視しているわけではない。

 「中国の市場環境だけを見ると不安材料はある。中国市場の成長率はここにきて前年比102~103%と落ち着いてきた。我々は、今までローカルのメーカーに大きく水をあけられていたが、ここでようやく少し差を縮められた。まだまだ油断できるような状態ではない。これからも厳しい市場環境にさらされるだろう」

 就任後、具体的にはどういったことに着手してきたのか

 「まずはこの半年で、全国の販売営業所を回ってきた。トップに就任したからといって、頭でっかちな考えを持つのではなく、まず現場を見て、知ることが必要だと考えた。現場の営業が何を求めているか、何をすべきかを見極める必要がある。我々はモノを作って、売る会社であり、モノが売れなければ何を言っても意味がない。最終的には、営業の現場に活気があるかどうかに尽きる。そのために、この2年の間に、営業が動きやすい環境を整えてきた」

若く有能な人材を積極採用し、ECを強化

 本社がある杭州というのは、中国においてどういう場所か。

 「昔は、経済的にそこまで発展していない、いわゆる中級都市だった。杭州がある浙江省自体、山の多い丘陵地帯なので、農業をやる場所としても、向いていない。しかし、中国開放以降はすごく踏ん張ってきて、現在中国の4大都市と言われている北京・上海・広州・成都に、杭州がとって代わる日も遠くないのではないかと言われている。

 特にこの2年間、杭州の政府が積極的に行なっているのが、人材誘致。一般的に中国では、高学歴を取得した学生が生まれ育った場所に戻って仕事をするという例は多くないが、杭州では、いわゆる高級人材といわれる留学経験や博士号を持つ学生が勉強を終えて、帰ってくる率が最も高いという。それだけ、魅力的な都市だということだ。実際、杭州の人材レベルは質・量ともに上がってきている。中国で第一のEコマースを経営するアリババ本社もここ杭州にあり、スタートアップやベンチャー企業なども多い。若い有能な人材が活躍することで、経済も発展し続けている」

中国・杭州にあるアプライアンス 中国の本社。工場も併設する

 アプライアンス 中国においても、若く、有能な人材の採用を積極的に進める。背景には、EC(Electronic Commerce:電子商取引。インターネットで物の売買をしたりすること。ネット通販)の台頭がある。中国の家電市場において、ECは非常に大きなウェイトを占めているのだ。例えば、中国で最もメジャーのECサイト「アリババ」のユーザーは国内だけで6億人を突破しており、家電市場全体でECの売上が占める割合は約35%にも上るという。

 「我々も2013年くらいからECに参入したが、当時は売上も少なく、EC自体のイメージも“偽物”や“安物”というもので、パナソニックが参入するということにバッシングもあった。しかし、現在では全く状況が変わっている。例えば、業界1位のアリババでは全ての商品ジャンル、全ての業界が参入している」

 アプライアンス 中国においても、若い世代を中心とした約50名をEC専門チームに配置。今のEC業界のトレンドを分析、すぐに取り入れられるような体制を敷いている。専門チームを作ったことで、良い感触も掴めてきているという。

 「まずは2017年にアリババにおいてパナソニックの製品を徹底的にアピールする『スーパーブランドデー』を年に2回設定。アプライアンス 中国が扱う全ての商品をアリババのトップページに掲載して、様々な特典やイベントを開催した。また、中国の消費が爆発的に伸びると言われるアリババが主催する11月11日『独身の日』のイベントにも注力した。その結果、11月前半の売上は前年比180%以上を達成した」

 今後は、人事制度の改革にも着手していくという。

 「若い人はバイタリティもあり、色々な提案をしてくれる。それに応えられる会社でありたい。日本では、公正公平、入社年数が古い人ほど、給料が高いという風習が今でも根強く残っているが、中国にそんな会社はない。パナソニックでも能力ある人を正しく評価するという方向に変わってきてはいるが、中国においては、日本と同じ歩調で改革を進めていては、遅すぎる。ローカルの会社で見習うべきところは見習い、中国にあった人事制度を至急導入していかないとダメ」

 またECサイトだけに注力するのではなく、重要なのは「オンとオフのバランス」だと語る。

 「オンラインでの販売は、どうしても価格が下がってしまう。そうすると更にオフライン、つまり店頭で製品を買う人が減ってしまう。しかし、店頭に製品が置いてあって、実際にモノを見てから買いたいという人もまだ多い。店頭での販売のモチベーションを維持できるような仕組みやシステムを早急に導入しなければならない。例えば、店頭で接客したことで得られるオンライン向けの割引サービスや、オンラインで購入されたものであっても店頭での接客があった場合、担当者にきちんとインセンティブが入る仕組みなど、色々な評価方法を試験的に進めていきたい」

横の連携を強化して「住空間」を強化

 一方、今後の取り組みについては「住空間」の強化を挙げる。

 「パナソニック以上に商材が揃っているメーカーはほかにない。もし全社が一丸となれば、すごい力が湧いてくるだろう。だが、現時点では横の連携が取れていない。アプライアンス 中国では、横のつながりを活かして、単品の製品だけでなく、住空間まるごとの提案をしていく。

 中国では法律の問題もあり、今後は内装やリフォームの需要が増えてくる。今、先行投資してそこにきちんと対応できるようにしてきたい。具体的には、ECサイトと連携を考えている。既存のプラットフォームを使って、そこで住宅設備を選んで、買えるような仕組みを考えている。中国では6億人以上がECサイトを使っている。ECサイトとの連携を進めることで、新たな可能性が開けてくる」

今後は全ての製品にWi-Fiを搭載

 中国は、インターネットと連携したIoT家電に関しても世界の最先端を行く。どう対応していくのか。

 「個別の製品がインターネットと連携してどうこうというよりも、そこで得たデータをどう使い、どう分析していくのか、これからは情報の勝負だと考えている。今はそのための準備をどんどん進めている。ビッグデータを有効活用することで、製品を作る本当の裏付けを得ることができる。これまでは社内の商品企画の人間が作りたい製品を提案して、そのための裏付け調査を自ら発注していた。ビッグデータをうまく活用することで、本当に求められている製品を作ることができる」

 また今後、中国で展開する全ての製品にWi-Fiを搭載していくと明言する。

 「現時点で、温水洗浄便座、炊飯器、洗濯機、冷蔵庫、ロボット掃除機、電気圧力鍋などにWi-Fiを搭載しているが、今後は全ての製品にWi-Fiを搭載していく。パナソニックは変わったなと思われたい。IoTを進める上で、最も重要なのは、オープンにすること。他社の製品との連携も積極的に進めていくべき。例えば、中国の家電メーカー、美的と連携してもいいし、とにかくオープンプラットフォームにしないと、IoT家電の普及は進まない」

アプライアンス 中国が今年初頭に発売したWi-Fiを搭載した温水洗浄便座
便座に座って、側面の電極部に触れることで体脂肪を測定、データをアプリで管理できる

これまでの領域を超えたことをしていく

 就任した年の売上が計画を達成し、前年を大きく上回る見込みだが、社長の顔には安堵はない、それどころか「いつ会社がなくなるか分からない状況」だと危機感を見せる。

 「中国におけるパナソニックは、松下ブランドというかねてからのイメージが強く、製品や品質に自信もある。あとはやり方だけ。中国において、日本の総合家電メーカーで残っているのはパナソニックだけになってしまった。絶対に負けられないという想いもある。我々も柔軟に頑張ってはいるが、とにかく今の中国はスピードが命。それに対応できるように、色々なことの決断を早めていかなくてはならない。前任者時代から、これまで色々活動してきたことの成果がようやく出てきた。しかし、これで安心するのではなく、これからは住空間やIoTなど、これまでの領域を超えたことをしていかないと、将来はないと思っている」

阿部 夏子