そこが知りたい家電の新技術
圧力・真空・丸底60°内釜の“合わせ炊き”! 東芝の炊飯器で炊いたごはんがおいしい理由
2017年11月27日 07:00
東芝ホームテクノからこの秋に発売された、新しいIHジャー炊飯器「RC-10ZWL」は、従来より約26%(体積比)もコンパクトになってフルモデルチェンジしています。また、好みに応じて食感を炊き分けられる「かまど名人コース」の炊き分け幅が11通りに広がり、新たに「甘み炊きコース」も加わりました。
炊き上がりの味については、すでにレビュー記事でご紹介していますが、今回は新潟県加茂市にある東芝ホームテクノの工場に伺い、コンパクト化の苦労や炊き分けの調理ソフト技術のこと、さらには東芝の炊飯器ならではの「真空機能」のことなど、おいしさの裏にある技術について取材してきました。
東芝炊飯器の歴史、62年目の自信作は“圧力+真空+丸底60°の合わせ炊き”
1955年に東芝から国産の自動式電気釜の1号機が誕生してから今年で62年。1994年には鍛造厚釜を採用したIH炊飯器が開発され、2006年には世界初の真空機能搭載のIH炊飯器が開発されるなど、数々のエポックメーキング的な製品を打ち出してきた東芝の炊飯器ですが、2017年秋に発売されたばかりの新しいIHジャー炊飯器RC-10ZWLの魅力はどこにあるのでしょう。家電事業統括部・家電商品企画部 課長の弦巻孝司氏に聞いてみました。
「国内のジャー炊飯器需要は微減しているのが現状ですが、IH炊飯器の平均単価はアップしており、高級炊飯器の人気が見てとれます。というのも、1人あたりのお米の消費量は減ってきているものの『少ない量だからこそ、よりおいしいごはんを食べたい』というニーズが増えているのですね。炊飯器購入のきっかけも『よりおいしいごはんが炊ける炊飯器が欲しかったから』というものになってきています。
お米の産地や品種のブランド化は年々進んでいますし、特Aランクのお米もこの10年で17品種から44品種にまで増加しているのも、興味深いことです。そうした中で東芝は、“圧力+真空+丸底60°の合わせ炊き”という独自性をアピールしています。また、内釜の羽釜形状を維持しながらもキッチンに置きやすいコンパクトなデザインにリニューアルしたことで、より親しみやすく手に取りやすいものになったのではと思います」(弦巻氏)
独自機能の「真空」が生む“芯からおいしい”ごはん
なるほど、圧力炊きに真空テクノロジー、そして60°の丸みを持った内釜の3つが合わさって、「少量だからこそおいしいごはんを食べたい」という人に応えられるような炊飯器を実現させているんですね。ところで、2006年から搭載されている独自技術の「真空」は、おいしいごはんを炊くのにどう関係しているのでしょうか。
「昔は、米に十分に水を吸わせるために、炊飯前に米に水を浸けておく『ひたし』工程が必須でした。たとえば、朝食べるための米は、前の晩から水に浸けておくなど、それぞれの家庭で工夫していたんですね。米の芯までしっかり吸水させることで、内部にまで熱が伝わり、米のα化を促進、甘みを引き出すことができるのです。一方、我々の『真空テクノロジー』は、ひたし時の吸水工程を真空にすることで圧力差を利用してお米の中心部まで確実に吸水させます。何時間も時間をかけなくても、甘みのあるふっくらしたごはんを炊き上げることができます」と家電事業統括部・家電商品企画部部長の奥野勉氏は言います。
更に技術的なことを教えてくださったのが、家電技術統括部・リビング機器技術部炊飯器技術グループでグループ長を務める加藤善光氏。
「内釜内部に圧力をかけることと、真空に引くこととは相反する部分があるため、実はとても大変なのです」と。「圧力をかけている時にはふたから蒸気が抜けないようにしますが、真空時には空気を抜いて密閉します。このどちらもを可能にするために、さまざまな技術的な工夫があるのです」(加藤氏)
この真空αテクノロジーを視覚化するために、食紅で色をつけた水を炊飯器に入れ、厚みの異なる大根を3つずつ、最新モデルのRC-10ZWLと、真空機能非搭載の炊飯器に入れて15分ほど吸水させた様子を比較する実験をしてもらったところ、違いは歴然。真空に大根の芯まで水分が吸収されているのが、よくわかりました。
お米の芯まで熱が届くからふっくらと大粒に炊き上がり、しかもお米の表面が崩れずに粒感のあるごはんが炊けるのも、真空αテクノロジーがあるからこそなのですね。先行したレビュー記事でも触れているように「もちもちなのに粒感があっておいしい!」と感じたのは、ここにヒミツがあったようです。
約26%のコンパクト化が火力アップ&しゃっきりごはんの鍵に
新モデルを見ていちばんびっくりしたのは、とても小さくなったことですが、技術的にかなりご苦労があったのではないでしょうか。
「初代の『備長炭かまど本羽釜』もおいしいごはんが炊ける自信作ではありましたが、これまでにない羽釜形状の内釜を採用し、釜上部にスペースを設けるなど、新しい機構を搭載したところ、5.5合炊きの炊飯器にも関わらず『一升炊き?』と聞かれることもあるほど、本体サイズが大きくなってしまいました。それで、とにかく小さくする必要があると考えました。内釜を小さくしたり、本体の削れるところを削って小さくしただけではどう考えても10%ダウンが限度。そこで、コードリールなどの部品配置から吸気口の位置など、イチから設計し直して、ようやく体積比を約26%ダウンというところまでもっていくことができました」(加藤氏)
一般的な炊飯器の吸気口は底面にあるのですが、最新モデルでは、側面に変更しています。
「側面吸気という新発想の設計にしたことで、思わぬ副産物が生まれたのもうれしいことでした。というのも、側面吸気によって冷却効果がアップしたために、炊飯時の火力がアップして、よりしゃっきりしたごはんを炊けるようになったのです」(加藤氏)
コンパクト化したことで火力がアップできたというのにはびっくりしましたが、この「よりしゃっきり」の部分が、次にお伝えする「炊き分け幅の拡大」にも繋がっているのですから、さらに興味深い展開になりました。
炊き分け幅が11通りに拡大した「かまど名人」と3通りの炊き分けができる「甘み炊き」
これまでハード部分について加藤さんにお話しをうかがってきましたが、新モデルの味の魅力でもある「かまど名人」や「甘み炊き」という炊き分け機能についても、家電技術統括部・調理ソフト技術部長 斎藤氏に聞きました。
「東芝の『かまど名人コース』は同じ水位線でもしゃっきりからもちもちまで好みやお料理に合わせて11通りに炊き分けられるというものです。サリーさんが気に入ってくださった『もちもち』ごはん、これは単に柔らかいごはんというわけではありません。真空テクノロジーによって温度を上げずにしっかり吸水させることでお米がふやけずに滑らかなままで炊けるから、粒感があるもちもちごはんが炊けるのです。甘み炊きではうまみ成分をさらに引き出すために、真空の回数を増やしていますし、しゃっきりにする場合には、高火力で早く水分を飛ばすようにして仕上げます」(斎藤氏)
今回、かまど名人の炊き分けが従来の9通りから11通りに増えましたが、これはより細かく炊き分けられるようになったということでしょうか。
「そうではないのです。先ほど火力アップの話があったように、よりしゃっきり感のあるごはんが炊けるようになったこともあり、炊き分け幅自体がぐんと広がっています。さらにしゃっきり・おすすめ・もちもちの3種類の炊き分けができる『甘み炊き』が加わったことで、幅だけでなく深みも増しています。甘み炊きは冷めても美味しいのが特徴ですから、おむすびがオススメです。粒感があり、食べた時にほろほろと口の中でほぐれる感じをぜひ体験してほしいと思います」(斎藤氏)
おいしい玄米ごはんって?
もう1つ、健康ごはんの推奨ということで玄米と白米を混ぜて炊く「白米混合コース」も加わりました。玄米ごはんが健康に良いということは周知の事実ですが、白米に比べてニオイや食感が嫌で、続けられない人も多いそうです。
そこで、少しでも食べやすくしたいというニーズから玄米と白米を混ぜて炊くという工夫が生まれたそうですが、玄米と白米では水の吸水率が全く違います。玄米はひたし時間を多くすることで、柔らかく炊けると聞きますが、白米で同じひたし時間にしたら柔らかくなりすぎてしまいます。どういった工夫をされたのでしょう。
「玄米白米混合コースのいちばん難しかったところは、おいしさの正解がないことでした。何を目指せばいいのか悩みましたが、まずは玄米と白米をそれぞれ別に炊いて、混ぜ合わせたような食味になればと。ここで活躍したのがやはり真空αテクノロジーと圧力可変コントロールです。ひたしの工程で玄米にしっかり吸水させること。そして炊飯時に圧力をかけすぎると玄米には良くても、白米がくずれてしまうのでそれを上手にコントロールして圧力をかけるようにしました。最後には白米のおねばが玄米をコーティングして、玄米と白米を別に炊いて混ぜたごはんよりおいしくなったと思っています」(斎藤氏)
実際、玄米白米混合コースで炊いたごはんは、玄米特有の食べにくさが解消されていて、かといって白米も柔らかくなりすぎていません。ニオイも少なく感じました。これなら、玄米も続けられそうです。
斎藤氏からは「そうそう、真空のことで付け加えると、予約炊飯時にも、この真空αテクノロジーが活躍しているんですよ。予約の際にも、いったん真空で引いてお米に吸水させておくことで、お米の表面がなめらかで粒感のあるごはんが炊けるのです」というお話も。真空テクノロジー、さすがです。
丸底60°の本羽釜を可能にした溶湯鍛造製法の工場でみた丁寧なモノづくり
東芝の炊飯器には1994年から鍛造厚釜が搭載されるようになっていますが、2015年秋に登場した「備長炭かまど本羽釜」では丸底で羽根があり、上部に高さのある“羽釜”の形を実現していて衝撃的でした。新モデルでは、本体のみならず内釜もコンパクト化しており、鍛造厚釜による“備長炭本羽釜”であることには変わりないものの、約1.5㎏あった重さを約1.1㎏に軽量化して、扱いやすくなっています。
今回、溶湯鍛造内釜の製造ラインをはじめとする工場内も見学してきました。数々の固有技術による溶湯鍛造内釜は、切削や水位線の印刷、内塗り、羽根下の黒色塗装・ステップル塗装などを経て「備長炭かまど本羽釜」の完成品となります。
「ごはんを炊く製品に万が一髪の毛が入ったりしては大変だから。ファスナーによって出荷前の製品に傷がついては大変だから」と、髪の毛をすべて帽子に収め、ファスナーレスの白衣に身を包んで作業する様子に感動。「国産」を貫いてきた東芝ホームテクノならではの丁寧なモノづくりに脱帽です。
ちなみに「1.1㎏と軽く扱いやすくなっても熱を逃さず大火力をキープする7mmの厚釜や、60°の丸底で大きな熱対流を生み出し、炊きムラを防ぐ点など、従来モデルから受け継いだおいしさの秘密はきっちり受け継いでいます。鍋の上部に空間があるため、吹きこぼれることなく高火力で連続加熱・連続沸騰が可能になっているのも羽釜だからこそです」と奥野氏からの説明がありました。合わせ炊きの言葉どおり、丸底の内釜もおいしさの大きなポイントになっているようです。
本体サイズは小さくなったのに、機能もおいしさもさらにパワーアップした東芝の炊飯器。米どころ新潟にある開発・製造拠点に伺ったことで、おいしさの理由がわかりました。今よりもっとおいしいごはんが食べたいなら東芝の炊飯器、要チェックです!
協力:東芝ホームテクノ(株)