そこが知りたい家電の新技術
パナソニックの中国大陸における事業戦略を聞く
by 河原塚 英信(2016/3/18 07:00)
パナソニックは2018年に創業100周年を迎える。その記念すべき年に、全社での売上高10兆円、うち家電事業では2.3兆円という目標を掲げている。
この目標を達成させるために、重要な市場と位置付けられているのが中国。だが、これまでの中国における同社の体制は、理想的なものではなかった。そんな中国の家電事業を整理し、攻勢に転じさせるために、昨年4月にパナソニック チャイナ アプライアンス中国の代表、総経理に就いたのが山内政直氏だ。
今回は、山内政直氏に話を伺う機会を得た。総経理着任から1年を経たアプライアンス中国のこれまでと、今後の事業戦略の詳細を聞いていた。
「ようやく、統一されたパナソニックで戦えるようになった」
冒頭で「これまでの同社の中国における体制は、理想的なものではなかった」と書いた。まずは、実際にどのような状況だったのか、そしてどう変革してきたのかを聞いた。
「これまでの中国における事業は、歴史的な背景が色々とあり大きく3つの会社がありました。例えば、エアコンと洗濯機は、まったくの別会社で、それぞれ違う合弁パートナーや販売機能を持ってやっていたんです。さらに冷蔵庫や美容関連などの小物家電は、また別に動いていました」
つまり全くバラバラの3つの“パナソニック”が、中国市場には存在していたということだ。それらが全く連携を取らず、それぞれの商材を売って来たという。こうした非効率な状況を打破するために、昨年の4月に、山内氏がアプライアンス中国の総経理に着任。1年を通して、体制を再編する作業を行なってきたという。
「お恥ずかしい話ではありますが、今年から、ようやく統一された“パナソニック”で戦えるようになったのです」
統合されたパナソニックの下で、ブランド戦略や宣伝も統一してスタート。これまでは、統一して行なわれていなかった宣伝活動も、ブランドアンバサダーとして中国国内で人気の女優、高圓圓(カオ・ユエンユエン)さんを起用するなど、統一されたブランド戦略が取られるようになった。
世帯収入21万元以上をターゲットに「憧れのくらし」を提案
そうした中国で同社が進めているのが、製品群をプレミアムゾーンへと絞り込むこと。これまで販売していた普及価格帯については見切りを付ける形となる。
戦略転換の理由として挙げられたのが、冷蔵庫や洗濯機、エアコンの都市部での普及率が90%を超えている点。もう各世帯に、これらの商品が行き渡っているのだ。
「業界全体で見た場合の販売台数が、これからどんどん伸びていく市場ではないんです。その中で、我々が強みを出してどう戦うかを考えた場合に、もう価格を追うような普及価格ゾーンで闘うべきではないなと。そういう判断で高級ゾーンにシフトすることにしました」
また、既に普及しているということは、今後は買い替え需要でのシェアを獲得することが目標となる。そうした買い替え需要では、今使っているものより良い物が欲しくなる、というのが自然の流れだ。また、エアコンなどの普及が急速に進み始めた2008年頃から、中国の平均世帯収入も上がっているという。
さらに中国ならではの事情もある。特にエアコンについては、中国国内での実需が年3,000万台に対して、現在4,800万台以上の在庫が溜まっている状態だという。こうした中、昨年から現地メーカーが激しい価格競争を展開しているのが、普及価格帯なのだ。
では、ターゲットとする中高級モデルは、どのくらいの価格帯なのか?
「エアコンで言えば4,000元(日本円で7万円前後)くらいです。この4,000元を下回る価格については、基本的には置きません」
また、価格帯についてはエアコンと同等だが、トレンドが変わってきているのが、洗濯機だという。
「これまでのメインは縦型洗濯機でした。それが今ではドラム洗濯機が売れるようになっています。その中でもインバーターを搭載したモデル、いわゆる高級ゾーンに属するモデルですね。さらに容量も大型化してきています。容量6〜7kgの縦型洗濯機では、すでに価格の叩き合いになりつつあります」
中国で企画開発された中国オリジナル製品も、増やしていく
プレミアム市場へシフトするとはいえ、気になるのが日本の製品を、そのまま中国で販売して売れるものなのか? という点だ。製品のローカライズについては、今度どのように考えているのか。
「特に冷蔵庫は、それぞれの国や地域の食文化が反映されるものですから、求められるものも変わってきます。広い中国ですから、中国の中でも、地域によって異なってきます。例えば、日本では野菜室を置いていますが、こちらでは野菜室よりも冷凍庫を大きくレイアウトしています。そういう工夫は、していますね。
日本の製品を、そのまま持ってきて成功することもありますが、やっぱり中国に合ったもの、というのは作っていかなければいけないと考えています」
そしてパナソニック中国には、商品企画から開発、製造まで完結できる体制や実力が既に整っている、と断言する。
「実は日本から輸入している一部の製品を除き、既に冷蔵庫と洗濯機は、中国国内で作っているものがほとんどです」
さらに、パナソニックの製品企画の特徴が、国や地域別の生活研究から始めていることにあるという。同社が中国生活研究センターを設立したのが、2005年のこと。すでに10年以上、一般家庭を訪問して、暮らしぶりの調査をしてきたことになる。
「データが既にかなり蓄積されています。こうしたデータから商品企画をしているので、中国でも、より生活に根付いた商品企画ができつつある状況なんです」
プレミアム市場でのシェアを拡げるための施策は?
中高級家電=プレミアム家電へのシフトは、2014年から先行して限られたカテゴリーで進められていたという。それが冷蔵庫だ。
「我々が位置づけている高級ゾーンに限れば、当社のシェアは13〜14%くらいになります。これは、ハイアールやシーメンス、サムスンに次ぐ4位に位置付けられています」
もちろん同社のプレミアム市場へのシフトは端緒についたばかり。今後の、販売店でのマーケティング戦略をうかがった。
「先ほど、これまでの中国には、バラバラの3つの“パナソニック”が存在したとお話しました。売り場についても例外ではありません。一般的には、冷蔵庫と洗濯機は売り場が同じような場所にあり、販売店様向けの商談も同じ場所で行うのが通例です。でも、こうしたことも別々だったんです。
そんな売り場を整理し、冷蔵庫と洗濯機が同じ場所で、プレミアム感を出した統一されたプロモーションができるよう、各家電量販店の旗艦店から、順次リニューアルを進めているところです」
昨年末には、高級モデルのみを扱う売り場が浙江省杭州に開設された。こうした店舗を、年内に140店、2018年までには約1,500店にまで増やしたいとも語る。
美容や食にまつわる商品は、まだまだ大きく成長しそうだ
エアコンをはじめ、冷蔵庫や洗濯機については「今は辛抱する時期」と語る一方で、「美容や食にまつわる商品は、まだまだ普及率が低く」今後の成長が大きく見込めるカテゴリーだという。
「美容商品は、日本から輸入しているドライヤーが好調です。人気モデルは、1,000元(17,000円前後)くらいと高価格帯です。中国人の、美に対する意識が、物凄く高くなっているんじゃないかと感じています」
こうした成長を後押ししているのが、eコマース(ネットショップ)だ。中国では日本とは違い、高齢者でもスマートフォンを積極的に活用する傾向にあり、スマートフォンの普及が全体の8割に及ぶという。そうした環境で、eコマースが急速に成長を遂げ、特に美容家電のeコマースによる販売が好調なのだ。
eコマースでの販売数を、さらに伸ばすために同社が力を入れているのが、実際の商品を体験する場としての「クリュスタ」の整備だ。同社の美容家電が試せる「クリュスタ」で、同社製品を試した上で、eコマースでの購入につなげたいという戦略だ。
「今後はクリュスタのミニ版の店舗を、都市部を中心に増やしていきたい。また、食に関連する商品郡でも、クリュスタのような体験できる場を用意したいとも考えています」
今回の山内氏へのインタビューは、中国家電博覧会(AWE)の開催中に行なわれた。レポート記事にも書いた通り、同展では、中国メーカーの躍進っぷりをひしひしと感じた。
だが山内氏からパナソニックの中国戦略を聞くうちに、まだまだ同社が中国において活躍する余地は少なくないと感じた。これまで、中国のコンシューマー市場において決して成功してきたとは言いがたい同社だが、今後の攻勢に期待したい。