老師オグチの家電カンフー

栄えある「イグ家電大賞」2023-2024が決定!

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
イグ家電大賞 2023-2024 by Satoru Oguchi

「イグ・ノーベル賞」ってありますよね。ノーベル賞のパロディーで、「体重3kg以上ある哺乳類の排尿時間はどれも約21秒」(2015年物理学賞)や、「ビッグサンダーマウンテンで尿路結石が通る」(2018年医学賞)など、「人々を笑わせ、考えさせる」研究や発明に贈られる賞です。あれの家電版をやろうと思うんですよ。題して「イグ家電大賞 2023-2024 by Satoru Oguchi」。

実用性が求められる家電製品と「笑わせ、考えさせる」こととは相性が悪そうですが、そんな中でも奇異・珍妙で、ツッコみたくなる家電製品を2023年に発売されたものから選定いたしました。

イグ・ノーベル賞も、最初は嘲笑的なニュアンスが強かったと思いますが、認知が広がるにつれ、NHKで報道されたり、大学のホームページで誇らしげに報告されたりと、名誉な賞になってきました。なので、今回のイグ家電大賞についても、名誉毀損に当たるなどと訴訟を検討されないよう希望します。ではさっそく発表!

物理学賞:タカラトミーアーツ「究極のおにぎり」

タカラトミーアーツ「究極のおにぎり」

熱々のご飯に手を触れることなく“ふんわり感”のあるおにぎりが作れるマシーン。ご飯を入れるケースの形状、回転スピード、ご飯の重みを考慮した打ち付ける強さ(重力)など、まさに物理学の粋を結集した製品です。

化学賞:タイガー魔法瓶「魔法のかまどごはん KMD-A100」

創立100周年記念モデルとして発売された、電気やガスを使わない炊飯器。熱源となるのは新聞紙で、かまど下部の2つの穴から交互に入れることで炊くことができる。燃焼という化学反応を追求。一般家庭での必要性は低いが、防災アイテムとしての実用度は高い。

タイガー魔法瓶「魔法のかまどごはん KMD-A100」

経済学賞:パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション「NICOBO RW-NC1」

パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション「NICOBO RW-NC1」

人の代わりに何かを行う実用性はなく、寝言を言ったりおならをしたりすることで、癒しや笑顔をもたらしてくれる“弱いロボット”。本体価格(60,500円)と別に月額利用料金(ベーシックプラン)1,100円がかかる。(起きて言う)寝言やおならが得意な役に立たないオッサンとしては、「いるだけで月額のフィーがもらえるの最高じゃん」と思うので経済学賞。

医学賞:サンコー「座り方自在 ゲーミングあぐらチェア」

サンコー「座り方自在 ゲーミングあぐらチェア」

猫背になりやすく、腰痛などを引き起こすとされる座り方「あぐら」をフィーチャーしたイス。あぐら以外にも、正座や通常のイススタイル、前後逆と計4種類の体制に対応し、長時間座っても足やお尻が痛くなりにくいとか。一般的には体に負担のかかるあぐらと、ゲーミングという運動不足になりがちな趣味を掛け合わせ、医学の範疇を超えた快適さが得られるんでしょう。

生理学賞:Shiftall「Pebble Feel SVP-PF1S」

Shiftall「Pebble Feel SVP-PF1S」

メタバースの温度を体感できるパーソナルエアコン。「VRChat」と連動し、例えば暖炉の近くに行くと暖かい、水に浸かると冷たいといった感覚が味わえる、なんとも未来的なアイテム。この手の技術が進んだ先には、不正にハックされて火傷したり凍傷になったりと、ダークな想像もかき立てられるSFっぽい一品。

文学賞:山崎実業「フィルムフックエアコン室内干しポールホルダー タワー」

山崎実業「フィルムフックエアコン室内干しポールホルダー タワー」

エアコンの両側面に取り付けることで、エアコンの前方を洗濯物の干しスペースとして使えるアイテム。花粉対策など実用性が高いのは事実だが、ビジュアル的には自撮り棒が流行り始めたときのような奇異を感じさせる。もしかしたら21世紀の普通のスタイルになるかもしれない。恋人の家でこれに干さる洗濯物から短編小説が書けそうなので文学賞に選定。

平和賞:タカラトミーアーツ「赤ちゃんスマイル Honda SOUND SITTER」

タカラトミーアーツ「赤ちゃんスマイル Honda SOUND SITTER」

ボタンを押すと、ホンダのスポーツカー「NSX(2代目)」のエンジン音が再生され、赤ちゃんの笑顔を引き出すというぬいぐるみ。2018年、車のエンジン音が「赤ちゃんが母親のお腹の中で聞いていた胎内音」に近いことが検証され、その中でも最も体内音に近いのが「NSX(2代目)」だったという(でも、ぬいぐるみのデザインは「S600 クーペ」)。これまで一般的には騒音として捉えられることが多かったエンジン音をポジティブに変換するコペルニクス的転回に敬意を表し平和賞を授与します。

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>