ぷーこの家電日記
第620回

初夏の手仕事は爽やかな山椒
2026年5月29日 07:04
店頭に梅やらっきょうが並び始めた。あぁ、私の漬けたい欲がウズウズしてくる季節だ。梅の隣には、瓶や氷砂糖や赤紫蘇なんかも一緒に陳列してあるし、らっきょうの隣にはお酢も一緒に置いてある。「さ、今すぐ漬けられますよ」と丁寧にくすぐってくるのが憎い(笑)。
私はお酢があまり得意ではないので、らっきょうはたくさんはいらないし、しょっぱい梅干しが苦手なので、梅干しはもう漬けないようにしているし、甘いお酒も飲まないので、梅酒はもう古酒と呼んでいいようなものが家にまだ残っている。なのにこの漬けたがり屋の性質、つい毎年手が伸びてしまうのである。
梅シロップや梅干しを漬ける「梅仕事」と呼ばれるこの保存食作りの作業は、他にも様々ある季節の手仕事の中で、味噌と並ぶ2大人気だと思う。味噌はわかる。味噌は1日1回は口にするくらい代表的な調味料で、スーパーに行けば必ず何種類もの味噌が並んでいる。でも、梅ってそんなに毎日食べる物でもないし、なぜ毎年この時期に祭りのようにみんなこぞって漬けるのだろうかと純粋に不思議な気持ちになるのだけど、やっぱり生梅のあの香りと、ゆっくりと流れていくような作業の時間に季節を感じて癒されるのだろうか。
かくいう私も、たとえそんなに自分が食べなくても、季節の手仕事というもの自体がものすごく好きだ。丁寧な暮らしの真逆を行く、かなりズボラな生活を送っているし、伝統を守り伝えるなんて高尚なことは考えていないし、「口に入るものは極力手作りで」なぁんてポリシーもない。とにかく作業が好きなのだ。
私にとって手仕事の魅力は「香り」と「時間」にあると思う。旬の香りは季節を感じ思い出を想起させ、そしてアロマ的なリラックス効果がある。五感の中でいちばん記憶とリンクしているのは香りだなと思うのだけど、旬でフレッシュな香りの中に懐かしさも入り混じってとても良い。
そして時間。今はいつでも何でもすぐ手に入ったり答えが見つかったりするし、それを求めがちだけど、じっくりじっくり時間をかけて美味しく育っていく時間がとても贅沢だ。出来上がりまですごく時間がかかるのに、旬はほんの一瞬で今しかできないという、自分でコントロールできないアナログの作業が、「いつでもすぐに」という現代の真逆を行く感じでとても良い。
1年間の手仕事を1日に例えるならば、仕事合間のコーヒータイムみたいなもんだと思う。流れるようにバタバタしている中、コーヒー入れて香りと味にホッと癒されて休憩する時間。そんな感じで、光のように流れていく日常の中で、旬を感じ無駄といってもいい時間をかけることの贅沢。これが私にとって季節の手仕事の魅力なのである。歳をとるにつれ時間の流れが早まるように感じるけれど、中年以降、手仕事にハマる人が増えるのはそれが要因かもしれない。おそろしく早く流れる時間の中で、ゆっくりと贅沢な時間というものが欲しくなるのである(笑)。
手仕事好きの私は、毎年季節ごとにいろいろ作っているけれど、それが年々増えてしまっている。私が初めて取り組んだ季節の手仕事は30年近く前、20歳前後の頃の「栗の渋皮煮」だった。
学生時代にひとり暮らしをしていたマンションの前にJAの直売所があった。学校とバイトで忙しく、お店が開いている時間に家にいることがあまりなかったのだけど、ある時フラッと店に入ると美味しそうな栗が売っていた。無性に渋皮煮が作りたくなって私は栗を買って帰った。レシピは実家に電話をかけて母に聞いたような気がする。初めての手仕事は正直めちゃくちゃ面倒臭かった(笑)。「私は何をしているんだ?」みたいな気分になったけれど、数日かけて作った渋皮煮が仕上がった時の感動は覚えている。
そして20代30代前半は忙しくて、時間的にも気持ち的にも余裕がなかったし、そんな贅沢な時間の魅力にも気付かないまま過ぎていったけれど、中年になって気付けば何かと漬けたがる人間が出来上がっていた。
毎年欠かせないのがポン酢作り。梅酒用の大きな瓶に1年分仕込む。今まで色々な柑橘で試してきたけれど、去年初めて使った「辺塚だいだい」で作ったポン酢がいちばん好みだったので、我が家の今後のポン酢は辺塚だいだいに決まった。味噌は仕込むけれど、まだしっくりくる自分の味が決まらない。牡蠣の季節にオイスターソースを作ったり、ちょうど今頃そらまめが出回る時期には豆板醤を仕込む。ドライプルーンや柑橘の皮を使った砂糖漬けも大好きだし、育てた唐辛子を使って辣油や柚子胡椒なども作っている。
こんな感じで色々手仕事を楽しんでいるはずだけど、作業中の感情は「私は何をしているんだ?」と、昔と変わらない。いい香りだなぁとは思うけれど、楽しいなぁという感情よりも、後悔半分、苦痛半分みたいな感じで正直すごく疲れる。でも、作業が終了した瞬間の達成感と感動がすごくて、苦痛の先の快楽みたいな反動で、きっと大量のドーパミンが溢れ出ているのだろう。その快感がクセになってやめられないのである。完全に手仕事中毒(笑)。
つい先日は、実山椒を大量に仕込んだ。5月下旬から6月頭くらいに出回る山椒。どうせ仕込むならたくさん欲しいと思い、500gの実山椒を手に入れ、数時間かけてプチプチと枝から実を外していく。「あー、私は何をしているんだ。なんでこんなに大量に買ってしまったんだ」といつも通り後悔が押し寄せる。ただ、ずっと山椒がいい香りを発していてすごく爽やか!
そして、どんどん削られていく気力と睡眠時間。全部外し終わったら、熱湯で1分ほど茹でて、数時間水に漬けてアク抜き。作業的には全然難しくないのだけど、やたらと時間がかかる。下ごしらえが終わった山椒は、小瓶に分けて「醤油漬け」「オリーブオイル漬け」「山椒焼酎」「山椒味噌」に、その残りの半分は天日干しして削って使う乾燥山椒に、半分はジップ付き袋に入れて冷凍保存した。
山椒の仕込みは面倒臭さと達成感がピカイチ! もう完全にハマって私の手仕事スタメンに仲間入り間違いなしだ。出来上がったら、夏酒とともに、ピリッと山椒がきいたおつまみでも作って夏を満喫しようと思っているのであります。山椒には健胃作用があるので、胃が弱る夏にぴったりの食材。今年の猛暑もこれで切り抜けるぞー! 漬けファンの皆様、旬が過ぎちゃう前に実山椒をぜひぜひ。


