藤山哲人の実践! 家電ラボ
カラクリとジャパニーズ忍者が作る「ダイキンのエアコン」が世界を制す!?
カラクリとジャパニーズ忍者が作る「ダイキンのエアコン」が世界を制す!?
2018年7月27日 06:30
「うるるとさらら」の快進撃で一気に家庭用のエアコン市場を席巻しているダイキン工業。かつては「西のダイキン、東の三菱」と言われることもあったエアコン勢力図だが、目下、東もダイキンが地図の塗り替えに励んでいる。
そんなダイキンが「日本の技術とアイデアで世界を目指す!」と奮起して開催されたエアコン工場見学。確かにそこには、滋賀県に脈々とつらなる伊賀と甲賀の忍者のスピリットがあった!
生産ラインの伊賀・甲賀忍者を修行する「道場」
滋賀県・草津にあるダイキンのエアコン工場では、伊賀や甲賀忍者の血を引き継ぐ人々がたくさん働いている。しかし忍者たるもの1日にしてならず。厳しい修行と訓練を経て、やっと一人前になれるのだ。そんな忍者の訓練施設がダイキン草津工場の一角にある。
それが「道場」と呼ばれる施設だ。
建物の中には、怪しい機器がたくさん並んでいるので、普段体験できないことを身を以て体験し、より高い安全意識と危険察知能力を身に着けるのだ。
たとえば電気体感訓練。生産ラインには高圧の圧縮空気を使う工程や道具が多々ある。とはいえ高圧空気の危険性がどれほどであるかを知る人は少ないだろう。日常生活では、巨大風船を膨らませて割ろうと、自転車の空気を入れ過ぎようと、ケガをしたり命を脅かされることなどはないからだ。
そしてこの装置に「コーヒー飲料の缶」をセットし、工場内で使っている圧縮空気と同じ圧力をかけるとどうなるか? を学ぶ。
キャップを付けたまま試験機にかけ、どんどん缶の内部に圧力をかけていく。すると突然大きな爆発音! 缶は試験機の樹脂製の窓にぶち当たり、キャップを土台に残したまま、缶本体は吹っ飛んだ!
吹っ飛んだ缶が人に当たれば、ケガは確実。顔に飛んで来ようものなら、視力を失いかねないほど危険だ。なにより、ほかの人まで巻き込んでしまったり、ライン稼動箇所に挟まったりすれば、さらに危険が増す。
道場では、感電の体験や高圧エアーの体験、チェーンやエアシリンダという可動部の危険性、重量物の危険性など様々な危険を学べる。
さらにここでは、ねじ打ちの訓練も行なわれる。早く打てるに越したことはないが、指定の場所に確実に打っていくのはかなり難しい。気ばかり焦って、ねじを落としたりしては、かえって作業効率が悪くなるからだ。
さらに驚くべきは、ひとりひとりの性格や特徴まで見極めている点。ちょっとした手作りの試験装置を作って、その人が「確実な作業を優先し、速度を犠牲にするタイプ」か「速度を優先して、確実な作業を犠牲にするタイプ」かを見分け、それぞれに適した工程を担当してもらうという。
もうひとつ、忍者に欠かせないのが、独特の歩き方。ここでも標準歩行スピードを身に着けて、工場内の歩き方の標準化を図っている。
こうして何週間かにわたり、訓練をうけた伊賀・甲賀忍者たちがダイキンのエアコンを製作しているのだ。
生産ラインは忍者屋敷の「カラクリ」がいっぱい
工場で働くみなさんには「あれね!」なのだが、一般的にはまったく知られていない「カラクリ」。実はこれ、作業を効率化する仕組みのこと。
ご存知の通り生産ラインというのは分業化されていて、前後の作業とのタイミングあわせが重要。いかに部品やネジを取りやすくして、次々と組み立てられるかがポイントだ。さらには早く確実に部品をひっくり返したり、目的の場所にハメたりと、いろいろな要素がある。これらの作業の大半は、数秒単位の動きが要求される。
たとえばネジが取りにくかったり、ネジを落としてしまうと数秒のロスが発生するし、部品を取りに行けば数秒のロスになる。さらに作業している人からすれば、非常に面倒。
そんな無理・ムダ・ムラを解消するのが、ここの忍者が使うカラクリ。たとえばネジ置き場。
角がある名刺入れのようなものに入れておくと、ネジが少なくなると端っこの角にハマって取りづらくなる。ラインでは皮手袋や軍手をしているので、なおさらだ。
しかしそのネジ箱に、こんなカラクリをしてやればどうだろう?四隅がなくなるだけでなく、ネジは常に箱の中央に集まってくるので、わざわざ目視しなくても手を伸ばすだけでネジが取れるというわけだ。
このように作業を合理化するアイデアを、多くの工場ではカラクリと呼んでいる。カラクリはネジ箱のような小さなものから、大きなものまでさまざま。工場のアチコチで見られる手作り感あふれる部品箱は、部品が取り出しやすい究極の形や角度になったカラクリだ。
部品の入った箱を取ると、坂をスライドして次の部品箱が目の前に流れてくるカラクリもある。さらに工夫して、2種類の部品箱が交互に流れてくるものや、部品そのものが手前にスライドして流れてくるものなど、さまざまなカラクリが使われている。ラインそのものが、忍者屋敷のようにカラクリだらけなのだ。
工場の中でもっとも大きかったのは、天井の搬送ラインから床に荷物を下ろすカラクリ。通常なら何百、何千万円もする部品搬送エレベーターを使うところだが、まるでピタゴラスイッチのように、坂道をダンボールが行き来しながら降りてくる。
こうしてダイキンでは、甲賀と伊賀の忍者がカラクリを駆使して、質の高いエアコンを作っているのだ。
ダイキンは国内だけでなく、世界を見て標準化
世界ナンバーワンを目指すダイキンは、世界各国に工場を持っている。基本的には地産地消で行なっているが、ロット数(生産数)によっては、工場間でエアコンをやりくりしているという。ここニッポンで作られているのは、国内向けの「うるさら7」。ただし、ダイキンには新しい国内向けのラインナップがある。
ヨーロピアンデザインの「UXシリーズ」や薄型の「risora(リソラ)」は、インテリアに調和するエアコンとして、国内でも人気を得てきている。しかし国内で生産するだけの台数に及ばないため、現在は中国で生産しているという。
生産は中国で行なっているとはいえ、元の製造技術を生み出したのはここニッポンのダイキン。フロントパネルの質感などは、フィルムを使った特殊樹脂成型するモデルもあれば、質感を出すためにわざわざ塗装を行なうモデルまであるという。
またワールドワイドで販売するエアコンの「コアユニット」は日本で開発し、各国ではコアユニットを自国に合わせてチューンする方式をとっているという。これにより、コアユニットの共有ができるので、工場間で部品を融通しあうことも可能だ。
ただお仕着せの標準化ではなく、各国の気象状況や国民性、好みや規格を考慮してカスタマイズするのがダイキン流。たとえば東南アジア諸国は蒸し暑い国が多いので、ニッポンと同様のエアコンとはいえ、お掃除機能などの付加価値を外した製品を作っているという。
国によっては、全く暖房を使わない国もあれば、ちょっとしか使わない国もあるので、冷房専用機にしたり、暖房能力を弱めたりなどさまざまだという。
ダイキンの考える標準化は、世界で同じものを作ってコストダウンするというものではなく、各国の標準的な生活に合わせるという意味なのかもしれない。
そしてそれらは、ニッポンで修行した、青い目の忍者たちが作っているのだ。
日本のエアコンが、世界を涼しく世界を暖かくする!
ご紹介してきたように、滋賀県から世界に向けて涼しさと暖かさを届けるダイキン。「標準化」をキーワードに世界各国の家庭に、それぞれのお国柄にあったエアコンを届けようと努力している。
国内のエアコンの生産ラインを見ても、これだけのカラクリがあり、製品の製造だけでなく危険察知や安全の知識まで道場で学ぶ姿に、筆者は伊賀と甲賀の忍者を見た。しかも人それぞれにあった作業ができるよう、独自のテストを行なうなど、日本ならではの心くばりも面白い。
この道場には、世界各国の工場から修行しにくることも多いという。京都も近く、日本の文化の発信地としても、道場が活躍することを期待しよう!