大河原克行の「白物家電 業界展望」
シャープが鴻海と取り組む再生への道のり
by 大河原 克行(2016/4/6 07:00)
シャープと鴻海精密工業は、大阪・堺のグリーンフロント堺内に設置しているエコハウスプラスを公開。両社による連携によって、白物家電およびIoTを活用した新たなスマートハウスの提案を行なっていく姿勢を示した。
また両社は、シャープの創業者である早川徳次氏ゆかりの地に、「早川徳次記念館」として、高齢化社会に貢献する実験的なスマートホームを建設する計画を発表。これに関して、鴻海が資金面で支援することも明らかにした。
さらにシャープは、LED照明やセンサー技術などの活用によって、コンテナ内でいちごを栽培する植物工場の成果についても説明。2017年にも海外市場を中心に販売していく考えを示した。
「創業者のイノベーションに対する意思は、いまでも社員の間に息づいている」
4月2日、シャープと鴻海精密工業(鴻海)は、鴻海が約3,888億円を出資し、シャープの66.07%の議決権株式を得て、買収することを正式に調印した。今後、シャープは、鴻海の傘下で再建を図ることになる。
同2日に、大阪・堺の堺ディスプレイプロダクツで行なわれた両社の共同会見では、鴻海の郭台銘会長兼CEOが次のように語った。
「シャープは、技術のイノベーターであり、リーダー。その役割を果たしてきたことに敬意を表する。創業者の早川徳次氏のイノベーションに対する意思は、いまでもシャープの社員の間に息づいている。
初のシャープペンシル、ラジオ、電卓、白物家電の参入など、イノベーション企業であることを証明してきた歴史がある。このイノベーションのDNAがあるから、私はシャープが大好きである」
続けて「シャープといえば品質。私の友人は、シャープの冷蔵庫を、30年間使い続けている」などとし、「シャープはディスプレイ以外にも、すばらしい製品をたくさん持っている。テレビは国内シェアが1位であり、空気清浄機やエアコンによって、空気をきれいにする技術を持ち、白物家電はほかにも、上位のシェアを持つ製品が多い。太陽光発電でも2位あるいは3位のポジションにある」とし、現状は厳しく、困難な状況に直面しているが、市場でリーダーであることを評価したい」などと述べた。
そして、シャープの高橋興三社長は、「鴻海からの支援を得て、財務体質の改善を図り、近年、抑制せざるを得なかった新たな成長に向けた投資を行なうことができる」と今後に期待を寄せつつ、今後の展望を次のように続けた。
「また、鴻海が保有する世界最大の生産能力、グローバルな顧客基盤と、シャープが持つ革新的で、実績のある技術と開発力の融合を図ることができるようになる。
近い将来、世界中のすべてのものがクラウドにつながり、日常生活では、知能を持ったインテリジェントな家電が動くことになる。家電に搭載された様々なセンサーから出たビッグデータにより、家電は、世界中の日常的ニーズを満たすことができるようになる。スマートな製品に移行していくなかで、両社が目指すのは、IoTとロボティクス製品の開発、製造によって、顧客によりよい生活をもたらし、世界の文化と福祉の向上に貢献することである」
初公開された、シャープと鴻海の技術を融合した「エコハウスプラス」
今回、公開したエコハウスプラスは、2011年6月に、「節電を極める家」をコンセプトに、電力消費の最小化と、住空間の快適性を両立させる技術の実証実験を目的に設置したエコハウスがベース。今回の両社の資本提携により「エコハウスプラス」として、シャープと鴻海の技術を融合した展示および実験拠点にリニューアルした。
シャープが目指すゼロエネルギーハウスへの取り組みのほか、同社が提唱するAIoT(AI+IoT)およびクラウドHEMSなどの活用により、エネルギーソリューションシステムとスマート家電を連携。さらに、鴻海が提案しているスマートライフソリューションやスマートルームとも連携することになるという。
エコハウスプラスでは、従来同様、玄関、リビング、キッチンなどに分けて、近未来の姿を提案している。
鍵をあけて玄関を入ると、それにあわせて、自動的に照明がついたり、カーテンが開いたりする。また、スマート花瓶と呼ばれる花瓶は、その日の雰囲気にあわせた色調で明かりが灯り、花瓶の側面を叩くことで、好きな色に変更できる。
一方で外出時には、スマホで外出することを知らせると、施錠したり、カーテンを閉めたりといったことが行なわれるほか、ロボット掃除機「COCOROBO」にも指示を送り、外出中に自動的に掃除をしてくれるといった使い方が可能だ。
エコハウスの屋根には、9kWの太陽光パネルが搭載されており、日常使用する電気のほか、これを蓄電して利用することも可能だ。例えば、蓄電池連携DCハイブリッドエアコンでは、太陽光発電、蓄電池、DCハイブリッドエアコンが、クラウドHEMSと連携。蓄電池からのDC電力と、系統・太陽光発電からのAC電力を活用し、自動で賢く使い分けることが可能だという。
参考展示した蓄電池連携停電モード付き冷蔵庫では、停電した場合には蓄電池から電気を供給。冷蔵および冷凍機能などを維持するが、時間が経過し、電力供給能力が少なくなってくると、停電モードを起動。電源を供給するエリアを限定して、冷蔵および冷凍を行なう。利用者は、停電モードで冷やせるエリアに食材などを移動させることで、保管時間を長くできる。
さらに、ココロエンジンおよびクラウドを活用した家電同士の連携も、エコハウスプラスでは行なわれている。
冷蔵庫に食材を入れる際に、「卵を入れるよ」と語りかけると、卵が入れられたことを冷蔵庫が認識して、登録。消費期限の目安が訪れると、冷蔵庫が音声で教えてくれる。また、オーブンレンジにレシピを相談する機能を搭載。話しかけると、お勧めレシピを教えてくれるほか、クラウドを通じてオーブンレンジが冷蔵庫と連動し、冷蔵庫に入っている食材を使ったレシピを提案するといった使い方も可能になる。
「シャープでは、クラウド技術を活用しながら、スマート家電や太陽光発電システム、蓄電池を連携、制御することで、快適で省エネなスマートハウスを実現できる。一方で、鴻海は、センサーやIoT技術を活用したスマートホームシステムやデバイスを開発しており、安全で快適、楽しさにあふれた生活を実現することが最終目標となっている。鴻海とシャープは、お互いの技術を融合させて、先進的なITスマートハウスを、ともに開発していく」としている。
2017年からの販売を目指す、いちご栽培用のコンテナ
一方、いちご栽培の植物工場は、2009年から、シャープが大阪府立大学との共同研究で、グリーンフロント堺に設置しているもので、いちご農家の栽培指導により栽培ノウハウを蓄積。この成果をもとに、2013年にはUAEのドバイにも実験設備を置き、研究を進めてきた。現在、いちごの品種には、「とちおとめ」を利用しているという。
LEDや空気清浄技術など、シャープの独自ノウハウを活用。LEDを使った人工光照明では、いちごの生育に最適なピンク色の光を使用し、微生物センサーの活用と、シャープ独自のプラズマクラスターイオンによる最適な空気環境を実現。そのほか、水の環境を制御する独自技術の活用、液晶ディスプレイ生産で培った品質管理および衛生管理技術を応用することで、いちごが育成しやすい環境をコンテナ内に実現。新鮮で大粒、糖度の高いいちごを栽培することができるという。
シャープでは、「日本のいちごは世界で最も糖度が高いといわれている。そこにビジネスチャンスがある。米国で生産されたものは糖度6~7ポイントであるが、日本で生産されたものは9~10ポイントになる。日本のいちごは世界的にも高い人気があり、これを海外現地で育成できるようになる」とする。
現在、グリーンフロント堺では、3台のコンテナを使用して、実験を行なっているが、「事業化を考えると、コンテナを8台組み合わせた規模が最低ラインとなるだろう。これをひとつのモジュールとして、1億円以下の価格で、2017年から販売していきたい」という。
コンテナ8台の規模では、1日8kgの収穫が可能で、年間のうち約10カ月間の長期に渡っての収穫が可能。年間では3トンの収穫規模になるという。さらに将来には、いちご以外にも、レタスやハーブなどの植物工場の展開も考えていきたいという。
鴻海傘下で再建を図るシャープは、白物家電分野やスマートホームにおいて、どんな成果を上げることができるのだろうか。